憩室疾患と憩室炎(けいしつしっかん・けいしつえん)
概要
大腸(にょうかん:消化管の最後のほう、便をつくるところ)の壁には、弱い部分があります。そこに腸の中の圧力がかかると、壁が外側に小さくふくらんで、袋のようなものができます。この袋を「憩室(けいしつ)」といいます。憩室ができているだけで、炎症も痛みもない状態を「憩室症(けいしつしょう)」または「憩室疾患」といい、多くの人は何の症状もありません。ところが、この袋の中に便がたまったり、細かい傷ができたりして、細菌が増えて炎症を起こすことがあります。これが「憩室炎(けいしつえん)」です。憩室炎はおなかの痛みや発熱をともなう病気で、治療が必要になることがあります。
重要な事実
- 憩室があるだけでは無症状のことがほとんどで、特別な治療はいりません。
- 憩室炎は、憩室に炎症が起きた状態です。おなかの痛みや発熱が主なサインで、治療が必要になります。
- 日本人は大腸の右側(おなかの右側)に憩室ができやすい人が多く、痛みが右下腹部に出ることもあります。虫垂炎(ちゅうすいえん)と間違われやすい点に注意が必要です。
- ふだんの食事(食物繊維と水分)と便通を整えることが、再発を防ぐ助けになります。
とてもよくある状態です。大腸の内視鏡検査(カメラの検査)やCT検査を受けたときに、偶然見つかることが少なくありません。年を重ねるほど憩室を持つ人は増えていきます。憩室炎を起こすのは、憩室がある人の一部だけです。
中高年以降、特に50歳を過ぎたころから増えてきます。ただし若い人にも起こります。食物繊維の少ない食事、便秘になりやすい生活、肥満、喫煙、運動不足などがあると、なりやすいと考えられています。ご家族に憩室炎の人がいる場合も、少しリスクが高いといわれます。
症状
- 突然の激しいおなかの痛みで、体を動かすのもつらい
- おなか全体が硬く、さわると痛がる(板のように硬い感じ)
- 高熱と激しい腹痛が同時にある
- 大量の下血(黒い便、血の混じった便が続く)、または吐血
- 意識がもうろうとしている、ぐったりしている、冷汗が出る、倒れそうになる
- これらの症状があるときは、すぐに119番に電話して救急車を呼んでください。
- ⚠38度以上の発熱が続く
- ⚠痛みがどんどん強くなっている
- ⚠水分がとれない、何度も吐く
- ⚠尿が出にくい、おなかが大きく張っている
- ⚠こうした症状があるときは、その日のうちに医療機関を受診してください。
一般的な症状
- 憩室があるだけの場合:症状はほとんどありません。
- 憩室炎の場合:おなかの痛み(多くは左下腹部。日本では右下腹部のこともあります)
- 発熱(37〜38度くらい、ときにはそれ以上)
- おなかの張り、おなかがゴロゴロする感じ
- 吐き気、食欲がない
- 下痢または便秘、排便の回数や便の状態の変化
- 少量の血便(血が混じった便)が出ることがあります
子供の症状
- こどもではまれな病気です。
- おなかの痛みと発熱が主な症状で、虫垂炎(ちゅうすいえん)との区別が必要になります。
- こどもが強くおなかを痛がる、熱がある、水分がとれないときは、早めに医療機関に相談してください。
高齢者の症状
- 高齢の方では、痛みがはっきりしないことがあります。熱やだるさだけで済んでいるように見えることもあります。
- 症状が軽く見えても、内部で炎症が進んでいることがあるため、注意が必要です。
- 膿(うみ)がたまる、腸に穴があくといった合併症のリスクが高くなります。
- 痛み止めの一部(NSAIDs:炎症を抑える薬のグループ)やステロイド薬を使っている方は、リスクが上がるといわれています。自己判断で薬をやめず、まず医師に相談してください。
原因
主な原因
- 大腸の壁の弱い部分が、腸の中の圧力で外側に押し出されて袋になります。これが憩室です。
- 便が硬く、便秘気味になると、腸の中の圧力が上がりやすくなります。食物繊維が少ない食事が続くと、この状態になりやすくなります。
- 憩室炎は、憩室の中に便がたまる、細かい傷ができるなどして細菌が増え、炎症が起きて起こります。
- なぜ憩室ができるのか、なぜ炎症が起きるのかについては、まだ完全にはわかっていない部分もあります。
リスク要因
- 年齢(加齢):年を重ねるほど憩室ができやすくなります。
- 食物繊維の少ない食事、水分不足
- 便秘がちな生活、排便をがまんする習慣
- 肥満、運動不足
- 痛み止めの一部(NSAIDs)やステロイド薬、オピオイド系の薬の使用
- 家族に憩室炎の人がいる(家族歴)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 激しいおなかの痛みがある、または痛みがどんどん強くなる
- 38度以上の発熱がある
- 血の混じった便が続く、黒い便が出る
- 水分がとれない、何度も吐く
- おなかが硬く張っている
- これらの症状があるときは、その日のうちに(または救急で)受診してください。
定期受診を予約すべき場合:
- おなかの痛みや張りを何度も繰り返している
- 便通の異常(下痢と便秘をくり返す、便が細い)が続く
- 少しの血便、または便に血が混じることがある
- 体重が減っている、食欲がない状態が続く
- 憩室があると言われたことがあり、気になる症状がある
- こうした場合は、あわてずに、かかりつけ医に相談してみてください。
診断
まず問診(お話をうかがうこと)と、おなかを触る診察を行います。そのうえで、炎症の程度を確かめるために血液検査や尿検査、画像検査(CT検査など)を行います。憩室炎かどうか、そして膿(うみ)がたまっていないか、腸に穴があいていないかを調べることが大切です。
行われる可能性のある検査
- 問診と腹部の診察(痛む場所、痛み方、発熱の有無などを確認します)
- 血液検査(炎症の反応、貧血の有無などを調べます)
- 尿検査(尿路の病気との区別のため)
- 腹部CT検査(炎症の広がりや膿のたまり、腸に穴があいていないかを詳しく見ます。診断の中心になる検査です)
- 腹部超音波(エコー)検査(体への負担が少ない画像検査です)
- 便の検査(必要に応じて)
- 大腸内視鏡検査(カメラの検査):炎症が落ち着いてから、数週間後に受けることが多いです。炎症が強い時期に行うと、腸に負担がかかることがあるためです。
- 大腸造影X線検査(必要に応じて)
診察で予想されること
多くは外来で診察と検査を受けられます。CT検査は数分で終わり、結果はその日のうちにわかることが多いです。痛みが強く、発熱もあるような場合は、そのまま入院して治療を受けることがあります。内視鏡検査は炎症が治まってからになるため、「今日すぐに全部の検査」とはならないこともあります。医師から説明を聞きながら、一つずつ進めていけば大丈夫です。
治療
治療は、症状の重さによって変わります。軽い憩室炎なら、自宅で休みながら食事に気をつけて治すことができます。痛みや発熱が強い場合、膿がたまっている場合、高齢の方や持病のある方は、入院して治療することがあります。憩室があるだけで症状がない場合は、治療の必要はありません。
自宅でのセルフケア
- 水分をこまめにとる(脱水を防ぐため)
- 痛みが強い時期は、医師の指示に従って食事を控えめにし、消化のよいものをとる
- 無理をせず、しっかり休む
- おなかを温めると楽になることがあります(ただし痛みが強くなる場合はやめてください)
- 症状が落ち着いてきたら、医師の指示に従って少しずつ普通の食事に戻す
- 痛み止めを使う場合は、自己判断をせず、医師や薬剤師に相談する(一部の痛み止めはリスクを上げるといわれています)
医療治療
炎症を抑えるために、抗生物質を使うことがあります。ただし最近は、軽い憩室炎では抗生物質を使わずに様子を見ることも多くなっています。判断は医師が症状や検査の結果をもとに行います。ほかに、点滴で水分と栄養を補う、痛みをやわらげる、といった治療が行われます。膿(うみ)がたまっている場合は、細い管を入れて膿を抜く処置をすることがあります。どのような治療になるかは症状によって変わるため、使う薬の種類や量については、必ず担当の医師や薬剤師に確認してください。
手術が検討される場合
手術が必要になるのは、憩室炎をくり返す場合、膿がたまって治りにくい場合、腸に穴があいて腹膜炎(ふくまくえん:おなかの内側に炎症が広がる状態)になった場合、腸が狭くなる場合、出血が止まらない場合などです。多くの場合は、炎症が落ち着いてから予定して行う手術(待機的手術)になります。緊急で必要な場合もあります。手術が必要かどうかは、症状の経過や画像検査の結果をもとに、担当医とよく相談して決めていきます。
この病気と共に生きる
憩室がある人のほとんどは、ふだんどおりの生活を送っています。大切なのは、便通を整えて腸の中の圧力を上げすぎないこと、そして再発のサイン(おなかの痛み、発熱)に気づけるようにしておくことです。症状が落ち着いているときは、特別に何かをがまんする必要はありません。
生活習慣のアドバイス
- 食物繊維をしっかりとる(野菜、果物、きのこ、海藻、豆類、全粒穀物など)
- 水分をこまめにとる
- 便秘をためない(便意をがまんしない、決まった時間にトイレに行く習慣をつける)
- 適度に体を動かす(ウォーキングなど、無理のない範囲で)
- 喫煙している場合は、禁煙を考えてみる
- 体重が気になる場合は、無理のない範囲で体重管理に取り組む
- 痛み止めの一部(NSAIDs)をよく使う場合は、医師や薬剤師に相談する
- ストレスをためこまず、睡眠を十分にとる
食事と運動
昔は「ナッツやトマトの種、イチゴの種など、粒の残る食べ物は避けましょう」と指導されることがありましたが、最近の考え方では、これらを一律に避ける必要はないとされています。むしろ、食物繊維をしっかりとることが勧められます。ただし、自分にとって食べるとおなかが張る、痛くなるといった食品があれば、無理に食べる必要はありません。運動は、散歩や軽いストレッチなど、続けられるものを毎日の習慣にするとよいでしょう。激しい運動を始める前には、体調と相談してください。
精神的健康と心の健康
「また痛くなったらどうしよう」「何を食べていいのかわからない」と不安になるのは自然なことです。食事の制限がストレスになることもあります。不安が強いときや気持ちが落ち込むときは、一人で抱えこまず、かかりつけ医や、お住まいの自治体の健康相談窓口、こころの相談窓口に話してみてください。話すだけでも気持ちが軽くなることがあります。つらい気持ちが続くときは、医療機関で相談することも大切です。
予防
憩室ができること自体を完全に防ぐ方法は、今のところわかっていません。ただ、食物繊維をしっかりとり、水分をとり、便秘をためない生活をすることで、腸の中の圧力が上がりすぎるのを防ぎ、リスクを下げられる可能性があります。禁煙、適度な運動、体重管理も、体全体の健康のために役立ちます。
ワクチン
憩室疾患に直接関係するワクチンはありません。季節ごとの感染症の予防接種については、かかりつけ医に相談してください。
検診プログラム
憩室そのものを見つけるための検査は、症状がない人に広く勧められているわけではありません。一方で、大腸がんの検診(便潜血検査など)は、お住まいの市区町村が実施しています。対象年齢や受け方は地域によって異なるため、自治体の案内を確認してみてください。血便がある場合は、検診を待たずに医療機関を受診してください。
合併症
治療しない場合
- 膿(うみ)がたまる(膿瘍:のうよう)
- 腸に穴があいて、おなかの内側に炎症が広がる(穿孔・腹膜炎)
- 腸が狭くなって、便が通りにくくなる(狭窄)
- 出血が続く
- 腸とほかの臓器の間に、細い通り道ができてしまう(瘻孔:ろうこう。膀胱との間につながると、尿に便が混じることがあります)
- 炎症が全身に広がる(敗血症)
長期的な見通し
ほとんどの方は、軽い症状で治まり、ふだんどおりの生活に戻ることができます。憩室炎を一度起こした人のうち、再発するのは一部の方です。手術が必要になるのは、全体から見ると少ない割合です。再発のサインに気づいて早めに受診すること、そして日ごろの食事と便通を整えておくことが、安心して過ごすための近道です。心配なことがあれば、いつでもかかりつけ医に相談してください。
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最終更新: 2026年10月23日
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