子どもの病気を「つくりあげる」こと(FII・代理による作為症)
概要
FII(エフ・アイ・アイ)は、Fabricated or Induced Illness(つくりあげられる病気/意図的に起こされる病気)の略です。子どもなど、世話を必要とする人の看病をする人が、実際にはない病気があるように見せかけたり、ときには症状を意図的に起こしたりして、医療機関を受診させる状態を指します。以前は「代理ミュンヒハウゼン症候群」と呼ばれていました。大切なのは、これは「悪い親」というレッテルではないということです。ふつうの親の心配や受診の多さとは違い、背景には強い不安、孤立、こころの不調、助けてほしい気持ちなど、複雑な事情が重なっていることが多いとされています。子ども自身が症状を訴えるのではなく、周囲の大人が訴える点が特徴です。
重要な事実
- 医療者を困らせることが目的ではなく、助けや承認を求める気持ちなど、複雑な背景が関係していると考えられています。
- 症状を訴えるのは子ども本人ではなく、世話をする大人であることが多いのが特徴です。
- 必要のない検査・治療・入院が重なると、子どもに本当の害が及ぶことがあるため、子どもの安全を第一に考えます。
- 責めるのではなく、子どもと家族全体を支えるために、医師・看護師・心理職・保健師・児童相談所などがチームで関わります。
とても珍しい状態です。どれくらいの頻度で起きているかを正確に示すデータはなく、見逃されている例もあると考えられています。受診回数が多いことや、親が心配して何度も病院に連れて行くこと自体は、決して珍しいことではありません。
主に乳幼児から学童期の子どもに見られますが、年齢を問わず起こりえます。症状を作り出すのは、母親に限らず、父親や祖父母など、その子の世話をしている大人のことがあります。また、高齢者や障害のある人など、支援を必要とする大人が同じような状況に置かれることもあります。大人が自分自身について症状を作り出す場合は「作為症(虚偽性障害)」と呼ばれ、FIIとは区別されます。
症状
- 意識がない、呼びかけへの反応がとても乏しい
- 呼吸が苦しそう、息が止まっているように見える
- けいれんが続いている、または意識が戻らない
- 嘔吐や下痢がひどく、水分がとれずぐったりしている
- 誤飲・窒息の疑いがある、頭を強く打った、説明のつかないけががある
- 唇や顔色が青白い、体温がとても低い・高い
- ⚠症状が急に悪くなった、いつもと明らかに様子が違う
- ⚠同じ症状で短い間に何度も受診している
- ⚠食事・睡眠・学校生活など、日常生活が保てなくなっている
- ⚠看病している家族が疲弊し、支えが必要だと感じている
一般的な症状
- 大人が話す症状と、医療者が実際に観察した子どもの様子との間に、大きな差がある
- 医療者によって話す症状が変わったり、次々と新しい症状が増えたりする
- 検査をしても、症状を説明できる異常が見つからない、または同じ検査が何度も繰り返される
- 受診や入院の回数が非常に多い、複数の医療機関を同時に受診している
- 世話をする人の前でだけ症状が強く出て、その人が離れると落ち着く
- 医療用語にとても詳しい、医療者への要求が強い、治療方針に強く介入する
- 子どもの生活が病気中心になり、学校や外遊びが長期間制限されている
子供の症状
- 親などが訴える発熱・けいれん・嘔吐・アレルギーなどの症状が、第三者の前では見られない
- 身長・体重の増え方が、聞いている話と合わない
- はっきりした異常が出ないまま、入院や検査が何度も繰り返される
- 学校に行けない、友だちと遊べないなど、日常生活が大きく制限されている
- 子ども自身が「自分は重い病気だ」と強く思い込んでいるように見えることがある
高齢者の症状
- 介護する人が訴える体調の悪さと、客観的な検査の結果が合わない
- 必要以上に通院や入院が繰り返されている
- 元気や表情が、特定の人の前でだけ大きく変わる
- 説明のつかないけがや体調の変化が繰り返される
原因
主な原因
- はっきりした単一の原因は分かっていません。強い不安や孤立、こころの不調、過去のつらい経験、助けてほしいという気持ちなどが重なって起こると考えられています。
- 本人が意図的に「だます」つもりでいるとは限らず、自分の不安をどう扱えばよいか分からないまま、行動がエスカレートしていくこともあります。
- 医療機関との関係の中で、検査や入院が繰り返されるうちに、病気をめぐるやりとりが家族の生活の中心になってしまうことがあります。
リスク要因
- 養育者自身の強い健康不安や、こころの不調(不安、抑うつなど)
- 子育ての孤立、経済的な負担、家族や地域からの支えの少なさ
- 過去の医療体験やつらい出来事の影響
- 子どもの年齢が小さく、自分の症状を言葉で説明できない
- 慢性の病気があり、もともと医療との関わりが多い子ども
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 子どもの意識・呼吸・けいれんなど、命に関わる様子があるときは、すぐに119番へ連絡してください。
- 症状が急に悪くなった、日常生活が保てないときは、その日のうちに医療機関に相談してください。
- 子どもへの虐待が心配されるときは、ためらわず救急(119)や警察(110)、お住まいの地域の児童相談所の窓口に連絡してください。
定期受診を予約すべき場合:
- 医師に話した症状と、家で見ている様子が合わないと感じることが続くとき
- 受診の回数が多く、自分でもどう整理してよいか分からないとき
- 子育ての不安や孤立が強く、誰かに話を聞いてほしいとき
- 家族の中で病気の話ばかりになり、生活が苦しくなっているとき
診断
1回の検査や診察で分かるものではありません。小児科医、看護師、心理職、ソーシャルワーカー、地域の保健師、必要に応じて児童相談所などが協力し、これまでの受診記録を時系列で見直し、症状がどのような場面で現れるかを丁寧に観察して判断します。誰かを責めるためではなく、子どもの安全と家族への支援を決めるために行うプロセスです。
行われる可能性のある検査
- 症状に応じた基本的な検査(血液検査や尿検査など)で、本当の病気がないかを確認する
- これまでの受診歴・検査結果・入院歴の記録を整理して見直す
- 別の医療者が、違う場面での子どもの様子を観察する
- 必要に応じて、こころや発達の面の評価を行う
- 検査をむやみに増やさず、必要なものに絞ることが大切にされる
診察で予想されること
診断までには時間がかかることが多く、何度か話を聞かれることもあります。家族の気持ちや困りごとも合わせて聞き取られます。話し合いの内容は守秘され、支援につなぐために使われます。保護者が非難される場ではなく、一緒に考える場であることが大切にされます。
治療
何よりもまず、子どもの安全を第一に考えます。そのうえで、医療との関わり方を整理し(かかりつけ医を1人決めて相談を集約するなど)、必要のない検査や入院を減らしていきます。同時に、家族全体への支援を行います。看病する人のこころのケア、生活面のサポート、地域とのつながりづくりが中心になります。子どもへの支援と、養育者への支援は、どちらも欠かせません。
自宅でのセルフケア
- 症状が出た日時や様子、受診の記録を、簡単に書き留めておく
- かかりつけ医を1人決めて、そこに相談を集める
- 自分の疲れや不安も、遠慮なく医療者や保健師に話す
- 一人で抱え込まず、家族・友人・地域の子育て支援につながる
- 短時間でも子どもを信頼できる人に預け、自分の休息の時間をつくる
医療治療
医療チームが継続的に観察し、記録を整理しながら、不要な検査や治療を控える方針を一緒に決めていきます。看病する人のこころの健康については、カウンセリングや心理的な支援、家族全体での話し合いなどが検討されます。生活面の支援や、地域の関係機関との連携も行われます。状態に応じて薬が必要と判断される場合もありますが、その判断は専門の医師が一人ひとりの状況を見て行います。入院が必要な場合も、子どもを守るための環境を整える目的で行われます。
手術が検討される場合
手術はFIIそのものの治療法ではありません。この状態でとくに気をつけたいのは、必要のない手術を受けないようにすることです。手術が必要かどうかは、客観的な所見をもとに複数の専門家が相談して判断します。
この病気と共に生きる
受診の予定を整理し、症状の記録をシンプルにまとめることから始めると、家族の負担が軽くなります。医療者とは1人の窓口を通して話すようにすると、情報が行き違いになりにくくなります。家族の中で「今日は子どもが元気だったこと」を話題にする時間を意識して増やすのも助けになります。
生活習慣のアドバイス
- 睡眠と休息をできるだけ確保する
- 信頼できる人に気持ちを話す時間をつくる
- 地域の子育て支援や保健師との定期的な連絡を保つ
- 病気の話以外の、家族の楽しい時間を意識してつくる
食事と運動
医学的に必要と言われていない限り、特別な食事制限は必要ありません。子どもも大人も、バランスのよい食事と、日常的な体を動かす遊びが基本です。過度な食事の制限や、根拠のない健康法に頼ることは避け、気になることがあればかかりつけ医に相談してください。
精神的健康と心の健康
看病する人も子どもも、強い不安、罪悪感、孤立感を抱えやすい状態です。こころの不調は治療できますし、支援を求めることは弱さではありません。つらさが続くとき、ひとりで抱えきれないと感じるときは、かかりつけ医やお住まいの地域の保健所・精神保健福祉センターなど、相談できる窓口に連絡してください。命に関わるほど追い詰められていると感じたら、すぐに救急(119)を呼ぶか、地域の緊急の相談窓口を頼ってください。
予防
FIIを完全に防ぐ方法は確立していません。ただし、子育ての孤立を減らし、養育者が早い段階で支援につながれるようにすることは、リスクを下げる助けになると考えられています。医療機関側も、記録を共有し、受診の状況を継続して見守ることが大切です。
検診プログラム
決まったスクリーニング検査はありません。乳幼児健診や子育て相談の場で、気になっていることを率直に話してみることが、早期の支援につながります。
合併症
治療しない場合
- 必要のない検査・治療・手術によって、子どもの体に実際の害が及ぶことがある
- 本当の病気があった場合に、見逃されたり治療が遅れたりする
- 子どもの成長・発達や、学校生活、友人関係に影響が出る
- 子どもと家族の心に傷が残り、関係が難しくなる
- 家族が地域から孤立し、支援が届きにくくなる
長期的な見通し
適切な支援につながることで、子どもが安全に育ち、家族が関係を立て直していくことは少なくありません。時間はかかることがありますが、早い段階で支援を求めるほど、よい方向に向かいやすいとされています。ひとりで抱え込まず、専門家と一緒に考えていくことが何よりの力になります。
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最終更新: 2026年10月23日
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