家庭内の暴力と子どもへの影響
概要
家庭内の暴力とは、家族や一緒に暮らしている人の間で起こる暴力のことです。パートナーへの暴力(ドメスティック・バイオレンス、DV)も、子どもへの暴力も含まれます。暴力には、たたく・けるといった体への暴力だけでなく、大声でおどす、無視する、お金を渡さない、自由を奪うなど、心を傷つける行為も含まれます。大切なのは、暴力を「子どもの前で見ていただけ」でも、子どもはしっかり傷つくということです。子どもは家庭の中の空気をよく感じ取るので、自分が直接されていなくても、不安や恐怖を抱えます。
重要な事実
- 家庭内の暴力は、本人や家族だけの問題ではなく、社会全体で支える問題です。相談しても、あなたや子どもが責められることはありません。
- 子どもの前で起きる暴力は、子ども自身への暴力と同じくらい強い影響を与えます。年齢が小さくても、赤ちゃんでも影響はあります。
- 安全を第一に考えることが何より大切です。危険を感じたら、早めに専門の相談窓口や医療機関、警察につながることが助けになります。
決してめずらしいことではありません。日本でも、配偶者などからの暴力の相談件数や、子どもの虐待に関する相談件数は年々増えていると報告されています。相談件数が増えているのは、それだけ「声をあげてもよい」という社会になってきたからでもあります。あなただけが特別なわけではありません。
年齢や性別、経済的な状況に関係なく、どの家庭でも起こりえます。乳幼児から小学生、思春期の子どもまで、どの年齢の子どもも影響を受けます。高齢の家族が被害者になる場合も、高齢の家族が加害者側になってしまう場合もあります。妊娠中の女性が被害を受けることもあります。
症状
- 今、目の前で暴力が起きていて、命の危険がある
- けがをして血が止まらない、意識がない、呼吸が苦しい(119番)
- 刃物や凶器が使われている、または使うと言われている(110番)
- 「死にたい」「もう生きていけない」と言っている
- 子どもがけがをして、そのままにされている
- ⚠けがをしたが、病院に行くことをためらっている
- ⚠家に帰ると危ないと感じている
- ⚠子どもが強い不安や不眠、食事がとれない状態になっている
- ⚠妊娠中で、体の不調や不安が強い
- ⚠恐怖で外に出られない、誰にも相談できない状態が続いている
一般的な症状
- 家庭のことを話したがらない、家に帰りたがらない
- 急に元気がなくなる、表情が少なくなる、ぼんやりしていることが増える
- よくおどろく、大きな音や怒った声に過敏に反応する
- 眠れない、夜中に目を覚ます、悪夢を見る
- 食欲が変わる(食べすぎる、食べられない)
- 頭痛やおなかの痛みなど、体の不調をよく訴える
- 学校や園に行きたがらない、遅刻や欠席が増える
- 勉強や遊びに集中しにくくなる、成绩が下がる
- 自分を責める言葉を口にする、自分は悪い子だと言う
- 友だちとの関係がうまくいかない、けんかが増える
子供の症状
- 0〜3歳ごろ:泣きやまない、夜泣きがひどい、人見知りが急に強くなる、甘え方が極端になる
- 幼児期:おもちゃや友だちへの乱暴が増える、おどおどした様子、遊びの中に暴力の場面が現れる
- 小学生:学校に行きしぶる、集中できない、頭痛や腹痛を訴える、親のことを心配して世話を焼きすぎる
- 思春期:怒りっぽくなる、家出、自傷、スマホやゲームへの極端な没頭、友人関係の急な変化
- どの年齢でも:親をかばう、暴力のことを話さないようにふるまう、家庭のことを秘密にする
高齢者の症状
- 高齢の家族が被害を受ける場合:けがが増える、おびえた様子、お金の管理を他人に任せている、受診を制限される
- 高齢の家族が加害者側になる場合:介護の負担や孤立から、言葉や手が荒くなってしまうことがある
- 高齢者自身が「自分が悪いから」と我慢してしまい、相談が遅れやすい
- 介護や介護疲れが背景にあるときは、家族全体への支援が必要になる
原因
主な原因
- 暴力の根本には「相手を力で支配しようとする」ことがあります。相手の性格や言動が原因ではありません。
- ストレスや不安がたまり、それを言葉で伝える力が不足していると、暴力という形で出てしまうことがあります。
- 経済的な苦しさ、孤立、住まいの問題など、暮らしの困難が重なると、家庭の中が緊張しやすくなります。
- アルコールの影響が関係することもあります。ただし、お酒は原因ではなく、暴力を起こしやすくする要因のひとつです。
- 幼いころに暴力を見て育った人が、同じことを繰り返してしまうことがあります。しかし、それは必ず繰り返すという意味ではありません。
リスク要因
- 経済的な困難や失業、住まいの不安定さ
- 家族以外とのつながりが少なく、孤立している
- アルコールや薬物の影響
- 妊娠中や出産後、育児の負担が大きい時期
- 介護の負担が大きい家庭
- 精神的な不調(うつ、不安、強い怒り)を抱えている
- 幼少期に暴力や虐待を経験した
- 地域や家庭の中で「しつけのため」「夫婦の問題」として見逃されやすい
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- けがをしている、痛みが続いている(診察を受けてください)
- 子どもが眠れない、食べられない、学校に行けない状態が続いている
- 強い不安、おびえ、パニックのような状態がある
- 妊娠中で、おなかの張りや出血など体の不調がある
- 「死にたい」と考えている、自分を傷つけてしまう
定期受診を予約すべき場合:
- 家庭の中のことで、誰かに話したい、整理したいと感じている
- 子どもの様子が前と違うと気になっている
- 相談したら何が起きるのか、まず知りたい
- 自分の安心できる場所や逃げ方を一緒に考えたい
診断
家庭内の暴力は「病気の診断」というより、安全かどうかを確かめ、必要な支援につなげる形で進みます。医師や保健師、相談員が、体のけがの有無を確認し、生活の様子や不安の強さをていねいに聞き取ります。話したくないことは話さなくて大丈夫です。話せる範囲で少しずつ伝えてもらえれば十分です。
行われる可能性のある検査
- けがや痛みの確認(必要に応じてレントゲンや超音波などの検査)
- 妊娠の有無や体の状態の確認
- 睡眠や食欲、気分の状態についての問診
- 子どもの成長や発達、学校での様子についての聞き取り
- 安全に暮らせているかどうかについての確認
診察で予想されること
話した内容は、あなたの許可なく外部に伝えられることは原則ありません。ただし、子どもの安全が心配される場合は、関係機関と連携して見守る仕組みがあります。相談の場では「これからどうしたいか」を一緒に考えることが中心になります。すぐに決めなくて大丈夫です。何度かに分けて相談してもかまいません。
治療
何より優先されるのは、安全を確保することです。そのうえで、体のけがの治療、心のケア、暮らしの立て直しの支援を組み合わせていきます。支援は、医療機関だけでなく、自治体の相談窓口、児童相談所、警察、民間の支援団体などが連携して行います。
自宅でのセルフケア
- もし可能なら、身分証明書、お金、常備薬、子どもの着替えなどをすぐ持ち出せる場所にまとめておく
- 頼れる人(友人、親族、同僚、かかりつけの医療機関)を一人でも思い出しておく
- 危険を感じたら、その場を離れることを最優先にする(話し合おうとしない)
- 連絡手段を確保しておく(公衆電話の場所、信頼できる連絡先のメモ)
- 自分の体と心のサインを記録しておく(日付、起きたこと、体の不調)
- 「自分が悪い」と考えそうになったら、暴力はどんな理由でも許されないと自分に言い聞かせる
医療治療
医療の場では、まずけがや痛みの治療を行います。あわせて、眠れない、不安が強い、気分が落ち込むといった状態に対しては、心理的な支援やカウンセリング、必要に応じて専門医によるケアが検討されます。子どもには、安心できる大人との関係づくりや、遊びや対話を通した心のケアが行われます。治療の方針は、その人の状況や希望に合わせて話し合って決めていきます。
手術が検討される場合
けがの程度によっては、手術が必要になる場合があります。骨折や内臓の損傷などがあるときは、整形外科や救急の医師が判断します。手術が必要かどうかは、診察と画像検査の結果で決まります。
この病気と共に生きる
毎日を「安全に過ごすこと」を中心に組み立てていきます。完璧にしようとしなくて大丈夫です。今日一日、子どもと自分が安心して眠れたら、それが一つの前進です。調子が波のように上下するのは自然なことです。
生活習慣のアドバイス
- できれば定期的に連絡をとれる人を決めておく(「元気です」の一言でもよい)
- 緊急のときの逃げ方や行き先を、子どもと一緒に考えておく
- 相談先を一つだけでなく、二つ三つ持っておくと安心につながる
- 睡眠をできるだけ確保する(短くても、決まった時間に休む)
- スマホやテレビのニュースでつらくなるなら、あえて距離を置く
- 自分がほっとできる小さな習慣を持つ(温かい飲み物、散歩、音楽など)
食事と運動
決まった時間に、無理のない範囲で食事をとることが、心と体の安定につながります。食欲がないときは、少量でも食べられるものを。体を動かすことは、不安や緊張をゆるめる助けになります。家の外を短く歩くだけでも十分です。子どもの場合は、一緒に体を動かす遊びが、安心感を取り戻す助けになることがあります。
精神的健康と心の健康
家庭内の暴力を経験すると、不安、おびえ、怒り、罪悪感、眠れない、集中できないといった変化が起こることがあります。これは弱さではなく、つらい状況に対する自然な反応です。時間をかけて、安心できる人との関係の中で回復していくことができます。もし「消えてしまいたい」「死にたい」と感じたら、一人で抱えず、すぐに相談窓口や医療機関、警察(110番)、救急(119番)に連絡してください。あなたの命はとても大切です。
予防
暴力は防ぐことができます。家庭の中の緊張に早く気づき、支援につながることが大切です。地域とのつながりを持つこと、子育てや介護の負担を一人で抱え込まないこと、困ったときにSOSを出せる関係づくりが、予防につながります。体罰によらないしつけの方法について学ぶ機会も、各地で設けられています。
検診プログラム
妊娠中の健診や乳幼児健診、学校の健康診断などで、家庭の安全やこころの状態について聞かれることがあります。これは、つらい状況に早く気づいて支援するための大切な機会です。話せる範囲で伝えてみてください。
合併症
治療しない場合
- 子どもに、不安、不眠、うつ的な気分、自己肯定感の低下が続くことがあります
- 学校生活や友人関係に影響が出る(不登校、いじめ、孤立など)
- 成長や発達に影響が出ることがある
- 体のけがが繰り返されたり、妊娠中の合併症のリスクが高まったりすることがある
- 大人になってからも、人間関係の不安や心身の不調が続くことがある
- 次の世代で同じような暴力が繰り返されるリスクが高まることがある(ただし、必ず繰り返すわけではありません)
長期的な見通し
希望を持ってください。安全な場所と、信頼できる大人との関係が得られると、子どもは少しずつ安心を取り戻していきます。回復には時間がかかることがありますが、適切な支援につながることで、その後の人生は大きく変わります。過去の経験がすべてを決めるわけではありません。今、助けを求めることが、未来につながります。
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最終更新: 2026年10月23日
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