高齢期のてんかん — 年を重ねても安心して暮らすために
概要
てんかんは、脳の神経細胞(脳の信号を伝える細胞)が一時的に異常に興奮して、「てんかん発作」とよばれる症状が繰り返し起こる状態です。発作の現れ方は人によって大きく違い、手足がけいれんするものもあれば、数秒から数十秒ぼんやりして反応がなくなるだけのものもあります。年をとってから初めて発作が起き、てんかんと分かる人も少なくありません。高齢期のてんかんは、脳卒中や認知症など、ほかの病気が関係していることがある点が特徴です。
重要な事実
- 高齢になってから初めててんかんと診断される人は少なくありません。年齢を重ねるほど、新しく発症する人が増えるといわれています。
- 発作の見え方は人それぞれです。けいれんがなくても、ぼんやりする、話がかみ合わない、ものが落ちるなどが発作のことがあります。
- 多くの人は、発作を抑えるお薬で発作をかなり減らせます。高齢の方はお薬が効きやすい一方で副作用も出やすいため、少量からゆっくり調整します。
- 発作による転倒やけがを防ぐ工夫(入浴・運転・階段など)が、治療と同じくらい大切です。
はい、決してめずらしい病気ではありません。てんかんは年齢を問わず起こりますが、高齢になってから新たに発症する人が増えることが知られています。日本でも高齢化にともない、てんかんのある高齢者の数は増えていると考えられています。
脳卒中(脳梗塞や脳出血)や認知症、頭のけがの経験がある方に多くみられます。高血圧や糖尿病、心臓の不整脈などの生活習慣病がある方も注意が必要です。特別な人だけの病気ではなく、誰にでも起こる可能性があります。
症状
- けいれんが5分以上続いている
- 発作のあと意識が戻らないまま、また発作が起きる
- 呼吸が苦しそう、顔色が悪い
- 頭を強く打った、けがをした、やけどをした
- お風呂やプールなど、水の中での発作
- 意識を失って倒れ、呼びかけても反応がない
- ⚠発作の回数が増えた、発作と発作の間隔が短くなった
- ⚠発作の様子がこれまでと違う
- ⚠転倒してけがをしたかもしれない
- ⚠発作のあとの混乱や眠気がいつもより長い
- ⚠発熱がある、体調を大きく崩している
- ⚠薬を飲み忘れたあとに発作があった
一般的な症状
- 手足や体がつっぱる、けいれんする
- 意識を失って倒れる
- 数秒から数十秒、ぼんやりして反応がなくなる(動作が止まる)
- 口をもぐもぐさせる、手でもむような動きをする
- 体の一部だけがピクピクする
- 変なにおいや光、耳鳴りなどの感覚が急に起きる
- 理由もなく強い不安や恐怖、既視感(デジャブ)を感じる
- 発作のあとに、眠気・混乱・頭痛・筋肉痛が続く
子供の症状
- 子どもでは、熱性けいれん(発熱にともなうけいれん)との区別が大切です
- 授業中にぼんやりする、反応が一瞬止まる、などで気づかれることがあります
- 夜、眠っているときに発作が出ることもあります
- 気になる様子があれば、小児科に相談してください
高齢者の症状
- 高齢の方では、はっきりしたけいれんが出ないことが多く、見逃されやすいです
- 数秒から1分ほど、話が通じない、ぼんやりする、動作が止まる
- 突然ものが落ちる、ろれつが回らない、体が一瞬脱力する
- 理由のない転倒、いすからずり落ちる
- 夜間の尿失禁、朝の寝具の汚れ
- 発作のあとの混乱や眠気が長く続き、認知症と間違われやすい
- 「年のせい」「認知症の進行」と思われていたら、実は発作だったということがあります
原因
主な原因
- 脳卒中(脳梗塞・脳出血)のあとに起きる
- 認知症(アルツハイマー型など)にともなって起きる
- 頭を打ったけが(頭部外傷)のあとに起きる
- 脳の腫瘍や脳の感染症
- 飲酒を急にやめたとき
- 血糖が低くなったとき、体の塩分や水分のバランスが崩れたとき
- 飲んでいるお薬どうしの飲み合わせ
- 睡眠不足や強いストレス
リスク要因
- 高齢であること
- 脳卒中を経験したことがある
- 高血圧、糖尿病、心臓の不整脈(心房細動など)
- 認知症や物忘れの進行
- 頭のけがの経験
- ふだんから多く飲酒する
- 睡眠不足が続いている
- 複数の病気で多くのお薬を飲んでいる
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- けいれんが5分以上続く、または短い発作が何度も繰り返す
- 発作のあと意識が戻らない
- 倒れて頭を打った、やけどをした、けがをした
- 水の中での発作があった
- 発作の回数が急に増えた
定期受診を予約すべき場合:
- 初めて「発作かもしれない」と思う出来事があった
- 物忘れやぼんやりが増え、発作との区別がつかない
- お薬の副作用(ふらつき、眠気、転びやすさ)が心配
- 運転を再開してよいか相談したい
- 発作への不安で外出を控えるようになった
- 介護保険サービスの使い方や、服薬の見守りについて相談したい
診断
診断の中心は、発作のときの様子をくわしく聞くこと(問診)です。本人は発作の最中を覚えていないことが多いため、家族や介護者、施設のスタッフなど、その場にいた人の話がとても役に立ちます。脳波や画像の検査を組み合わせ、失神(一時的に意識が遠のくこと)や低血糖、不整脈など、似た症状が出るほかの原因ではないかを確かめます。
行われる可能性のある検査
- 問診と、周りの人の目撃情報の聞き取り
- 脳波検査(頭に電極をつけて脳の電気の動きを調べます)
- 頭部MRI・CT(脳の形や古い脳卒中の跡、腫瘍などを調べます)
- 血液検査(血糖、塩分バランス、肝臓や腎臓の働きなど)
- 心電図や24時間心電図(不整脈との区別のため)
- 必要に応じて認知機能の検査
- 必要に応じて睡眠中の検査
診察で予想されること
診断までに時間がかかることがあります。発作があった日時・時間・様子・前後の状況をメモしておくと、診断の大きな助けになります。安全に配慮したうえで、発作の様子を短い動画に撮っておくのも役立ちます。
治療
治療の目標は、発作をできるだけ減らし、転倒やけがを防ぎながら、その人らしい生活を続けられるようにすることです。高齢の方はお薬が効きやすい反面、副作用(ふらつき、眠気、転びやすさ)も出やすいため、少量から始めてゆっくり調整します。飲んでいるほかのお薬との飲み合わせの確認も大切です。
自宅でのセルフケア
- 発作の日時・様子・前後の状況を記録する
- 決まった時間にお薬を飲む(お薬カレンダーやスマホのアラームを使う)
- 睡眠を十分にとる
- 飲酒は控えめに。急にやめるのも発作のきっかけになるので、やめ方も相談する
- 発作のきっかけ(強いストレス、点滅する光、暑さ)を見つけて避ける
- 入浴はぬるめ・短時間にし、声がけや見守りを工夫する
- 階段や台所など、転倒ややけどが心配な場所を整理する
- 財布やスマホに、連絡先と「てんかんがあります」と書いたカードを入れておく
- 家族や近所の人、ケアマネジャーに発作時の対応を伝えておく
- 運転については必ず医師に相談する
医療治療
発作を抑えるためのお薬(抗てんかん薬とよばれるグループのお薬)が治療の中心になります。医師は年齢や体の状態、ほかの病気や飲み薬との関係をみながら、種類と量を慎重に選びます。飲み続けることで発作が落ち着く人が多い一方、自己判断で急にやめると発作が起きやすくなるため、必ず医師に相談してください。お薬で十分に抑えられない場合は、専門医による他の治療法の検討があります。
手術が検討される場合
お薬で発作が十分に抑えられず、脳の中に原因となる病変(腫瘍や古い脳卒中の跡など)が見つかった場合には、手術が検討されることがあります。高齢であっても、全身の状態が許せば検討されることがあります。専門の医療機関でよく相談してください。
この病気と共に生きる
発作はいつ起きるか分からないため、生活の中で「もし発作が起きたら」をあらかじめ決めておくと安心です。家族や近所の人、ケアマネジャーなどに発作の対応を伝えておきましょう。連絡先が分かるカードを持ち歩くと役に立ちます。
生活習慣のアドバイス
- お薬は決まった時間に飲み、飲み忘れを防ぐ工夫をする
- 睡眠不足を避け、生活のリズムを整える
- 飲酒は控えめにし、急にやめるときは医師に相談する
- 発作のきっかけになりそうなものを記録して避ける
- 入浴はぬるめ・短時間にし、鍵をかけずに声がけをしてもらう
- 転びやすい場所を整え、手すりや照明を活用する
- 外出時は連絡先カードを持ち、体調が悪い日は無理をしない
- 運転の再開は自己判断せず、医師の指示に従う
食事と運動
特別な食事制限は通常ありません。バランスの良い食事、塩分ひかえめ、適度な水分が基本です。運動は、転倒に気をつけながら、歩行や軽い体操など無理のない範囲で続けましょう。一人での入浴や水泳、高所での作業は避けるか、見守りのある環境で行ってください。
精神的健康と心の健康
発作への不安、「また起きたらどうしよう」という気持ち、外出を控えてしまうこと、気分の落ち込みはよくみられます。これは弱さではなく、誰にでも起こることです。話を聞いてもらえる人や相談窓口を頼ってください。気分の落ち込みが続く、眠れない、死にたい気持ちが浮かぶようなときは、一人で抱えず、かかりつけ医や保健所のこころの相談、地域の相談窓口にすぐ相談してください。今すぐ危険があると感じたら、119番、またはお住まいの地域の救急相談窓口に連絡してください。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、リスクを下げられる可能性はあります。脳卒中を防ぐことが、高齢期のてんかん予防につながると考えられています。血圧・血糖・脂質を整える、禁煙する、適度に体を動かす、バランスよく食べる、飲酒はほどほどにする。頭のけがを防ぐ工夫(転倒予防、必要な場面でのヘルメット)や、睡眠を十分にとることも大切です。
検診プログラム
特定健診・後期高齢者健診などで、血圧や血糖、脂質を定期的に確認しましょう。脳卒中や認知症の治療中の方は、主治医に発作の可能性についても相談しておくと安心です。
合併症
治療しない場合
- 発作による転倒や骨折
- 頭を打つなどの頭部外傷
- やけど、入浴中の溺水
- 交通事故
- 発作が長く続いて止まらない状態(てんかん重積)
- 発作のあとの混乱が長引き、生活のリズムが崩れる
- 物忘れや気分の落ち込みが目立ち、認知症と混同される
- 外出を控えることで、人とのつながりが減ってしまう
長期的な見通し
てんかんは、上手に付き合っていける病気です。高齢の方ではお薬がよく効くことも多く、適切な治療と生活の工夫で、発作をかなり減らせる人が大勢います。転倒予防や服薬の支援など、周りの力を借りながら、これまで通りの生活を続けることを目指せます。心配なことは、遠慮なくかかりつけ医に相談してください。
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最終更新: 2026年10月23日
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