塞栓症(そくせんしょう)を知る — 血の固まりが血管を詰まらせる病気
概要
塞栓症(そくせんしょう)は、血液の固まり(血栓)や、脂肪・空気のかたまりなどが血液の流れに乗って体の別の場所へ運ばれ、細い血管に詰まってしまう状態です。英語ではエンボリズム(embolism)といいます。詰まったところから先には血液が届かなくなるため、その部分の組織は酸素不足になります。脳の血管が詰まれば脳梗塞、肺の血管が詰まれば肺塞栓症、足の血管が詰まれば急性下肢動脈閉塞症というように、詰まる場所によって名前も症状も変わります。同じ場所に血の固まりができる「血栓症(けっせんしょう)」とは区別されますが、血栓が流れ出すことで塞栓症が起こるため、この二つは深く関係しています。
重要な事実
- 塞栓症は「血の固まりなどが流れてきて血管をふさぐ」病気で、詰まる場所によって症状がまったく違います。
- 脳、肺、足の血管が詰まることが多く、それぞれ緊急の対応が必要になることがあります。
- 原因を調べて再発を防ぐ治療を続けることで、多くの人はふだんどおりの生活に戻れます。
頻度は詰まる場所によって大きく異なります。脳の血管が詰まる脳梗塞は日本人に多い病気で、特に心臓の不整脈(心房細動)が原因のタイプは年齢とともに増えています。肺塞栓症も、高齢化や生活習慣の変化に伴って報告が増えているといわれています。一方、健康な若い人に突然起こることは比較的まれです。
心房細動などの心臓の病気がある人、長時間同じ姿勢で動かない人(長距離の移動、入院中、手術の後)、がんで治療中の人、妊娠中や出産後まもない人、肥満や喫煙のある人、高齢者に多くみられます。ただし、こうした特徴がない人でも起こることはあり、「自分には関係ない」と決めつけないことが大切です。
症状
- 突然、顔の片側がゆがむ・片方の腕に力が入らない・言葉が出ない、ろれつが回らない(脳の血管が詰まったサイン)。発症した時刻を家族に伝えられるようにメモしてください。
- 突然の強い息切れや胸の痛み、意識が遠のく、唇や顔色が青白い。
- 片方の足が急に冷たくなり、激しく痛む、色が白や青紫色になる。
- 突然の激しい腹痛があり、顔面が蒼白でぐったりしている。
- 呼吸が苦しそう、意識がない、けいれんしている。
- これらの症状があるときは、ためらわずに119番へ連絡してください。
- ⚠片方の脚(ふくらはぎから太もも)が急に腫れて痛む。
- ⚠いつもより息が上がりやすい、階段で息苦しい、横になると苦しい。
- ⚠動悸が続く、脈が飛ぶ・不規則だと感じる。
- ⚠手術の後や長い移動の後に、脚の腫れや痛みが出てきた。
- ⚠これらの症状は、その日のうちに医療機関へ相談してください。
一般的な症状
- 詰まった場所によって症状が変わることが最大の特徴です。
- 脳の血管が詰まったとき:片側の手足が動かしにくい、言葉が出にくい・ろれつが回らない、視界の一部が見えにくい、急なめまいやふらつき。
- 肺の血管が詰まったとき:突然の息切れ、胸の痛み、せき、血の混じったたん、動悸、冷汗。
- 足の血管が詰まったとき:片方の足に急に強い痛みが出る、足が冷たくなる、皮膚の色が白っぽい・青っぽくなる、しびれる、動かしにくい。
- お腹の血管が詰まったとき:急な強い腹痛。
- 共通して見られやすいもの:息苦しさ、冷や汗、理由のわからない強い不安感。
子供の症状
- 子どもではまれですが、心臓の病気がある、細い管(カテーテル)を長く留置している、脱水が強い(胃腸炎など)、重症の感染症などの場合に起こることがあります。
- 言葉で伝えられないぶん、機嫌が悪く泣き止まない、息が苦しそう、顔色が悪い、手足の色や温度が左右で違うといった変化が手がかりになります。
- 気になる様子があれば、夜間や休日でもためらわず医療機関に相談してください。
高齢者の症状
- 高齢者では症状がはっきり出ないことがあります。急に元気がなくなる、ぼんやりする、会話がかみ合わない、転びやすくなる、食欲が落ちるといった変化もサインになります。
- 痛みを感じにくくなっているため、足の血管が詰まっても「少し痛むだけ」と感じることがあります。
- ご家族や介護をされている方が日ごろとの違いに気づくことが、とても役に立ちます。
原因
主な原因
- 心臓の中でできた血の固まりが流れ出す(心房細動など不整脈があると起こりやすくなります)。
- 脚の深い静脈にできた血の固まりが流れ出す(深部静脈血栓症)。長時間動かないことで起こりやすくなります。
- 血管の内側にできた動脈硬化のプラーク(こぶのような盛り上がり)が破れて、血流をふさぐ。
- まれな原因として、脂肪のかたまり、空気、羊水などが血管に入り込むことがあります。
- 血液が固まりやすい体の状態(生まれつきの体質、がん、脱水、強い炎症など)。
リスク要因
- 心房細動などの不整脈、心臓弁膜症、心筋梗塞の既往。
- 長時間のフライトや車の移動、入院中で寝たきり、ギプス固定など、脚を動かさない時間が長いこと。
- 手術の後(特に股関節・膝・腹部の手術)。
- がんでの治療中、妊娠中・出産後まもない時期。
- 喫煙、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症。
- 水分不足、脱水気味の状態。
- 以前に血栓症・塞栓症を起こしたことがある、家族に同じ経験の人がいる。
- ホルモン剤の使用、高齢であること。
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 片方の脚が急に腫れた、痛む、赤くなる。
- 急な息切れ、胸の痛み、動悸がある。
- 顔や手足のまひ、言葉の出にくさ、視界の異常がある(すぐに119番)。
- 手術後や長旅のあとに、脚の違和感や腫れが出てきた。
定期受診を予約すべき場合:
- 心房細動や不整脈を指摘されたことがある。
- 家族や親戚に血栓症・塞栓症になった人がいる。
- 長時間座り続ける仕事や生活が続いている。
- 脚のむくみやだるさが続いている、夕方に脚が重くなる。
- Smoking(喫煙)や体重、血圧、血糖値が気になっている。
診断
まず問診で、いつから、どんな症状が、どのように始まったかを確認します。次に血圧や脈、呼吸の状態、脚の色や腫れなどを診察し、必要に応じて検査を組み合わせて、詰まった場所と原因を調べます。症状が急で強い場合は、救急の場で優先的に検査が進みます。
行われる可能性のある検査
- 血液検査:血の固まりができたときに増える物質(D-ダイマーなど)を調べます。
- 心電図:不整脈や心臓の状態を確認します。
- 超音波検査:心臓の中や脚の静脈、血管の血流を画像で見ます。
- CT検査(造影CTを含む):肺や血管の詰まりを調べます。
- MRI検査:脳の血管が詰まった場所や範囲を調べます。
- 場合によっては血管造影検査で、血流の状態をより詳しく確認します。
診察で予想されること
検査は痛みの少ないものがほとんどですが、造影剤を使う検査では、事前にアレルギーの有無や腎臓の機能を確認します。結果によっては入院して治療を始めることがあります。検査の意味や流れは、その場で医療者に遠慮なく尋ねてください。
治療
治療の目的は二つあります。一つは、詰まった血管の血流をできるだけ早く戻すこと。もう一つは、新しい血の固まりができないようにして再発を防ぐことです。詰まった場所や症状の重さ、原因によって対応が変わります。
自宅でのセルフケア
- 処方された薬は、自己判断でやめたり量を変えたりしないでください。特に血を固まりにくくする薬は、勝手に中止すると再発の危険が高まります。
- 歯ぐきからの出血、鼻血が止まりにくい、あざができやすい、黒い便や血の混じった尿など、出血のサインに気づいたら医療者に伝えてください。
- 水分をこまめにとり、長時間同じ姿勢を続けないようにしましょう。1時間に一度は立ち上がる、足首を動かすだけでも効果があります。
- 長距離の移動のときは、ゆったりした服を着て、ときどき歩いたり足を動かしたりしましょう。弾性ストッキングの使用は、事前に医師や看護師に相談してください。
- たばこは血管にも血液の固まりやすさにもよくない影響があります。禁煙を考えてみましょう。
- 手術のあとは、医師の指示に従ってできるだけ早く体を動かすことが、血栓を防ぐ助けになります。
- 次回の受診日と検査は必ず守り、体調の変化をメモして持参しましょう。
医療治療
中心になるのは、血液を固まりにくくする薬(抗凝固薬)を使って、新しい血栓ができないようにしながら、体が自然に血栓を溶かすのを待つ方法です。緊急度が高いときは、血栓を溶かす治療や、細い管(カテーテル)を使って血栓を取り除く処置が行われます。足の血管が詰まった場合や脳の血管が詰まった場合は、血流を戻すまでの時間がとても大切になります。このほか、酸素を補給したり、痛みや息苦しさをやわらげたりしながら、原因となっている病気(不整脈や心臓の病気など)の治療も並行して進めます。治療の方針や期間は、詰まった場所や原因によって一人ひとり違います。
手術が検討される場合
状態によっては、血栓を直接取り除く手術や、脚の静脈から血の固まりが肺へ流れないようにする器具を入れる処置、カテーテルを使った治療が検討されます。手術が必要かどうかは、詰まった場所、症状の重さ、他の病気の有無をふまえて医師が判断します。
この病気と共に生きる
治療が始まって落ち着いても、しばらくは通院と服薬が続きます。出血しやすい状態になるため、けがを避ける、歯科治療や手術の前に必ず医療者へ伝える、危険なスポーツを控えるといった工夫が役立ちます。体調の変化を記録しておくと、受診のときに話しやすくなります。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を目指す。難しいときは減らすことからでも構いません。
- 適度な水分を保つ。脱水を避ける。
- 長時間座りっぱなし・立ちっぱなしを避け、こまめに動く。
- 適正体重を保つ。
- 血圧・血糖・脂質を健診で確認し、気になる値は放置しない。
- 飲酒はほどほどに。
- 旅行や出張の前に、主治医に相談しておく。
食事と運動
食事は、塩分を控えめにして、野菜・魚・大豆製品などをバランスよくとる和食スタイルが基本です。極端な食事制限は必要ありません。運動は、医師の指示の範囲で、ウォーキングなど無理のないものを続けましょう。治療の内容によっては激しい運動を控えることがあるため、始める前に必ず相談してください。
精神的健康と心の健康
「また起きたらどうしよう」という不安や、体の小さな変化への敏感さ、眠りにくさが続くことがあります。これは特別なことではなく、多くの人が経験します。一人で抱え込まず、家族や友人、医療者に気持ちを話してみてください。つらい気持ちが長く続くときは、かかりつけ医や地域の相談窓口に相談しましょう。気持ちが追い詰められて自分を傷つけたいと考えたときは、ためらわずに119番や地域の緊急窓口を頼ってください。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、リスクを下げることは十分できます。心房細動などの不整脈を早く見つけること、長時間動かない場面で工夫をすること、手術の前後で予防のケアを受けること、禁煙や生活習慣の見直しが柱になります。
ワクチン
塞栓症そのものを防ぐワクチンはありません。ただし、感染症で体調を崩すと脱水や安静が長引き、血栓のリスクが上がることがあります。季節の感染症の予防接種については、かかりつけ医に相談してみてください。
検診プログラム
日本では特定健康診査(メタボ健診)で心電図や血圧・血糖・脂質を確認できます。心房細動は自覚がないことも多いため、自分で脈を触ってみる「自己検脈」や、家庭用の血圧計で脈の乱れをチェックするのも役立ちます。健診で指摘された異常は、そのままにせず受診してください。
合併症
治療しない場合
- 脳の血管が詰まった場合、広い範囲の脳が傷つき、手足のまひや言葉の障害などが残ることがあります。
- 肺の血管が詰まった場合、重いときは命に関わることがあります。
- 時間がたつと、慢性の息切れが続く状態(肺の血圧が高い状態)に移行することがあります。
- 足の血管が詰まったまま血流が戻らないと、組織が壊れてしまう危険があります。
- 原因が残ったままだと再発することがあります。
長期的な見通し
塞栓症は、早く見つけて早く治療を始められるほど回復の見込みが高くなります。脳梗塞のあとでも、リハビリによってできることが少しずつ増えていく人はたくさんいます。肺塞栓症も、適切な治療で多くの人が社会生活に戻っています。再発を防ぐ治療を続けることが、安心して暮らすための近道です。心配なことは、ひとりで抱えずに主治医に聞いてください。
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最終更新: 2026年10月23日
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