線維形成性小円形細胞腫瘍(DSRCT)を知る
概要
線維形成性小円形細胞腫瘍(せんいけいせいしょうえんけいさいぼうしゅよう)は、英語の頭文字をとって「DSRCT」と呼ばれる、とてもまれながんの一種です。おなかの内側や臓器の表面をおおっている薄い膜(腹膜=ふくまく)に、小さな塊(しこり)がいくつもできるのが特徴です。顕微鏡で見ると、小さくて丸い形の細胞が、線維(せんい)という硬い組織に囲まれて増えていることから、この名前がつきました。腹膜は胃や腸を包んでいる膜なので、初期にはおなかの張りや痛みとして気づかれることがあります。
重要な事実
- 10代後半から20代の若い世代に多い、非常にまれながんです
- おなかの中(腹膜)に複数の塊を作ることが多く、広がって見つかることもあります
- 確定診断には、組織の一部を採って調べる検査(生検)と、細胞の中の遺伝子を調べる検査が大切です
- 治療は、手術・抗がん剤(化学療法)・放射線などを組み合わせた「集学的治療(しゅうがくてきちりょう)」が中心になります
- 経験のある専門チームがいる医療機関で相談することが勧められます
とてもまれな病気です。海外の報告では100万人に数人程度といわれることもありますが、正確な人数はわかっていません。日本でも1年に数十人程度ではないかと考えられており、多くの医師が一生のうちに数例しか出会わないとされるほど珍しいがんです。
主に10代後半から20代の若い方に多く、男性にやや多いとされています。子どもから大人まで幅広い年齢で報告がありますが、高齢の方ではとてもまれです。
症状
- 激しいおなかの痛みで動けない、体を丸めてしまう
- おなかが板のように硬く、触ると強く痛む
- 吐血(血を吐く)、コーヒー色の呕吐、大量の血便
- 息が苦しい、呼吸が速い、顔色が青白い
- 意識がぼんやりする、会話がかみ合わない、けいれん
- 突然倒れた、立てないほどのふらつき
- ⚠数日続くおなかの張りや痛み
- ⚠嘔吐が続いて水分がとれない、尿の量が減っている
- ⚠便もおならも出ないまま、おなかが張って痛む
- ⚠原因不明の体重減少が続いている
- ⚠38度以上の発熱が続く
一般的な症状
- おなかの痛み(鈍い痛みが続くことが多い)
- おなかが張る、ふくらむ(腹水=おなかに水がたまることでも起こります)
- おなかにしこりを触れる
- 吐き気や嘔吐(おうと)
- 食欲がなくなる、食事がとれない
- 原因がはっきりしない体重減少
- 便秘や、おなかがゴロゴロする感じ
- だるさ、疲れやすさ、微熱
子供の症状
- 元気がない、ぐったりしている時間が増える
- 不機嫌が続く、泣き止まない
- 食欲が落ちる、ミルクや食事の量が減る
- 繰り返す嘔吐
- おなかがふくらんでいる、服がきつくなる
- 体重が増えない、成長曲線から外れる
- うんちが出にくい、おなかを痛がる
高齢者の症状
- 高齢の方では非常にまれですが、おなかの張りや痛み、食欲低下、体重減少などがみられます
- 加齢や他の病気の症状と紛らわしく、気づくのが遅れることがあります
- だるさや息切れなど、おなか以外の症状が目立つこともあります
原因
主な原因
- 細胞の中の遺伝子の一部が組み換わる変化(転座=てんざ)が関係していると考えられています。11番目と22番目の染色体の一部が入れ替わることで、細胞の増え方を調整する仕組みがうまく働かなくなります。
- この遺伝子の変化は、生まれた後に体の細胞の一部で偶然起こるもので、親から子へ受け継がれるものではありません。
- 食べ物や生活習慣、子育ての仕方が原因になる病気ではありません。ご本人やご家族の「何かが悪かった」というわけではないことを、どうか覚えていてください。
リスク要因
- 若い年齢(特に10代後半から20代)
- 男性であること(やや多いとされています)
- 細胞の遺伝子に特定の変化があること
- はっきりした生活習慣のリスク(食事・喫煙・飲酒など)は知られていません
- 家族歴は通常関係がないとされています
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 激しい腹痛、おなかが硬く張って痛む
- 嘔吐が続いて水分がとれない
- 吐血や血便がある
- 息苦しさや強いふらつきがある
- 高熱が続く
定期受診を予約すべき場合:
- 2週間以上おなかの張りや痛みが続く
- 原因がわからない体重減少がある
- 食欲がなく、食事量が減り続けている
- おなかにしこりを触れる、または家族に指摘された
- 便秘が急にひどくなった、おなかがゴロゴロして気持ち悪い日が続く
診断
まず問診と体の診察、血液検査、画像検査を行い、おなかの中の状態を確認します。そのうえで、疑わしい部分の組織を小さな針や小さな手術で採って調べる「生検(せいけん)」を行い、顕微鏡での観察と遺伝子の検査を組み合わせて確定診断します。DSRCTかどうかを確かめるには、この組織と遺伝子の検査がとても重要です。
行われる可能性のある検査
- 問診と体の診察(おなかの張りやしこりの確認)
- 血液検査(貧血、炎症、肝臓や腎臓の働き、腫瘍マーカーなど)
- 超音波検査(エコー)
- CT検査、MRI検査
- PET-CT検査(体全体に広がりがないかを調べる)
- 生検(針を刺す方法、または小さな手術で組織を採る方法)
- 病理検査と遺伝子検査(細胞の形と遺伝子の変化を調べる)
- 骨髄検査(必要に応じて)
- 内視鏡検査(必要に応じて)
診察で予想されること
検査は数日から数週間かかることがあり、結果を待つ間はとても不安な時間になります。DSRCTはまれなため、最初の病院から、経験のある専門の医療機関(小児がんや若年者のがんを扱う施設)に紹介されることがよくあります。説明を受けたときにわからない言葉があれば、その場で遠慮なく聞いてください。必要であれば、別の医師の意見を聞く「セカンドオピニオン」を求めることもできます。
治療
DSRCTの治療は、手術・抗がん剤(化学療法)・放射線治療などを組み合わせた「集学的治療(しゅうがくてきちりょう)」が中心になります。おなかの中に広がっていることが多いため、複数の治療を順番に、または組み合わせて行います。治療の組み立て方は、年齢、体の状態、病気の広がり方によって一人ひとり異なります。主治医のチームとよく相談しながら決めていくことが大切です。
自宅でのセルフケア
- 食べられるものを、食べられる量だけ、こまめにとる(一度にたくさんが難しければ分割して)
- 水分を少しずつこまめにとる
- 無理のない範囲で体を動かし、疲れたら必ず休む
- 症状(痛み、吐き気、発熱、体重、便や尿の回数)をメモして医療者に伝える
- 治療の副作用は我慢せず、早めに医療者に相談する
- 手洗い・うがいを丁寧に行い、人混みをできるだけ避ける
- 予防接種については、治療の状況に応じて主治医に相談する
医療治療
治療には、腫瘍を取り除く手術、全身のがん細胞を抑える抗がん剤(化学療法)、局所に効かせる放射線治療などがあり、これらを組み合わせます。条件が合う場合には、新しい治療の臨床試験(治験)が選択肢になることもあります。具体的な治療の種類や進め方は、病気の広がり方や体の状態によって変わるため、主治医の説明をよく聞いて相談してください。
手術が検討される場合
手術は治療の中心の一つで、可能な範囲で腫瘍を取り除きます。おなかの中に広く広がっている場合には、まず抗がん剤で小さくしてから手術を行うことがあります。逆に、手術が難しい場所にある場合や体への負担が大きい場合には、他の治療を優先することもあります。手術の適否は、専門の医療チームが画像検査の結果をもとに判断します。
この病気と共に生きる
治療中は、体調の良い日と悪い日が波のようにやってきます。良い日に無理をしてしまうと、あとで強い疲れが出やすいので、こまめに休むことを優先してください。通院の予定、飲んでいる薬、症状の記録を一冊のノートにまとめておくと、診察のときに役立ちます。家族や友人に「これを手伝ってほしい」と具体的に伝えることも、生活を続けるうえで大切な力になります。
生活習慣のアドバイス
- 生活のリズムをできるだけ整え、睡眠をしっかりとる
- 体調の記録をつけ、変化を医療者と共有する
- 治療中は感染症に気をつけ、手洗いを習慣にする
- 学校や仕事については、主治医と相談しながら無理のない形で調整する
- 経済的な不安は、医療ソーシャルワーカーや自治体の相談窓口に早めに相談する
- 一人で抱え込まず、話せる相手や支援の場を持つ
食事と運動
食事は「がんに効く食品」を探すよりも、エネルギーとたんぱく質をしっかりとることが基本です。食欲がないときは、少量を何回かに分ける、やわらかくて食べやすいものを選ぶ、冷たいものや香りの穏やかなものを試す、といった工夫が役立ちます。運動は、散歩や軽いストレッチなど、息が上がらない程度から始めましょう。痛みや発熱、強い疲れがあるときは無理をせず、主治医に相談してください。
精神的健康と心の健康
「なぜ自分が」「この先どうなるのだろう」と、不安や悲しみ、怒りが押し寄せるのは自然なことです。若い方の場合、学校や仕事、将来の計画への影響が大きな負担になります。気持ちがつらいときは、一人で抱えずに、主治医・看護師・心理職・医療ソーシャルワーカーに話してください。眠れない日が続く、涙が止まらない、何も楽しめない、自分を傷つけたい気持ちがわいてくる、といった状態は一人で我慢せず、すぐに医療者やお住まいの地域の相談窓口に连絡してください。緊急の危険があるときは迷わず119番に電話してください。
予防
DSRCTは、生まれた後に細胞の中で偶然起こる遺伝子の変化が関係していると考えられており、現在のところ確実な予防法はありません。生活習慣を改めれば防げるという病気ではないため、ご自分やご家族を責める必要はありません。
ワクチン
DSRCTを防ぐワクチンはありません。治療中の感染予防のための予防接種については、主治医に相談してください。
検診プログラム
症状がない段階でDSRCTを見つけるためのスクリーニング検査は、確立されていません。気になる症状があるときに早めに受診することが、今できる最も大切なことです。
合併症
治療しない場合
- おなかの中で腫瘍が大きくなり、痛みや張りが強くなる
- 腸が圧迫されて食べ物や便が通らなくなる(腸閉塞)
- おなかに水がたまり、おなかが張って息苦しくなる(腹水)
- 肝臓やリンパ節、肺、骨など、体の他の場所に広がる(転移)
- 食事がとれなくなり、体力や栄養状態が落ちる
長期的な見通し
DSRCTは非常にまれで、治療が難しいがんであることは事実です。ただし、専門の医療機関での集学的治療や、新しい治療の臨床試験によって、治療の選択肢は少しずつ広がってきています。病状や年齢、治療への反応は一人ひとり異なるため、統計的な数字だけでご自分のこれからを決めつける必要はありません。主治医のチームと十分に話し、必要であればセカンドオピニオンも活用しながら、納得できる道を一緒に探していくことができます。
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最終更新: 2026年10月23日
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