第VII因子欠乏症(血が止まりにくくなる病気)
概要
第VII因子欠乏症は、血を固めるために必要なタンパク質のひとつ「第VII因子(だいなな・いんし)」が足りない、またはうまく働かないために、出血が止まりにくくなる病気です。血は、いくつもの「凝固因子(ぎょうこいんし)」というタンパク質がリレーのようにつながって固まります。第VII因子はそのリレーの出発点にあたるため、これが足りないと血が固まるまでに時間がかかり、鼻血やあざ、抜歯や手術のあとの出血が長びくことがあります。生まれつきの型と、別の病気や薬が原因で後から起こる型があります。重症度は人によって大きく違い、ほとんど気づかない人もいます。
重要な事実
- 血液を固めるタンパク質のひとつが足りない、生まれつきの体質(または後から起こる状態)です。
- 症状の重さは、第VII因子がどれくらい残っているかで大きく変わります。軽い人は出血したときだけ気をつければよいことが多いです。
- 出血が長びく、あざが増える、鼻血が止まりにくいといった変化があれば、医療機関で相談してください。
とても珍しい病気です。生まれつきの型は、海外の報告ではおよそ30万〜50万人に1人くらいの頻度といわれています。日本では指定難病などの対象になっている場合もあり、診断されている人は多くありません。後から起こる型は、肝臓の病気やビタミンK不足などに伴って見られることがあります。
生まれつきの型は、男女の差はなく、両親から遺伝子を1つずつ受け継ぐことで起こります(常染色体劣性遺伝)。血のつながったご両親から生まれた場合などに多く見られることがあります。後から起こる型は、肝臓の病気がある人、ビタミンKが不足しやすい人、血を固まりにくくする薬を使っている人、赤ちゃん(ビタミンKが不足しやすい時期)などに見られます。
症状
- 頭を強く打ったあと、意識がぼんやりする、返事がおかしい
- 突然の激しい頭痛、何度も吐く、けいれん
- 出血が止まらず、顔色が青白い、冷汗が出る、ふらついて立てない
- 大量の吐血、コーヒー色の呕吐、黒くて大量の便
- 大きなケガや事故のあと、出血が続いている
- 呼吸が苦しい、胸やおなかの激しい痛み
- ⚠鼻血が20〜30分しっかり押さえても止まらない
- ⚠歯ぐきや口の中の出血が半日以上続く
- ⚠尿に血が混じる、便に血が混じる
- ⚠関節や筋肉が腫れて、動かすと強い痛みがある
- ⚠抜歯や手術のあとの出血が続いている
- ⚠月経の出血が異常に多く、ふらつく
- ⚠いつもと違う大きなあざが増えている
一般的な症状
- 鼻血が出やすく、なかなか止まらない
- 歯ぐきからの出血が続く
- ぶつけていないのにあざができやすい、あざが大きい
- 小さな切り傷や注射の跡からの出血が長びく
- 抜歯や手術のあとに出血が続く
- 月経の出血量が多い、期間が長い
- 便が黒っぽい、血が混じる(消化管からの出血)
- 尿に血が混じる
- 関節や筋肉が腫れて痛む(重い場合の内出血)
子供の症状
- へその緒の跡からの出血が長びく
- 頭に血のたまり(頭血腫)ができやすい
- 歩きはじめてぶつける機会が増えると、あざが目立つ
- 予防接種の注射のあと、出血が止まりにくい
- 歯が生え変わるときや歯みがきのときに出血しやすい
- 鼻をほじったあとの鼻血が止まりにくい
高齢者の症状
- 肝臓の働きの低下や、他の薬との組み合わせで出血しやすくなることがある
- 頭を打ったあとの脳の出血(頭蓋内出血)のリスクに注意が必要
- 転倒をきっかけにした内出血が目立つことがある
- 手術や抜歯の前に、かかりつけ医への相談が大切になる
- 貧血(息切れ、だるさ、めまい)を伴うことがある
原因
主な原因
- 生まれつきの型:第VII因子を作る遺伝子(F7遺伝子)の変化により、因子が足りない、または働きが弱い
- 肝臓の病気:凝固因子の多くは肝臓で作られるため、肝機能の低下で足りなくなることがある
- ビタミンK不足:第VII因子はビタミンKの助けで働けるようになるため、不足すると出血しやすくなる
- 血を固まりにくくする薬の使用:治療として使われている場合に、出血が長びくことがある
- 抗体(インヒビター)の発生:自分の第VII因子を攻撃するタンパク質ができ、働きが弱まることがある(まれ)
- 新生児期:生まれた直後はビタミンKが不足しやすく、出血が起こることがある
リスク要因
- 家族に同じ病気の人がいる、または出血しやすい人がいる
- 血のつながったご両親から生まれた家系
- 肝臓の病気がある
- ビタミンKが不足しやすい状態(胆道の病気、脂肪の吸収が悪い病気、長期間の入院や栄養不良)
- 血を固まりにくくする薬を使っている
- 手術、抜歯、出産など、出血を伴う出来事が予定されている
- 赤ちゃん(生後数か月)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 鼻血や歯ぐきの出血が、しっかり押さえても20〜30分以上止まらない
- 頭を打った、または強くぶつけたあと、痛みや吐き気、ぼんやりした感じがある
- 血便、血尿、黒い便がある
- 関節や筋肉が急に腫れて痛む
- 月経の出血が多く、立ちくらみや息切れがある
定期受診を予約すべき場合:
- あざが増えた、または理由に合わないほど大きいあざができる
- 鼻血をよくする、出血が長びく傾向があると感じる
- 家族に出血しやすい人がいる
- 抜歯や手術、出産を予定している(事前の相談が大切です)
- 妊娠を考えている、または妊娠中である
- 外国や他県から引っ越してきたあと、これまでの治療の引き継ぎをしたい
診断
まず、出血の様子(いつ、どこから、どれくらい続いたか)と、家族の出血歴、使っている薬、肝臓の病気の有無などをくわしく聞きます。そのうえで血液検査を行い、血が固まるまでの時間と、第VII因子の働きの量を調べます。必要に応じて遺伝子の検査や家族の検査も行われます。自己判断で「自分はこの病気だ」と決めつけず、必ず医療機関で確認してもらってください。
行われる可能性のある検査
- 問診と診察(出血の履歴、家族歴、薬の確認)
- 血液検査:血小板数、出血時間の目安、プロトロンビン時間(PT)、APTT など
- 第VII因子活性の測定(どれくらい働いているかを数値で確認)
- 混合試験:他の人の血漿を混ぜて改善するかを見て、抗体(インヒビター)の有無を確認
- 遺伝子検査(家族の診断や遺伝カウンセリングに役立つ)
- 家族の血液検査(無症状のご家族が見つかることがある)
- 出血部位を確認する画像検査(超音波、CT など)
診察で予想されること
診断までに何度か採血が必要になることがあります。結果が出るまで数日から数週間かかることもあります。結果が出たら、第VII因子の残り具合から「軽い・中等度・重い」の目安が説明され、日常生活で気をつけることや、出血時の対応、手術や抜歯のときの準備について相談します。
治療
治療の目的は、出血を止めること、そして出血を起こしにくくすることです。症状が軽ければ、出血したときだけ対応すればよいことが多く、重い場合には出血を防ぐための定期的な治療を考えることもあります。治療方針は、第VII因子の残り具合、出血の起こり方、生活スタイルによって一人ひとり違います。主治医とよく相談して決めていきましょう。
自宅でのセルフケア
- 出血したら、清潔なガーゼなどで10〜15分しっかり押さえる(圧迫止血)
- 鼻血は、座って少し前かがみになり、小鼻をつまんで押さえる。飲み込んだ血で気分が悪くならないよう、口から出す
- 頭を打ったときは、たとえ元気そうでも医療機関に相談する
- スポーツをするときは、すり傷や打撲を減らすための防具やプロテクターを活用する
- 出血を増やす可能性のある市販薬(痛み止めなど)は、使う前に医師や薬剤師に相談する
- やわらかい歯ブラシを使い、歯みがきのときに出血しにくい工夫をする
- 手術・抜歯・出産の予定は、必ず早めに主治医へ伝える
- 病名と主治医の連絡先を書いたカードを持ち歩く
医療治療
出血しているときや、手術・抜歯などの出血が予想されるときに、足りない凝固因子を補う注射の治療が行われます。軽い出血では、出血を抑える飲み薬や、鼻出血のための点鼻薬などが使われることもあります。重い型では、出血を予防するために定期的に補充する方法が検討されることがあります。どの治療をどのくらい使うかは、出血の程度や生活状況に合わせて主治医が判断します。具体的な薬の種類や量については、必ず主治医・薬剤師の説明を受けてください。
手術が検討される場合
手術や抜歯、出産などは出血が増えやすい場面です。事前に血液の専門医と相談し、凝固因子を補う計画を立ててから行うことが大切です。当日になって伝えるのではなく、予定が決まった時点で早めに相談しましょう。局所的な止血の工夫や、出血を抑える薬の併用が検討されることもあります。
この病気と共に生きる
第VII因子欠乏症があっても、多くの人はふだんどおりの生活を送っています。いちばん大切なのは、自分の出血のパターンを知っておくことです。鼻血が長びきやすい、抜歯のあと出血しやすいなど、自分なりの傾向がわかると落ち着いて対応できます。学校や職場、スポーツの場では、必要な範囲で病名を伝えておくと安心です。
生活習慣のアドバイス
- 出血しやすい場面(激しい接触のあるスポーツ、工具を使う作業など)では防具を使う
- 転倒を防ぐため、家の中の段差や滑りやすい床を整える
- 飲酒はほどほどに(肝臓への負担を減らすため)
- 薬を買うときは、出血に影響する成分が入っていないか薬剤師に確認する
- 歯みがきと定期的な歯科受診で、歯ぐきの出血を減らす
- 睡眠と休息を十分にとり、体調の変化に気づけるようにする
- 旅行の際は、病名がわかる書類と主治医の連絡先を持参する
食事と運動
特別な食事制限は通常ありません。バランスのよい食事を心がけ、肝臓の病気がある人は医師の指示に従ってください。第VII因子はビタミンKと関係があるため、極端な偏食や、サプリメントの自己判断での多用は避け、気になる場合は医師や管理栄養士に相談しましょう。運動は大切です。ウォーキングや水泳など、ぶつかる危険の少ない運動から始めると安心です。コンタクトスポーツをする場合は、事前に主治医に相談し、防具を活用してください。
精神的健康と心の健康
「また出血したらどうしよう」という不安や、説明しても理解されにくいことで孤立感を覚えることがあります。特に子どもの頃から付き合ってきた人や、月経過多に悩む人は、心の負担が大きくなりがちです。不安や落ち込みが続くときは、我慢せずに医療者や周囲に話してください。話すことで気持ちが整理され、対処の方法が見つかることがあります。
予防
生まれつきの型は、遺伝によるものなので予防することはできません。ただし、出血を起こさない・悪化させない工夫はできます。後から起こる型は、原因となる肝臓の病気やビタミンK不足、薬の影響をコントロールすることで予防につながります。妊娠を考えている人や、家族に同じ病気の人がいる人は、事前に医師や遺伝カウンセリングの担当者に相談しておくと安心です。
ワクチン
第VII因子欠乏症そのものを防ぐワクチンはありません。一般的な予防接種は受けることができますが、筋肉に注射する場合は出血しやすいため、接種前に医師に病名を伝え、接種後はいつもより長めにしっかり押さえて止血してください。生まれたばかりの赤ちゃんには、ビタミンK欠乏による出血を防ぐためのビタミンKの投与が、日本でも広く行われています。
検診プログラム
一般の人を対象にした routine な検査はありません。家族に同じ病気の人がいる場合や、出血しやすい傾向がある場合は、血液検査で確認することができます。妊娠中や手術前にも凝固の検査が行われることがあります。気になる場合はかかりつけ医に相談してください。
合併症
治療しない場合
- 出血が長びくことで、貧血(息切れ、だるさ、めまい)になることがある
- 関節の中で出血を繰り返すと、腫れや痛み、動きにくさが残ることがある
- 頭を打ったあとの脳の出血(頭蓋内出血)はまれだが命に関わることがある
- 手術や抜歯のとき、予期しない大出血が起こる可能性がある
- 月経過多による鉄欠乏性貧血
- 出血をこわがるあまり、活動や外出を控えてしまうことがある
長期的な見通し
多くは軽症で、必要なときの対応をしながらふだんどおりの生活を送れます。診断がついて適切に管理されていれば、長期的な見通しは良好です。重い型でも、出血のサインを早めに捉えて治療につなげることで、大きなトラブルを防げます。心配なことは、遠慮なく主治医に相談しながら、自分に合った付き合い方を見つけていきましょう。
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最終更新: 2026年10月23日
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