電気けいれん療法(ECT)とは
概要
電気けいれん療法(でんきけいれんりょうほう、ECT)は、重症のうつ病などの治療に使われる医療処置です。短時間の全身麻酔と、筋肉をゆるめる薬を使ったうえで、頭の外側からごく少量の電気刺激をあたえ、脳の中でけいれんに似た反応を20〜60秒ほど起こします。名前から強い印象を受けますが、今は麻酔と筋肉をゆるめる薬を使い、体への負担が少ない形で安全に行われています。薬や心理療法(話し合いによる治療)だけでは十分に良くならないときに検討される治療のひとつです。
重要な事実
- 全身麻酔と筋肉をゆるめる薬を使うため、処置中に痛みを感じることはほとんどありません。
- 1回の処置は10分ほどで、ふつうは週に2〜3回、数回から十数回を目安に行います。
- 主に、重症のうつ病や、薬による治療で十分な効果が得られないときに検討されます。
- 処置のあとに、一時的に物忘れや混乱が出ることがありますが、多くは時間とともに落ち着くといわれています。
日本でも行われている標準的な治療のひとつで、決してめずらしいものではありません。ただし、だれにでも最初に勧められる治療ではなく、症状や体の状態、これまでの治療の経過をふまえて検討されます。
主に、重症のうつ病、幻覚や妄想をともなううつ病、双極性障害の重いエピソード、統合失調症の一部の方などに使われます。年齢を問わず行われ、薬の副作用が出やすい高齢者で選ばれることもあります。
症状
- 自分を傷つけたい、死にたい気持ちが強く、抑えられない
- 幻覚や妄想のために、自分やまわりの人を危険にさらすおそれがある
- 処置のあと、息が苦しい、意識がもどらない、けいれんが続く
- 処置のあとに強いアレルギー反応(じんましん、のどの腫れ、息苦しさ)が出た
- ⚠処置のあとの頭痛や吐き気が強く、水分もとれない
- ⚠処置のあと、混乱や物忘れが普段より強く、ひとりでの生活が難しい
- ⚠気分の落ち込みや不安が急に悪くなった
一般的な症状
- 気分の落ち込みが何週間も続き、日常生活がほとんど送れない
- 食欲や睡眠が大きく乱れ、体重が減ったり体力が落ちたりする
- 物事に興味が持てず、これまで好きだったことも楽しめない
- 強い不安や焦りが続き、落ち着かない
- 自分を責める気持ちが強く、「生きていたくない」と考えてしまうことがある
- 幻覚や妄想があり、現実との区別がつきにくい
- 薬による治療を十分に試しても、なかなか改善しない
- 食事や水分がとれず、体力の低下が心配される
原因
主な原因
- 重症のうつ病
- 幻覚や妄想をともなううつ病
- 双極性障害の重いエピソード
- 統合失調症の一部(動けなくなる状態などを含む)
- 薬による治療で十分な効果が得られない、または副作用で薬が使いにくい場合
- 切迫した状態で、できるだけ早く効果が必要な場合
リスク要因
- 心臓や脳の病気がある(不整脈、脳動脈瘤など)
- 麻酔によるリスクが高いと判断される状態
- 緑内障や前立腺の病気など、一部の薬の影響を受けやすい状態
- 認知症などの記憶や認知機能の心配がある
- 高齢で体力が低下している、脱水がある
- 歯やあごの状態がよくない
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 自分を傷つけたい気持ちが強くなったとき(緊急時は119番へ)
- 食事や水分がとれない日が続く
- 処置のあとの頭痛や混乱が強い
定期受診を予約すべき場合:
- 気分の落ち込みが2週間以上続き、生活に支障が出ている
- 薬の効果を感じにくい、副作用がつらい
- ECTについて説明を受け、不安や疑問がある
- 物忘れが気になるとき
診断
ECTは検査の数値だけで決まるものではなく、これまでの症状の経過、受けてきた治療とその効果、体の状態を総合して、担当の精神科医が検討します。そのうえで、麻酔科の医師による診察や各種の検査を行い、安全に行えるかを確認します。最後は、本人(と必要に応じてご家族)への説明と同意のもとで進められます。
行われる可能性のある検査
- これまでの症状や治療歴、服薬歴の確認(問診)
- 血液検査(電解質や肝臓・腎臓の働き、貧血など)
- 胸部レントゲン
- 必要に応じて頭部のCT・MRI検査
- 麻酔科の医師による診察と評価
- 必要に応じて認知機能の検査
- 歯や口の中の状態の確認
診察で予想されること
説明の場では、なぜECTが勧められるのか、ほかの選択肢はあるか、どのくらいの回数が必要か、記憶への影響はどのくらいかなどを聞くことができます。遠慮せずに質問し、納得してから始めることが大切です。別の医師の意見(セカンドオピニオン)を求めることもできます。
治療
ECTは、うつ病などの治療法のひとつです。多くの場合、まず薬による治療や心理療法(話し合いによる治療)が試され、それでも十分に改善しないとき、あるいは早く効果が必要なときに検討されます。治療は精神科医と麻酔科医、看護師などのチームで行われます。
自宅でのセルフケア
- 睡眠と起床の時間をできるだけそろえる
- 食事や水分をこまめにとる
- 処置の前は、指示されたとおりの絶食・絶飲を守る(胃の中のものが気管に入るのを防ぐため)
- その日の体調や気分、物忘れの変化を簡単にメモしておき、診察で伝える
- ひとりで抱えこまず、家族や友人、医療者に話す
- 薬を自己判断でやめたり量を変えたりせず、医師や薬剤師に相談する
医療治療
ECTは、短時間の全身麻酔と筋肉をゆるめる薬を使い、頭の外から少量の電気刺激をあたえて、脳に短時間の反応を起こします。処置中は血圧や心電図、脳波などをモニターで見守ります。ふつうは週に2〜3回、数回から十数回を目安に行い、症状に合わせて回数を調整します。効果が得られたあとは、再び悪くならないように、薬による治療や、間隔をあけたECT(維持ECT)を組み合わせることがあります。記憶への影響が気になる場合は、必ず担当医に伝えてください。
手術が検討される場合
ECTは手術ではありません。体を切ったり、傷が残ったりする治療ではありません。
この病気と共に生きる
治療期間中は、予定の調整や付き添いが必要になることがあります。処置の当日は麻酔の影響が残るため、車の運転や機械の操作は避け、ひとりで過ごさないようにしましょう(具体的な指示は医療機関の案内に従ってください)。物忘れが気になるときは、メモやスマートフォンのリマインダーを活用すると安心です。
生活習慣のアドバイス
- 無理のない範囲で、日中の軽い活動や散歩を続ける
- アルコールは控えめにし、睡眠を妨げないようにする
- 仕事や学校とは、早めに相談して調整しておく
- 治療の記録(回数、体調、気分)をつけておく
食事と運動
特別な食事制限が必要な治療ではありませんが、処置の前には指示に沿った絶食・絶飲が必要です。ふだんは、バランスのよい食事と水分を心がけましょう。運動は気分転換と体力づくりに役立ちます。無理のない散歩などから始め、体調がすぐれない日は休んでください。
精神的健康と心の健康
ECTそのものへの不安や、「電気」という言葉へのこわさを感じる方は少なくありません。疑問は遠慮なく医師に聞いてください。治療のあとに気分が大きく揺れることもあります。ひとりで抱えこまず、つらいときは地域の相談窓口や医療機関に連絡を。自分を傷つけたい気持ちが強くなったときは、ためらわず119番に電話するか、近くの人に助けを求めてください。
予防
ECTは治療法であり、それ自体を「防ぐ」というものではありません。ただし、うつ病などの再発を防ぐことは大切です。良くなったあとも通院を続け、治療や生活リズムの調整を続けることが、再び悪くならないための助けになります。調子が戻ってきたと感じても、自己判断で治療をやめないようにしましょう。
検診プログラム
再発予防のため、定期的な通院と体調の確認が勧められます。気分の落ち込みが続く場合は早めに相談してください。
合併症
治療しない場合
- 気分の落ち込みが長引き、生活や仕事、学校生活が大きく制限される
- 食事や水分がとれず、体力や体重が落ちる
- 自分を傷つけたい気持ちが強くなり、命にかかわる危険が高まる
- 人とのつながりが薄れ、孤立が深まる
長期的な見通し
ECTは、重症のうつ病などに対して改善が期待できる治療として位置づけられています。効果のあらわれ方や必要な回数は人によって異なり、すべての方に同じように効くわけではありませんが、多くの方が症状の改善を経験しています。不安なことは担当医に相談しながら、自分に合ったペースで進めていきましょう。
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最終更新: 2026年10月23日
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