脳症(のうしょう)— 脳のはたらきが一時的に乱れる状態
概要
脳症(のうしょう)は、脳そのものに炎症や傷があるのではなく、体の別の場所で起きた問題の影響で、脳のはたらきがうまくいかなくなる状態をまとめて指す言葉です。たとえば、肝臓や腎臓の病気、血糖値の大きな乱れ、重い感染症、酸素不足、アルコールの飲みすぎ、栄養の偏りなどが原因になります。原因を取り除けば元に戻ることが多いのが特徴です。ただし、原因によっては早めの対応がとても大切になります。
重要な事実
- 脳症は「病気の名前」というより「脳のはたらきが乱れている状態」を表す言葉で、原因はさまざまです。
- 主な症状は、意識がぼんやりする、話がかみ合わない、集中できない、眠気が強い、性格が変わったように見える、手足がぴくつく、けいれんなどです。
- 治療の中心は「原因になっている病気を治すこと」です。原因が早く見つかれば、多くは改善が期待できます。
原因となる病気の種類が多いため、めったにない病気とは言い切れません。特に高齢の方や、肝臓・腎臓の病気を持つ方、重い感染症にかかった方では起こりやすくなります。一方で、健康な方が突然なることは多くありません。
子どもでは、感染症(ウイルスや細菌によるもの)に伴って起こることがあります。大人では、肝臓や腎臓の病気、糖尿病、アルコールの多飲、栄養不足、重い感染症のある方が対象になりやすいです。高齢の方は、ちょっとした体の負担でも意識が乱れやすい傾向があります。
症状
- 呼びかけても反応がない、意識がない
- けいれんが5分以上続く、または短いけいれんを繰り返す
- 呼吸が苦しそう、息が浅い、顔色が悪い
- 突然の激しい頭痛、または今までにない強い頭痛
- 体の片側が動かない、ろれつが回らない、言葉が出ない
- 意識がぼんやりしていて、どんどん悪くなっている
- ⚠今までになかった混乱や物忘れが急に始まった
- ⚠強い眠気が続き、自分で起きていられない
- ⚠発熱のあとに様子がおかしい、反応が鈍い
- ⚠けいれんを一度でも起こした
- ⚠手のふるえやぴくつきが新しく出てきた
- ⚠水分がとれない、尿が出ない、嘔吐が続く
一般的な症状
- 意識がぼんやりする、反応がゆっくりになる
- 話がかみ合わない、同じことを繰り返す、質問に答えられない
- 集中できない、物忘れが急に増えたように見える
- 昼間なのに強い眠気がある、起こしてもすぐ眠る
- 性格や様子がいつもと違う(怒りっぽい、無関心、落ち着かない)
- 手やまぶたがぴくぴくする、字が書きにくい、歩くのがふらつく
- けいれん、体の一部が硬くなる
子供の症状
- 熱が出たあとに、ぐったりして呼びかけへの反応が弱い
- けいれんが起きる、けいれんが長引く、または繰り返す
- 意味のある言葉が出ていたのに出なくなる、視線が合いにくい
- 何度も嘔吐する、元気がなくなる、機嫌がひどく悪い
- けいれんは熱性けいれん(熱に伴うよくあるけいれん)のことも多いですが、意識の戻りが遅いときは急いで受診してください。
高齢者の症状
- 急に混乱する、昨日のことを覚えていない(せん妄=急に起きる意識の乱れ)
- ぼんやりして食事をとらない、水分をとらない
- 昼と夜が逆になる、夜中に起きて動き回る
- 尿や便の失敗が急に増える
- 急に歩けなくなる、転びやすくなる
- 以前からの物忘れ(認知症)と似て見えることがありますが、急に始まった変化は体の病気が隠れているサインのことがあります。
原因
主な原因
- 感染症:ウイルスや細菌による重い感染が、脳のはたらきに影響することがあります
- 肝臓の病気:肝臓の機能が落ちて、体にたまった物質が脳に影響する(肝性脳症)
- 腎臓の病気:老廃物がうまく排出されず、体のバランスが崩れる(尿毒症性脳症)
- 血糖値の大きな乱れ:低すぎても高すぎても意識に影響します
- 電解質(ナトリウムなど体の塩分のバランス)の乱れ
- 酸素不足:肺や心臓の病気、睡眠時無呼吸など
- アルコールの多飲や、ビタミン不足(特にビタミンB1不足)
- 薬の影響:飲み合わせや体質により、意識に影響することがあります
- 中毒:一酸化炭素など、体に入り込んだ物質によるもの
- 血圧が極端に高い状態が続くことによるもの
- 甲状腺などホルモンのはたらきの乱れ
リスク要因
- 肝臓や腎臓の慢性的な病気がある
- 糖尿病があり、血糖値の変動が大きい
- アルコールを大量に飲む習慣がある
- 食事が十分にとれていない、栄養状態が悪い
- 高齢である
- 重い感染症にかかっている、または免疫の力が弱まっている
- 利尿薬など、体の水分・塩分バランスに影響する薬を使っている
- 睡眠時無呼吸など、夜間に酸素が不足しやすい状態がある
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 急に意識がぼんやりした、会話がかみ合わない
- けいれんがあった
- 発熱や嘔吐のあとに、反応が鈍い・ぐったりしている
- 急に歩けない、手がうまく動かない
- 水分がとれず、尿の量が減っている
定期受診を予約すべき場合:
- 最近、物忘れや集中力の低下が気になる
- 眠気が強く、生活に支障が出ている
- 肝臓や腎臓の病気を指摘されており、だるさや頭のぼんやり感がある
- 飲酒量が多く、朝の調子がよくない日が続く
- 家族から「最近ようすがおかしい」と言われた
診断
まず問診と診察で、症状がいつから始まったか、どんな病気を持っているか、飲んでいる薬や飲酒の習慣などを確認します。そのうえで、原因を探すための検査を行います。脳症は「状態」を表す言葉なので、原因を見つけることが診断の中心になります。
行われる可能性のある検査
- 血液検査:肝臓・腎臓のはたらき、血糖値、電解質(塩分バランス)、アンモニアなど
- 頭のCT・MRI検査:脳そのものの病気(出血や炎症など)がないかを確認します
- 脳波検査:脳のはたらきの乱れがないかを調べます
- 必要に応じて髄液(せきずいえき)検査:感染による脳の炎症との区別のため
- 胸部レントゲンや血液中の酸素の量を調べる検査
- 心電図や、必要に応じてホルモンの検査
診察で予想されること
検査は数時間から数日かけて行われ、原因がわかるにつれて治療が始まります。意識がぼんやりしている間は、自分で説明するのが難しいことがあります。できれば家族や一緒に暮らしている方が付き添うと、症状の始まりや普段の様子を伝えられ、診断の助けになります。
治療
脳症の治療でいちばん大切なのは、原因になっている病気や状態を改善することです。原因が取り除かれれば、脳のはたらきは少しずつ戻っていくことが多いです。そのため、原因を探す検査と治療が同時に進められます。
自宅でのセルフケア
- 医師に言われた服薬を、決められたとおりに続ける(自己判断で中止しない)
- 飲酒は控える。特に肝臓の病気がある方は医師に相談する
- 食事は、必要に応じて医師や管理栄養士の指示に従う(たんぱく質や塩分の量など)
- こまめに水分をとり、脱水を避ける
- 睡眠を十分にとり、疲れをためない
- 回復するまでは車の運転や危険を伴う作業を控える
- 体調の変化をメモしておき、受診時に伝えられるようにする
医療治療
治療は原因によって異なります。感染症が原因なら感染に対する治療、肝臓や腎臓の病気が原因ならその治療、血糖値や電解質の乱れが原因なら点滴などでバランスを整える治療が行われます。原因となる薬が関わっている場合は、医師の判断で調整します。意識の状態に応じて、酸素や点滴、栄養の補助、全身の管理が行われ、必要に応じてリハビリテーションも行われます。具体的な薬や量については、必ず担当の医師・薬剤師の説明を受けてください。
手術が検討される場合
脳症そのものに対して手術が必要になることは多くありません。ただし、脳出血や脳腫瘍など別の病気が原因として見つかった場合には、その病気に対して外科的な治療が検討されることがあります。
この病気と共に生きる
回復の途中は、集中力が続かなかったり、疲れやすかったりすることがあります。一度にたくさんのことをせず、休憩をはさみながら少しずつ活動を増やしていくのがおすすめです。会話や予定はメモやカレンダーを使って補い、家族や周りの方にも協力してもらいましょう。
生活習慣のアドバイス
- 決まった時間に寝起きし、生活のリズムを整える
- 飲酒は控えめに、または医師の指示に従ってやめる
- かかりつけ医を決めて、定期的に体の状態を確認する
- 体調が悪い日は無理をせず、早めに相談する
- 家族や周りの方に、自分の調子の変化を伝えておく
- 必要に応じて、リハビリや認知機能のサポートを利用する
食事と運動
食事はバランスよく、規則正しくとることが基本です。肝臓や腎臓の病気がある場合は、たんぱく質や塩分の量について医師や管理栄養士の指示に従ってください。運動は、体調が安定してから無理のない範囲で始めます。散歩など軽い運動から徐々に増やし、ふらつきや強い疲れを感じたら休みましょう。
精神的健康と心の健康
意識がぼんやりする体験や、物忘れが増えたように感じることは、本人にとっても家族にとっても大きな不安になります。「また元に戻るのだろうか」という気持ちは自然なものです。気持ちが落ち込む、眠れない、不安が強いといった状態が続くときは、一人で抱えずに医療機関や地域の相談窓口に相談してください。緊急の場合や、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、ためらわずに救急車(119)を呼ぶか、地域の救急相談窓口、かかりつけ医に連絡してください。
予防
脳症そのものを完全に防ぐことは難しいですが、原因になる病気を管理することでリスクを下げられる場合があります。肝臓・腎臓の病気や糖尿病をきちんと治療し、飲酒を控え、脱水を避け、感染症にかからないようにすることが大切です。
ワクチン
インフルエンザや肺炎球菌など、定期接種や任意接種として受けられるワクチンがあります。重い感染症を防ぐことは、感染に伴う脳症のリスクを下げることにつながります。接種の時期や対象については、かかりつけ医や自治体の案内を確認してください。
検診プログラム
脳症に特化した検査はありませんが、肝機能・腎機能・血糖値などの定期検査を受けることで、原因になりうる病気を早く見つけられます。健康診断の結果を放置せず、気になる値があれば医療機関に相談してください。
合併症
治療しない場合
- 意識の乱れが長引き、日常生活に支障が出る
- けいれんが繰り返す
- 集中力や記憶のはたらきが低下し、回復に時間がかかる
- 原因の病気が悪化する
- 非常に重い場合には、昏睡(こんすい=呼びかけに反応しない状態)に至ることがある
長期的な見通し
脳症は、原因が早く見つかり、適切に対応できれば、多くは改善が期待できます。特に、原因となった状態を速やかに整えられた場合は、元の生活に戻れる方も少なくありません。回復には時間がかかることもありますが、リハビリや周りのサポートを受けながら、少しずつ進んでいくことができます。気になる症状があれば、早めに医療機関に相談してください。
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最終更新: 2026年10月23日
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