心肺蘇生を望まないとき — DNACPR(蘇生処置を行わない取り決め)について
概要
DNACPR(ディー・エヌ・エー・シー・ピー・アール)は、日本語では「心肺蘇生法を行わない」という事前の取り決めのことです。心肺蘇生法とは、心臓や呼吸が止まったときに、胸を強く押したり人工呼吸をしたりして、命を戻そうとする処置です。DNACPRは、自分の心臓や呼吸が止まったときに、こうした蘇生処置を始めないでほしい、とあらかじめ本人・家族・医療者で話し合って決めておくものです。これは「もう何もしない」という意味ではありません。痛みや息苦しさを和らげるケアや、回復が見込める病気の治療は、これまで通り続けられます。
重要な事実
- DNACPRは、心臓や呼吸が止まったときの蘇生処置についてだけの取り決めです。日々の治療や入院、苦痛を和らげるケアは制限されません。
- 本人を中心に、家族や医療・ケアチームが話し合って決めるものです。一度決めたら終わりではなく、いつでも見直し、変更できます。
- 話し合った内容は書面や診療の記録に残し、家族・かかりつけ医・施設スタッフ・救急隊などと共有しておくことが大切です。
DNACPRは、進行した病気や高齢の方のケアの場面でよく話し合われます。入院中や施設での療養中に、医療者から話し合いが提案されることもあります。最近は、元気なうちから将来のことを話しておく「人生会議(アドバンス・ケア・プランニング)」の一部として、早めに考える方も増えています。
DNACPRは本人だけでなく、家族や介護する方にも関わるテーマです。特に、がん・心臓病・肺の病気・腎臓の病気・認知症などが進行している方、入退院を繰り返している方、施設や在宅でケアを受けている方とそのご家族にとって、身近な話になります。
症状
- 意識がない、呼びかけに反応がない
- 呼吸が苦しい、息ができない、顔色が悪い
- 胸が強く痛む、冷や汗が出る
- けいれんが止まらない
- 大量の出血がある、突然動けなくなった
- 迷ったら、ためらわずに119番へ電話してください。DNACPRの書面があっても、苦しさを和らげる処置や救急要請は行えます。
- ⚠急な発熱や、いつもと違う元気のなさがある
- ⚠食事や水分がとれない、尿が出ない
- ⚠痰がからんで息苦しい、横になると苦しい
- ⚠痛みが強くなり、座薬や処方されたケアでは楽にならない
- ⚠家族が「このままでよいのか」と不安になったとき
- ⚠これらは当日中に、かかりつけ医や訪問看護師、施設のスタッフに相談してください。
一般的な症状
- DNACPRは病気ではなく、あらかじめ話し合って決めておく取り決めなので、それ自体に症状はありません。
- 次のような場面で、医療者から話し合いが提案されることがあります。
- 進行した病気と診断され、今後の見通しを考え始めたとき
- 入退院を繰り返し、体力が落ちてきたと感じるとき
- 施設への入所や在宅療養を始めるとき
- 家族が今後の介護や医療について相談に行ったとき
- 本人が「最期をどう迎えたいか」を考え始めたとき
子供の症状
- 子どもは通常、DNACPRの話し合いの対象になることは多くありません。ただし、生まれつきの病気や進行した病気で命に関わる状態にある子どもの場合は、話し合いが必要になることがあります。
- その場合も、親権者やご家族が中心となり、子どもの担当医や看護師、場合によっては倫理委員会などの支援を受けながら、時間をかけて話し合います。
- 子どもの気持ちや意思を、年齢に応じてできる限り聞き取ることが大切にされます。
高齢者の症状
- 高齢の方では、複数の病気を抱えていることや、体力が落ちてくること(フレイル)が重なり、蘇生処置がうまくいきにくいことがあります。
- 認知症が進んでいる場合は、本人の意思をどう確認するかが課題になります。元気なうちに話した内容や、本人の価値観を知る家族の話が手がかりになります。
- 高齢の方は、本人だけでなく、介護しているご家族も強い不安や迷いを感じやすいです。遠慮せずにケアチームに相談してください。
原因
主な原因
- 心肺蘇生法は、誰にでも必ず効果があるわけではありません。特に進行した病気で体力が落ちている方では、蘇生で心臓が戻っても、その後の生活が本人の望むものにならないことがあります。
- 本人が「延命のための処置よりも、苦しまずに穏やかに過ごしたい」と望んでいる場合
- 回復が見込めず、命の終わりが近いと医療・ケアチームが考えている場合
- 本人の価値観や大切にしたいことを、家族と医療者で話し合った結果として
リスク要因
- 高齢であること
- 心臓・肺・腎臓・脳などの病気を複数抱えている
- 認知症が進んでいる
- 入退院を繰り返している
- 施設に入所している、または在宅で医療的なケアを受けている
- 介護する家族が負担を感じている
- 本人が「最期の迎え方」について考え始めている
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 急に体調が悪くなり、今のケアのままでよいか不安なとき
- DNACPRの書面が見つからない、内容が今の状態と合っていないと感じたとき
- 家族の間で意見が分かれ、話し合いが止まってしまったとき
- 本人の気持ちが変わり、決めたことを見直したいとき
定期受診を予約すべき場合:
- DNACPRについて考え始めたとき、家族と話してみたいとき
- 健康診断や定期受診の機会に、かかりつけ医に相談したいとき
- 入院・手術・施設入所の前
- 引っ越しや担当医の変更があり、これまでの取り決めを引き継ぎたいとき
診断
DNACPRは検査で診断するものではなく、話し合いを通じて少しずつ決めていく取り決めです。日本では、厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に沿って、本人を中心に、家族と医療・ケアチームが繰り返し話し合うことが大切とされています。医療者から病状や今後の見通しの説明があり、それをもとに本人の希望や価値観を確かめ、必要に応じて家族も交えて話し合います。
行われる可能性のある検査
- 病状と今後の見通しを正確に知るための検査(血液検査や画像検査など)。これはDNACPRを決めるためではなく、話し合いの土台になります。
- 認知症の程度や、意思を伝える力を確認するやりとり(会話や簡単な質問)
- 本人の価値観や、大切にしたいことを聞き取る面談
- 話し合った内容を診療の記録や書面に残し、関係者で共有する作業
診察で予想されること
一度の話し合いですべてを決める必要はありません。何度かに分けて話しても大丈夫です。ご家族だけで判断を求められることもなく、医療・ケアチームが一緒に考えます。話し合いの内容は記録に残り、入院先や施設、在宅ケアのスタッフと共有されます。
治療
DNACPRは治療をやめることではなく、ケアの目標を「苦痛を和らげ、その人らしく過ごすこと」に置き直すことです。心臓や呼吸が止まったときの蘇生処置は行わない一方で、痛みや息苦しさ、不安などのつらさを和らげるケアや、回復が見込める病気の治療は続けられます。
自宅でのセルフケア
- 家族や信頼できる人と、普段から気持ちを話しておく
- 書面の保管場所を、家族・ケアマネジャー・施設のスタッフと共有しておく
- 気持ちが変わったら、その都度かかりつけ医に伝える
- エンディングノートや人生会議(アドバンス・ケア・プランニング)の話し合いを活用する
- 救急時の連絡先や、かかりつけ医の連絡先を決めておく
医療治療
痛みや息苦しさ、不安などのつらさを和らげるケア、水分や栄養の支援、感染症など回復が見込める病気の治療、リハビリ、訪問看護や在宅ケアなどが続けられます。DNACPRは、こうした治療や入院を制限するものではありません。具体的にどのようなケアを受けるかは、かかりつけ医やケアチームと相談して決めていきます。
手術が検討される場合
手術や処置を受けるときは、麻酔の専門家や執刀医と、手術中・手術後のDNACPRの扱いについて事前に相談しておくことが大切です。手術中は一時的に蘇生処置を行うことがあるため、事前の確認が必要になります。
この病気と共に生きる
書面は目につく場所(冷蔵庫の扉、財布の中、施設の記録など)に保管し、家族と共有しておくと安心です。地域によっては、救急隊が事前に情報を確認できる仕組みがあります。かかりつけ医やケアマネジャーに、どこに保管しているかを伝えておきましょう。
生活習慣のアドバイス
- 決めた内容を、年一度など定期的に見直す
- 家族と定期的に気持ちを話す機会をつくる
- エンディングノートや人生会議の話し合いに参加する
- 体調の変化を、早めにかかりつけ医に伝える
- 介護やケアの負担を一人で抱え込まない
食事と運動
食べられるものを、無理のない範囲で楽しみましょう。体を動かすことも、状態に合わせてできる範囲で続けると、気分転換や体力維持につながります。無理は禁物で、つらいときはしっかり休んでください。
精神的健康と心の健康
DNACPRを決めることは、本人にも家族にも重い気持ちを伴うことがあります。「早く決めてしまったのではないか」「家族が決めていいのか」と悩む方は少なくありません。話し合うことで気持ちが整理される一方、涙が出たり眠れなくなったりすることもあります。つらさが続くときは一人で抱えず、かかりつけ医や地域の相談窓口に話してください。気持ちが非常に追い詰められていると感じたら、すぐに地域の相談窓口や救急(119番)に連絡してください。
予防
DNACPRは予防するものではありませんが、元気なうちから事前に話し合っておくこと(アドバンス・ケア・プランニング、人生会議)で、いざというときに慌てず、本人の希望に沿ったケアを受けやすくなります。話し合いを重ねておくことが、自分らしい時間を守る備えになります。
検診プログラム
特定の検査で見つけるものではありません。ただし、定期的な受診の機会に、今後の医療やケアについてかかりつけ医と話しておくことが大切です。
合併症
治療しない場合
- 話し合いをしないままになると、救急の場で、本人が望んだかどうかわからないまま蘇生処置が行われることがあります。
- ご家族が短い時間で難しい判断を迫られ、負担や後悔を抱えることがあります。
- 書面があっても関係者に共有されていないと、現場で本人の意思が伝わらないことがあります。
- 入院や施設入所のたびに、同じ話し合いを何度もやり直すことになります。
長期的な見通し
DNACPRは「命をあきらめる」ためのものではなく、その人らしい時間を大切にするための取り決めです。何度でも見直せますし、気持ちが変われば変更できます。話し合いを重ねることで、本人もご家族も、安心して毎日を過ごしやすくなります。
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最終更新: 2026年10月23日
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