家族性地中海熱(かぞくせいちちゅうかいねつ・FMF)
概要
家族性地中海熱(FMF)は、体の免疫(ばいきんなどから体を守るしくみ)の一部がうまく調整できず、自分から炎症(えんしょう=体の中が赤く熱を持ったような状態)を起こしてしまう病気です。炎症が起きると、数日間の発熱やおなかの強い痛み、胸の痛み、関節の腫れなどが「発作」として現れます。発作はふつう1〜3日で自然におさまり、発作と発作の間はほとんど症状がありません。遺伝子(体の設計図)の一部の変化が関係していると考えられています。名前には「地中海」とついていますが、日本を含め世界中で報告されています。日本では厚生労働省の指定難病(国が医療費の助成などを行う病気)になっています。
重要な事実
- 発熱・おなかの痛み・胸の痛み・関節の腫れなどが、数日単位で「発作」として繰り返し起こります。発作がないときは元気なことが多いのが特徴です。
- 多くの場合、子どものころから20代のうちに症状が始まりますが、大人になってから気づくこともあります。
- 毎日続ける飲み薬で炎症を抑える治療が中心で、発作の回数や強さを減らし、将来の合併症を防ぐことができます。
めずらしい病気です。地中海沿岸の地域(トルコ、アルメニア、アラブ諸国、ユダヤ系など)に多いことで知られていますが、日本でも報告が増えています。「めずらしいから自分には関係ない」とは言い切れず、繰り返す原因不明の発熱や腹痛の背景に隠れていることがあります。
子どもから若い成人に多く、男女ほぼ同じくらい(男性にやや多い)にみられます。家系に同じ病気の人がいる場合に起こりやすいとされますが、両親に症状がなくても発症することがあります。地中海沿岸の家系でなくても発症します。
症状
- 意識がもうろうとしている、返事がおかしい、けいれんが起きた
- 痛みが激しくて動けない、歩けない、体を丸めてしまって会話もつらい
- 高熱に加えて首が硬く動かない、光がまぶしい、頭痛がひどい(髄膜炎などを疑う症状)
- 呼吸が苦しい、顔色が青白い、唇が紫っぽい
- 嘔吐を繰り返して水分がとれず、尿がほとんど出ない(脱水のおそれ)
- ⚠発作が何度も続く、発作と発作の間隔が短くなってきた
- ⚠発作の最中に胸の痛みや息苦しさが強い
- ⚠関節の腫れが数週間引かない、歩くのがつらい
- ⚠陰嚢が腫れて痛む
- ⚠尿の量が減った、足やまぶたがむくむ
- ⚠微熱がだらだら続き、だるさが取れない
一般的な症状
- 38〜40℃くらいの発熱が1〜3日続く(発作のたびに繰り返す)
- おなか全体の強い痛み。おなかの膜(腹膜)が炎症を起こすためで、便秘や下痢、吐き気を伴うことがある
- 胸の痛み。特に深呼吸やせきをしたときに痛む(胸の膜の炎症)
- 膝や足首などの関節が腫れて痛む。数日〜数週間続くことがある
- 皮膚に赤い発疹が出ることがある(多くはない)
- 男性では陰嚢(いんのう=睾丸をつつむ袋)が腫れて痛むことがある
- 発作のきっかけとして、ストレス、感染(かぜなど)、疲れ、寒さ、女性では月経が関係することがある
- 発作と発作の間は、体温も痛みもなく普通に生活できることが多い
子供の症状
- 熱だけが出て、痛みをはっきり言わないことがある(特に幼児)
- おなかが痛くて泣く、元気がない、食欲が落ちる
- 関節が痛くて歩きたがらない、抱っこを嫌がる
- 発作のたびに学校や園を休むことが続く
- 子どもの場合は症状を言葉で説明しにくいため、保護者の方が発作の日と様子を記録しておくと診断の助けになります
- 長く放っておくと成長や腎臓に影響が出ることがあるため、繰り返す発熱は早めに相談を
高齢者の症状
- 高齢になってから初めて発症することはまれですが、若いころから繰り返す腹痛や発熱を「体質」や「原因不明の熱」として見過ごされてきた例があります
- 年齢とともに発作の症状が軽くなり、気づきにくくなることがある
- 長年の炎症により腎臓の合併症が進んでいることがあり、尿検査などが大切になります
- 他の病気(胆のうや腸の病気など)が隠れていることもあるため、自己判断せず受診が必要です
原因
主な原因
- MEFV(メフブ)という遺伝子の変化が関係しています。この遺伝子は、体の炎症を止める働きをするたんぱく質をつくる設計図です。変化があると炎症をうまく止められず、炎症を起こす物質が増えすぎてしまいます。
- 遺伝のしかたは「劣性(れっせい)」と考えられてきました(両親から変化した遺伝子を1つずつ受け取ると発症しやすい)。ただし、変化が1つだけでも症状が出る人がいることも分かってきています。
- 両親に症状がなくても発症することがあります。遺伝子の変化は「親から受け継いだ」場合と、その人自身で新たに生じた場合があります。
- 発作は炎症の「スイッチ」が入ることで起こります。ストレス、かぜなどの感染、疲れ、寒さなどがスイッチのきっかけになることがあります。
リスク要因
- 家系に家族性地中海熱の人がいる
- 地中海沿岸地域(トルコ、アルメニア、アラブ諸国、ユダヤ系など)の家系
- 小児期から20代の年齢層
- 発作を起こしやすい条件(睡眠不足、強いストレス、感染、寒さ、月経など)
- 地中海沿岸の家系でなくても発症するため、「自分には関係ない」と決めつけないことが大切です
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 初めての発作のとき(高熱、強い腹痛、胸の痛み、関節の腫れ)
- 発作が繰り返し起きている、または間隔が短くなっている
- 痛みが強くて眠れない、水分がとれない
- 陰嚢が腫れて痛む、尿が出にくい
- 尿の量が減った、体がむくんできた
定期受診を予約すべき場合:
- 数か月〜数年にわたり、原因不明の発熱や腹痛を繰り返している
- 家系に同じ病気の人がいて、自分にも似た症状がある
- 子どもの繰り返す発熱や腹痛の理由が分からない
- 妊娠や出産を考えている(治療を続けながらの計画づくりが必要です)
- 発作の記録を持って、治療の効果を確認したい
診断
診断は、症状の「パターン」を丁寧に見ていくことから始まります。何日続いたか、どのくらいの間隔で起きるか、どの場所が痛くなるか、発作の間は元気か、家系に同じ病気の人がいるか、を確認します。日本では厚生労働省の研究班による診断基準(目安)が使われており、症状の組み合わせに加えて、血液検査や遺伝子検査の結果を合わせて判断します。一度の診察ですぐ決まるとは限らず、時間をかけて他の病気を除いていくこともあります。
行われる可能性のある検査
- 血液検査:炎症が起きているかを見る項目(CRP、白血球など)や、炎症の目安になるたんぱく質(SAA)を調べます。発作のときと、おさまったときの両方で調べると参考になります
- 尿検査:腎臓の働きや、たんぱくが漏れていないかを確認します
- 画像検査:腹部エコーやCTなどで、腹痛の原因となる他の病気(胆のう、腸の病気など)がないかを確認します
- 遺伝子検査:MEFV遺伝子に変化があるかを調べます。ただし変化があっても症状が出ない人もいるため、結果だけで決まるわけではありません
- 治療的診断:炎症を抑える薬を一定期間試して、発作が減るかどうかを見る方法が使われることがあります
- 専門医への紹介:必要に応じて、膠原病(こうげんびょう)・リウマチ科や小児科の専門医に相談します
診察で予想されること
診断までに何度か受診が必要になることが多く、時間がかかることもあります。発作の記録(日記)を持っていくと話がスムーズに進みます。診断がつくまで不安な気持ちになるかもしれませんが、記録を続けること自体が大切な検査の一部です。分からないことは遠慮なく医師に質問してください。
治療
治療の中心は、発作を予防するために毎日続ける飲み薬です。発作の回数と強さを減らし、発作がない日を増やすこと、そして将来の合併症(特に腎臓の障害)を防ぐことが目標になります。発作が起きたときは、安静にして水分をとり、痛みに応じた対応をします。治療は長く続けるものなので、生活に合わせた続け方を医師と一緒に考えていきましょう。
自宅でのセルフケア
- 発作の記録をつける(日付、熱の高さ、痛む場所、何日続いたか、きっかけに心当たりがあるか)
- 発作のときは無理をせず休む。仕事や学校を休むための説明資料を主治医に相談しておく
- 水分をこまめにとる。発作中は脱水になりやすいので特に注意
- 睡眠をしっかりとり、疲れをためない
- かぜなどの感染症を防ぐ(手洗い、人混みでの対策)
- 寒さで発作が起きやすい人は体を冷やさない工夫をする
- 薬は自己判断でやめたり減らしたりしない。飲み忘れがあったときの対応は医師・薬剤師に確認する
- 発作のつらさや不安を一人で抱え込まず、家族や周囲に病気のことを伝えておく
医療治療
炎症を抑える飲み薬を毎日続けるのが基本です。発作がない日も続けることで、発作の予防と合併症の予防につながります。薬の種類や量は、発作の頻度、年齢、体重、腎臓の働きなどに合わせて医師が調整します。飲み続けても発作が十分に抑えられない場合は、炎症のしくみに働きかける注射薬が使われることがあります。発作時の痛みには、痛み止めが使われることがあります。いずれも自己判断で始めたり中止したりせず、必ず医師の指示に従ってください。妊娠を考えている場合や、他の病気で薬を使っている場合は、必ず事前に主治医に伝えましょう。
手術が検討される場合
手術でこの病気そのものを治すことはありません。ただし、長年の炎症でおなかの膜がくっついて腸が詰まる(腸閉塞)など、合併症が起きた場合には手術が必要になることがあります。また、腎臓の合併症が進んだ場合には別の治療が必要になります。ふだんから発作を抑える治療を続けることが、こうした事態を防ぐことにつながります。
この病気と共に生きる
発作がある日とない日の差が大きいのがこの病気の特徴です。調子のよい日に無理をためすぎないこと、発作のときにしっかり休めるように準備しておくことが大切です。発作の記録を続けると、自分の傾向(きっかけ、季節、疲れとの関係)が見えてきます。学校や職場には、あらかじめ病気のことを伝えておくと、発作のときに休みやすくなります。
生活習慣のアドバイス
- 規則正しい睡眠と食事を心がける
- ストレスをためない。自分なりの息抜きの方法を持つ
- 感染症予防(手洗い、うがい、必要な予防接種は医師に相談)
- 寒さ対策。冷えで発作が出やすい人は特に注意
- 禁煙。喫煙は血管や腎臓に負担をかけます
- 適正体重を保つ
- 発作の記録を主治医と一緒に振り返る習慣をつける
食事と運動
特別な食事制限は必要ないことが多いです。バランスのよい食事を3食とり、塩分や脂肪のとりすぎに気をつけましょう。腎臓の働きが低下している場合は、塩分やたんぱく質の量について医師や管理栄養士の指示が必要です。運動は適度に行うのがおすすめで、ウォーキングなど無理のない範囲から始めましょう。発作の最中は運動を控え、回復してから少しずつ戻してください。水分は普段からこまめにとり、発作のときは特に意識してとりましょう。
精神的健康と心の健康
繰り返す痛みや発熱は、体だけでなく心にも負担をかけます。「また発作が来るのでは」という不安、学校や仕事が遅れる焦り、周囲に理解されにくく「仮病ではないか」と思われてしまうつらさを感じる人も少なくありません。これは弱さではなく、誰にでも起こりうることです。気持ちが落ち込む、眠れない、不安が強いといった状態が続くときは、一人で抱えずに主治医や相談窓口に話してください。緊急に気持ちが追い詰められたときは、ためらわず救急(119番)や、お住まいの地域の救急相談(#7119)を利用してください。
予防
遺伝子の変化が関係する病気のため、発症そのものを予防することはできません。ただし、毎日の治療を続けることで発作の回数を減らし、腎臓などの合併症を防ぐことはできます。発作のきっかけになる疲れ・ストレス・感染・寒さを避ける工夫も役立ちます。早めに気づいて治療を始めることが、長い目で見ていちばんの「予防」になります。
ワクチン
この病気そのものを防ぐワクチンはありません。かぜやインフルエンザなどの感染症は発作のきっかけになることがあるため、予防接種をどうするかは主治医と相談して決めましょう。
検診プログラム
症状のない人を対象にした一般的な検査はありません。家系に同じ病気の人がいる場合や、繰り返す発熱・腹痛がある場合は、かかりつけ医に相談してください。妊娠を考えている場合や家系に患者がいる場合の遺伝の心配については、遺伝カウンセリングを受けられる医療機関があります。
合併症
治療しない場合
- アミロイドーシス:炎症が長く続くことで、たんぱく質の一種が腎臓などにたまり、臓器の働きが落ちる状態です。特に腎臓が影響を受けやすく、放っておくと腎不全に進むことがあります。
- 腹膜の癒着(おなかの膜がくっつくこと)による腸閉塞(腸が詰まる状態)
- 関節の慢性的な腫れや痛みが続く
- 男性では精巣(睾丸)の炎症が繰り返されることがある
- 女性では腹膜の炎症による癒着が、妊娠しにくさにつながることがある
- 子どもの場合、発作を繰り返すことで成長や学校生活に影響が出ることがある
長期的な見通し
適切な治療を続けることで、多くの人は発作をかなり減らし、発作のない日を長く過ごせるようになっています。合併症も、早く診断して治療を始めるほど防ぎやすくなります。発作がないときは普通に生活できる病気です。症状の記録を続け、主治医と定期的に相談しながら、自分に合った付き合い方を見つけていきましょう。
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最終更新: 2026年11月3日
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