食事と心臓病のリスク
概要
心臓病は、心臓や血管が長い年月をかけて傷んでいくことで起こる病気のグループです。その傷み方を大きく左右する要素のひとつが、毎日の「食事」です。たとえば、塩分の多い食事は血圧を上げ、脂っこい食事は血中のコレステロール(血液中の脂肪の一種)を増やし、野菜や魚の少ない食事は血管を守る力を弱めてしまいます。逆に言えば、食事を少しずつ整えることは、心臓病のリスクを下げるために、今日から自分で始められる一番身近な方法のひとつです。ここでは、食事と心臓の関係、そして無理なく続けられる食べ方の考え方を説明します。
重要な事実
- 心臓病のリスクは、塩分・脂肪・野菜や魚の量など、日々の食事の積み重ねと深く関係しています。
- 食事の改善は、血圧・コレステロール・体重・血糖の値をまとめて良い方向に動かせる、効果の大きい方法です。
- 完璧な食事を目指す必要はありません。1日1品、1週間で1つの工夫から始めても十分に意味があります。
はい。心臓病は日本人の主な死亡原因のひとつで、とても身近な病気です。そして、その背景にある高血圧や脂質異常症(コレステロールなどが基準より高い状態)、糖尿病は、いずれも食事と深く関わっています。つまり、食事の見直しは多くの人にとって関係のあるテーマだと言えます。
年齢や性別を問わず、すべての人に関係があります。特に、血圧が高めの人、コレステロールや中性脂肪が気になる人、血糖値が高めと言われた人、体重が増えてきた人、家族に心臓病の人がいる人、喫煙する人、運動不足の人、そして塩分の多い食事や外食が多い人は、食事の見直しによるメリットが大きいと考えられます。若い人や子どもの頃からの食習慣も、将来のリスクに影響します。
症状
- 胸の中央から左側にかけての強い痛みや圧迫感が、数分以上続く、または繰り返す(安静にしても良くならない)
- 胸の痛みと一緒に、冷や汗、吐き気、息苦しさ、めまいがある
- 痛みが左腕、肩、あご、背中、みぞおちに広がる
- 突然の強い息苦しさ、呼吸ができない感じ
- 意識が遠のく、呼びかけへの反応がおかしい、けいれんがある
- ⚠胸の不快感が短時間で消えたが、最近たびたび起こる
- ⚠以前より明らかに息切れがひどくなった、夜に息苦しさで目が覚める
- ⚠足のむくみが急に強くなった、体重が数日で急に増えた
- ⚠動悸が続く、脈が乱れている感じがする
- ⚠血圧がいつもより非常に高い、または低い状態が続く
一般的な症状
- 食事そのものに自覚症状はありませんが、食事の偏りは高血圧や脂質異常症などを通じて静かに進みます。
- 胸が締めつけられる、押さえつけられるような痛みや不快感(狭心症や心筋梗塞のサインのことがあります)
- 階段や坂道で前より息が切れる、動くと胸が苦しい
- 動悸(心臓の鼓動が強く感じる、乱れる)
- 足のむくみ、体重の急な増加、夜に息苦しさで目が覚める
- 強い疲れやすさ、めまい、冷や汗
子供の症状
- 多くの子どもには心臓病の症状は見られませんが、家族に若い頃からコレステロールが非常に高い人がいる場合などは、生まれつきの脂質の異常が隠れていることがあります。
- 小児期の肥満や偏った食事は、将来のリスクにつながるため、成長の様子とあわせて見守ることが大切です。
- 学校健診で血圧や脂質、肥満について指摘があった場合は、かかりつけの小児科医に相談してください。
高齢者の症状
- 高齢者は胸痛などの典型的な症状が出にくく、なんとなく元気がない、食欲が落ちた、疲れやすい、意識がぼんやりするといった形で現れることがあります。
- 足のむくみや体重の変化、トイレの回数、息切れなど、ささいな変化が手がかりになることがあります。
- 複数の病気で食事制限が重なることがあるため、自己流にせず、医師や管理栄養士に相談しながら整えることが大切です。
原因
主な原因
- 塩分の多い食事(汁物、漬物、加工食品、外食の濃い味)は血圧を上げ、血管に負担をかけます。
- 脂身の多い肉やバター、揚げ物などに含まれる飽和脂肪酸(固まりやすい脂肪)のとりすぎは、血液中のコレステロールを増やします。
- 野菜、果物、豆、海藻、全粒穀物などの食物繊維が少ないと、血管を守る働きが弱まります。
- 魚に多い不飽和脂肪酸(サバ、イワシ、サケなど)が少ない食事も、心臓にとっては不利に働きます。
- 甘い飲み物、菓子、精製された炭水化物のとりすぎは、中性脂肪や血糖値、体重に影響します。
- 食べ過ぎや夜遅い食事、早食いは、体重増加や血糖の乱れにつながります。
リスク要因
- 高血圧(塩分の多い食事で悪化しやすい)
- 脂質異常症(コレステロールや中性脂肪が高い状態)
- 糖尿病、または血糖値が高めと言われたことがある
- 肥満、特におなか周りに脂肪がつくタイプの肥満
- 喫煙(食事の改善と合わせて、最も効果の大きい改善点のひとつです)
- 運動不足、長時間すわる生活
- 家族に心臓病や若年での脂質異常の人がいる
- 年齢が上がること、男性であること(ただし女性も閉経後にリスクが上がります)
- 強いストレス、睡眠不足、飲酒のとりすぎ
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 胸の痛みや圧迫感が繰り返す、または安静にしても続く(ためらわず救急へ)
- 急な息苦しさ、冷や汗、意識がぼんやりする
- 動悸が止まらない、脈が明らかにおかしい
- 足のむくみと体重増加が数日のうちに急に進んだ
定期受診を予約すべき場合:
- 健康診断で血圧、コレステロール、血糖、中性脂肪を指摘された
- 体重やおなか周りが増えてきた
- 家族に心臓病の人がいる、または家族に若い頃からコレステロールが高い人がいる
- 食事をどう変えればよいか分からない、続けられない
- 持病があり、食事制限が重なって何を食べてよいか迷う
診断
心臓病のリスクは、問診と基本的な検査を組み合わせて評価します。医師は、ふだんの食事内容、塩分や脂っこいものの量、飲酒や喫煙、運動習慣、家族歴などを聞き、血圧測定、血液検査、体重と腹囲の測定を行います。多くの場合、これらは健康診断でも確認できます。食事の内容を具体的に知るために、数日分の食事の記録をお願いされることもあります。心臓そのものの状態が気になる場合は、心電図などの検査が追加されます。
行われる可能性のある検査
- 診察室での血圧測定(必要に応じて自宅での血圧記録)
- 血液検査:コレステロール(LDL・HDL)、中性脂肪、血糖、HbA1c(過去1〜2か月の血糖の平均)など
- 体重・BMI・腹囲の測定
- 問診と食事内容の聞き取り、食事記録の確認
- 心電図、必要に応じて心臓超音波検査や運動負荷検査など(症状やリスクに応じて)
- 尿検査、腎機能の確認(塩分や血圧と関係します)
診察で予想されること
検査の多くは痛みがなく、短時間で終わります。結果はその日のうちに分かるものもあれば、血液検査のように数日かかるものもあります。結果をもとに、医師や管理栄養士と一緒に「何をどれくらい減らし、何を増やすか」を具体的に決めていきます。数値を責められる場ではなく、これからの作戦を立てる場だと考えて臨むと気持ちが楽になります。
治療
食事と心臓病リスクへの対応の中心は、毎日の食べ方を無理なく整えていくことです。薬が必要になる場合もありますが、それは食事の努力を置きかえるものではなく、食事の改善と組み合わせて使うものです。大切なのは、短期間で完璧を目指すのではなく、続けられる小さな変化を積み重ねることです。必要に応じて、医師、管理栄養士、看護師、薬剤師などがチームで支えます。
自宅でのセルフケア
- 汁物は1日1杯までなど、回数を決めて塩分を減らす。だしや香味野菜、酢、柑橘、スパイスを使って薄味でも満足できる工夫をする。
- 加工食品(ハム、ソーセージ、ちくわ、練り物、インスタント食品)や濃い味の外食を減らし、栄養成分表示の食塩相当量を確認する習慣をつける。
- 脂身の多い肉より、魚、鶏むね肉、大豆製品を選ぶ回数を増やす。揚げ物は頻度を決めて楽しむ。
- 野菜、海藻、きのこ、豆、果物を毎食に少しずつ。食物繊維は血管の味方です。
- 甘い飲み物を水やお茶に置きかえる。お酒は量と回数を決めて、休肝日をつくる。
- 減塩や野菜増加は、家族や同居の人と一緒に取り組むと続きやすい。
- 血圧や体重を自宅で記録し、体の変化を見える化する。
- 禁煙する。吸っている場合は、禁煙外来などの支援を利用する。
医療治療
食事の改善だけで目標に届かない場合は、医師の判断で薬による治療が検討されることがあります。高血圧、コレステロールや中性脂肪の高さ、血糖の高さなどに対して、それぞれに応じた治療が行われます。薬は自己判断で始めたり止めたりせず、必ず医師の指示に従ってください。薬を使っている間も食事の改善は続けることが大切で、両方を組み合わせることで効果が高まります。具体的な薬の種類や量については、必ず処方した医師または薬剤師に確認してください。
手術が検討される場合
食事そのものを手術で治すことはありません。ただし、心臓病が進んでいる場合には、血管の狭まりを広げる治療や手術が検討されることがあります。それは食事の代わりではなく、食事や生活習慣の改善とセットで行われるものです。必要かどうかは、心臓の専門医が検査結果をもとに判断します。
この病気と共に生きる
食事の見直しは、我慢くらべではなく「暮らしの工夫」です。買い物のときに栄養成分表示を見る、汁物を小さめの器にする、野菜を先に食べる、休日の外食は楽しむと決めて平日を整える、といった小さな工夫をいくつか持っておくと、長く続けられます。完璧でない日があっても大丈夫です。1日崩れても、次の食事から戻せばよいのです。
生活習慣のアドバイス
- 塩分は控えめを意識する(厚生労働省の食事摂取基準では、成人1日あたり男性7.5g未満、女性6.5g未満が目標とされています)
- 野菜、果物、海藻、きのこ、豆、魚を食卓に増やす
- 揚げ物や脂身の多い肉は頻度を決めて楽しむ
- 甘い飲み物やお菓子は「毎日」から「ときどき」へ
- お酒は量と回数を決め、休肝日をつくる
- 禁煙する。受動喫煙も避ける
- 睡眠をしっかりとり、ストレスをためこまない
- 定期的に健康診断を受け、数値の変化を追う
食事と運動
食事と運動はセットで考えると効果的です。食事では、塩分・飽和脂肪酸・甘い飲み物を控えめにし、野菜・魚・豆・食物繊維を増やすことが基本です。運動は、早歩きなどの軽めの有酸素運動を、無理のない範囲で毎日少しずつ行うのがおすすめです。食事の直後の軽い散歩は血糖の上昇をやわらげる助けになります。持病がある人や運動に不安がある人は、始める前に医師に相談してください。厚生労働省の「健康日本21」や「食事バランスガイド」も、日々の目安として参考になります。
精神的健康と心の健康
「塩分を減らさなければ」「こんなものを食べてはいけない」と自分を責め続けると、食事が苦しみになってしまい、続きません。食習慣は長年かけて作られたもので、すぐに変えられなくて当たり前です。イライラしたり、寂しさや不安を感じたりしたら、それは頑張っている証拠です。誰かに話すだけで気持ちが軽くなることもあります。気分の落ち込みが続くとき、不安が強いとき、自分を傷つけたい気持ちがわいてきたときは、ひとりで抱えず、かかりつけ医やお住まいの地域の保健所・相談窓口に相談してください。緊急の危険があるときは、迷わず119番に連絡してください。
予防
心臓病のリスクの多くは、食事と生活習慣を整えることで下げられると考えられています。特に、塩分を控える、脂質の質を変える、野菜と魚を増やす、禁煙する、適正体重を保つ、運動習慣をもつことは、効果が期待できる取り組みです。遺伝や年齢など変えられない要素はありますが、変えられる要素を一つずつ良くしていくことに大きな意味があります。
ワクチン
食事と心臓病リスクに直接関係するワクチンはありません。ただし、かぜや肺炎などの感染症は心臓に負担をかけることがあるため、年齢や持病に応じた予防接種について、かかりつけ医に相談しておくと安心です。
検診プログラム
日本では、40〜74歳の人を対象とした特定健康診査(メタボ健診)で、血圧、脂質、血糖、体重や腹囲を確認できます。職場の健康診断や自治体の健診も活用してください。健診で指摘された値は、食事の見直しを始めるよいきっかけになります。家族に若い頃からコレステロールが非常に高い人がいる場合は、早めに医師に相談してください。
合併症
治療しない場合
- 血管が硬く狭くなり、狭心症や心筋梗塞(心臓の筋肉に血が届かなくなる状態)を起こすことがあります。
- 心臓の働きが弱くなり、心不全(息切れやむくみが続く状態)につながることがあります。
- 脳の血管が詰まる・破れることで、脳卒中を起こすリスクが高まります。
- 腎臓の働きが低下することがあります(高血圧や血糖と関係します)。
- 足の血管が狭くなり、歩くと足が痛む、傷が治りにくいといったことが起こります。
長期的な見通し
明るい面もたくさんあります。食事を少し整えるだけでも、血圧やコレステロール、体重、血糖は改善し始めます。しかもその効果は、何歳から始めても得られると考えられています。完璧を目指さず、続けられる工夫をひとつずつ見つけていくことが、いちばんの近道です。気になることがあれば、早めにかかりつけ医に相談しながら、一緒に進めていきましょう。
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最終更新: 2026年10月23日
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