トラコーマ(眼トラコーマ)
概要
トラコーマは、クラミジアという細菌が目に感染して起こる目の病気です。白目とまぶたの裏側をおおう薄い膜(結膜=けつまく)に炎症が起きます。一度治っても何度も感染を繰り返すと、まぶたの裏側に「きずあと(瘢痕=はんこん)」が残り、進行するとまつ毛が内側に曲がって眼球の表面を傷つけることがあります。日本語では「顆粒性結膜炎(かりゅうせいけつまくえん)」と呼ばれることもあります。日本では現在ほとんど見られませんが、世界の一部の地域では視力を失う原因として今も重要視されている病気です。
重要な事実
- 原因はクラミジアという細菌で、目やにや涙、それに触れた手やタオルなどを通じて人から人へ広がります。
- 最初は目の充血や目やになど軽い症状が多く、気づかれないことがあります。
- 感染を繰り返して放置すると、まつ毛が内側に向いて角膜(黒目の表面)を傷つけ、視力が低下することがあります。
- 世界保健機関(WHO)は対策を進めており、世界の患者数は大きく減ってきています。
日本では、戦後しばらくまでは珍しくない病気でしたが、衛生状態の改善とともに現在はほとんど報告されていません。世界では、アフリカ、中東、アジア、中南米の一部の地域で、きれいな水やトイレなどが整いにくい環境を中心に見られます。
特に子どもに多く見られ、感染を繰り返すうちに、大人になってからまつ毛の曲がりや角膜の傷といった合併症が出てきます。子どもの世話をする機会が多い女性は、接触の機会が多く影響を受けやすいとされています。きれいな水が十分に使えない、洗面やトイレの設備が整っていない、ハエが多いといった環境が背景になります。
症状
- 突然、視力が大きく失われた(ものが見えなくなった)
- 目の激しい痛みに、頭痛や吐き気・嘔吐をともなう
- 目に薬品が入った、または目に強いけがをした
- 目のまわりが急に大きく腫れて、発熱もある
- ⚠視力が急に悪くなった、かすむ
- ⚠目の強い痛みが続く
- ⚠まつ毛が眼球に当たって、痛みやごろごろ感が強く続く
- ⚠角膜(黒目の表面)が白く濁ってきた
- ⚠目やにが大量に出て、目が開けにくい
- ⚠光がとてもまぶしく、目を開けていられない
一般的な症状
- 目が赤くなる
- 目やにが出る(黄色っぽい、糸を引くような目やに)
- 涙が増える、涙目になる
- まぶたの裏側にざらつきや違和感がある
- 目がゴロゴロする、かゆい
- 光がまぶしく感じる
- まぶたが腫れぼったい
子供の症状
- 症状が軽く、自分から訴えないことが多い
- 目やにや涙目、少しの充血が続く
- 目をよくこする、まぶたを気にするしぐさが見られる
- 繰り返す感染の結果、数年かけてまぶたの裏側にきずあとができていく
高齢者の症状
- まつ毛が内側に向かって生える(さかまつ毛=さかまつげ)
- まつ毛が角膜に当たり、痛みやごろごろ感が続く
- 角膜が傷ついたり白く濁ったりして、視力が低下する
- 涙が止まらない、光がまぶしい
- まぶたの形が変わり、目が開けにくくなることがある
原因
主な原因
- クラミジア・トラコマチスという細菌による目の感染
- 感染した人の目やにや涙、それに触れた手・タオル・衣類などを介して広がる
- ハエが目やにに集まり、そのハエが別の人の目に触れて広がることもある
- 汚れた手で目をこすったり、同じタオルを家族で共有したりすると感染しやすい
- 一度治っても再感染を繰り返すことで、まぶたの裏側に少しずときずあとが積み重なる
リスク要因
- トラコーマが多い地域に住んでいる、または長く滞在した
- きれいな水が十分に使えず、顔や手を洗いにくい環境にいる
- トイレや洗面設備が整っていない
- 家族や周囲に子どもが多く、接触が密になりやすい
- 医療機関を受けにくい、または治療が途中で終わってしまう
- ハエが多い環境
- 貧困や住環境の問題を抱えている
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 視力が急に落ちた、ものが見えにくくなった
- 目の強い痛みがある
- まつ毛が目に当たって、痛くて仕方がない
- 黒目の表面が白く濁ってきた気がする
- 目やにが多く、目が開けられない
定期受診を予約すべき場合:
- 目の赤みや目やにが1〜2週間以上続く
- 目がゴロゴロする、かゆい、違和感が続く
- 光がまぶしく感じることが増えた
- まつ毛が内側に向いている気がする、目に当たる感じがする
- トラコーマが多い地域に滞在したあと、しばらくして目の不調が続いている
診断
眼科で症状を聞き取り、目を詳しく診察して診断します。まぶたの裏側の状態や角膜の傷を確認し、必要に応じて目のぬぐい液をとって病原体を調べます。日本ではまれな病気なので、海外での滞在歴なども診断の手がかりになります。
行われる可能性のある検査
- 視力検査
- 細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)検査:目を拡大して観察する機器で、まぶたの裏側や角膜を詳しく見る
- 結膜のぬぐい液検査:病原体の遺伝子や培養を調べる
- 蛍光色素を使った角膜の傷の確認
- 場合によっては、まぶたの裏側の組織を少量とって調べる
診察で予想されること
検査はどれも短時間で終わり、多くは痛みがありません。ぬぐい液をとるときに、少ししみる程度の不快感があることがあります。結果が出るまで数日かかる検査もあります。
治療
治療の柱は3つです。①抗菌薬で菌を減らすこと、②まつ毛の曲がりや角膜の傷に対する処置、③再感染を防ぐための衛生対策です。症状の重さやまぶたの状態に合わせて、医師が組み合わせを決めます。
自宅でのセルフケア
- 石けんと清潔な水で、顔と手をこまめに洗う
- タオル・ハンカチ・枕カバー・化粧品は家族と共有しない
- 目をこすらない。かゆいときは清潔なティッシュで軽く押さえる
- 目やにに触れたあとは必ず手を洗う
- 家族にも同じ衛生対策を一緒にしてもらう
- 処方された目薬や飲み薬は、症状が良くなっても自己判断でやめず、指示どおりに使う
- コンタクトレンズは、医師に確認するまで使用を控える
医療治療
主に抗菌薬を使って菌を減らします。飲み薬か目薬のどちらを使うか、どのくらいの期間使うかは、年齢や症状、妊娠の有無などに合わせて医師が判断します。目の乾きや不快感には、うるおいを保つ目薬が使われることもあります。流行地域では、地域全体で一斉に治療を行う取り組みが効果をあげています。抗菌薬は指示された期間きちんと使うことが、再発を防ぐうえで大切です。
手術が検討される場合
まつ毛が内側に向いて角膜を傷つけている場合は、まつ毛の向きを正しく戻す手術を行います。これは視力を守るためにとても重要で、比較的短時間の手術です。まぶたのきずあとでまぶたの形が変わってしまった場合も、手術が検討されます。手術の適応や方法は眼科医が判断します。
この病気と共に生きる
症状が落ち着いている時期も、清潔を保つことがいちばんの味方です。処方された薬は指示どおりに続け、定期的に眼科で目の状態を確認してもらいましょう。まつ毛が目に当たる感じや視力の変化に気づいたら、早めに受診してください。
生活習慣のアドバイス
- 帰宅時と食事前の手洗いを習慣にする
- 顔を毎日きれいな水で洗う
- タオルや枕カバーをこまめに洗濯する
- ハエが入らないよう、部屋の換気やゴミの管理に気をつける
- 子どもが目をこすっていたら、さりげなく様子を見て、続くようなら受診する
- 家族全員で同じ対策に取り組む
食事と運動
トラコーマに特別な食事制限はありません。バランスの良い食事と十分な睡眠は、感染と戦う力を保つ助けになります。運動はふだんどおりで大丈夫ですが、汗を拭くときは清潔なタオルを使い、目をこすらないようにしましょう。
精神的健康と心の健康
視力がどうなるだろうという不安、人にうつしてしまうのではないかという心配、目の見た目の変化への悩みなど、気持ちが落ち込むことは自然なことです。日本ではとてもまれな病気なので、周囲に経験者がおらず、孤独に感じることもあるかもしれません。つらいときはひとりで抱え込まず、眼科医や保健師、家族に話してみてください。気持ちのつらさが続くときは、地域の保健所や医療機関の相談窓口を利用できます。自分や子どもの目を守るために、早めに助けを求めることは、大切な一歩です。
予防
はい、予防できます。きれいな水で顔と手を洗うこと、タオルを共有しないこと、ハエを減らすこと、そして感染に早く気づいて治療することが大切です。流行地域では、地域全体で取り組むことで感染そのものを減らせることがわかっています。
ワクチン
現在、トラコーマを予防するワクチンはありません。日々の衛生習慣が最も大切な予防法です。
検診プログラム
トラコーマが多い地域では、地域ぐるみの目の検査や一斉治療が行われています。日本では日常的に検査を受ける必要はありません。流行地域に住んでいた、または滞在したあとに目の症状が続く場合は、眼科で相談してください。
合併症
治療しない場合
- まぶたの裏側にきずあと(瘢痕)が残る
- まつ毛が内側に向かって生える(さかまつ毛)
- まつ毛が角膜を傷つけ、傷や濁りができる
- 視力が低下する
- 繰り返す目の痛みや感染
- 重症になると失明に至ることがある(世界的には感染症による失明の主な原因のひとつ)
長期的な見通し
早い段階で治療を始めれば、多くは良好な経過が期待できます。抗菌薬で感染を抑え、必要なら手術でまつ毛の向きを戻すことで、視力を守ることができます。世界ではWHOの対策により患者数が大きく減ってきており、希望のもてる状況です。定期的な通院と毎日の衛生習慣を続けることが、長く目を守る近道になります。
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最終更新: 2026年10月23日
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