嗅神経芽細胞腫(きゅうしんけいがさいぼうしゅ)ってどんな病気?
概要
嗅神経芽細胞腫は、鼻の奥のいちばん上にあたる場所(嗅裂=きゅうれつ、においを感じる神経が通るすき間)からできる、まれな腫瘍(できもの)です。「においを感じる神経のもとになる細胞」が、がんのように増えてしまうことで起こると考えられています。鼻の奥は目や脳にとても近いため、腫瘍が大きくなると周りの骨や目、脳に影響することがあります。ゆっくり育つタイプが多いものの、見つかったときには周りに広がっていることもあります。
重要な事実
- 鼻の奥(嗅裂)にできる、とてもまれな腫瘍です。鼻や副鼻腔にできる腫瘍の中でも数が少なく、医療機関でも遭遇することが多くない病気です。
- 初期の症状は「片側の鼻づまりが続く」「鼻血をくり返す」「においがわかりにくい」など、ふつうの鼻炎や副鼻腔炎とよく似ています。そのため発見までに時間がかかることがあります。
- 治療は手術と放射線治療を組み合わせるのが基本で、進行の程度に応じて抗がん薬(化学療法)も使われます。早期に見つかれば長く元気に過ごせる方も多く、治療後も定期的な通院で経過を見ていくことが大切です。
いいえ、とてもまれな病気です。鼻や副鼻腔にできる腫瘍全体の中でも数が少なく、多くの耳鼻咽喉科の医師にとっても出会う機会が多くない腫瘍とされています。だからこそ、情報が少なく不安になりやすい病気でもあります。
年齢を問わず起こりますが、10〜20代と50〜60代の二つの年代に多いと報告されています。男女差はあまりありません。子どもにはとてもまれです。特別な体質やご家族の病史が原因になることは、ほとんどないと考えられています。
症状
- 大量の鼻出血が続き、自分では止められない(意識がもうろうとする、顔色が悪いなどを伴うとき)
- 呼吸が苦しい、息ができない感じがする
- 急に激しい頭痛が起こった、何度も吐く、けいれんする、意識がぼんやりする(腫瘍が脳に影響している可能性があります)
- 急に見えなくなった、視野が大きく欠けた
- ⚠鼻血が何度も続く、出血がなかなか止まらない
- ⚠片側の鼻づまりが3〜4週間以上続く
- ⚠ものが二重に見える、視力が急に落ちた
- ⚠顔や頬のしびれ、感じにくさがある
- ⚠首に硬いしこりができた
一般的な症状
- 片側(多くは左右どちらか一方)の鼻づまりが長く続く
- 鼻血をくり返す、出血が止まりにくい
- においがわかりにくい、においがしない
- 片側だけ鼻水が続く、鼻の奥に何か詰まっている感じがする
- 顔や目の奥の痛み、頭痛
- 鼻の奥から出血したような汁が出る
- 首のリンパ節が腫れる(しこりに気づく)
- 目が出てきたように見える、ものが二重に見える、涙がよく出る(腫瘍が大きくなったとき)
子供の症状
- 子どもではとてもまれですが、まったく起こらないわけではありません
- 自分から「においがわからない」「鼻の奥が変」と伝えることが少なく、鼻づまりや鼻血が「いつものこと」として見過ごされやすい傾向があります
- 片側の鼻づまりや鼻血が数週間以上続く、いびきが急にひどくなった、顔の形が左右で違ってきた、といった変化があれば耳鼻咽喉科に相談してください
高齢者の症状
- においの低下は加齢でも起こるため、年のせいだと思われて見過ごされやすいことがあります
- 副鼻腔炎(ちくのう)など他の鼻の病気と間違われやすい
- 持病や体力を考慮しながら、治療の進め方を相談していくことが大切です
- 高齢の方では、手術や放射線治療を受ける際に、ご家族や地域の支援体制も含めて計画を立てます
原因
主な原因
- はっきりした原因はまだわかっていません
- においを感じる神経のもとになる細胞の遺伝子に変化が重なって、少しずつ増えてしまうことで起こると考えられています
- 生活習慣のせいで起こる病気ではなく、ご本人やご家族の責任ではありません
- 感染症のように、人から人へうつることはありません
リスク要因
- 確実な危険因子(発症を高める要因)はまだ特定されていません
- 報告されている年代は10〜20代と50〜60代に多い傾向があります
- たばこや粉じんへの曝露との関連が検討されたことがありますが、はっきりした結論は出ていません
- ご家族に同じ病気の方がいることは、ほとんどありません
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 鼻血をくり返す、または出血が30分以上止まらない
- 片側の鼻づまりが1か月近く続いている
- ものが二重に見える、視力が落ちた、目が出てきたように感じる
- 顔のしびれや麻痺がある
- 首にしこりがあり、痛みがないのに大きくなってきた
定期受診を予約すべき場合:
- においがわかりにくくなった、においがしない
- 片側だけ鼻水や鼻づまりが続いている
- 顔や目の奥に重い感じ、痛みがある
- 鼻の奥から変なにおいがする、汁が出る
- 以前はなかったいびきや鼻のつまりが出てきた
診断
まず耳鼻咽喉科で、鼻の中を細いカメラ(内視鏡)で観察します。腫瘍らしいものが見えた場合は、CTやMRIなどの画像検査で広がりを確認し、最後に小さな組織を採って調べる「生検(組織診)」で確定します。この腫瘍は病理の専門医でも判断が難しいことがあるため、診断には数週間かかることがあります。
行われる可能性のある検査
- 鼻内視鏡(鼻の中を細いカメラで見る検査)
- 造影CT検査(骨への広がりや腫瘍の大きさを見る)
- MRI検査(脳や目、神経への広がりを見るのに重要)
- PET-CT検査(体のほかの場所への転移を調べる)
- 血液検査(全身の状態を確認)
- 生検(組織を一部採取して、顕微鏡で調べる検査)
- 眼科の検査(視力・視野、目の動きの確認)
- 必要に応じて脳脊髄液の検査や、脳神経外科的な検査
診察で予想されること
診断がつくまでに何度か通院し、複数の検査を受けることになります。確定した後は、耳鼻咽喉科・脳神経外科・腫瘍内科・放射線治療科などの専門家がチームになって治療方針を話し合う体制がとられることが多くあります。セカンドオピニオン(別の医師の意見)を求めることもできます。遠慮せずに主治医に相談してください。
治療
嗅神経芽細胞腫は数の少ない病気のため、治療の経験が多い専門施設で受けることが望まれます。基本は「手術」と「放射線治療」を組み合わせることで、進行の程度や年齢、全身の状態に合わせて、抗がん薬(化学療法)を加えるかどうかを検討します。治療の目的や副作用、生活への影響について、事前に納得いくまで話し合ってから進めることが大切です。
自宅でのセルフケア
- 治療中は体力が落ちやすいので、休息を優先し、無理な予定を詰め込まない
- 鼻や口の中のケアを丁寧に行う(医師・看護師の指示に従ってください)
- 食事がとりにくいときは、少量ずつ回数を増やす、やわらかいものやにおいの少ないものを選ぶなどの工夫をする
- 症状や体調の変化をメモしておき、診察のときに伝える
- 聞きたいことをあらかじめ紙に書いておくと、診察の時間を有効に使えます
- 禁煙する(治療中の回復や感染予防にも役立ちます)
- 市販薬や健康食品・サプリメントは、主治医に確認してから使う
医療治療
治療の中心は、腫瘍を外科的に取り除く手術と、放射線を当てて腫瘍の細胞を減らす放射線治療です。この二つを組み合わせることで、再発を減らす効果が期待されます。進行している場合や、腫瘍が大きい場合には、抗がん薬を使う治療(化学療法)を加えることがあります。また、まれな病気であるため、新しい治療の臨床試験(治験)が行われることもあります。具体的にどの治療をどの順番で行うかは、腫瘍の広がり、年齢、全身の状態、生活の希望などをふまえて、主治医のチームと相談して決めていきます。
手術が検討される場合
多くの場合、まず手術で腫瘍を取り除くことが治療の第一歩になります。鼻の奥は目や脳に近いため、鼻の中から内視鏡を使って行う手術や、顔の骨を扱う科・脳神経外科と協力して行う手術が検討されます。腫瘍を完全に取り切ることが難しい場合でも、手術の後に放射線治療を加えることで、再発を抑えることを目指します。手術の範囲や方法は、画像検査の結果をもとに話し合って決めます。
この病気と共に生きる
治療が終わった後も、数年単位で定期的な診察と画像検査が続きます。再発は治療から数年たってから起こることもあるため、予定どおりの通院を続けることが大切です。通院の予定は早めに仕事や学校に伝え、調整しておくと負担が軽くなります。においの変化や鼻の不快感が続くこともありますが、工夫しながら生活できることが多いです。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を続ける(受動喫煙も避ける)
- 睡眠をしっかりとり、疲れをためない
- 手洗い・うがいなど、感染予防の基本を大切にする
- 体調の変化を記録する習慣をつける
- 主治医に相談しながら、無理のない範囲で体を動かす
- 治療や通院について、職場・学校・家族と早めに共有する
- 気になる情報は、信頼できる医療者に確認する(インターネットの情報だけで判断しない)
食事と運動
食事は、主食・たんぱく質・野菜をバランスよくとることが基本です。治療中や治療後は、においや味の感じ方が変わって食欲が落ちることがあります。その場合は、においの少ない料理を選ぶ、冷ましてから食べる、少量ずつ回数を増やす、栄養補助の飲み物を活用するなどの工夫が役立ちます。運動は、散歩など軽いものから始め、治療の状況に合わせて主治医や看護師に相談しながら進めてください。
精神的健康と心の健康
まれな病気で情報が少ないこと、「自分だけかもしれない」という孤立感、再発への不安を感じる方は少なくありません。不安や落ち込みが続く、眠れない、涙が止まらないといった変化があるときは、がまんせずに主治医や看護師、心理の専門家に話してください。つらい気持ちが強くなったときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに医療者に伝えるか、お住まいの地域の救急・相談窓口を頼ってください。ひとりで抱えなくて大丈夫です。
予防
この腫瘍を確実に防ぐ方法は、今のところ見つかっていません。原因がはっきりしていないため、生活習慣を変えれば必ず予防できるというものでもありません。ただし、禁煙や受動喫煙を避けること、鼻の症状が長引くときに早めに受診することは、鼻や全身の健康にとって広く役立ちます。
ワクチン
この腫瘍を予防するワクチンはありません。
検診プログラム
この腫瘍のための決まった検診(スクリーニング)はありません。片側の鼻づまりや鼻血、においの変化が長く続く場合は、検診を待たずに耳鼻咽喉科で相談してください。
合併症
治療しない場合
- 腫瘍が大きくなり、鼻づまりや出血が強くなる
- 目や視神経に影響して、視力の低下やものが二重に見えることがある
- 脳に近いため、頭痛や神経の症状が出ることがある
- 首のリンパ節や、肺・骨などほかの場所に転移することがある
- においを感じる力が失われることがある
- 鼻の奥がふさがることで呼吸がしにくくなる
長期的な見通し
嗅神経芽細胞腫はまれな病気ですが、早期に見つかって手術と放射線治療を適切に組み合わせられれば、長く元気に過ごせる方が多くいます。治療の技術は年々進歩しており、再発した場合にも対応できる治療の選択肢が増えてきています。一方で、治療後数年たってから再発することもあるため、定期的な通院を続けることが大切です。不安なときは、主治医に今の見通しを率直に聞いてみてください。知ることで、次の一歩を考えやすくなります。
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最終更新: 2026年10月23日
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