消化管皮膚瘻(腸瘻)について
概要
消化管皮膚瘻(しょうかかんひふろう)は、おなかの手術や病気のあとで、腸と皮膚のあいだに本来ない「通り道(トンネル)」ができてしまう状態です。ふつう肠の中のものは肛門から出ますが、この通り道があると、腸の内容物(消化液やガス、ときには便)がおなかの皮膚の小さな穴から外にもれて出てきます。「腸瘻(ちょうろう)」とも呼ばれます。穴のまわりの皮膚がただれたり、水分や栄養が失われたりするため、長期的なケアが必要になることがあります。
重要な事実
- 多くは腹部の手術のあとに起こる合併症で、腸をつなぎ合わせた部分がうまく治らずに漏れることが主な原因です。
- もれ出る消化液で皮膚が荒れやすく、水分・電解質(ナトリウムやカリウムなど)・栄養が失われやすい状態です。
- 多くの場合、まず安静と栄養補給、感染のコントロール、皮膚の保護を行い、それでも閉じないときに手術を検討します。自然に閉じることもあります。
とても多い病気ではありません。腹部の大手術を受けた方の一部に起こる合併症で、手術を受けない方にはほとんど見られません。
腹部の手術を受けた方(特に何度も手術をしている方)、クローン病などの炎症性腸疾患のある方、おなかに放射線治療を受けた方、外傷や腹腔内の感染症を経験した方に起こりやすいとされています。年齢を問わず起こりえますが、栄養状態が悪い方や免疫力が低下している方では治りにくいことがあります。
症状
- 大量の出血が止まらない、または吐血・コーヒー色の嘔吐がある
- 黒くて粘ついた便(タール便)が続く
- 意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応が鈍い
- 顔色が青白く、冷汗が出て、ぐったりしている
- おなかが板のように硬く、動くと激しく痛む
- 呼吸が苦しい、脈がとても速い
- けいれんが起きた、尿がほとんど出ない
- ⚠38℃以上の発熱が続く、または寒気をともなう熱
- ⚠穴のまわりに強い痛み・腫れ・膿が出る、悪臭が強くなった
- ⚠嘔吐が続いて水分がとれない
- ⚠短期間に体重が大きく減った、ぐったりして動けない
- ⚠皮膚のただれが急速に広がっている
- ⚠尿の量が目に見えて減っている
一般的な症状
- おなかや手術の傷あとの皮膚に小さな穴ができ、消化液・ガス・ときには便が出てくる
- 穴のまわりの皮膚が赤くただれる、痛む、においが気になる
- おなかの痛みや張り、吐き気
- 発熱(感染を合併しているとき)
- 水分が失われることによる口の渇き、尿が少なくなる、だるさ
- 食べても体重が減る、栄養が不足しがちになる
- 下痢や便の回数の変化
子供の症状
- おむつやガーゼがいつも湿っている、便のようなにおいがする
- 機嫌が悪い、哺乳(ほにゅう)の量が減る
- 体重が増えない、元気がない
- 子どもは脱水(体の水分が足りなくなること)に進みやすいため、少ない変化でも早めの受診が大切です
- まれな病気のため、小児外科などの専門的な診療が必要になることがあります
高齢者の症状
- 脱水や電解質の乱れが進みやすく、だるさや意識の変化として現れることがある
- 発熱があっても目立たないことがあり、元気がない・食欲がないといった変化に注意
- 栄養状態が悪化しやすく、治るまでに時間がかかることがある
- 糖尿病や心臓病などの持病があると、全身への負担が大きくなりやすい
- 皮膚が弱く、もれ出る液で傷が深くなりやすい
原因
主な原因
- 腹部の手術のあとに、腸をつなぎ合わせた部分(吻合部:ふんごうぶ)が十分に治らずに漏れること(縫合不全)
- クローン病などの炎症性腸疾患による腸の炎症や潰瘍
- おなかへの放射線治療の影響
- 外傷や穿通性(せんつうせい)のけが
- 腹腔内の感染や膿瘍(のうよう:膿がたまった状態)
- 腸の腫瘍や、腸に留置した管・異物による刺激
リスク要因
- 腹部の手術を受けたことがある(特に複数回、または緊急手術)
- 低栄養(栄養状態が悪いこと)や急な体重減少
- 糖尿病などの持病
- ステロイド薬や免疫を抑える治療を受けている
- おなかへの放射線治療の経験
- クローン病などの炎症性腸疾患
- 肥満、腹膜炎(ふくまくえん)などの重い感染症の既往
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 高熱が続く、寒気がする、脈が速い
- おなかの激しい痛みや硬さがある
- 穴のまわりが赤く腫れて膿が出る、痛みが強い
- 嘔吐が続いて水分がとれない
- 尿が極端に少ない、口が渇いて仕方がない
- 体重が短期間で大きく減っている
定期受診を予約すべき場合:
- 皮膚の穴から液やガスが出ていることに気づいた
- 傷あとの皮膚がただれて痛む、においが気になる
- 食事量は変わらないのに体重が減っていく
- だるさが続く、疲れやすい
- 自宅でのケア方法や装具(ストーマ用品など)のことで相談したい
診断
まず診察で、皮膚の穴の位置や大きさ、出てくる液の量と性質、皮膚の状態を確認します。そのうえで、瘻孔(ろうこう)が腸のどの部分とつながっているのか、炎症や感染がどこにあるのかを画像検査で調べます。同時に、血液検査で水分・電解質・栄養状態・炎症の程度を確認します。
行われる可能性のある検査
- 診察と排液(出てくる液)の観察、皮膚の状態の評価
- 血液検査(炎症の値、電解質、腎機能、栄養状態、貧血など)
- 腹部CT検査(瘻孔の位置、膿瘍や炎症の広がりを確認)
- 瘻孔造影(フィステログラフィー:穴から造影剤を入れて通り道を写す検査)
- 内視鏡検査(腸の内側の状態を調べる)
- 腹部超音波検査やMRI検査
- 排液の培養検査(感染の原因となる菌を調べる)
診察で予想されること
検査は入院中に行うことも、通院で行うこともあります。造影剤を使う検査では、事前にアレルギーの有無を確認します。画像検査の多くは痛みがなく、CTでは横になるだけで撮影できます。診断がついたあとは、水分・栄養・感染・皮膚のケアを同時に進める方針を、主治医と一緒に立てていきます。
治療
治療は「①水分と電解質を整える」「②栄養を十分にとる」「③感染をコントロールする」「④皮膚を守る」の4つを土台にします。多くの場合、まず手術を急がずにこの土台を整え、瘻孔が自然に閉じるかどうかを見守ります。閉じない場合や、状態が安定して栄養が改善した段階で、手術による閉鎖を検討します。
自宅でのセルフケア
- 穴のまわりの皮膚を清潔に保ち、やさしく洗ってよく乾かす(こすらない)
- 皮膚保護クリームや保護剤、装具(ストーマ用のパウチなど)を看護師と一緒に選ぶ
- 飲水量や尿の回数・量を記録し、脱水のサインに早く気づく
- 体重を定期的に測り、減少があれば医療者に伝える
- 排液の量・色・におい、皮膚の状態をメモして受診時に見せる
- 食事や栄養補助について、管理栄養士に相談する
- においや見た目が気になるときは、消臭剤や衣類の工夫について看護師に相談する
医療治療
水分と電解質は点滴で補い、必要に応じて中心静脈栄養(血管から栄養を入れる方法)や経腸栄養(管から腸に栄養を入れる方法)を用いて栄養を整えます。感染がある場合は、医師の判断で抗菌薬などが使われます。腸液の分泌を抑える目的で薬が使われることもあります。瘻孔からの排液をコントロールするために、ドレーン(管)や装具を用いた管理、創部の処置の工夫が行われます。いずれも医師・看護師の管理のもとで行われ、自己判断で薬を調整しないでください。
手術が検討される場合
手術は、保存的な治療で瘻孔が閉じない場合や、栄養状態が改善して体の準備が整った段階(一般に数か月待つことが多い)で検討されます。腹膜炎や膿瘍など緊急を要する状態では、より早い対応が必要になることがあります。手術の時期や方法は、瘻孔の位置、腸の状態、全身の体力をふまえて主治医と相談して決めます。
この病気と共に生きる
排液の管理と皮膚のケアが毎日の中心になります。装具やガーゼをこまめに交換し、皮膚を清潔で乾いた状態に保つことが、ただれを防ぐ近道です。水分と栄養を意識してとり、体重や体調の変化を記録しておくと、受診のときに役立ちます。慣れるまでは大変に感じますが、看護師と一緒に自分に合ったケアの方法を見つけていくことができます。
生活習慣のアドバイス
- こまめに水分をとり、尿の色が濃すぎないか確認する
- 入浴やシャワーの方法は、かかりつけの看護師に相談して決める
- においが気になる場面に備えて、着替えや消臭用品を用意しておく
- 無理のない範囲で体を動かし、体力を保つ
- 睡眠を十分にとり、疲れをためない
- 喫煙がある場合は、主治医に相談して禁煙を目指す
食事と運動
食事は自己判断で極端に減らさず、主治医と管理栄養士の指示に沿って、たんぱく質とエネルギーをしっかりとることが大切です。瘻孔の位置によっては、消化しやすい食品や少量頻回の食事がすすめられることがあります。運動は、体調に合わせた散歩などの軽い活動から始め、疲れや痛みが出たら休みましょう。激しい運動や腹圧がかかる動きは、主治医に確認してからにしてください。
精神的健康と心の健康
排液やにおい、装具のことが気になって、人に会うのを避けたくなったり、恥ずかしさや不安、気分の落ち込みを感じたりすることは珍しくありません。治療が長引くことで、先が見えないつらさを抱える方もいます。そうした気持ちは自然なもので、一人で我慢する必要はありません。つらい状態が続くときは、かかりつけ医や看護師、地域の相談窓口に早めに話してください。気持ちが追い詰められて自分を傷つけたいと考えたときは、ためらわず救急(119番)や医療機関に連絡してください。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、手術前後の栄養管理、喫煙を控えること、糖尿病などの持病を良好に保つこと、主治医の指示に沿った回復が、リスクを下げる助けになるといわれています。手術後に傷の異常や発熱に早く気づいて相談することも大切です。
検診プログラム
この病気そのものを早期に見つける決まった検診はありません。腹部の手術後は、傷の状態や体調の変化を主治医と一緒に定期的に確認していくことが実質的な「見守り」になります。
合併症
治療しない場合
- 脱水と電解質の乱れ(体のだるさ、意識の変化、不整脈など)
- 栄養不良による体重減少、体力低下、治癒の遅れ
- 穴のまわりの皮膚のただれ・痛み・感染
- 腹腔内の感染や敗血症(はいけつしょう:全身に感染が広がる状態)
- 腎機能の悪化
- まれに生命に関わる状態になることがある
長期的な見通し
消化管皮膚瘻は治療に時間がかかる病気ですが、水分・栄養・感染・皮膚のケアを丁寧に行うことで、自然に閉じる方も多くいます。手術が必要な場合も、体の準備を整えてから行うことで良好な結果が期待できます。あせらず、主治医や看護師と一緒に一歩ずつ進んでいくことが大切です。
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最終更新: 2026年11月3日
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