エーラス・ダンロス症候群(EDS)について
概要
エーラス・ダンロス症候群(EDS)は、体のあちこちをつなぎとめている「結合組織」という部分に、生まれつきの特徴がある病気のグループです。結合組織は、皮膚・関節・血管・内臓などを丈夫に保つ「接着剤」のような役割をしています。その主な材料がコラーゲンというたんぱく質で、EDSではこのコラーゲンや、コラーゲンをつなぐ仕組みに関わる遺伝子の一部に変化があります。そのため、関節がとてもやわらかく動きすぎたり、皮膚がよく伸びたり、傷あとが広がりやすかったりします。症状の出方や重さはタイプによって大きく違い、日常生活に少し工夫が必要な程度の方から、血管などに注意が必要な方までさまざまです。
重要な事実
- 生まれつきの体質(遺伝子の変化)が関係する病気のグループで、うつる病気ではありません。
- いくつかのタイプに分けられ、いちばん多いのは関節がやわらかいことを主な特徴とするタイプ(高可動性型)です。
- 症状の重さは人によって大きく異なり、多くの方は工夫しながらふつうの生活を送っています。
- 日本では「指定難病」に位置づけられ、認定されると医療費の助成などの制度を利用できる場合があります。
タイプによって大きく異なります。関節のやわらかさを主な特徴とする高可動性型は、比較的よくみられるとされています。一方で、血管に影響が出るタイプなどはとてもまれです。正確な人数はわかっておらず、まだ診断されていない方も多いと考えられています。
生まれつきの体質なので、赤ちゃんのときから特徴がありますが、気づかれる時期は人によって違います。子ども時代に関節の脱臼や運動の苦手さで気づかれることもあれば、大人になって慢性的な痛みや疲れが続いて初めて分かることもあります。男女どちらにも起こり、家族の中で同じような特徴がみられることも多くあります。
症状
- 突然の激しい胸・背中・お腹の痛み(血管に問題が起きた可能性があります)
- 急な息苦しさと片側の胸の痛み(肺がしぼむ「気胸」の可能性があります)
- 出血が止まらない、大量に出血している
- 顔色が青白い、冷や汗がひどい、意識がもうろうとする(内出血のサインの可能性があります)
- 突然の激しい頭痛、ろれつが回らない、体の片側が動かない
- ⚠関節が脱臼して元に戻らない、または戻しても強い痛みが続く
- ⚠転んで頭を打った、けがのあとの腫れや痛みが強い
- ⚠傷が開いてしまった、治りが悪く広がっている
- ⚠発熱が続く
- ⚠急に増えたあざや、皮膚の点状の出血
一般的な症状
- 関節がとてもやわらかく、よく脱臼する・ぐらぐらする
- 関節や筋肉の慢性的な痛み
- 皮膚がよく伸びる、薄い、あざができやすい
- 傷あとが広がりやすい、傷の治りが遅い
- すぐに疲れる、体力が続かない
- 立ち上がったときの立ちくらみやめまい
- お腹の不調(便秘、下痢、胃もたれなど)
- 歯ぐきが下がりやすい、歯の詰め物が取れやすい
- 気圧や気温の変化で体調が変わりやすい
子供の症状
- 歩き始めが遅い、転びやすい、よくぶつける
- 運動が苦手、ボール遊びや縄跳びが難しい
- 関節の脱臼をくり返す
- あざができやすい、けがが治りにくい
- 便秘やお腹の痛みをくり返す
- 疲れやすく、長い距離を歩くのを嫌がる
- 姿勢が崩れやすい、扁平足(足の裏が平らな状態)
高齢者の症状
- 若い頃からの関節のぐらつきが、年齢とともに変形や痛みにつながることがある
- 変形性関節症(関節の軟骨がすり減る病気)を合併しやすい
- 慢性的な痛みや疲労が続く
- 筋力が落ちやすく、転倒に注意が必要
- 血圧や血管の状態に気をつける必要があるタイプもある
- 手術を考える場面もあるが、組織のもろさへの配慮が必要
原因
主な原因
- コラーゲンなど、結合組織をつくるたんぱく質の設計図(遺伝子)の一部の変化
- 多くは家族の中で遺伝しますが、家族に同じ特徴の人がいない場合にも起こることがあります
- 変化する遺伝子の種類によってタイプが分かれ、症状の出方も変わります
リスク要因
- 家族にエーラス・ダンロス症候群の方がいる(遺伝形式はタイプによって異なります)
- 関節のやわらかさや皮膚の特徴が、子どもの頃からみられる
- 遺伝形式によっては、親から子へ受けつがれる確率が高くなることがある
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 関節の脱臼が自分で戻せない、または強い痛みが続く
- けがのあと、腫れがひどい・動かせない
- 傷が開いた、出血が続く
- 突然の息苦しさや胸の痛みがある
- 発熱と強い痛みが同時にある
定期受診を予約すべき場合:
- 関節がやわらかく、よく脱臼する
- 皮膚が伸びやすい、あざができやすい、傷あとが広がる
- 原因のわからない慢性的な痛みや疲れが続く
- 立ちくらみや動悸をくり返す
- 家族に同じような特徴の人がいる
- 妊娠を考えている(血管に影響するタイプでは、事前の相談が特に大切です)
- 学校や仕事での生活に困りごとがある
診断
診察で、関節のやわらかさ、皮膚の伸び具合、傷あとの様子、痛みの出方、ご家族の様子などを丁寧に確認します。タイプによっては遺伝子の検査を行い、血管に影響するタイプが疑われる場合は心臓や血管の検査も行います。EDSは「これ1つでわかる」検査があるわけではなく、症状の組み合わせと経過から総合的に判断します。そのため、診断までに時間がかかることもあります。
行われる可能性のある検査
- 身体診察(関節の動く範囲、皮膚の伸び、傷あと、歯ぐきなど)
- 問診と症状の記録(痛み、脱臼の回数、疲れ方など)
- 家族歴の確認
- 遺伝子の検査(少量の血液を採ります。タイプによって行われます)
- 心臓や血管の超音波検査、必要に応じた画像検査
- 血液検査(他の病気がないかの確認)
- 整形外科的な画像検査(必要に応じて)
診察で予想されること
診察では、体を実際に動かして関節のやわらかさを確認したり、皮膚をつまんで伸び具合をみたりします。症状を正確に伝えるために、痛みや脱臼の記録をメモしておくと役立ちます。診断がつくまでに、いくつかの診療科を受診することもあります。担当医と一緒に、生活で困っていることを整理していくことが大切です。
治療
EDSそのものを根本から治す治療は、今のところありません。大切なのは、症状をやわらげ、関節や血管を守りながら、その人らしい生活を続けられるようにすることです。理学療法士によるリハビリ、生活の工夫、必要に応じた装具や痛みへの対応などを組み合わせて、定期的に様子をみていきます。
自宅でのセルフケア
- 無理のない範囲で筋力を保つ(筋肉は関節を支える「天然のサポーター」です)
- 急な動きや、関節を限界まで曲げる動きを避ける
- 長時間同じ姿勢を続けず、こまめに休む
- 水分をこまめにとる(立ちくらみの予防に役立つことがあります)
- 睡眠を十分にとる
- 正しい姿勢と、体に合った靴・椅子を選ぶ
- 症状と過ごし方を記録して、自分のペースを知る
- 急に運動量を増やさず、少しずつ慣らす
医療治療
治療は症状に合わせて組み立てます。理学療法や作業療法で、関節を支える筋肉を育て、日常の動き方を工夫します。関節が不安定なところには装具やテーピングを使うことがあります。痛みや胃腸の不調、立ちくらみなどに対しては、症状に応じた薬が使われることがあります(薬の種類や量は担当医が判断します)。血管に影響するタイプでは、血圧を管理し、血管の状態を定期的に確認することが大切です。複数の診療科が連携する専門チームでフォローすることが望ましいとされています。
手術が検討される場合
手術が必要になる場合もありますが、EDSの方は組織がもろく治りにくいことがあるため、慎重に判断します。特に血管に影響するタイプでは、経験のある専門施設で行うことが大切です。手術を考えるときは、担当医と十分に話し合ってください。
この病気と共に生きる
生活のなかでは「ペース配分」がとても大事です。朝はゆっくり動き出す、長時間立つ日は途中で座る、重いものは持たないなど、小さな工夫を重ねることで、痛みや疲れが軽くなることがあります。学校や職場には、必要に応じて症状を伝えて、環境を調整してもらうことも検討してみてください。一人で全部工夫しようとしなくて大丈夫です。
生活習慣のアドバイス
- 筋力を保つ運動を生活に取り入れる
- 長時間の立ち仕事や同じ姿勢を避ける
- 体に合った靴、クッション、マットレスを選ぶ
- 喫煙は血管に負担をかけるため、血管に影響するタイプでは特に注意する
- 体重管理をして、関節への負担を減らす
- ストレスとの付き合い方を工夫する
- 定期的に医療機関でフォローを受ける
食事と運動
食事に特別な制限はありませんが、バランスよく食べ、たんぱく質・カルシウム・ビタミン・水分をしっかりとることが、筋肉や骨、皮膚を支えることにつながります。便秘があるときは、食物繊維と水分を意識しましょう。運動は、関節にやさしいものを選びます。水中での運動、自転車、ピラティス、ゆっくりした筋力トレーニングなどが向いているとされています。ラグビーや格闘技など、強い衝撃や関節を大きくひねるスポーツは注意が必要です。始める前に、理学療法士や担当医に相談しましょう。
精神的健康と心の健康
慢性的な痛みや疲れは、気持ちにも大きく影響します。「どこも悪くないと言われた」「理解してもらえない」という経験から、不安や落ち込みが続くこともあります。これは弱さではなく、痛みや疲労が続くときの自然な反応です。つらいときは、ひとりで抱えずに、信頼できる人や医療機関に話してみてください。こころの不調が続くときは、お住まいの地域のこころの相談窓口や医療機関に相談しましょう。気持ちが追い詰められて自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに119番(救急)や、お住まいの地域の緊急の相談窓口を利用してください。あなたは一人ではありません。
予防
EDSは生まれつきの遺伝子の特徴によるものなので、防ぐことはできません。ただし、関節を傷めない工夫をしたり、筋肉を保ったり、血圧や生活習慣に気をつけたりすることで、二次的な問題(けがや痛みの悪化など)を減らすことはできます。子どもを考えている方や、家族にEDSの方がいる方は、遺伝カウンセリングを受けて相談することができます。
検診プログラム
一般の方への一律のスクリーニング検査はありません。家族にEDSの方がいる場合や、関節のやわらかさ・脱臼・皮膚の特徴が気になる場合は、かかりつけ医に相談し、必要に応じて専門医や遺伝カウンセリングにつないでもらいましょう。日本では指定難病の認定制度があり、診断を受けた方は申請できます。
合併症
治療しない場合
- 関節の脱臼やぐらつきをくり返し、関節が傷む
- 慢性的な痛みや疲労が強くなり、日常生活が制限される
- 姿勢や歩き方の崩れ、扁平足(足の裏が平らな状態)
- 胃腸の不調(便秘、胃もたれなど)が続く
- 立ちくらみや動悸
- 傷が治りにくい、傷あとが広がる
- 血管に影響するタイプでは、血管や腸が破れることがある(まれですが重大です)
- 妊娠・出産に際しては、事前の準備と専門チームのサポートが大切
長期的な見通し
EDSは人によって症状の出方が大きく違います。多くの方は、生活の工夫と適切なサポートを受けながら、仕事や学業、家族との暮らしを続けています。早めに相談して自分に合った対処法を見つけることで、痛みや不安がやわらぐことがあります。心配なことがあれば、遠慮なく医療機関に相談してください。症状は、あなたが一人で「乗り越えるべきもの」ではなく、医療者と一緒に付き合っていくものです。
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最終更新: 2026年10月23日
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