赤痢(せきり)— 血や粘液が混じった下痢が続くとき
概要
赤痢(せきり)は、細菌やアメーバという小さな生き物(病原体)が腸の中に入り、腸に炎症を起こす病気です。最大の特徴は、血や粘液(ねんえき=ゼリーのようなもの)が混じった下痢が続くことです。おなかの痛みや、トイレに行ってもすぐまた行きたくなる「しぶり腹」というつらい感覚が出ることもあります。英語ではディゼントリーと呼ばれ、日本では原因によって「細菌性赤痢」と「アメーバ赤痢」の2つに大きく分けて呼ばれます。どちらも、人から人へうつる可能性がある感染症です。
重要な事実
- 赤痢は「きれいでない水や食べ物」「手」を通じて口から入った病原体が原因で起こります。
- 血が混じった下痢、粘液が混じった下痢、おなかの強い痛み、発熱が代表的な症状です。
- 多くの場合は適切な水分補給と医療機関での対応で回復しますが、脱水(体の水分が足りなくなること)には注意が必要です。
日本では、赤痢はよくある病気とはいえません。細菌性赤痢は年間を通して報告がありますが数は多くなく、多くは海外から持ち込まれた例や、家族内・集団内での感染例です。アメーバ赤痢も日本では報告数は多くありませんが、海外渡航歴のない例も報告されています。一方、世界全体で見ると、特に衛生状態が整いにくい地域では今も多い病気です。
年齢を問わずかかります。海外(東南アジア、南アジア、アフリカ、中南米など)に滞在・渡航した人、家族や集団の中で感染者と接触した人、免疫力が低下している人では注意が必要です。子どもや高齢者、妊娠中の人は、脱水が進みやすいため特に気をつけてください。
症状
- 意識がもうろうとしている、呼びかけても反応が弱い
- けいれん(ひきつけ)が起きた
- 尿がまったく出ない、または半日以上おしっこがない
- 顔色が青白い、唇が乾いてひどく渇いている、皮膚をつまむと元に戻りにくい(強い脱水のサイン)
- 大量の血が便に混じる、または出血が止まらないように見える
- 呼吸が苦しい、胸が痛い
- 高熱とぐったりした状態が続き、水分もとれない
- ⚠血が混じった下痢が続いている
- ⚠38℃以上の発熱がある
- ⚠水分を飲もうとしても吐いてしまい、飲めない
- ⚠8時間以上おしっこが出ていない
- ⚠おなかの痛みがどんどん強くなっている
- ⚠症状が3日以上よくならない、または悪化している
一般的な症状
- 血が混じった下痢、または粘液(ゼリー状)が混じった下痢
- おなかの強い痛み、しめつけられるような痛み
- しぶり腹(トイレに行ってもすぐまた行きたくなる、出ても少ししか出ないつらい感覚)
- 38℃前後の発熱、寒気
- 吐き気、おう吐
- だるさ、食欲がない
- 脱水による口の渇き、尿が少なくなる
子供の症状
- ぐったりしていて元気がない、反応が弱い
- おしっこの量が減る、おむつがいつもより乾いている
- 泣いても涙が出にくい、口の中や唇が乾いている
- おなかを痛がって泣き続ける、機嫌が悪い
- 吐き続けて水分がとれない
- けいれん(ひきつけ)がある、意識がぼんやりしている
高齢者の症状
- 脱水が進みやすい(口の渇き、皮膚の乾燥、尿がほとんど出ない)
- 発熱があっても「つらい」と自覚しにくく、気づくのが遅れやすい
- 意識がぼんやりする、話がかみ合わない
- 持っている病気(心臓病、糖尿病、腎臓病など)が悪化しやすい
- 転倒やふらつきが増える
原因
主な原因
- 細菌性赤痢:赤痢菌(べん毛のない細菌)が口から入り、腸で増えることで起こります。少量の菌でも感染することがあります。
- アメーバ赤痢:赤痢アメーバという小さな寄生虫が腸に入ることで起こります。
- 汚染された水や氷、生の野菜、よく加熱されていない食べ物を口にすること
- 感染した人の便に触れた手から、口へ入ること(手洗いが不十分なとき)
- アメーバ赤痢は、性的な接触(特に肛門を使う性行為)でうつることがあると知られています
リスク要因
- 海外の衛生状態が整いにくい地域への渡航・滞在(東南アジア、南アジア、アフリカ、中南米など)
- 水道水や氷、生もの、屋台の食べ物をそのまま口にすること
- 家族や学校、施設など集団の中で感染者が出たとき
- 手洗いが十分でないまま食事の準備をしたり、食事をしたりすること
- 免疫力が低下する病気や治療を受けている
- 介護や育児で便の処理をする機会が多い
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 血や粘液が混じった下痢がある
- 高い熱とおなかの強い痛みが同時にある
- 水分がとれない、または吐いてしまう
- 尿がほとんど出ない、口がひどく渇く
- 海外渡航から帰ってきたあとに下痢が始まった
- 小さな子ども・高齢者・妊娠中の人に下痢の症状がある
定期受診を予約すべき場合:
- 軽い下痢が数日続いているが、水分はとれている
- 家族や職場、学校で同じような症状の人がいる
- 下痢が繰り返し、生活に支障が出ている
- 海外渡航前に、渡航先の感染症について相談したい
診断
医師はまず、症状の経過、海外渡航歴、食べたもの、周りに同じ症状の人がいるかなどを丁寧に聞き取ります。そのうえで、便を調べる検査を行い、原因が細菌なのかアメーバなのかを確かめます。検査結果が出るまでに数日かかることもあります。
行われる可能性のある検査
- 便の検査(便を採取して、原因の菌や寄生虫がいるかを調べます)
- 便の培養検査(菌を育てて種類を特定します。結果まで数日かかることがあります)
- 便の顕微鏡検査(アメーバなどの寄生虫を直接探します)
- 遺伝子を調べる検査(PCR法など。少量の菌でも見つけやすい検査です)
- 血液検査(脱水の程度や炎症の強さ、体の状態を確認します)
診察で予想されること
便の検査は、専用の容器に少量の便をとって提出するだけなので、体への負担はほとんどありません。検査結果が出るまでに時間がかかるため、その間は水分補給を続けながら、医師の指示に従ってください。結果が出たら、原因に合わせた対応の方針が決まります。症状が強いときや脱水が進んでいるときは、水分や点滴のために入院を勧められることがあります。
治療
赤痢の治療でいちばん大切なのは、失われた水分と塩分をしっかり補うことです。原因が細菌かアメーバかによって対応の考え方が変わるため、自己判断で市販薬を次々に使うのではなく、医療機関に相談することが大切です。多くの人は、水分補給と必要な治療で回復します。
自宅でのセルフケア
- 少量ずつ、何回にも分けて水分をとる(経口補水液や、薄めのイオン飲料、スープなどが役立ちます)
- 食欲がないときは無理に食べず、おかゆやスープなど消化のよいものを少しずつ
- できるだけ安静にして、体を休める
- 下痢止めの薬は、かえって症状を長引かせる場合があるため、自己判断で使わず医師・薬剤師に相談する
- トイレのあとは必ずせっけんと流水で手を洗い、タオルは家族と共用しない
- 便の処理をするときは使い捨て手袋を使い、終わったらよく手を洗う
- 入浴はシャワー程度にし、浴槽のお湯を家族と共用しないようにする(症状が続いている間)
医療治療
医療機関では、まず脱水の程度を確認し、必要に応じて点滴で水分と塩分を補います。原因の病原体がわかった場合は、医師の判断で、その病原体に応じた薬が使われることがあります。薬の種類や使い方は、症状・年齢・持っている病気・妊娠の有無などによって変わるため、必ず医師の指示に従ってください。細菌性赤痢は法律に基づく届け出が必要な感染症に指定されているため、診断された場合は保健所とのやりとりが行われることがあります。登園・登校・出勤については、医師や保健所の指示に従ってください。
手術が検討される場合
多くの場合、手術は必要ありません。ただし、ごくまれに腸に穴が開く(穿孔)など重い合併症が起きた場合には、外科的な治療が必要になることがあります。
この病気と共に生きる
症状が続いている間は、無理をせず家で休み、水分をこまめにとることが中心になります。トイレの後や食事の前の手洗いをいつもより丁寧に行い、家族とタオルや食器を分けるなど、うつさないための工夫をしましょう。仕事や学校は、医師や保健所の指示に従って休むことが大切です。
生活習慣のアドバイス
- せっけんと流水で30秒ほどかけて丁寧に手を洗う習慣をつける
- 飲み水は安全なものを選び、海外では水道水や氷を避ける
- 食べ物はよく加熱し、生ものは避ける
- 体調が戻るまでは十分な睡眠と休養をとる
- 家族の便の変化にも気を配り、同じ症状が出たら早めに相談する
食事と運動
回復期は、おかゆ、うどん、スープ、やわらかく煮た野菜など、腸にやさしいものを少しずつとるとよいでしょう。脂っこいもの、刺激の強いもの、アルコール、カフェインは、症状が落ち着くまで控えめにしてください。運動は、症状が治まって体力が戻ってから、散歩など軽いものから少しずつ再開しましょう。
精神的健康と心の健康
血が混じった下痢や強い痛みは、とても不安なものです。「人にうつしてしまったかもしれない」「恥ずかしい」と感じて気持ちが沈むこともあります。海外渡航後に発症した場合は、帰国後の予定が狂って焦ることもあるでしょう。こうした不安やストレスは自然な反応です。ひとりで抱え込まず、かかりつけ医や保健所、身近な人に話してみてください。つらい気持ちが長く続くときは、心の相談窓口や医療機関に相談することも大切です。
予防
はい、ある程度は防げます。赤痢は口から入る病原体が原因なので、手洗い、安全な水と食べ物、清潔な環境がとても効果的な予防になります。海外渡航時は特に意識して対策しましょう。
ワクチン
日本では、赤痢に対して日常的に使える一般的なワクチンはありません。渡航先によっては海外で接種が検討される場合がありますが、必要性や可否は渡航前に医師や渡航外来に相談してください。
検診プログラム
一般の人を対象にした定期的な検査(スクリーニング)は行われていません。ただし、症状のある人や集団で発生した場合、食品を扱う仕事に就く場合などには、必要に応じて検査が行われることがあります。
合併症
治療しない場合
- 脱水(体の水分と塩分が失われ、ぐったりする、尿が出なくなる)
- 電解質のバランスが崩れる(体の中のミネラルのバランスが乱れること)
- 腸に穴が開く(穿孔)など、まれに重い腸の合併症
- 反応性関節炎(感染のあとに膝や足首などの関節が腫れて痛む状態)
- アメーバ赤痢では、肝臓に膿のたまりができることがある(肝膿瘍)
- 子どもや高齢者では、体力の低下が急速に進むことがある
長期的な見通し
赤痢は、早めに気づいて水分をしっかりとり、医療機関で適切な対応を受けることで、多くの人が数日から1〜2週間ほどで回復します。つらい症状が続くこともありますが、あわてずに医療機関と相談しながら進めていけば大丈夫です。気になる症状があれば、早めに医師や薬剤師、地域の保健所に相談してください。
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最終更新: 2026年10月23日
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