塞栓性脳卒中(そくせんせいのうそっちゅう)— 脳の血管が血の塊でつまる病気
概要
塞栓性脳卒中は、脳梗塞(のうこうそく)の一種です。脳梗塞は、脳に血液を送る血管がつまって、その先の脳の細胞に酸素と栄養が届かなくなる病気です。塞栓性(そくせんせい)というのは、つまる原因の血の塊(血栓=けっせん)が、脳の中でできたのではなく、心臓や首の太い血管など別の場所でできて、血流に乗って脳まで運ばれてきて血管をふさぐタイプを指します。脳の細胞は酸素が届かないと短時間で傷みはじめるため、できるだけ早く治療を始めることがとても大切です。
重要な事実
- 脳の血管が血の塊で突然つまる病気で、発症からの時間が治療の選択肢を左右します。症状は「突然」「片側に」現れるのが特徴です。
- 血の塊は脳の中でできるとは限らず、心臓(特に心房細動=しんぼうさいどう、心臓の脈が不規則になる不整脈)や首の血管でできることが多いとされています。
- 治療は「つまった血流を戻すこと」と「次の血栓を作らないこと」、そして「リハビリで失われた機能を回復すること」が柱になります。
脳卒中は日本人の死亡原因や介護が必要になる原因の上位に入る、めずらしくない病気です。その中でも脳梗塞は多く、塞栓性脳卒中はその重要な一部を占めます。決して特別な人だけの病気ではありません。
主に高齢者に多い病気ですが、心臓の病気(心房細動や弁膜症など)や血管の病気、血液が固まりやすい状態がある人では、若い世代でも起こることがあります。年齢だけで決まるものではない点も知っておいてください。
症状
- 顔の片側が急にたるむ、口元が曲がる
- 片方の手足が急に動かない、しびれる、力が入らない
- 急に言葉が出ない、ろれつが回らない、言っていることが分からない
- 急に見えにくい、片方の視野が欠ける
- 突然歩けない、立っていられない、ふらつきが強い
- 突然の激しい頭痛、意識がもうろうとする、けいれんする
- これらの症状がひとつでもあれば、すぐに119番へ連絡してください。自分で運転して行こうとせず、救急車を呼んでください。
- ⚠数分から数時間で症状が完全に消えた(一時的に血流が悪くなった可能性があり、近いうちに本当の発作が起こることがあります)
- ⚠動悸がする、脈が乱れていると感じる、脈が速い・遅いと言われたことがある
- ⚠血圧が高い状態が続いていると言われた
- ⚠急ではないが、話しにくさや手足の動かしにくさが続いている
- ⚠これらの場合は、その日のうちに医療機関に相談してください。
一般的な症状
- 顔の片側が急にたるむ、口元が曲がる(口角が下がる)
- 片方の手や足に急に力が入らない、しびれる、動かしにくい
- 急に言葉が出にくい、ろれつが回らない、相手の言葉が理解できない
- 片方の目が見えない、視野の一部が欠ける、ものが二重に見える
- 急にふらつく、まっすぐ歩けない、立っていられない、めまいがする
- 突然の激しい頭痛
- 急な飲み込みにくさ、よだれが出る、食べ物がむせやすい
子供の症状
- 子どもでは非常にまれですが、心臓の病気や血液の病気、脱水などがあると起こりうることがあります。
- 小さな子どもは症状を言葉で伝えられません。急に手足を動かさない、体の片側だけ使わない、ぐったりする、けいれんする、といった様子があれば、すぐに救急へ連絡してください。
- 「いつもと違う」「急に始まった」と感じたら、ためらわずに119番へ。
高齢者の症状
- 高齢者では症状が目立たないことがあります。急な混乱、話のつじつまが合わない、急に歩けなくなった・転んだ、尿が出てしまう、などもサインになることがあります。
- もともと認知症がある場合は、その日の変化(急に反応が悪くなった、呼びかけに答えないなど)に気づきにくいことがあります。急な変化は医療者に伝えてください。
- 持病の薬や脱水、感染症が重なって体調が急に悪くなることもあります。判断に迷うときは救急相談の窓口や119番を利用してください。
原因
主な原因
- 心臓でできた血の塊が血流に乗って脳の血管をふさぐ(心房細動などの不整脈や心臓の弁の病気が関係することが多い)
- 首や脳に近い太い血管(頸動脈など)の内側にできた傷や動脈硬化(血管の壁が厚く硬くなること)から血の塊がはがれて流れていく
- 心臓の筋肉や弁の動きが悪くなり、血液がよどんで固まりやすくなる
- まれですが、血液が固まりやすい体質、脱水、脂肪や空気などが血管に入る場合
リスク要因
- 心房細動(しんぼうさいどう)などの不整脈
- 高血圧(血圧が高い状態が続くこと)
- 糖尿病、脂質異常症(コレステロールなどが多い状態)
- 心臓の病気(弁膜症、心筋症、心不全など)
- 過去に脳卒中や一過性脳虚血発作(症状が短時間で消える発作)を経験したこと
- 年齢(高齢になるほどリスクは上がります)
- 飲酒量が多い、運動不足、肥満、睡眠時無呼吸(いびきと息の止まりを繰り返す状態)
- 脱水や長時間動かない状態(長時間のフライトなど)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 急に始まった片側の麻痺、しびれ、言葉の出にくさ、見えにくさがある(119番)
- 症状が短時間で消えた場合でも、その日のうちに医療機関へ
- 動悸や脈の乱れを感じる、脈が不規則だと言われたことがある
- 急に飲み込みにくくなった、むせることが増えた
- 頭をぶつけた後に症状が出た
定期受診を予約すべき場合:
- 血圧が高いと言われたことがあり、まだ治療を受けていない
- 健診(特定健康診査など)で心房細動やコレステロールの異常を指摘された
- 家族に脳卒中や心臓病の人が多い
- 脳卒中の経験があり、再発予防の相談をしたい
- 日常生活でできる予防法を知りたい
診断
救急で受診すると、まず問診と体の診察(手足の動き、顔の動き、言葉、目の動きなどを確認します)が行われます。次に頭の画像検査を行い、脳梗塞か、それとも脳の中で出血しているのかを区別します。脳梗塞と分かった後は、血栓がどこから来たのか、心臓や首の血管に原因がないかを調べる検査を、入院中に進めていくことが多いです。
行われる可能性のある検査
- 問診と神経の診察(発症した時刻、症状の出方、持病や薬の確認を含みます)
- 頭部CT検査(頭の中の出血や大きな変化を見る)
- 頭部MRI検査(特に拡散強調画像といわれる方法で、早期の脳梗塞を見つけやすい)
- 心電図、必要に応じて24時間心電図(心房細動など不整脈を探す)
- 心エコー検査(心臓の中に血栓がないか、弁の動きはどうかを調べる)
- 頸動脈エコー検査(首の血管の動脈硬化や血栓の有無を調べる)
- 血液検査(血糖、コレステロール、血液の固まりやすさなど)
- 胸部X線検査など、全身の状態を確認する検査
診察で予想されること
発症した時刻がとても重要になります。ご本人や家族が「最後に元気だったのは何時ごろか」を思い出せるようにしておくと、治療の判断に役立ちます。検査の間は安静が必要です。結果の説明は、画像や検査の結果がそろってから行われることが多く、すぐにすべてが分かるとは限らない点をご理解ください。
治療
塞栓性脳卒中の治療は、大きく3つに分けられます。1つ目は、つまった血管の血流をできるだけ早く戻すこと。2つ目は、次の血栓ができないようにすること。3つ目は、リハビリで体と心の機能を取り戻していくことです。治療の方針は、発症からの時間、詰まった血管の場所と大きさ、年齢や持病、本人と家族の希望などをふまえて、医療チームが相談して決めます。
自宅でのセルフケア
- 医師に指示された薬は、自己判断でやめたり量を変えたりせず、決められたとおりに続ける
- 血圧を自宅で測り、記録しておく(測定のしかたはかかりつけ医や薬剤師に確認できます)
- 禁煙する。禁煙外来など、地域の支援を利用するのもよい方法です
- 飲酒は量と頻度を控えめにする
- 脱水を避けるため、こまめに水分をとる
- リハビリは「痛みが出ない範囲で、毎日少しずつ」を心がける
- 飲み込みにくさがあるときは、むせやすい食べ物や食べ方を管理栄養士や言語聴覚士に相談する
- 体調の変化(急な麻痺、話しにくさ、強い頭痛)があれば、すぐに119番へ
医療治療
発症から間もない場合、血栓を溶かす薬を点滴で使う治療や、細い管(カテーテル)を血管に通して血栓を直接取り除く治療が検討されます。これらは「時間との勝負」になるため、できるだけ早く病院に着くことが重要です。また、再発を防ぐために、血栓ができにくくする薬(抗血栓薬と呼ばれるグループの薬)を長く続けることが多いです。薬の種類や使い方は、脳の状態、心臓の病気の有無、出血のリスクなどを考えて医師が個別に決めます。薬の飲み忘れや自己判断の中止は再発の危険につながるため、気になることは医師や薬剤師に相談してください。
手術が検討される場合
状況によっては、カテーテルで血栓を取り除く処置が行われることがあります。脳の腫れ(むくみ)が強い場合に、頭の圧を下げる手術が検討されることもあります。また、原因が心臓の弁の病気や首の血管の狭さにある場合は、その病気に対する手術や処置が後日検討されます。手術が適切かどうかは、年齢や全身の状態を含めて医療チームが判断します。
この病気と共に生きる
脳卒中の後は、リハビリと通院、そして薬を続けることが日常生活の中心になります。回復のスピードは人によって大きく異なり、数か月かけてゆっくり良くなることもあります。「昨日より少しできた」を積み重ねる感覚で進めてください。疲れやすい時期が続くこともありますが、それは珍しいことではありません。無理をしすぎず、休むことも治療の一部です。
生活習慣のアドバイス
- 減塩を心がける(日本の目安として1日6グラム未満が推奨されています)
- 野菜、果物、魚、大豆製品をとり、加工食品や塩分の多い汁物は控えめに
- 無理のない範囲で、歩くなどの運動を日常に取り入れる(主治医に確認してから始める)
- 睡眠を十分にとり、いびきや息の止まりを指摘されたら相談する
- ストレスをためこまず、人と話す時間をつくる
- 転倒を防ぐため、家の中の段差や物の置き方を整理する
- 自動車の運転再開は、主治医の許可を得てから
食事と運動
食事は、塩分を控えめにして、野菜・果物・魚・大豆製品を中心にバランスよくとることが基本です。揚げ物や加工肉、インスタント食品、塩分の多い汁物は回数を控えめにしましょう。運動は、痛みや息苦しさが出ない程度の散歩から始めるのがおすすめです。麻痺やふらつきがある場合は、転倒を防ぐために家族やリハビリスタッフと相談しながら行ってください。食事と運動の具体的な内容は、管理栄養士や理学療法士に相談すると安心です。
精神的健康と心の健康
脳卒中の後は、気分の落ち込み、不安、怒りっぽさ、涙もろさ、感情のコントロールが難しいと感じることがよくあります。これは脳の変化によるもので、あなたの性格や努力が足りないせいではありません。眠れない、食欲がない、何も楽しめない、という状態が2週間以上続くときは、医療者に伝えてください。話すだけで楽になることもあります。気持ちが追い詰められて自分を傷つけたいと考えたときは、一人で抱えず、地域の相談窓口や医療機関に連絡してください。命に関わる危険を感じたら、ためらわずに119番へ連絡してください。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、リスクを下げることは十分に可能です。特に大切なのは、高血圧を放置しないこと、心房細動などの不整脈を見つけて相談すること、禁煙、そして健診を毎年受けることです。厚生労働省も生活習慣病の予防と健診受診を勧めています。すでに脳卒中を経験した人は、再発予防のための服薬と通院を続けることが最も大切な予防になります。
検診プログラム
特定健康診査(メタボ健診)などの健診で、血圧・血糖・コレステロール・心電図を確認できます。心房細動は、自分で脈を触ってみる(脈が不規則でないか)ことでも気づくきっかけになります。健診で異常を指摘されたら、そのままにせず医療機関で相談してください。
合併症
治療しない場合
- 脳の細胞の障害が広がり、治療の選択肢が減る
- 手足の麻痺、言葉の障害、飲み込みにくさなどが残りやすくなる
- 飲み込みの障害から、食べ物が気管に入って肺炎を起こすことがある
- 転倒や骨折、床ずれなど、動きが減ることによる二次的な問題
- 気分の落ち込みや不安が続き、社会生活に影響することがある
- 再発のリスクが高まる
長期的な見通し
塞栓性脳卒中は確かに深刻な病気ですが、早く治療を受け、リハビリを続けることで、多くのかたが日常生活を取り戻しています。回復の程度やスピードは人それぞれで、時間がかかることもあります。医療者と家族、そして地域の支援を上手に使いながら、できることを一つずつ増やしていくことが、回復への近道です。希望を持ちながら、焦らずに進んでください。
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最終更新: 2026年10月23日
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