硬膜外麻酔・硬膜外鎮痛(お産や手術の痛みをやわらげる方法)
概要
「硬膜外(こうまくがい)」とは、背骨の中を通る脊髄(せきずい=体の神経の太い束)を包んでいる「硬膜」という膜の、さらに外側にあるすき間のことです。このすき間に背中から細い針を入れて、やわらかい細い管(カテーテル)を置き、痛みを伝える神経の近くに効く薬を少しずつ届ける方法を「硬膜外麻酔(ますい)」または「硬膜外鎮痛(ちんつう)」といいます。薬は下半身の広い範囲に効くので、手術中の麻酔や手術後の痛み止め、お産のときの痛みをやわらげる方法(いわゆる「無痛分娩」)などに使われます。処置の間も意識ははっきりしたままで、多くの方は眠ったような状態にはなりません。
重要な事実
- 背中の腰のあたりから細い管を入れて、下半身の痛みを和らげる方法です。
- 意識は保たれたまま、手術やお産の痛みを軽くすることができます。
- 効果の出方やリスクには個人差があり、事前の説明と医師との相談が大切です。
はい。手術の麻酔や手術後の痛み止めとして、またお産の痛みをやわらげる方法として、日本でも広く行われています。ただし無痛分娩(お産での硬膜外鎮痛)は、対応している病院・産院が限られていることや、24時間いつでも対応できるとは限らないことがあります。希望する場合は妊娠中からかかりつけの産婦人科で相談しておくと安心です。
手術を受ける方、お産を控えた方、腰や脚の痛みの治療で硬膜外への注射を受ける方などが対象になります。一方で、血液が固まりにくい体質の方、血液を固まりにくくする薬を使っている方、背中に感染や傷がある方、処置する場所の皮肤(ひふ)に問題がある方などは、実施が難しいことがあります。妊娠中・高齢・脱水ぎみなども配慮が必要です。
症状
- 両脚に強い麻痺があり、まったく動かせない状態が続く
- 尿も便も出ない状態が続き、お腹が張ってつらい
- 背中や脚の激しい痛みに、発熱や寒気をともなう
- 息が苦しい、ろれつが回らない、意識がもうろうとする
- 処置後に強い頭痛とともに、吐き気や意識の変化が出る
- ⚠座ると強くなり、横になると軽くなる頭痛が数日続く
- ⚠穿刺した場所が赤く腫れる、膿のようなものが出る、熱を持つ
- ⚠脚のしびれや力の入りにくさが、通常より長く続く
- ⚠排尿しづらい状態が半日以上続く
- ⚠発熱が続く
一般的な症状
- 血圧が一時的に下がり、ふらつきや気分の悪さを感じることがあります。
- 脚がしびれたり、力が入りにくく感じたりすることがあります(薬が切れれば戻ります)。
- かゆみ(特に背中や顔まわり)が出ることがあります。
- 穿刺(せんし)した背中の部分に、軽い痛みや違和感が残ることがあります。
- 尿が出にくくなることがあります。
- 処置のあと数日、座ると強くなり横になると軽くなる頭痛が出ることがあります。
子供の症状
- 小児では「しびれる」「力が入らない」をうまく言葉で伝えられないことがあります。
- 脚を動かしたがらない、歩きたがらない、不機嫌が続くといった様子に気づくことがあります。
- かゆみや気持ち悪さ、眠気のような様子が見られることがあります。
- 処置後は看護師や医師が感覚や動きをこまめに確認します。気になる様子があればすぐに伝えてください。
高齢者の症状
- 血圧が下がりやすく、ふらつきや立ちくらみが出やすいことがあります。
- 血液を固まりにくくする薬を飲んでいる方が多く、事前の服薬確認が特に大切です。
- 背骨の変形などで管を入れにくいことがあり、時間がかかる場合があります。
- 処置後の混乱やせん妄(一時的に意識がぼんやりする状態)が起きることがあります。
原因
主な原因
- 硬膜の外側のすき間は、痛みを伝える神経が通る場所に近く、薬を届けやすいため、痛みの緩和に使われます。
- 手術中の麻酔として(下半身の手術などで意識を保ったまま行う場合があります)。
- 手術後の痛み止めとして、管を留置したまま数日使うことがあります。
- お産の痛みをやわらげる方法(分娩鎮痛)として。
- 腰や脚の痛みに対して、炎症をしずめる目的で硬膜外へ注射することがあります。
リスク要因
- 血液を固まりにくくする薬を飲んでいる、または出血しやすい体質がある
- 背中や穿刺する部位に感染・傷がある
- 脱水や血圧が低い状態
- 背骨の手術歴、変形、強い腰痛がある
- 妊娠中でおなかが大きい、体格により位置がわかりにくい
- 高齢で複数の薬を飲んでいる
- 処置への不安が強い、じっとしているのが難しい
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 脚の麻痺やしびれが強く、長引いている
- 排尿・排便ができない状態が続く
- 穿刺部の赤み・腫れ・膿・発熱がある
- 座ると強くなる頭痛が続き、日常生活がつらい
- 処置後に息苦しさや動悸を感じる
定期受診を予約すべき場合:
- 処置の前に、飲んでいる薬(特に血をさらさらにする薬やサプリメント)を必ず伝えたい
- 無痛分娩を希望していて、対応可能かどうか相談したい
- 処置後に残る軽い痛みや違和感について確認したい
- 次回の手術や処置で硬膜外を使えるか知りたい
診断
硬膜外の処置は「診断」ではなく、痛みを和らげるための方法です。実際に行うかどうかは、問診(これまでの病気、飲んでいる薬、アレルギー、出血しやすいかどうか)、血液検査、体格や背骨の状態などを確認して、医師が総合的に判断します。妊婦さんでは妊娠経過や赤ちゃんの状態もあわせて確認します。
行われる可能性のある検査
- 問診(既往歴、服薬、アレルギー、出血傾向の有無)
- 血液検査(血が固まりやすいかどうかの確認など)
- 血圧・脈拍・体重などの基本的な測定
- 必要に応じて心電図や画像検査(レントゲン・MRIなど)
- 処置中は血圧・脈拍・痛みの程度・脚の動きを継続的に確認
診察で予想されること
処置は手術室や分娩室、処置室で行います。背中を丸めて横向きか座った姿勢になり、背中を消毒してから細い針を入れます。多くの場合、数分から十数分で終わります。薬が効いてくると脚が温かく感じたり、しびれたりします。管を入れたままにする場合は、テープで背中に固定し、必要に応じて追加の薬を入れます。処置中は血圧や痛みの具合をこまめに確認します。
治療
硬膜外の処置は、それ自体が「痛みを和らげる治療」です。使う薬の種類や量、管を入れておく期間は、手術の内容やお産の進み具合、体格などに合わせて医師が調整します。合併症が起きた場合には、別の対応(安静、検査、必要に応じた処置)を行います。
自宅でのセルフケア
- 処置のあとは指示された時間、ベッドで安静にしましょう。
- 脚の感覚が戻るまでは、自分で歩いたり立ち上がったりしないようにしましょう。
- 頭痛があるときは、横になって休むと楽になることがあります。水分をとることも心がけてください。
- 穿刺した部分は清潔に保ち、赤みや腫れがないか時々見てみましょう。
- 排尿しづらい、脚の力が戻らないなど、いつもと違うと感じたらすぐに看護師や医師に伝えましょう。
医療治療
硬膜外に届ける薬は、目的(手術中の麻酔、手術後の痛み止め、お産の痛みの緩和、腰や脚の痛みの治療)によって選び方が変わります。薬の種類や量は医師が体格や状態に合わせて決め、処置中は血圧や脈拍を見ながらこまめに調整します。薬が効きすぎているときは量を減らし、足りないときは追加するなど、医療者がその場で対応します。合併症が疑われる場合には、画像検査や血液検査を行い、必要に応じて専門の医師が対応します。具体的な薬の名前や量については、担当の医師や薬剤師に確認してください。
この病気と共に生きる
硬膜外の処置は、多くの場合その日か数日で効果が終わります。処置後は、感覚が戻ったことを医療者に確認してもらってから動き始めるようにしましょう。管を入れたまま退院する場合はまれですが、その場合は注意点を必ず確認してください。
生活習慣のアドバイス
- 処置の予定がある日は、飲んでいる薬やサプリメントを自己判断で中止しないようにしましょう(必ず事前に相談を)。
- 処置後は、しばらく無理な運動や入浴を控え、指示に従ってください。
- 飲酒は処置の前後しばらく控えめにしましょう。
- 体調の変化(発熱、頭痛、しびれ)をメモしておくと、受診のときに伝えやすくなります。
食事と運動
処置の前後は、バランスのよい食事と十分な水分を心がけましょう。脱水は血圧が下がりやすくなるため、特に気をつけたいポイントです。運動は、処置後に医療者から許可が出てから、無理のない範囲で少しずつ再開しましょう。
精神的健康と心の健康
痛みの処置を受ける前は、不安や緊張が大きくなりがちです。無痛分娩を希望しても施設の体制が整っていない場合など、気持ちが落ち着かないこともあるかもしれません。疑問や不安は、遠慮せずに医療者に話してみてください。話すことで気持ちが整理されることがあります。つらさが続くときは、かかりつけ医や地域の相談窓口に相談しましょう。
予防
硬膜外の処置そのものを「予防する」という考え方は当てはまりませんが、合併症を減らすための工夫はできます。飲んでいる薬(特に血をさらさらにする薬やサプリメント)を事前に正確に伝えること、出血しやすい体質やアレルギーを伝えること、処置後の体調の変化を早めに相談することが大切です。厚生労働省も、無痛分娩の安全性に関する検討会の報告などを通じて、事前の説明と体制づくりの重要性を示しています。
検診プログラム
特に対象となる検査はありませんが、処置の前に問診と血液検査で出血しやすい状態がないかを確認することが一般的です。
合併症
治療しない場合
- 処置を受けない場合、手術中やお産の痛みが強いままとなり、体の回復や出産の負担が大きくなることがあります。
- 硬膜穿刺後頭痛(座ると強くなる頭痛)が起きることがあります。多くは数日で自然に軽くなりますが、つらい場合は相談が必要です。
- まれですが、硬膜外に血がたまる(硬膜外血腫)・感染する(硬膜外膿瘍)ことがあり、脚の麻痺や発熱として現れます。早期の対応が大切です。
- 脚のしびれや力の入りにくさが長引くことがあります(まれ)。
長期的な見通し
硬膜外の処置を受けたほとんどの方は、大きな問題なく経過します。重い合併症はまれです。気になる症状があるときは早めに医療者に伝えることで、安心して過ごせる場合がほとんどです。不安なことがあれば、遠慮なく担当の医師や看護師に相談してください。
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最終更新: 2026年10月23日
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