大人のディスレクシア(読み書きが苦手な状態)
概要
ディスレクシアは、日本語では「読み書き障害(読み書きが特に苦手な状態)」と呼ばれます。頭の働きの一部に生まれつきの違いがあり、文字を読む・書く・つづりを覚えることが、同じ年齢の人よりずっと大変になりやすい状態です。知能が低いからでも、勉強をさぼっているからでも、目が悪いからでもありません。大人になってから「自分はそうかもしれない」と気づく人も多くいます。
重要な事実
- ディスレクシアは生まれつきの脳の働き方の違いによるもので、怠けや努力不足ではありません。
- 知能や理解力とは別の話です。話す・聞く・考える力はふつうの人と同じか、それ以上の人も大勢います。
- 治す薬はありませんが、読み方の練習や道具の工夫、職場や学校での配慮によって、生活はずっと楽になります。
海外の調査では、人口のおよそ5〜10%程度がディスレクシアにあたると言われることがあります。日本語はひらがな・カタカナ・漢字を組み合わせる言語なので、苦手の出方は英語圏とは少し違います。日本での正確な割合はまだよく分かっていませんが、決してめずらしいものではありません。
子どもから大人まで、どの年齢でも見られます。男の子に多いと言われることもありますが、女の子や女性にも同じように見られます。大人の場合、子どものころに診断されないまま、工夫しながら生活してきた人が少なくありません。
症状
- 今まで読めていたのに、突然文字が読めなくなった(脳卒中のサインのことがあります)
- 読めないことに加えて、ろれつが回らない、言葉が出てこない、顔や手足の片側が動かない、といった症状がある
- 頭を強く打ったあとに、読み書きや言葉の力が急に変わった
- ⚠ここ数日で読み書きの力がはっきり変わった、または急に悪くなった
- ⚠読み書きのことで強い不安や落ち込みがあり、日常生活が回らなくなっている
- ⚠自分を傷つけたい気持ちが出てきた(この場合はためらわず救急や相談窓口へ連絡してください)
一般的な症状
- 文章を読むのに時間がかかり、何度も同じ行を読み返してしまう
- 声に出して読むと、つっかえたり、言葉を抜かしたり、行を見失ったりする
- 漢字や英単語のつづりを覚えるのが難しく、書くときに迷う
- 書類や説明書を読むのを避けたくなる、または読むととても疲れる
- 数字の桁を読み間違えたり、表やグラフの読み取りが苦手だったりする
- メモを取る、予定を書く、手順を書き出すといった作業に時間がかかる
- 読み書きが多い仕事や場面で、人より強く緊張したり落ち込んだりする
- 「努力が足りないだけ」と言われてきた経験があり、自分に自信が持てない
子供の症状
- 文字を覚えるのが遅く、ひらがなの読み書きでつまずく
- 音を一つずつつなげて言葉にする(音読)のが苦手
- 教科書を読むのを嫌がる、音読の宿題で強い不安を示す
- 書き取りに時間がかかり、マス目にうまく収まらない
- 読み書き以外の分野(絵、工作、話すことなど)は得意なのに、国語だけ極端に苦手
高齢者の症状
- 子どものころから読み書きが苦手だったが、名前が分からないまま大人になった
- 長年の工夫で目立たなくなっていたが、スマホや新しい機器の操作で改めて困りごとが出てきた
- 老眼や視力の変化で、もともとの読みにくさが強く感じられるようになった
- 「年のせい」と思っていたが、実は若いころから続く苦手さだったと気づくことがある
原因
主な原因
- 言葉の音と文字を結びつける脳の働き方に、生まれつきの違いがあると考えられています
- 家系の中で似た特徴が出やすいことが分かっており、遺伝の影響が指摘されています
- 育て方や学校教育の質、本人のやる気が原因ではありません
- 目や耳の病気が原因ではありません(ただし見えにくさ・聞こえにくさが重なると、より読みにくくなります)
リスク要因
- 家族(親やきょうだい)に読み書きが苦手な人がいる
- 早産や低出生体重だった
- 言葉の発達がゆっくりだった
- 注意集中の難しさ(ADHD)や算数の苦手さなど、ほかの発達の特徴と一緒に現れることがある
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 読み書きの力が急に変わった、または突然読めなくなった
- 強い不安・不眠・落ち込みが続き、仕事や日常生活が回らない
- 自分を傷つけたい気持ちがある
定期受診を予約すべき場合:
- 子どものころから読み書きが苦手で、仕事や手続きで困ることが増えてきた
- 自分がディスレクシアかどうかを、きちんと確かめたい
- 職場や学校で必要な配慮(読み上げ、時間の延長など)を相談したい
- 読み書きの苦手さから、自信をなくしたり、人との関わりがつらくなったりしている
診断
ディスレクシアかどうかは、血液検査や画像検査だけで決まるものではありません。これまでの学校や仕事での経験を聞き、実際に読む・書く・音を聞き分ける課題を行い、総合的に判断します。同時に、視力や聴力、ほかの発達の特徴がないかも確認します。日本では、精神科・心療内科、発達障害者支援センター、場合によっては心理の専門家が関わることがあります。
行われる可能性のある検査
- これまでの読み書きの経験や困りごとについての聞き取り(生育歴の確認)
- 音読、文章読解、書き取り、つづりなどの課題
- 言葉の音を聞き分ける力(音韻処理)をみる課題
- 視力・聴力の確認
- 必要に応じて、知能検査や注意・集中に関する検査
診察で予想されること
一度の診察で終わるとは限らず、何回かに分けて調べることがあります。結果は「できる・できない」の判定ではなく、どんな場面でどんな工夫が役立つかを知るための材料になります。診断名がつかない場合でも、困りごとに合わせた支援を受けられることがあります。
治療
ディスレクシアそのものを根本から治す治療はありません。ただし、読み書きの練習の方法を変えること、道具を使うこと、周りの環境を調整することで、生活の負担はずいぶん軽くなります。大人の場合は「子ども向けの練習をもう一度やり直す」というより、仕事や暮らしに合わせた現実的な工夫を組み立てていくことが中心になります。
自宅でのセルフケア
- 音声読み上げ機能やオーディオブックを使って、耳から内容を理解する
- 大事な書類は、まず全体の見出しだけを拾ってから読むなど、読み方を変えてみる
- スマホの音声入力や、文字の大きさ・行間を変える設定を活用する
- 読む時間を短く区切って休み、疲れをためない
- 同じ内容を図や絵、色分けで整理すると理解しやすいことがある
- 困ったときに「読み上げてもらえますか」と伝える練習をしておく
医療治療
医療の場では、読み書きの特性をていねいに確認したうえで、読み書きの練習法(音と文字を結びつける練習など)や、道具・環境の調整についての助言が行われます。あわせて、不安や落ち込み、注意集中の難しさなどが強い場合には、それに対する支援が検討されることがあります。薬で読み書きそのものが治るわけではありません。治療の内容は人によって異なるため、必ず担当の医師や専門家と相談して決めてください。
この病気と共に生きる
ディスレクシアは一生続く特性ですが、付き合い方は工夫できます。読み書きが必要な場面をすべて避けるのではなく、「耳で聞く」「人に確認する」「道具に任せる」といった別のルートを用意しておくと、毎日の負担が減ります。自分がどんな場面でつまずきやすいかを知っておくことが、いちばんの近道です。
生活習慣のアドバイス
- 仕事や学校で、読み上げ・時間延長・資料の事前共有などの配慮を相談する(日本の障害者差別解消法では、2024年4月から民間の事業者にも合理的配慮の提供が求められています)
- 大事な連絡や予定は、音声メモやリマインダーなど、読み書きに頼りすぎない方法で管理する
- 睡眠をしっかりとり、疲れがたまらないようにする(疲れていると読みにくさが強く出ます)
- 自分の得意なこと(話す、アイデアを出す、人とつなぐなど)を意識して活かす場面をつくる
- 必要なら、地域の発達障害者支援センターや専門の相談機関に定期的につながっておく
食事と運動
食べ物や運動でディスレクシアが治るという考え方は、今のところ確かな根拠がありません。特別な食事制限や高価なサプリメントに頼る前に、まずはバランスのよい食事、適度な運動、十分な睡眠といった基本的な生活を整えることが大切です。運動は気分転換やストレス軽減にも役立ちます。気になる健康食品などを使う場合は、かかりつけ医や薬剤師に相談してください。
精神的健康と心の健康
読み書きがうまくいかない経験が続くと、「自分はだめだ」という気持ちが積み重なり、不安や落ち込み、人との関わりを避けることが起こりやすくなります。これは本人の弱さではなく、環境とのミスマッチからくるものです。つらい気持ちが続くときは、ひとりで抱えず、かかりつけ医や地域の相談窓口、専門の相談機関に話してください。自分を傷つけたい気持ちが出てきたときは、ためらわず救急(119)や身近な相談先に連絡してください。
予防
ディスレクシアは生まれつきの脳の働き方の違いによるもので、防ぐことは難しいと考えられています。ただし、早い時期に気づいて合った学び方や支援につながることで、自信を失ったり、学校や仕事で大きくつまずいたりすることを減らせます。
検診プログラム
日本では、子どもの発達の様子は乳幼児健診や就学時の健康診断などで確認されます。大人の場合は決まった健診はありませんが、読み書きの困りごとが生活に影響しているなら、かかりつけ医や発達障害者支援センターで相談できます。
合併症
治療しない場合
- 読み書きが必要な場面を避けるようになり、学ぶ機会や仕事の選択肢が狭まることがある
- 「努力不足」と言われ続けることで、自己肯定感が下がる
- 不安、落ち込み、不眠などのこころの不調が重なりやすくなる
- 書類の読み間違いなど、日常生活での小さなミスが増える
- 周囲に理解されず、人間関係でつらい思いをすることがある
長期的な見通し
ディスレクシアがあっても、工夫と支援によって、仕事や学び、暮らしをしっかり築いている人はたくさんいます。読み書き以外の強みを活かしている人も多くいます。自分の特性を知り、合った方法を選べることが、これからの毎日を楽にする力になります。
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最終更新: 2026年10月23日
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