胎児赤芽球症(新生児溶血性疾患)
概要
胎児赤芽球症(たいじせきがきゅうしょう)は、お母さんと赤ちゃんの血液型の組み合わせが原因で、赤ちゃんの赤血球(血液の中で酸素を運ぶ細胞)が壊されやすくなる状態です。お母さんの体が作った「抗体」という防御のためのタンパク質が、胎盤(赤ちゃんとお母さんをつなぐ器官)を通って赤ちゃんの血液に入り、赤ちゃんの赤血球を攻撃してしまうことで起こります。赤血球が壊れると、貧血(血液が酸素を運びにくくなること)や黄疸(皮膚や白目が黄色くなること)が出ます。現在は妊娠中の検査と予防の注射が広く行われているため、多くの場合は事前に準備でき、軽くすませることができます。
重要な事実
- 原因の多くはRh式血液型の不一致(お母さんがRh陰性で、赤ちゃんがRh陽性)ですが、ABO式血液型の不一致(お母さんがO型で赤ちゃんがA型・B型など)でも起こることがあり、こちらは軽いことが多いです。
- 妊娠中の血液検査でリスクが分かるため、出産前に準備を整えることができます。
- 黄疸や貧血が強いときは、光線療法(青い光を当てる治療)や輸血などの治療が行われます。
- Rh陰性のお母さんに抗体ができないようにする注射が行われるようになり、重症の例は以前より大きく減っています。
Rh陰性のお母さんは日本では少ない(およそ100人に0.5人程度)ため、重症の胎児赤芽球症はまれです。一方、ABO式血液型の不一致による軽い黄疸は新生児によく見られ、ほとんどは自然に落ち着きます。
お母さんがRh陰性で赤ちゃんがRh陽性の妊娠、またはO型のお母さんとA型・B型の赤ちゃんの組み合わせなどが関係します。Rh式の場合は、1回目の妊娠では問題が少なく、2回目以降の妊娠で起こりやすくなります。大人には起こらない、胎児と新生児だけの病気です。
症状
- 生後24時間以内に黄疸が出て、黄色い範囲が急速に広がっている
- 赤ちゃんがぐったりして反応が弱い、呼びかけても反応しにくい
- けいれんが起きた、体が弓なりに反り返る
- 呼吸が苦しそう、息が荒い、顔色が青白い
- 母乳やミルクをほとんど飲まない、尿がほとんど出ない
- ⚠黄疸がなかなか消えない、または強くなってきた
- ⚠体重が増えない、哺乳量が減っている
- ⚠便の色が白っぽい、尿の色が濃い
- ⚠機嫌が悪い状態が続く、泣き方が弱い
- ⚠妊娠中に胎動が少ないと感じる、健診で赤ちゃんのむくみや貧血を指摘された
一般的な症状
- 皮膚や白目が黄色くなる黄疸(生後24時間以内に出ると注意が必要)
- 顔色が白っぽく見える、元気がなくなる(貧血による症状)
- おっぱいやミルクを飲む力が弱い、すぐ疲れる
- おなかが張って見える(肝臓や脾臓が大きくなるため)
- 体がむくむ、体重が増えにくい
- 呼吸が速い、息苦しそうに見える
子供の症状
- 出生直後から数日の間に黄疸が強くなる
- ぐったりして反応が弱い、泣き方が弱い
- 哺乳量が少ない、尿の回数が少ない
- 手足やおなかのむくみ
- けいれんや体のこわばり(非常に重症の場合のサイン)
高齢者の症状
- この病気は胎児・新生児だけに起こるもので、大人になってから症状が出ることはありません。
原因
主な原因
- Rh式血液型の不一致:お母さんがRh陰性、赤ちゃんがRh陽性のとき、お母さんの体が赤ちゃんの赤血球に対する抗体を作ることがあります。
- ABO式血液型の不一致:お母さんがO型で赤ちゃんがA型またはB型のとき、軽い黄疸の原因になることがあります。
- まれに、Rh式・ABO式以外の血液型(Kell抗体など)が関係することもあります。
- 以前の妊娠・出産、流産、輸血などで、お母さんの体にもともと抗体がある場合。
リスク要因
- お母さんがRh陰性である
- 以前にRh陽性の赤ちゃんを妊娠・出産したことがある
- 流産・中絶、輸血の経験がある
- 妊娠中に出血があった、羊水穿刺などの処置を受けた
- お母さんがO型で、赤ちゃんがA型またはB型である
- 前回の妊娠で赤ちゃんの黄疸が強かった
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 生後24時間以内に黄疸が出た(早めの受診が大切です)
- 赤ちゃんのぐったりした様子、哺乳力の低下、呼吸の変化がある
- 妊娠中に胎動が少ない、健診で胎児の貧血やむくみを指摘された
- Rh陰性で抗体検査の結果が陽性と言われた
定期受診を予約すべき場合:
- 妊娠中の定期的な健診(血液型・抗体検査を含む)
- 血液型や抗体検査の結果について詳しく聞きたいとき
- 前回の出産で赤ちゃんの黄疸が強かった、次に妊娠を考えているとき
- 退院後の黄疸の経過について確認したいとき
診断
妊娠中は、お母さんの血液型と抗体の有無を調べる血液検査と、超音波検査で赤ちゃんの状態を観察します。生まれた後は、赤ちゃんの血液検査と黄疸の程度を測る検査で確認します。
行われる可能性のある検査
- 血液型検査(お母さんと赤ちゃんの両方)
- 不規則抗体スクリーニングと抗体価(抗体の量の目安)の測定
- 超音波検査(赤ちゃんの貧血やむくみ、血流の観察)
- 出生後の臍帯血(へその緒の血液)検査
- ビリルビン値の測定(黄疸の強さを数値で確認)
- 血算(貧血の程度を調べる血液検査)
- 直接クームス試験(赤血球が抗体に付着されているかを調べる検査)
診察で予想されること
妊娠中は数回の採血と超音波検査が中心で、体への負担は少なめです。生まれた後は、赤ちゃんの足の裏から少量の血液を採ることがあります。一瞬痛みを伴いますが、すぐに終わります。検査結果の意味が分からないときは、遠慮なく医療者に尋ねてください。
治療
症状の強さによって対応が変わります。軽い場合は観察と哺乳のサポートが中心で、黄疸が強い場合は光線療法、貧血が強い場合は輸血が行われます。胎児期に重症と分かった場合は、専門の医療機関でおなかの中の赤ちゃんへの処置が検討されます。
自宅でのセルフケア
- 医師や助産師の指示に沿って、授乳やミルクをしっかり続ける(排泄を促し、黄疸の回復を助けます)
- 赤ちゃんの哺乳量、機嫌、尿や便の回数と色をメモしておく
- 退院後も皮膚や白目の色の変化を毎日観察する
- 決められた健診や黄疸の再検査を必ず受ける
- お母さん自身も睡眠と休息をとり、無理をしすぎない
医療治療
黄疸には、青い光を当ててビリルビン(黄色の原因物质)を体から出しやすくする光線療法が行われます。貧血が強い場合には輸血が行われます。胎児期に重症の場合は、専門施設で臍帯(へその緒)を通した処置などが検討されます。また、Rh陰性のお母さんには、抗体ができないようにするための注射が妊娠中や出産後に用いられます。治療の内容は医師が個別に判断します。
手術が検討される場合
通常、この病気を手術で治すことはありません。重症の場合に行われる交換輸血は、赤ちゃんの血液を少しずつ入れ替える処置で、手術とは異なります。
この病気と共に生きる
退院後も数週間は、黄疸の色の変化と哺乳の様子を見守ることが大切です。多くは数日から数週間で落ち着きます。健診の予定を守り、気になる変化があれば早めに相談してください。
生活習慣のアドバイス
- 母子健康手帳に哺母乳量や排泄、黄疸の様子を記録する
- 家族や周囲の人に育児を分担してもらい、お母さんが休息できる時間を作る
- 自治体の乳幼児健診や保健師の訪問を活用する
- 上の子がいる場合は、預けられる制度や支援サービスを調べておく
食事と運動
お母さんはバランスの良い食事を心がけ、授乳中は水分をしっかりとりましょう。特別な食事制限は必要ありません。産後の体調に合わせて、無理のない範囲で散歩などの軽い運動をすると、気分転換にもなります。
精神的健康と心の健康
「自分の血液型のせいで赤ちゃんに負担をかけた」と自分を責めてしまう方がいますが、血液型の組み合わせは誰の責任でもありません。産後は気持ちが落ち込みやすく、不安が続くこともあります。つらい気持ちが長く続くときや、自分や赤ちゃんを傷つけたい気持ちがわいたときは、一人で抱えず、すぐに医療機関や地域の相談窓口に連絡してください。緊急の場合は119番に電話してください。
予防
はい。Rh陰性のお母さんに抗体ができないようにする注射を、妊娠中や出産後に受けることで、多くの場合は予防できます。ABO式血液型の不一致による軽い黄疸は予防が難しく、多くは自然に治ります。
ワクチン
この病気を直接防ぐワクチンはありません。ただし、妊娠前から感染症の予防接種などを含めた健康管理をしておくことは、妊娠全体の安全につながります。
検診プログラム
妊娠初期の血液型検査と不規則抗体検査、必要に応じた抗体価の定期的な測定、超音波検査による胎児の観察が行われます。日本では妊婦健診は公費の助成の対象で、自治体によって受けられる回数が決められています。
合併症
治療しない場合
- 非常に強い黄疸による脳への影響(ビリルビン脳症)
- 高度な貧血による心臓への負担や心不全
- 胎児水腫(体に水分がたまる重い状態)
- まれに命に関わる場合がある
長期的な見通し
適切な検査と治療が行われれば、多くの赤ちゃんは元気に育ちます。軽い例は数日から数週間で落ち着きます。重症の例でも、早期に見つけて治療することで予後は大きく改善しています。心配なことがあれば、医療者と十分に話しながら進めていきましょう。
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最終更新: 2026年10月23日
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