硬膜外膿瘍(こうまくがいのうよう)— 背骨の中に膿(うみ)がたまる病気
概要
背骨の中には「脊柱管(せきちゅうかん)」というトンネルがあり、その中を脊髄(せきずい=体を動かしたり感じたりする神経の束)が通っています。脊髄は「硬膜(こうまく)」という丈夫な膜で包まれています。硬膜外膿瘍は、この硬膜の外側と背骨のあいだのすき間に細菌が入りこみ、膿(うみ)がたまる病気です。膿がふくらむと脊髄や神経を押しつぶし、脚のしびれ・力が入りにくい・尿や便のトラブルなどを引き起こすことがあります。とてもまれな病気ですが、見つけるのが遅れると神経に後遺症が残ることがあるため、早めの受診と治療がとても大切です。
重要な事実
- とてもまれな病気で、年間およそ10万人に数人程度といわれています。
- 「背中の痛み+発熱+脚のしびれや麻痺」が組み合わさって現れることが多いです。
- 早く見つけて治療すれば回復が期待できますが、診断が遅れると神経の後遺症が残ることがあります。
とてもまれな病気です。背中が痛い人のほとんどは筋肉や姿勢、椎間板(背骨のクッション)の問題などで、硬膜外膿瘍ではありません。ただし、発熱や脚の神経の症状が一緒にあるときは、早めに医療機関に相談してください。
大人に多く、特には50〜70歳代に多いといわれています。糖尿病のある人、免疫力が下がっている人、背中に注射や手術を受けたことのある人、背骨の近くに感染がある人に起こりやすいです。子どもでは非常にまれです。
症状
- 脚が急に動かない、感覚がない、麻痺が進んでいる
- 尿や便のコントロールが急にできなくなった
- 背中の激しい痛みと高い熱が同時にある
- 意識がもうろうとしている、ぐったりしていて呼びかけへの反応が悪い
- 呼吸が苦しい、顔色が悪い、冷汗がひどい
- ⚠数日続く背中の痛みと発熱がある
- ⚠脚のしびれや違和感が新しく出てきた
- ⚠最近、背中に注射やカテーテル、手術を受けたあとに熱と痛みが出てきた
- ⚠尿が出にくい、残尿感がある、トイレが近い
- ⚠糖尿病や免疫の治療中で、発熱や背中の痛みがある
一般的な症状
- 背中の痛み(背骨のあたりが、じっとしていても痛む。動かすと強くなることが多い)
- 発熱(多くは38℃以上。寒気をともなうこともある)
- 脚のしびれ、力が入りにくい、歩きにくい、ふらつく
- 尿が出にくい、尿がもれる、便のコントロールが難しい
- 頭痛や首のこり(首のあたりにできた場合)
- だるさ、食欲がない、気分がすぐれない
子供の症状
- 子どもでは非常にまれです。
- 機嫌が悪い、ぐずりが続く
- 熱がある
- 背中を触ると痛がって泣く
- 歩きたがらない、足を動かしにくそうにする
- はっきりした症状が出にくいことがあるので、元気がない状態が続くときは受診してください。
高齢者の症状
- 高齢者では発熱があっても目立たないことがあります。
- だるさ、食欲の低下、元気がない、といったぼんやりした症状で始まることがあります。
- 急に歩けなくなった、尿が出にくくなった、という変化も大切なサインです。
- 認知症のある方は、急な様子の変化(ぼんやりする、反応が鈍い)に注意してください。
原因
主な原因
- 細菌が血液の流れに乗って背骨の近くに届く(皮膚の感染、尿路の感染、歯の感染などから)
- 背中への注射・カテーテル・手術などの処置のあとから細菌が入る
- 背骨やその周りの感染(椎間板炎(ついかんばんえん)や骨髄炎(こつずいえん))から広がる
- ときに、はっきりした原因が見つからないこともある
リスク要因
- 免疫力が下がる状態(ステロイド薬を長く使っている、抗がん治療中、HIV感染など)
- 透析(とうせき)を受けている
- 背中への注射・カテーテル・手術の経験がある
- 静脈注射による薬物使用の習慣がある
- 皮膚の感染症、尿路感染症、歯周病など、体のどこかに感染がある
- 高齢である
- アルコールの多飲
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 背中の痛みと発熱が同時にあり、数日続いている
- 脚のしびれ、力が入りにくい、歩きにくいといった症状が出てきた
- 尿や便のコントロールがおかしいと感じる
- 背中への処置のあとに熱と痛みが出てきた
定期受診を予約すべき場合:
- 背中の痛みが長引いている、繰り返す
- 微熱やだるさが続いている
- 糖尿病や免疫の治療中で、体調の変化が気になる
診断
まず問診と診察で、症状の経過や感染のきっかけがないかを確認します。そのうえで血液検査と画像検査(MRIが最も確実)を行い、膿がたまっている場所と広がりを調べます。必要に応じて、膿の一部を採って原因の菌の種類を調べます。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(炎症の指標や白血球の数を見る)
- MRI検査(造影剤を使うことが多い。最も確実な方法)
- CT検査(背骨の状態を見るために行うことがある)
- 膿や血液の培養検査(原因の菌を調べる)
- 腰椎穿刺(ようついせんし)=背中に細い針を刺して髄液を調べる検査(必要に応じて)
診察で予想されること
症状によっては、救急外来や専門科(整形外科、脳神経外科、感染症科など)に紹介されることがあります。検査の結果は数時間から1日ほどでわかることが多く、治療のために入院が必要になる場合が少なくありません。不安なことは、遠慮せずに医療者にたずねてください。
治療
硬膜外膿瘍は、細菌をたおす抗菌薬(こうきんやく)と、必要に応じて手術を組み合わせて治療します。神経が強く圧迫されているときは、早めの手術が検討されます。治療の内容は、症状の重さや菌の種類によって変わります。
自宅でのセルフケア
- 医療者に指示された薬は、症状が良くなっても自己判断でやめずに最後まで続ける
- 熱や痛み、脚の動きの変化を記録して医療者に伝える
- 治療中は無理に動かさず、指示された安静を守る
- 禁煙する(傷の治りや感染の予防に役立ちます)
- 糖尿病がある方は血糖コントロールを続ける
- リハビリは痛みに合わせて少しずつ、あきらめずに続ける
医療治療
一般的には、点滴や内服の抗菌薬を数週間続けます。薬の種類や期間は、原因の菌や症状の経過を見ながら医師が決めます。痛みに対しては痛み止めが使われることがあり、状態が落ち着いてきたらリハビリテーションを行います。具体的な薬の名前や量、飲み方は、必ず担当の医師や薬剤師に確認してください。
手術が検討される場合
神経の症状が強い、膿が大きい、抗菌薬だけでは良くならない、といった場合には、膿を取り除いて神経の圧迫をやわらげる手術が行われます。手術の必要があるかどうかは、画像検査の結果と症状の重さで医師が判断します。
この病気と共に生きる
治療中は安静が必要ですが、状態が落ち着いてきたらリハビリで筋力や歩行を取り戻していきます。退院後も通院で抗菌薬を続けることがあります。体調の変化を感じたら、早めに医療者に連絡してください。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を続ける
- バランスの良い食事をとり、体力を保つ
- 糖尿病がある方は血糖管理を大切にする
- 疲れをためず、睡眠をしっかりとる
- 皮膚の傷や感染を放置せず、早めに治療する
- 歯のケアを怠らない(口の中の感染予防)
食事と運動
特別な食事制限はありませんが、たんぱく質をしっかりとり、野菜も合わせてバランスよく食べましょう。運動は医師やリハビリのスタッフと相談しながら、軽い歩行やリハビリから少しずつ始めてください。痛みやしびれが強くなるときは無理をせず、医療者に伝えましょう。
精神的健康と心の健康
入院が長引いたり、脚の動きが戻るのに時間がかかったりすると、不安や落ち込みを感じるのは自然なことです。気持ちがつらいときは一人で抱えこまず、家族や医療者に話してください。もし自分を傷つけたい気持ちが強くなったときは、ためらわずに救急(119番)や地域の相談窓口に連絡してください。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、体のどこかの感染症を早めに治療すること、糖尿病をきちんと管理すること、背中への処置を受けたあとは発熱や痛みの変化に気をつけることで、リスクを下げることができます。
ワクチン
硬膜外膿瘍そのものを防ぐワクチンはありません。ただし、季節性インフルエンザや肺炎球菌などのワクチンは、感染症全般を防ぐのに役立つことがあります。接種についてはかかりつけ医に相談してください。
検診プログラム
硬膜外膿瘍のための決まったスクリーニング検査はありません。気になる症状があるときは、早めに受診することが最も大切です。
合併症
治療しない場合
- 神経の圧迫が続き、脚の麻痺(動かしにくさ)が残ることがある
- 排尿や排便の障害が残ることがある
- 感染が全身に広がる(敗血症(はいけつしょう))
- まれに命に関わることがある
長期的な見通し
早く見つけて治療を始めれば、多くの人は回復します。リハビリを続けて歩けるようになる方も多くいます。後遺症が残る場合でも、リハビリや周りのサポートで生活の質を保つことは可能です。あきらめずに、医療者と一緒に一歩ずつ進んでいきましょう。
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最終更新: 2026年10月23日
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