目の腫瘍(眼腫瘍)——眼のがんについて知る
概要
眼腫瘍(がんしゅよう)とは、目のどこかにできる「できもの(腫瘍)」のことです。腫瘍には、大きくなっても体のほかの部分に広がらない「良性(りょうせい)」のものと、周りの組織を壊したり体のほかの部分に広がったりする「悪性(あくせい)」のものがあります。悪性のものを一般に「がん」と呼びます。眼のがんは、まぶた、白目(結膜)、目の奥の膜(ぶどう膜)、網膜、目の周りのリンパ組織など、さまざまな場所にできます。場所によって症状や治療の方法が大きく変わるのが特徴です。
重要な事実
- 眼のがんは、できる場所によって種類がまったく異なります。子どもによくみられる網膜芽細胞腫(もうまくがさいぼうしゅ)と、成人に多いぶどう膜悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)は別の病気です。
- 眼のがんは、ほかの部位のがんに比べてとてもまれです。多くの場合、目の症状が先に見つかるきっかけになります。
- 早期に見つけて治療すれば、視力を保てることも多くあります。気になる症状が続くときは、早めに眼科で相談することが大切です。
眼のがんは、すべてのがんの中でも非常にまれな部類に入ります。日本では、子どもの網膜芽細胞腫はおよそ1万5千〜2万人に1人程度で発症するといわれ、成人のぶどう膜悪性黒色腫も年間で人口100万人あたり数人程度とされています。ただし、まぶたや白目にできる良性のできもの(ほくろや嚢腫など)は比較的よくみられます。
網膜芽細胞腫は主に5歳以下の子どもに見つかることが多く、多くは3歳までに診断されます。成人では、ぶどう膜悪性黒色腫が50〜70歳代に多く、眼のリンパ腫(悪性リンパ腫の一種)は高齢者に多い傾向があります。まぶたや結膜の腫瘍は、年齢を問わず幅広くみられます。
症状
- 突然、片方の目が見えなくなった(数分〜数時間以内に急に視力が失われた)
- 激しい目の痛みとともに、急に目が見えにくくなった
- 目から大量に出血している、または外傷のあとに目の中身が見えるような状態がある
- 意識がもうろうとする、けいれんがあるなど、全身の状態が急に悪くなった
- ⚠飛蚊症(黒い点や糸くずのようなもの)が急にたくさん増えた
- ⚠光視症(光のちらつき)が急に増えた、または視野の一部が急に欠けて見える
- ⚠眼球が急に突出してきた、まぶたが急に下がってきた
- ⚠目の痛みが数日続き、痛み止めを使っても改善しない
- ⚠まぶたのできものが急に大きくなった、繰り返し出血する
- ⚠お子さんの瞳孔が白く見えた、または急に斜視が出てきた
一般的な症状
- 視力がぼやける、かすむ、見えにくくなる(眼鏡を変えても改善しない)
- 視野の一部が欠ける、暗く感じる
- 飛蚊症(ひぶんしょう:目の前に糸くずや黒い点が浮いて見えること)が急に増える
- 光のちらつき(光視症:ないはずの光がピカッと見えること)が続く
- 白目やまぶたに、色のついたできもの・ほくろのようなものができる
- まぶたのできものが、出血したり、かさぶたになったりを繰り返す
- 目の痛みや違和感が続く
- 眼球が少し出てきたように感じる、まぶたが下がってきたように見える
子供の症状
- 瞳孔(ひとみ)が白っぽく見える(白色瞳孔。写真のフラッシュで目が白く光ることで気づかれることもあります)
- 斜視(しゃし:片方の目が別の方向を向いてしまうこと)が出てきた
- 目の充血が続く、涙がよく出る
- 目の前のおもちゃを取ろうとしない、目で追わないなど、見えにくそうな様子がある
- まぶたの腫れや目の腫れが続く
高齢者の症状
- 高齢者では、眼のリンパ腫(悪性リンパ腫の一種)が比較的多くみられ、目の充血や違和感が長引くことがあります
- 見えにくさを「年のせい」と我慢してしまい、受診が遅れることがあります
- まぶたの腫瘍は、加齢による皮膚の変化と見分けにくいことがあります。治らない傷やできものは相談を
- ほかの病気(糖尿病や高血圧など)の通院中に、目の異常を指摘されて見つかることもあります
原因
主な原因
- 眼のがんの多くは、はっきりした原因がわかっていません。細胞の中の遺伝子(体の設計図にあたるもの)に変化が積み重なって起こると考えられています。
- 網膜芽細胞腫は、目の網膜ができる過程にかかわる遺伝子(RB1遺伝子)の変化が関係しています。両親から受け継ぐ場合もありますが、その場合は約4割程度とされ、多くは生まれてから偶然起こった変化によるものです。
- ぶどう膜悪性黒色腫は、目の色素を作る細胞(メラノサイト)ががん化して起こります。紫外線(日光に含まれる光)が関係するといわれています。
- 眼のリンパ腫は、体の免疫に関わるリンパ球という細胞が、目の内部でがん化して起こります。
- まぶたや結膜の腫瘍には、良性のもの(ほくろ、嚢腫、乳頭腫など)が多く、悪性のものはその一部です。
リスク要因
- 日光(紫外線)への長期的な曝露(特に屋外での仕事やレジャーが多い人)
- 色の薄い目(虹彩が明るい色)、白い肌、日焼けしやすい体質
- 年齢(成人の眼腫瘍は中高年以降に多い)
- 網膜芽細胞腫の家族歴がある(遺伝性の場合、子どもの発症リスクが高まります)
- 免疫の働きが低下する状態や、免疫を抑える治療を受けている
- 一部の遺伝性の症候群(医師から説明がある場合があります)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 飛蚊症や光視症が急に増えた、視野の一部が欠けて見える(網膜剥離などの可能性があるため、当日中に眼科へ)
- 急に視力が低下した、目が激しく痛む
- お子さんの瞳孔が白く見える、急に斜視が出てきた
- まぶたのできものが出血を繰り返す、急に大きくなった
- 眼球が突出してきた、まぶたが下がってきた
定期受診を予約すべき場合:
- 数週間以上、視界のかすみや見えにくさが続いている
- 白目やまぶたに、色のついたできものや治らない傷がある
- いつもと同じ眼鏡やコンタクトで見えにくくなった
- 目の充血や違和感が長引いている
- 健康診断やほかの診察で、目の異常を指摘された
診断
眼のがんの診断は、主に眼科で行われます。まず、目の中を詳しく観察する検査(眼底検査など)で腫瘍の場所や大きさを確認します。多くの場合、目の中の様子は外から直接観察できるため、ほかの部位のがんよりも観察しやすいという特徴があります。必要に応じて画像検査や組織を採る検査(生検:せいけん)を行い、良性か悪性か、どの種類かを判断します。また、体のほかの部分に広がっていないかを確認する検査も行われます。
行われる可能性のある検査
- 視力検査・眼圧検査:見え方と目の硬さを調べます
- 細隙灯顕微鏡検査(さいげきとうけんびきょう):目の表面や前の方をもとに詳しく観察します
- 眼底検査:目薬で瞳を広げて、目の奥(網膜やぶどう膜)を観察します
- 超音波検査(エコー):目の奥の腫瘍の大きさや厚みを調べます
- OCT(光干渉断層計):網膜の断面を画像にして、むくみや変化を調べます
- 蛍光眼底造影検査:血管の様子を調べ、腫瘍の性質を推測します
- CT・MRI検査:腫瘍の広がりや、体のほかの部位への広がりを確認します
- 生検(組織検査):腫瘍の一部を採って、良性か悪性かを確定します(目の奥の腫瘍では行わないこともあります)
- 血液検査・全身の画像検査:全身の状態や転移の有無を確認します
診察で予想されること
検査は外来で行えるものがほとんどです。瞳を広げる目薬を使うと、数時間は見えにくくなり、まぶしさを感じることがあります。その日は車の運転を避け、誰かに付き添ってもらうと安心です。検査結果が出るまでに数日〜1週間ほどかかることがあります。待っている間は不安な気持ちになるかもしれませんが、結果がわかることで今後の方針を一緒に考えることができます。診察室では、気になることをメモして質問するとよいでしょう。
治療
眼のがんの治療は、腫瘍の種類・大きさ・場所、年齢、視力を保てるかどうか、体のほかの部分への広がりの有無などを総合して決めます。治療の目的は、腫瘍をコントロールすることと、できるだけ見え方を保つことの両立です。治療の選択肢は複数あり、担当医とよく相談して決めていきます。セカンドオピニオン(別の医師の意見を聞くこと)を求めることもできます。
自宅でのセルフケア
- 治療中は、目をこすったり強く押したりしないようにしましょう
- 医師から指示された目薬や点眼は、自己判断で中止せず、決められたとおりに使いましょう
- 紫外線対策(帽子、サングラス)を日常的に心がけましょう
- 禁煙を心がけましょう。禁煙は全身の健康にも役立ちます
- 治療の副作用や体調の変化は、我慢せずに記録して医師・看護師に伝えましょう
- 定期的な通院を欠かさず、指示された検査を受けましょう
医療治療
治療にはいくつかの方法があり、組み合わせて行うこともあります。放射線で腫瘍を小さくする治療、レーザー光で腫瘍を焼く治療、凍結させて壊す治療、腫瘍に栄養を送る血管をふさぐ治療などがあります。腫瘍の種類によっては、抗がん剤(細胞の増殖を抑える薬)を使う治療や、免疫の働きを利用する治療、分子標的薬と呼ばれるタイプの薬が使われることもあります。使う薬や量は、腫瘍の種類・進行度・体の状態に合わせて医師が決めます。副作用には吐き気、疲れやすさ、感染しやすくなることなどがあり、副作用をやわらげる工夫も行われます。具体的な薬の名前や量については、必ず担当医・薬剤師に確認してください。
手術が検討される場合
手術が選ばれるのは、腫瘍がまぶたや結膜など表面にあり取り除ける場合、腫瘍が大きくてほかの治療ではコントロールが難しい場合、視力を保つことが難しいほど進行している場合などです。目の奥の腫瘍では、眼球そのものを摘出する手術(眼球摘出)が必要になることがあります。この場合も、摘出したあとの見た目を整える「義眼(ぎがん)」という人工の目を作る方法があり、外見を自然に保つことができます。手術の必要性や方法は、担当医から詳しい説明を受けたうえで決めましょう。
この病気と共に生きる
眼のがんと診断されると、見え方の変化や通院の負担など、日常生活にさまざまな影響が出ることがあります。片方の目の見え方が変わっても、もう片方の目が補ってくれることが多く、多くの人は工夫しながら日常生活を続けています。見えにくさを感じたら、無理をせず、拡大鏡や読み上げ機能付きの機器、照明の工夫など、生活を助ける道具を取り入れましょう。
生活習慣のアドバイス
- 外出時は帽子やUVカットのサングラスで紫外線を避けましょう
- 転倒しないよう、家の中の動線を整理し、照明を明るくしましょう
- 車の運転は、見え方の変化に応じて医師に相談しましょう
- 睡眠を十分にとり、無理のない範囲で体を動かしましょう
- 飲酒はほどほどにし、禁煙を心がけましょう
- 目の疲れを感じたら、こまめに休憩しましょう
食事と運動
特別な食事制限が必要になることは多くありませんが、バランスのよい食事は治療中の体力づくりや回復を助けます。野菜・果物・たんぱく質をバランスよく摂り、塩分を控えめにしましょう。運動は、担当医に相談しながら、ウォーキングなど無理のない範囲で続けると、体力維持や気分転換につながります。治療中は感染予防のため、人混みを避け、手洗いを丁寧に行いましょう。
精神的健康と心の健康
「がん」という言葉を聞くと、強い不安や恐怖を感じるのは自然なことです。診断直後は眠れない、気持ちが落ち着かない、涙が出るといった反応が起こることもあります。これは弱さではなく、誰にでも起こりうる反応です。気持ちを一人で抱え込まず、家族や友人、医療者に話してみてください。病院には、がん相談支援センターや医療ソーシャルワーカー、心理職などの相談窓口があります。つらい気持ちが続くときは、遠慮なく声をかけてください。
予防
眼のがんの多くは、はっきりした予防法が確立していません。ただし、紫外線への曝露を減らすこと(帽子やサングラスの使用)、禁煙、そして気になる症状を早めに眼科で相談することが、リスクを下げる、あるいは早期に発見する助けになると考えられています。網膜芽細胞腫の家族歴がある場合は、遺伝カウンセリングを受けることで、次のお子さんのリスクについて相談できます。
検診プログラム
日本では、眼のがんだけを対象とした公的な集団検診は行われていません。子どもの網膜芽細胞腫は、乳幼児健診の際に目の様子を確認することが早期発見につながります。写真撮影のときに瞳孔が白く写る、斜視があるなど気になる様子があれば、健診を待たずに眼科を受診しましょう。成人の場合は、症状がなくても、糖尿病などの通院中や健康診断の機会に眼科でのチェックを受けると安心です。
合併症
治療しない場合
- 腫瘍が大きくなることで、視力の低下や視野の欠けが進むことがあります
- 網膜剥離(もうまくはくり)や緑内障(りょくないしょう)を起こし、目の痛みや見えにくさが強くなることがあります
- 腫瘍が目の外に広がったり、血液の流れに乗って体のほかの臓器(肝臓や肺など)に転移したりする可能性があります
- 眼球を摘出する治療が必要になることがあります
- 見えにくさから転倒やけがのリスクが高まることがあります
長期的な見通し
眼のがんはまれな病気ですが、早期に見つかれば治療の選択肢が多く、視力を保てる可能性も十分にあります。治療法はこの数十年で大きく進歩しており、腫瘍のコントロールと生活の質の両立を目指せるようになってきました。網膜芽細胞腫は、適切な治療を受けた場合の生存率は非常に高いとされています。ぶどう膜悪性黒色腫も、早期であれば予後は良好です。治療後の見え方や生活については、医療者と相談しながら、自分に合った工夫を見つけていくことができます。
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最終更新: 2026年10月23日
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