エバンス症候群(自分の血液を免疫が攻撃する病気)について
概要
エバンス症候群(エバンスしょうこうぐん)は、体を守るはずの免疫(細菌やウイルスから体を守る仕組み)が、自分自身の血液の細胞をまちがって攻撃してしまう病気です。主にねらわれるのは、酸素を運ぶ赤血球(せきけっきゅう)と、出血を止める血小板(けっしょうばん)です。赤血球が壊されると貧血(さんけつ:酸素が足りなくなり、疲れやすくなる状態)になり、血小板が減ると出血しやすくなります。この2つが同時に、または時期をずらして起こるのがエバンス症候群の特徴です。まれに、感染を防ぐ好中球(こうちゅうきゅう)という細胞も減ることがあります。多くの場合、長く付き合っていく病気ですが、治療で状態をコントロールできる人がたくさんいます。
重要な事実
- 免疫が自分の赤血球や血小板を攻撃してしまう、まれな自己免疫の病気です。
- 貧血(疲れやすさ・息切れ)と、出血しやすさ(あざ・鼻血)が主な症状です。
- 症状が良くなったり悪くなったりをくり返すことがあり、長期的な通院が必要になることが多いです。
- 治療で血液の値を保ち、症状を抑えることができます。決して「手のない病気」ではありません。
- 国の難病の制度(指定難病)の対象になる場合があります。くわしくは主治医にたずねてみてください。
とてもまれな病気です。10万人あたり数人程度と報告されていることもありますが、正確な人数はわかっていません。かかりつけ医が一生のうちに数人しか出会わないこともあるほど珍しいため、血液の専門医(血液内科)が中心になって診療することが多い病気です。
子どもから大人まで、幅広い年齢で発症します。小児(特に小さいお子さん)での報告も多く、大人では女性にやや多いとされています。もともと他の自己免疫の病気(全身性エリテマトーデスなど)や免疫不全のある方に起こることもあります。特別な生活習慣が原因でなる病気ではないので、ご自分やご家族を責める必要はありません。
症状
- 息が苦しい、呼吸が速い、横になれないほどの息苦しさ
- 意識がもうろうとしている、反応が弱い、けいれん
- 突然の激しい頭痛、ろれつが回らない、体の片側が動かない
- 吐血、コーヒー色の嘔吐、便が黒い・血が混じる大量の下血
- 出血が止まらず、量が多い(鼻血・傷口など)
- 胸の痛み、強い動悸、失神(気を失う)
- 顔色が真っ青でぐったりしている、指先や唇が紫色
- 高熱が出て、ぐったりしている、あるいは皮膚に紫色の斑点が広がる
- ⚠新しいあざや点状出血が急に増えた
- ⚠鼻血や歯ぐきの出血が長く続く(10〜15分以上止まらない)
- ⚠尿に血が混じる、便に血が混じる
- ⚠月経の量がいつもより明らかに多い、止まらない
- ⚠立ちくらみや動悸が強くなり、日常生活がつらい
- ⚠白目や皮膚の黄色が強くなってきた
- ⚠38℃以上の発熱が続く、寒気がする
- ⚠採血の結果、貧血や血小板の値が急に悪くなったと言われた
一般的な症状
- 疲れやすさ、だるさ、集中しにくさ(貧血によるもの)
- 顔色が白っぽくなる、唇の色が薄い
- 動悸(どうき:心臓がドキドキする感じ)や息切れ。階段や坂道で特に感じます
- 立ちくらみ、めまい、ふらつき
- 皮膚の青あざができやすい、ぶつけていないのにあざが増える
- 皮膚に小さな赤い点(点状出血)が出る
- 鼻血や歯ぐきの出血が止まりにくい
- 尿の色が濃い(コーラのような色)、白目や皮膚が黄色っぽくなる(黄疸:おうだん)
- 微熱や発熱、感染症にかかりやすい
子供の症状
- 子どもでは、症状が比較的急に出ることがあります
- 発熱、ぐったりして元気がない、食欲がない
- あざや点状出血、鼻血が目立つ
- 白目が黄色っぽくなる、尿の色が濃くなる
- 機嫌が悪い、母乳やミルクの飲みが悪い(乳児の場合)
- 小児では、治療により比較的早く落ち着くこともあります
高齢者の症状
- 高齢の方では、疲れやすさ、動悸、息切れが目立ちます
- ふらつきや立ちくらみから転倒につながることがあります
- もともと他の自己免疫の病気や免疫の弱さがある方に多い傾向があります
- 感染症にかかりやすく、重症化しやすいことがあります
- 持病のお薬が多いため、診察時に服用中の薬をすべて伝えることが大切です
原因
主な原因
- 免疫のバランスが崩れ、自分の赤血球や血小板に対する抗体(自分の細胞を攻撃するタンパク質)ができることが直接の原因です。
- はっきりしたきっかけがない「一次性(特発性)」のタイプがあります。
- 他の自己免疫の病気(全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群など)に伴って起こる「二次性」のタイプがあります。
- 免疫不全症(からだの免疫の働きが生まれつき、または後天的に弱い状態)に伴って起こることがあります。
- ウイルスなどの感染症がきっかけになることがあります。
- 一部のお薬が関係する場合がありますが、自己判断で服用をやめないでください。必ず医師に相談してください。
リスク要因
- もともと他の自己免疫の病気がある方
- 免疫不全症や、リンパの細胞の病気がある方
- 小児期に発症した方(小児での報告が多いため)
- 家族歴はあまり関係しないと言われていますが、体質的な要因が関わる場合もあります
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 息苦しさ、動悸、立ちくらみが急に強くなったとき
- 出血が止まりにくい、あざが急に増えたとき
- 高熱が出たとき、ぐったりしているとき
- 尿の色が急に濃くなった、黄疸が出てきたとき
定期受診を予約すべき場合:
- 疲れやすさや息切れが続くとき
- あざができやすい、鼻血が出やすいと感じるとき
- 健康診断で貧血や血小板の異常を指摘されたとき
- 他の自己免疫の病気で通院中で、新しい症状が出てきたとき
診断
まず血液検査で、赤血球・血小板の数や、赤血球が壊されているかどうかを調べます。そのうえで、自分の血液の細胞を攻撃する抗体がついていないかを確かめます。同時に、他の自己免疫の病気や免疫不全など、背景となる原因がないかを調べます。診断がつくまでに少し時間がかかることがありますが、それは丁寧に原因を探しているためです。
行われる可能性のある検査
- 血算(けっさん):赤血球・ヘモグロビン・血小板・白血球の数を調べる基本的な検査
- 網状赤血球(もうじょうせっけっきゅう)数:新しく作られている赤血球の数を調べる検査
- 直接クームス試験(抗グロブリン試験):赤血球に抗体がついているかを調べる検査
- 血小板抗体や、血液中の抗体の量を調べる検査
- LDH・間接ビリルビン・ハプトグロビン:赤血球が壊れている程度をみる検査
- 自己抗体の検査や免疫グロブリンの量:背景に他の病気がないかを調べる検査
- 骨髄検査(こつずいけんさ):必要に応じて行うことがあります
- 腹部の超音波検査:脾臓(ひぞう)の大きさなどを確認します
診察で予想されること
診断のために何度か採血をすることがあります。お子さんの場合は、採血の前にあらかじめ説明しておくと安心です。結果が出るまでに数日から数週間かかることがあり、その間に別の日の採血をお願いされることもあります。検査の意味や今後の見通しは、遠慮なく主治医にたずねてください。
治療
治療の目的は、免疫が自分の血液の細胞を攻撃する力を弱めて、貧血や出血の症状を防ぎ、ふだんどおりの生活を送れるようにすることです。症状の強さ、年齢、妊娠の希望、持病などを考えて、治療の組み合わせを一人ひとりに合わせて決めていきます。すべての人に同じ治療をするわけではありません。
自宅でのセルフケア
- 出血しやすい時期は、ぶつける可能性のある激しい運動やコンタクトスポーツを控えめにしましょう。
- 歯ブラシはやわらかいものを使い、歯ぐきを傷つけないようにしましょう。
- 鼻を強くかんだり、爪を短く切りすぎたりしないよう気をつけましょう。
- 市販の痛み止めやかぜ薬の中には、出血や血小板に影響するものがあります。必ず薬剤師や医師に相談してから使いましょう。
- 発熱や体調の変化は、早めに医療機関に連絡しましょう。
- 毎日の体調(疲れ具合、あざ、出血、尿の色、体温)を簡単にメモしておくと、診察のときに役立ちます。
- 予防接種を受けた日は記録しておきましょう。治療の内容によって受けられるワクチンが変わります。
医療治療
治療は大きく分けて、(1) 免疫の働きを抑えて抗体ができるのを減らすお薬(ステロイド薬や、免疫を調整するお薬など)、(2) 抗体をからだから取り除いたり、免疫の働きを調整したりする点滴の治療、(3) 不足した血液を補う輸血(赤血球や血小板)、といった方法を組み合わせます。お薬の種類や量、始め方・減らし方は、症状の強さや検査の値を見ながら医師が決めます。自己判断で飲み方を変えたり、急にやめたりすると危険なことがあるので、必ず主治医の指示に従ってください。治療の選択肢は年々増えており、専門医と相談しながら自分に合う方法を探していくことが大切です。
手術が検討される場合
お薬や点滴でうまくコントロールできない場合に、血小板を壊す場になっている脾臓(ひぞう)を摘出する手術を検討することがあります。ただし、脾臓を取ると感染症にかかりやすくなるため、手術の前に予防接種などの準備が必要です。すべての方に行う治療ではなく、年齢や症状、他の治療への反応を見て総合的に判断されます。
この病気と共に生きる
エバンス症候群は、症状が落ち着く時期と、また出てくる時期をくり返すことがあります。調子が良い日も油断せず、決められた通院と採血を続けることが、大きな出血やひどい貧血を防ぐことにつながります。疲れやすいときは「休むこと」も治療の一部だと考えて、予定を詰め込みすぎないようにしましょう。
生活習慣のアドバイス
- 睡眠をしっかりとり、疲れたらこまめに休みましょう。
- 手洗い・うがい・マスクなど、感染症の予防を心がけましょう。
- 転倒やけがを防ぐため、浴室や階段に滑りにくい工夫をすると安心です。
- 飲酒や喫煙は体の負担になるため、控えめにしましょう。
- 通院の予定はスマートフォンなどで管理し、忘れないようにしましょう。
- 手術や歯科治療、予防接種の前に、必ずエバンス症候群であることを伝えましょう。
食事と運動
特別に「これを食べれば良くなる」という食事はありません。バランスのよい食事で、鉄分やタンパク質、葉酸などをしっかりとることが、貧血のある方には役立ちます。サプリメントは自己判断で始めず、主治医や薬剤師に相談してください。運動は、体調が安定しているときには散歩や軽い体操など無理のない範囲で続けることが、体力づくりや気分転換に役立ちます。血小板が少ない時期や治療中は、ぶつかる可能性のある激しい運動は控え、主治医に相談しましょう。
精神的健康と心の健康
「また悪くなったらどうしよう」という不安や、疲れやすさによるストレスを感じるのは自然なことです。特に見た目ではわかりにくい病気のため、周囲に理解されにくく、つらさを一人で抱えてしまいがちです。気持ちが落ち込む状態が2週間以上続く、眠れない、不安で日常生活がつらいといったときは、早めに主治医や地域の相談窓口に話してください。日本では、お住まいの地域の保健所や保健センター、かかりつけ医が相談先になります。つらい気持ちが強いときや、自分を傷つけたい気持ちがわいてきたときは、一人で抱えず、すぐに医療機関や地域の緊急の相談窓口に連絡してください。
予防
エバンス症候群そのものを完全に防ぐ方法は、今のところわかっていません。ただし、症状を悪化させないためにできることはたくさんあります。感染症を予防すること、決められた通院と検査を続けること、自己判断でお薬をやめないこと、体調の変化を早めに相談することが大切です。他の自己免疫の病気がある方は、その治療をきちんと続けることも、早期発見につながります。
ワクチン
免疫を抑える治療を始める前や、脾臓を摘出する前には、予防接種の計画をあらかじめ立てることが大切です。治療中は、生ワクチン(生きた菌やウイルスを使うワクチン)を受けられないことがあります。ワクチンの種類と時期は必ず主治医と相談し、接種後は記録を残しておきましょう。
検診プログラム
他の自己免疫の病気や免疫不全がないか、定期的な血液検査で確認することがあります。健康診断で貧血や血小板の異常を指摘されたら、早めに医療機関に相談しましょう。
合併症
治療しない場合
- 貧血が進み、強い疲れ、息切れ、動悸、失神が起きることがあります。
- 血小板が大きく減ると、鼻血や歯ぐきの出血が止まりにくくなり、頭の中や消化管などに重大な出血を起こす危険があります。
- 好中球が減ると、細菌やウイルスによる感染症にかかりやすくなります。
- 治療で免疫を抑えている期間は、感染症のリスクが上がります。
- 長く続くと、疲れやすさから仕事や学校生活に影響が出ることがあります。
- まれに、血液の固まり(血栓)ができやすくなる状態を伴うことがあります。
長期的な見通し
エバンス症候群は長く付き合うことの多い病気ですが、多くの方は治療によって貧血や出血を抑え、ふだんどおりの生活を送れています。小児では自然に落ち着くこともあり、大人でも治療を続けながら安定した状態を保てる方がたくさんいます。症状が落ち着いたり出たりをくり返すことはありますが、それは「治らない」ということではありません。定期的な通院を続け、気になることを主治医に相談しながら、一人ひとりに合ったペースで進んでいくことが大切です。
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最終更新: 2026年10月23日
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