硬膜動静脈瘻(こうまくどうじょうみゃくろう/DAVF)
概要
硬膜動静脈瘻(DAVF)は、脳や脊髄を包んでいる「硬膜」という厚い膜の中で、動脈と静脈が異常につながってしまった状態です。ふつうの血液の流れでは、動脈から毛細血管という細い網の目を通って静脈へ流れ、圧力がゆるやかになります。ところが硬膜動静脈瘻では動脈の血が毛細血管を通らずに直接静脈へ流れ込むため、静脈に高い圧力がかかってしまいます。この異常なつながりは「瘻孔(ろうこう)」とよばれ、脳の表面の血管に負担をかけることがあります。
重要な事実
- 硬膜という膜の中で動脈と静脈が直接つながってしまう、比較的まれな血管の病気です。
- 脈打つような耳鳴り、頭痛、目の充血や眼球の突出などが代表的で、症状はつながりの場所によって変わります。
- 無症状のまま経過するタイプもある一方、脳出血など危険な合併症を起こすタイプもあるため、専門医による評価が大切です。
硬膜動静脈瘻はまれな病気で、人口あたりの発生は多くありません。脳の血管の異常の中では比較的知られているものの、日常の診療で出会う機会は少ないため、症状からこの病気を思いつくまでに時間がかかることもあります。
50〜70代の方に多くみられ、女性にやや多いとされています。高齢になるほど見つかりやすくなる傾向があります。小児では非常にまれです。生まれつきの体質だけでなく、後天的な要因(血栓症の既往、頭部の外傷や手術の経験、ホルモンの影響など)が関係することもありますが、はっきりした原因がわからない場合も少なくありません。
症状
- 突然の激しい頭痛(「今まで経験したことのない痛み」)
- 意識がもうろうとする、呼びかけへの反応がにぶい、会話がかみ合わない
- けいれんが起きた、体が急に動かなくなった、ろれつが回らない
- 突然の視力低下や視野の欠け
- ⚠脈打つ耳鳴りが数日以上続き、眠れないほど気になる
- ⚠目の充血や眼球の突出が急に進んだ、ものが二重に見え始めた
- ⚠頭痛が日ごとに強くなっている、痛み止めが効かなくなってきた
- ⚠まぶたが下がってきた、目を動かしにくいと感じる
一般的な症状
- 脈打つような耳鳴り(心臓の鼓動に合わせて「ザーッ」「ドクドク」と聞こえる)
- 頭痛(慢性的に続くことも、だんだん強くなることもある)
- 目の奥の痛み、目の充血、まぶたや白目のむくみ
- 眼球が前に出てきたように感じる、ものが二重に見える
- 視力がぼやける、見えにくくなる
- めまい、吐き気、耳の後ろで脈打つ音が聞こえる
子供の症状
- 小児では非常にまれですが、症状が言葉で伝えられず気づきにくいことがあります。
- 頭が大きくなる、機嫌が悪く泣き止まない、哺乳の勢いが弱いといった様子が手がかりになることがあります。
- けいれん、発達の遅れ、呼吸が苦しそうな様子などが見られる場合は、早めに小児科に相談してください。
高齢者の症状
- 高齢者では、耳鳴りや頭痛を「歳のせい」「疲れのせい」と受け取り、受診が遅れやすい傾向があります。
- 物忘れが進んだように見える、ぼんやりする、歩きにくいといった症状で見つかることもあります。
- 持病の血圧の薬を飲んでいても頭痛や目の症状が続く場合は、かかりつけ医に相談してみてください。
原因
主な原因
- 硬膜の中で動脈と静脈が直接つながる仕組みそのものは、完全には解明されていません。
- 静脈の流れが滞ることで、新しい血管の通り道ができてしまうと考えられています。
- 頭部の外傷や手術、血栓症の経験などがきっかけになることがありますが、思い当たる理由がない場合も多くあります。
- 生まれつきの遺伝的な要因が関与することもありますが、家族に同じ病気の方がいることは多くありません。
リスク要因
- 50代以上の年齢
- 女性であること
- 頭部の外傷や脳の手術の経験
- 脳の静脈の血栓症(血液の塊が詰まる状態)の既往
- 喫煙や生活習慣の乱れが血管に負担をかけている場合
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 急に強くなった頭痛、意識の変化、けいれんがあるとき(まず救急要請を)
- 脈打つ耳鳴りが続き、日常生活や睡眠に支障が出ているとき
- 目の充血・眼球突出・複視(ものが二重に見える)が現れたとき
- 視力が急に落ちた、視野が欠けたと感じるとき
定期受診を予約すべき場合:
- 数週間〜数か月続く頭痛がある
- 耳鳴りが片側だけ続いている、心臓の音と一緒に聞こえる気がする
- めまいや聞こえにくさが続いている
- 物忘れや集中力の低下が気になり始めた
診断
まず問診と診察で、症状の出方や経過をくわしく聞きます。耳の後ろや首に聴診器を当てて、脈に合わせた血流の音が聞こえないかを確認することもあります。疑いがあれば脳の画像検査を行い、最終的には脳血管造影(カテーテルという細い管を血管に入れて造影剤で血管の形を写す検査)で確定します。
行われる可能性のある検査
- 診察と聴診(耳の後ろ、首、目の周りで血流の音を確認)
- MRI・MRA(磁気を使って脳の血管の形や血流を写す検査。痛みはありません)
- CT・CT血管造影(造影剤を使って血管の様子を調べる検査)
- 脳血管造影(カテーテル検査):異常なつながりの位置や、危険なタイプかどうかをくわしく調べる最終確認の検査
- 目の診察(眼球の突出や充血、視神経への影響を確認)
- 必要に応じて心電図や血液検査
診察で予想されること
画像検査の多くは痛みがなく、検査時間は20〜40分程度です。カテーテルによる脳血管造影は入院が必要になることが多く、検査中は体を動かさないようにお願いされます。造影剤を使う検査では、事前にアレルギーや腎臓の働きを確認します。結果の説明では、瘻孔の場所、血流の向き、危険なタイプかどうかを聞き、治療が必要かどうかを一緒に考えることになります。
治療
治療方針は、瘻孔の場所、血の流れ方、症状の強さ、そして脳出血などの危険性によって大きく変わります。危険性が低く症状も軽い場合は、定期的な画像検査で経過を見ることもあります。危険性が高い場合は、血流を遮断する治療を行います。
自宅でのセルフケア
- 血圧を毎日測り、高い状態が続くときは主治医に相談する
- 禁煙する(血管への負担を減らすため)
- 頭痛や耳鳴りの記録をつけ、受診時に伝えられるようにする
- 睡眠を十分にとり、強い力みや激しい運動で血圧が急に上がる場面を避ける
- 処方された薬は自己判断で中止せず、気になることがあれば薬剤師や主治医に相談する
医療治療
治療の中心になるのは、カテーテル(細い管)を血管の中に進めて、異常なつながりの部分を塞ぐ血管内治療です。体への負担が比較的少なく、多くの場合に選ばれます。ほかに、頭を開いて行う手術や、放射線をピンポイントで当てて時間をかけて血流を減らす治療が選ばれることもあります。症状に合わせて、頭痛やけいれんを和らげるお薬が使われることもあります。どの方法が合うかは、瘻孔の形や位置によって変わるため、専門医とよく相談して決めます。
手術が検討される場合
血管内治療が難しい位置にある場合や、治療後に血流が残ってしまった場合、緊急で血腫を取り除く必要がある場合などに、手術が検討されます。高齢の方や持病がある方では、体への負担と得られる利益を比べて慎重に判断します。
この病気と共に生きる
硬膜動静脈瘻と診断されても、多くの方は治療や経過観察を続けながら日常生活を送っています。症状の変化に気づけるよう、頭痛や耳鳴りの程度を簡単にメモしておくと、受診のときに役立ちます。治療後も定期的な通院が必要になることが多いため、仕事や家庭の予定と無理なく両立できるよう、主治医に相談しながら進めましょう。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙し、受動喫煙も避ける
- 塩分を控えめにし、バランスの良い食事を心がける
- 睡眠をしっかりとり、疲れをためない
- 急に力む動作(重い物を持ち上げる、強いいきみ)を意識して避ける
- 飲酒はほどほどにし、血圧が上がりやすい場面に注意する
- かぜや体調不良のときは、市販薬の使用について薬剤師に相談する
食事と運動
食事は減塩を意識し、野菜や魚、大豆製品などをバランスよくとりましょう。運動は、ウォーキングなど無理のない範囲の有酸素運動がおすすめです。ただし、治療前や経過観察中の方は、どの程度の運動が安全かを主治医に確認してください。急に血圧が上がるような強い筋力トレーニングや、頭を下にする姿勢が続く運動は、避けたほうがよい場合があります。
精神的健康と心の健康
脈打つ耳鳴りは眠れないほどつらく、集中力を削いでしまうことがあります。頭痛や目の症状が続くと、不安や落ち込みを感じるのも自然なことです。がんばりすぎず、家族や友人、医療者に気持ちを話してみてください。つらさが続くときは、医療機関で相談することも大切なケアのひとつです。
予防
硬膜動静脈瘻そのものを確実に防ぐ方法は、現在はわかっていません。ただし、血圧を良い状態に保つこと、禁煙すること、頭部のけがを避けることは、血管全体の健康を守るうえで役立ちます。
検診プログラム
この病気だけを目的とした決まった健診はありません。特定健診などで血圧をチェックし続けること、気になる症状があるときに早めに受診することが大切です。片側だけの拍動性耳鳴りが続く場合は、健診を待たずに相談しましょう。
合併症
治療しない場合
- 脳内や脳の表面で出血を起こすことがあります(危険なタイプの場合)
- 静脈の流れが滞ることで、脳がむくんだり血流が悪くなったりすることがあります
- けいれん発作を起こすことがあります
- 目の充血や眼球突出が進み、視力に影響が出ることがあります
- 物忘れや集中力の低下など、認知機能の変化として現れることがあります
長期的な見通し
硬膜動静脈瘻は、危険性の低いタイプであれば大きな問題なく経過することが多く、危険性の高いタイプでも治療によって血流を改善できる可能性があります。治療の技術は進歩しており、多くの方が日常生活を取り戻しています。大切なのは、症状に気づいたら早めに相談し、専門医と一緒に方針を決めていくことです。
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最終更新: 2026年10月23日
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