解離性障害(かいりせいしょうがい)
概要
解離性障害(かいりせいしょうがい)は、ふだんは一つにまとまっている「意識」「記憶」「自分が自分であるという感覚」「感情」「体の動き」などが、何かのきっかけで切り離されて(解離して)しまう状態が続くものです。たとえば、大切な出来事を思い出せない、自分の体や感情が他人のもののように感じる、ぼんやりして今ここにいないような感覚になる、といったことが起こります。これは「怠け」や「気の持ちよう」ではなく、強いストレスから心と体を守ろうとする仕組みが、行きすぎてしまった状態だと考えられています。
重要な事実
- 解離は誰にでも起こりうる心の働きで、強いストレスやつらい体験のあとに起こりやすくなります。
- 症状は「記憶の抜け」「自分でない感じ」「現実感のなさ」など、人によってさまざまです。
- 心理療法(話し合いによる治療)を中心に、時間をかけて回復していくことができます。
はっきりした人数はわかりにくいものの、決してめずらしいものではありません。医療機関を受診する人の数%程度に見られると報告されることもあります。つらい体験のあとに一時的に解離が起こることは、多くの人に見られる反応です。
子どもから高齢者まで、どの年代にも起こります。一般に女性に多いと報告されますが、男性にも同じように起こります。多くは、子どもの頃のつらい体験や、大きな喪失、事故、災害などの強いストレスをきっかけに現れます。
症状
- 自分を傷つけたい気持ちや、死にたい気持ちが強い
- 現実との区別がつかなくなり、自分や周りの人を危険にさらすおそれがある
- 意識を失う、けいれんのような発作が起きた
- 危険な場所にいる、行方がわからなくなっている
- ⚠記憶の抜け落ちが急にひどくなり、火の元や運転など日常生活の安全が保てない
- ⚠強いパニックや混乱が続き、一人でいられない
- ⚠眠れない、食べられない状態が続いている
- ⚠自分を傷つける行動が見られた
一般的な症状
- ある時期の出来事や、自分がしたことを思い出せない(記憶の抜け落ち)
- 自分が自分でないような感じ、体が自分のものではないように感じる
- 自分を外から見ているような感覚(体外離脱)、現実感がない感じ
- ぼんやりして、声をかけられても反応が遅れる(トランス状態のような放心)
- 気づくと別の自分になっているように感じる、口調や振る舞いが変わる
- 自分の名前や身元、過去についての混乱
- 感情がわかない、体の感覚が乏しい
- 頭の中に声が聞こえるように感じる、考えがまとまらない
子供の症状
- 急に赤ちゃん返りする、甘え方が変わる
- ぼんやりしていることが増え、呼びかけに気づかない
- 遊びや空想の世界に長く入り込み、現実との境目がわかりにくくなる
- 学校での出来事や家庭のことを思い出せない
- 落ち着きがない、集中しにくいように見える
- 頭痛やおなかの痛みなど、体の不調として現れることがある
高齢者の症状
- 若い頃の記憶が抜けていることに、あとから気づく
- 薬の影響や、脳の病気(脳卒中など)との区別が必要になる
- 配偶者との死別や引っ越し、病気など、大きな変化のあとに現れやすい
- 「年のせい」と片づけられてしまい、相談につながらないことがある
原因
主な原因
- 強いストレスやつらい体験(特に子どもの頃に長く続いたもの)
- 解離は、つらい体験から心を守るための「心のブレーカー」のような働きと考えられています
- 記憶や感情、体の感覚をまとめる脳の働きが、一時的にうまくかみ合わなくなる
- 大きな喪失、事故、災害、人間関係の悩みなどが引き金になることがある
リスク要因
- 子どもの頃の虐待やネグレクト(育児放棄)、いじめなどのつらい体験
- 家族や大切な人との死別、離婚、引っ越しなど大きな環境の変化
- 事故、災害、戦争、避難などの強い衝撃
- うつ病、不安症、PTSD(心的外傷後ストレス障害)など、ほかの心の不調を併せ持つこと
- 身近に助けを求められる人が少ない、安心できる場所が少ない
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 自分を傷つけたい気持ちがある、危険な行動をとる
- 記憶の抜けが急に増え、日常生活の安全が保てない
- 強い混乱やパニックで、一人で過ごせない
定期受診を予約すべき場合:
- 記憶の抜け落ちが続き、仕事や学校、家事に支障が出ている
- 自分が自分でない感じや、現実感のなさが続いてつらい
- 気分の落ち込みや不安、眠りの問題が続いている
- つらい体験のことを思い出すと、とてもつらくなる
診断
主に、ていねいな問診(お話をうかがうこと)で診断を進めます。症状の始まりや続いている期間、生活への影響、これまでのつらい体験などを、無理のない範囲で伺います。同時に、てんかんや脳の病気、薬の影響、睡眠不足、甲状腺の病気など、似た症状を起こすほかの原因がないかを確かめます。解離の症状は本人が気づきにくいこともあるため、ご家族など周りの方からの情報が役立つこともあります。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(甲状腺や貧血など、体の病気がないかの確認)
- 脳波検査(てんかんなどとの区別のため)
- 頭部の画像検査(必要に応じて)
- 心理検査や質問票(症状の強さや、気分・不安の状態を整理するため)
- 睡眠の状態や、飲んでいる薬の確認
診察で予想されること
診断までに時間がかかることがあります。一度にすべてを話す必要はありません。安心して話せるまで、少しずつで大丈夫です。診察では、無理に思い出させるようなことはしません。主治医と一緒に、安全でいられるペースを作っていきます。
治療
解離性障害の治療は、安心できる環境の中で、心理療法(話し合いによる治療)を中心に進めていきます。症状をやわらげるスキルを身につけること、日常生活の安全を保つこと、そして準備ができたときに、つらい体験と向き合っていくこと、という順番で進むことが多いです。あせらず、時間をかけて回復していく病気です。
自宅でのセルフケア
- グラウンディング(今ここに戻る練習):五感を使います。たとえば、冷たい水で手を洗う、足の裏の感覚を確かめる、身の回りの物の色を5つ数える、など。
- ゆっくりした呼吸を数分間行う
- 症状が出たときの状況を、簡単にメモしておく(診察の役に立ちます)
- 生活のリズムを整え、睡眠を十分にとる
- 安心できる人と過ごす時間を作る
- アルコールや、医師の指示なく使う薬物は避ける(症状が悪化しやすくなります)
- 症状が強いときは、運転や火の元など、危険を伴う行動を避ける
医療治療
中心となるのは心理療法です。認知行動療法や、トラウマに焦点をあてた治療、安定した関係の中で行う支持的療法など、状態や希望に合わせて選ばれます。薬は解離そのものを治すものではありませんが、併存するうつや不安、眠りの問題に対して、医師が必要性を判断して使うことがあります。症状が強い時期には、安全を確保するために入院が必要になることもあります。治療は一人ひとりのペースで進みます。具体的な治療方針は、必ず主治医と相談してください。
手術が検討される場合
手術で治す病気ではありません。
この病気と共に生きる
症状は波があり、調子のよい日とつらい日を繰り返すことがあります。調子のよい日に「もう治った」と無理をしすぎると、反動が来ることもあります。自分のペースを知り、疲れたら休むことを大切にしてください。家族や身近な人には、症状のことをあらかじめ伝えておくと、助けてもらいやすくなります。
生活習慣のアドバイス
- 毎日の起床・就寝時刻をできるだけそろえる
- 予定を詰め込みすぎず、休む時間を先に確保する
- 症状が出たときに落ち着ける方法(音楽、温かい飲み物、触り心地のよいものなど)を用意しておく
- つらい体験を扱うニュースや話題からは、距離を置く時間を作る
- ひとりで抱えず、信頼できる人や支援者とつながっておく
食事と運動
特別な食事制限は必要ありません。バランスのよい食事と、決まった時間の食事を心がけましょう。運動は、散歩や軽いストレッチなど無理のない範囲で行うと、気分の安定や睡眠の助けになります。体調を見ながら調整してください。カフェインのとりすぎは、不安や眠りの悪化につながることがあります。
精神的健康と心の健康
解離性障害には、うつ病や不安症、PTSD、睡眠の問題が併存しやすいと言われています。自分を責めてしまったり、孤立してしまったりすることもあります。つらい気持ちが強いときや、自分を傷つけたい気持ちが出てきたときは、ひとりで抱えず、すぐに医療機関や相談窓口に連絡してください。命に関わる緊急時は119(救急)に連絡してください。助けを求めることは、回復への大切な一歩です。
予防
解離性障害を完全に防ぐ方法は、はっきりとはわかっていません。ただ、子どもの頃から安心して過ごせる環境があること、つらい体験のあとに早く支援につながることが、リスクを下げる助けになると考えられています。自分のつらさに気づいたら、早めに相談することが大切です。
ワクチン
この病気を防ぐワクチンはありません。
検診プログラム
決まったスクリーニング検査はありません。つらい体験のあとに、記憶の抜けや自分でない感じが続くときは、医療機関に相談してください。
合併症
治療しない場合
- 仕事や学校、家事など日常生活に支障が続く
- うつ病や不安症、PTSDなど、ほかの心の不調を併せ持ちやすくなる
- 自分を傷つける行動や、危険な行動につながることがある
- 人間関係がうまく築きにくくなる、孤立しやすくなる
- アルコールや薬物に頼るようになることがある
長期的な見通し
解離性障害は、適切な支援と時間をかけて、症状が軽くなり、日常生活を取り戻していくことができる病気です。回復には個人差があり、波を伴うこともありますが、あきらめる必要はありません。安心できる治療者や支えを見つけることが、回復の大きな力になります。
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最終更新: 2026年10月23日
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