体重増加不良(成長の遅れ)
概要
体重増加不良(たいじゅうぞうかふりょう)は、英語で「failure to thrive(フェイリャー・トゥ・スライブ)」と呼ばれ、赤ちゃんや子どもが、年齢や体格から見て期待されるペースで体重が増えなかったり、身長があまり伸びなかったりする状態を指します。ひとつの病気の名前というより、「体に必要なエネルギーや栄養が、うまく体に届いていないかもしれない」というサインです。母乳やミルクの飲み方、離乳食の進み方、体の病気、家庭の生活リズムなど、いくつかの理由が重なって起こります。原因をひとつずつ確かめて必要なサポートをしていくことで、多くの子どもは成長を取り戻していきます。なお、同じ言葉が、高齢者の「体重減少や体力低下が進む状態」を表すこともあります。
重要な事実
- 母子健康手帳の成長曲線から、体重や身長の伸びが外れてくることで気づかれることが多いです。
- 原因はひとつとは限らず、栄養・体の病気・生活環境などが重なっていることがあります。
- 多くは、授乳や食事の工夫と家族へのサポートで少しずつ改善します。早めに相談することが大切です。
珍しいものではありません。乳幼児健診などで「体重の増えがゆるやかです」と声をかけられる子どもは少なくなく、小児科や健診の場でよく相談されるテーマのひとつです。
主に乳幼児(0〜3歳ごろ)に見られますが、学童期の子どもにも起こります。低出生体重児や早産で生まれた子、ミルクの飲みが少ない子、アレルギーや消化器の病気がある子、家族が強い疲れやストレスを抱えている状況などが関係することがあります。高齢者の場合は、持病や食べづらさ、一人暮らしなどが背景になります。
症状
- ぐったりして反応が弱い、意識がない
- けいれんが起きた
- 呼吸が苦しそう、顔色が青白い
- 泣いても涙が出ず、口の中が乾き、おしっこが半日以上出ない(脱水のサイン)
- おうとや下痢がひどく、水も飲めない
- ⚠体重が減り続けている
- ⚠母乳やミルクをほとんど飲めない
- ⚠嘔吐を繰り返す、発熱が続く
- ⚠元気がなく、普段と様子がちがう
一般的な症状
- 体重が増えない、または減っていく
- 身長の伸びがゆるやかになる
- 食欲がない、食べる量が少ない
- 元気がなく、機嫌が悪いことが多い
- 疲れやすい、眠ってばかりいる
- 肌の張りが悪い、あばら骨が目立つ
子供の症状
- 母乳やミルクをほとんど飲まない、飲み方が弱い
- 離乳食が進まない、食べむらが強い
- おむつのぬれが少ない(おしっこの量が少ない)
- 泣き声が弱い、泣いても涙が出にくい
- 首すわり・寝返り・おすわりなどの発達がゆっくり
- 母子健康手帳の成長曲線から下に外れてきた
- 服やおむつのサイズが長い間変わらない
- 繰り返し吐く、下痢が続く
高齢者の症状
- 食事の量が減り、体重が減り続ける
- 筋力が落ちて、立ち上がる・歩くのがつらくなる
- 疲れやすい、外出が減る
- 食べづらさ(飲み込みにくい、入れ歯が合わない、口が乾く)
- 転びやすくなる、傷や病気からの回復が遅い
- 気分の落ち込み、閉じこもり
原因
主な原因
- 母乳やミルクの量・飲ませ方が、子どもの必要量に合っていない
- 離乳食の進み方や食べ方の問題(食べづらさ、偏りなど)
- 消化器の病気、アレルギー、心臓やホルモンのはたらきの病気
- 貧血や栄養不足、感染症のくり返し
- 飲み込みや噛む力の問題(口の中の状態を含む)
- 家族の疲れ・睡眠不足・経済的な不安など、生活環境の負担
- 高齢者の場合は、持病、歯や飲み込みの問題、一人暮らし、気分の落ち込みなど
リスク要因
- 低出生体重や早産で生まれた
- ミルクの飲みが弱い、吸う力が弱い
- 繰り返す呕吐・下痢・発熱
- アレルギーや食物 intolerance(食べ物が体に合いにくい状態)
- 家族が強いストレスや疲労を抱えている
- 経済的な困難や支援者の少なさ
- 高齢者では、孤食、入れ歯の不具合、飲み込みづらさ、閉じこもり
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 体重が2週間以上増えない、または減っている
- ミルクや母乳をほとんど飲まない日が続く
- 嘔吐や下痢を繰り返し、水分がとれない
- 発熱が続く、ぐったりしている
- おしっこの回数が極端に少ない
定期受診を予約すべき場合:
- 母子健康手帳の成長曲線から外れてきた、線を下回ってきた
- 離乳食や食事の進みが悪い、食べることに興味が薄い
- 健診や予防接種のときに体重の増えを指摘された
- 家族も疲れていて、授乳や食事の時間がつらい
- 高齢者の場合、半年で体重が5%以上減った、食事量が減った
診断
診察ではまず、母子健康手帳の成長曲線を使って、体重と身長がどのように推移してきたかを確認します。そのうえで、母乳やミルク・食事の量と回数、飲み方や食べ方、排便やおしっこ、睡眠、家庭の生活リズムなどをくわしく聞き取ります。体の診察では、貧血や脱水、皮膚や筋肉の状態、発達の様子をみて、必要に応じて検査をします。原因はひとつとは限らないため、いくつかの角度から少しずつ確かめていくことが多いです。
行われる可能性のある検査
- 体重・身長・頭囲の測定と成長曲線の確認
- 血液検査(貧血や栄養状態、ホルモンのはたらきなど)
- 尿検査・便検査
- アレルギーが疑われるときの検査
- 飲み込みや食べ方の評価
- 必要に応じた画像検査(レントゲンや超音波など)
- 発達の様子をみる評価
- 家庭での食事や生活の記録の確認
診察で予想されること
一度の受診で答えが出るとは限らず、数回にわたって体重を測りながら様子をみることがあります。食事やミルクの記録をつけて持っていくと役立ちます。不安なことは遠慮なく質問してください。
治療
治療は、見つかった原因に合わせて組み立てます。多くの場合、授乳や食事の工夫、家族の生活リズムの調整、まわりのサポートで少しずつ改善していきます。体の病気が背景にあるときは、その治療を優先します。
自宅でのセルフケア
- 授乳の回数や姿勢、哺乳びんの乳首のサイズを見直してみる
- 食事やミルクの量、時間を簡単に記録する
- 少量ずつ回数を増やすなど、無理のない工夫をする
- 家族で分担し、養育者が休む時間を確保する
- 生活リズムを整え、睡眠をしっかりとる
- 気になることはメモして健診や受診のときに相談する
医療治療
医療機関では、まず原因を確かめながら、管理栄養士による食事や授乳の相談、摂取量を増やすための具体的な工夫を一緒に考えます。脱水や栄養不足が強いときは、入院して点滴や観察を行うことがあります。背景に病気(消化器、ホルモン、アレルギー、心臓など)が見つかった場合は、その治疗を進めます。成長の見守りのために、定期的に体重と身長を測っていきます。
手術が検討される場合
手術が必要になることは多くありません。ただし、手術でしか改善しない原因(例えば消化管の形の生まれつきの違いなど)が見つかった場合は、その治療として手術が検討されます。
この病気と共に生きる
毎日の体重測定はストレスになりやすいので、週に決まった日だけ測るなど、無理のないペースで続けましょう。記録は診察の役に立ちます。数字だけでなく、子どもの機嫌、おしっこ、うんち、眠りといった様子も合わせて見ておくと、変化に気づきやすくなります。
生活習慣のアドバイス
- 決まった時間に食事や授乳をし、生活リズムを整える
- 家族や周囲に家事や上の子の世話を頼る
- 養育者自身の睡眠と休息を優先する
- 健診や予防接種の機会を逃さない
- 高齢者の場合は、孤食を避け、誰かと食べる機会をつくる
食事と運動
食事は、量よりも「食べやすい形・無理のない回数」が大切です。少量を何回かに分ける、エネルギーのとれる食品を組み合わせる、飲み込みやすい調理にするなどの工夫があります。離乳食は子どものペースに合わせて進めましょう。体調がよい日は、年齢に合った遊びや外気浴で体を動かすことも、食欲や睡眠のリズムづくりに役立ちます。具体的な内容は、医師や管理栄養士、保健師に相談しながら決めていくと安心です。
精神的健康と心の健康
子どもの体重が増えないと、家族は「自分の育て方が悪いのでは」と自分を責めてしまいがちです。でも、体重増加不良の背景には、体の病気や子どもの飲み方の特徴など、家族だけの責任ではない要因がたくさんあります。不安や疲れが強いときは、一人で抱え込まずに、かかりつけ医や保健師、地域の相談窓口に話してください。気持ちがつらくて眠れない、涙が止まらないといった状態が続くときは、医療機関に相談を。つらい気持ちが強いときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、ためらわずに地域の救急・相談窓口や医療機関に連絡してください。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、母子健康手帳の成長曲線をこまめに記録し、乳幼児健診をきちんと受けることで、早い段階で気づけます。授乳や食事について気になることがあれば、早めに保健師やかかりつけ医に相談しましょう。家族が疲れているときは、早めに助けを求めることも大切な予防です。
ワクチン
予防接種は、感染症で食事がとれなくなることを防ぎ、順調な成長を支えます。定期接種のスケジュールを確認し、かかりつけ医に相談しながら進めましょう。
検診プログラム
日本では母子健康手帳を使った乳幼児健診(1か月、3〜4か月、6〜7か月、9〜10か月、1歳6か月、3歳など)で、体重・身長の測定と成長の確認が行われます。自治体から案内が届くので、忘れずに受けましょう。
合併症
治療しない場合
- 身長や体重の伸びがさらに遅れる
- 発達(運動・言葉)の遅れ
- 免疫力が下がり、感染症にかかりやすくなる
- 貧血やビタミン・ミネラルの不足
- 脱水や低血糖など、入院が必要になる状態
- 食べることへの苦手意識が残る
- 家族の疲労や不安が強くなる
長期的な見通し
体重増加不良は、原因がわかって適切なサポートが始まれば、多くの子どもが成長を取り戻していきます。時間はかかることがありますが、あせらず一歩ずつ進めていける状態です。家族が一人で抱え込まず、まわりの専門家と一緒に取り組むことが、いちばんの力になります。
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最終更新: 2026年10月23日
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