子どもの恐怖と不安(こわい気持ち・心配とのつきあい方)
概要
恐怖(こわい)は「今、危ないかもしれない」と体がとっさに反応すること、不安(心配)は「この先どうなるだろう」と先のことを考えて身構えることです。どちらも、危険から身を守るための体と心の警報装置のようなもので、子どもが育つうえで誰にでもある自然な気持ちです。大事なのは、その警報が鳴りすぎていないかどうかです。恐怖や不安がとても強く、長く続いて、学校や友だちとの生活、食事や睡眠など毎日の大切なことをじゃましているときは、大人の助けが必要なサインかもしれません。
重要な事実
- 恐怖や不安は子どもの成長の一部で、多くの場合は年齢とともに落ち着いていきます。
- 年齢によって怖がる内容は変わります。幼児期は暗やみや怪物など空想上のもの、学童期はけが・病気・災害など現実的な心配が増えやすいといわれます。
- 怖いものを避け続けると、その場は楽になりますが、長い目で見ると不安は大きくなりやすいことが知られています。
- 家族が落ち着いてそばにいること、少しずつ挑戦できるよう支えることが、最も役立つ助けのひとつです。
とてもよくあります。子どものおよそ10人に1人くらいが、毎日の生活に支障が出るほどの強い不安を経験するといわれています。くわえて、入学や引っ越しなどの時期に一時的に不安が強くなることは、ごくふつうに起こります。
乳幼児から思春期まで、すべての年齢の子どもに起こります。特におこりやすいのは、初めての集団生活が始まる時期、小学校に上がる時期、思春期に入る時期など、環境が大きく変わるタイミングです。まわりの大人(保護者や先生)も、どう支えればよいか悩みながら関わることが多くあります。
症状
- 「死にたい」「消えたい」と言う、または自分を傷つける行動がある(ためらわず119番に電話し、救急要請をしてください)
- パニックの最中に意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応が弱い
- けいれんを起こした、意識を失った、呼吸がおかしい
- 水分をほとんどとれず、ぐったりしている、尿がほとんど出ない(脱水のおそれ)
- ⚠強い不安のため、学校や園に行けない状態が数日以上続いている
- ⚠食事や睡眠がほとんどとれない状態が続き、体重が減っている
- ⚠夜泣きや夜中に目が覚めることが毎晩続き、日中もぼんやりしている
- ⚠頭痛・腹痛・吐き気などの体の不調が長引き、日常生活が保てない
- ⚠「消えてしまいたい」とまでは言わないが、自分を傷つけるような言葉や態度がみられる
一般的な症状
- 理由がはっきりしない頭痛、おなかの痛み、吐き気、めまい(体の検査では異常が見つかりにくいこともあります)
- 心臓がドキドキする、息が苦しい、汗が出る、手が震える
- 「もし失敗したらどうしよう」「ママやパパがいなくなったらどうしよう」と同じ心配が頭から離れない
- 夜、一人で眠れない、悪い夢をよく見る、夜中に目が覚める
- 学校や園に行く前になると、おなかが痛くなる・泣く・ぐずる
- 初めてのことや人前を極端にこわがり、避けようとする
- 集中しにくい、落ち着きがない、イライラしやすい
子供の症状
- 0〜3歳ごろ:知らない人をこわがる、保護者から離れると激しく泣く、大きな音や掃除機などをこわがる
- 4〜6歳ごろ:暗やみ、怪物、雷、犬などをこわがる。空想と現実の区別がつきにくく、想像したことが本当に起きると思い込むことがある
- 7〜10歳ごろ:けが、病気、災害、火事、家族の安全など現実的な心配が増える。学校での失敗や友だち関係を気にし始める
- 11歳以上:友だちからの評価、成績、将来のことを強く心配する。不安を言葉にせず、おなかの痛みや不機嫌として表れることも多い
- どの年齢でも、甘えが増える・赤ちゃん返りする・保護者のそばを離れないなど、行動の形で不安が表れることがあります
高齢者の症状
- このページは子どもの不安についての内容ですが、10代(思春期)になると現れ方が大きく変わります。
- 学校に行くのを強く嫌がる、欠席が増える、部屋にこもる
- スマホやゲームに長時間没頭して不安から気をそらす
- 怒りっぽくなる、家族に当たる、口をきかなくなる(不安が背景にあることが少なくありません)
- 「自分はダメだ」と強く思い込む、人前を極端に避ける、体調不良をたびたび訴える
- 大人から見ると「やる気がない」ように見えても、実は不安やこわさが隠れていることがあります
原因
主な原因
- 生まれつきの気質(慎重で、よく気づき、刺激に敏感な性格)
- 体と脳の警報装置が過剰に反応しやすいこと(危険でないものにも危険サインが出てしまう)
- 回避の学習:怖いものを避けると一時的に安心しますが、その安心が「やっぱり危なかった」という気持ちを強め、不安が大きくなることがあります
- 環境の変化やストレス:入学、進級、引っ越し、転校、家族の病気やけんか、災害、こわいニュースなど
- まわりの大人の反応をまねる:家族が心配しすぎる様子を見て、同じように身構えることを覚えることがあります
- つらい経験:人前で笑われた、失敗して恥をかいた、いじめられたなど
リスク要因
- 敏感で慎重な気質、こわがりな性格
- 家族に不安を感じやすい人がいる(性格だけでなく、関わり方の影響も含みます)
- 過保護・過干渉、または「大丈夫?」と安心を求めすぎる関わりが続いている
- いじめ、虐待、災害、事故などのつらい体験
- 発達の特性(自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症など)がある
- 慢性の病気や入院の経験がある
- 保護者自身が強い不安や落ち込みを抱えている
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 自分を傷つける行動や「死にたい」という言葉がある(すぐに医療機関か119番へ)
- 強いパニック発作(心臓がドキドキして息が苦しくなる発作)がくり返し起きている
- 食事・睡眠がとれず、元気がなくぐったりしている
- 学校や園に行けない状態が1週間以上続いている
- 頭痛・腹痛・吐き気などが長く続き、日常生活が保てない
定期受診を予約すべき場合:
- 不安やこわさが1か月以上続いている、またはだんだん強くなっている
- 習い事や友だちづきあいなど、できることが少しずつ減ってきている(回避が広がっている)
- 家族の生活リズムが乱れるほど、支えに手がかかる状態が続いている
- 保護者自身が対応に悩み、疲れている、どう声をかけてよいかわからない
- 学校の先生から、様子が気になると言われた
診断
診断は主に、話を聞くこと(問診)で進みます。子ども本人からだけでなく、保護者からも、いつから・どんなときに・どんなふうに困っているかを伺います。同時に、体の病気が隠れていないか(貧血や甲状腺の働きの異常など、不安に似た症状が出るもの)を確認することがあります。学校や園での様子、睡眠や生活リズム、発達の様子も合わせて見ていきます。
行われる可能性のある検査
- 問診と行動の観察(診察室での様子、保護者からの聞き取り)
- 必要に応じた血液検査(貧血や甲状腺の働きなどを調べる)
- 心理検査や質問紙(気持ちの強さや発達の特性を客観的に見るためのもの)
- 学校や園の先生からの情報提供
- 睡眠・食事・活動の記録(1〜2週間つけていただくことがあります)
診察で予想されること
診察は1回で答えが出るものではありません。多くの場合、1〜2回の面談で様子を見ながら、少しずつ全体像をつかんでいきます。はっきりとした病名がつかないこともありますが、その場合でも「どう困っているか」に合わせた支援を始めることはできます。緊張してうまく話せない子どもも多いので、無理に話させず、絵や遊びを通して聞くこともあります。
治療
治療の中心は、安心できる環境を整えることと、こわいものに少しずつ慣れていく練習です。いきなり全部に立ち向かうのではなく、階段を一段ずつ上がるように進めます。子どもだけでなく、保護者や学校と一緒に取り組むことが効果的とされています。
自宅でのセルフケア
- 決まった時間に起きて、決まった時間に寝る。生活リズムを整えることが土台になります
- 「大丈夫、大丈夫」とくり返すより、「こわかったね」「心配なんだね」と気持ちを言葉にしてあげる
- ゆっくり息を吐く練習(4秒吸って6秒吐くなど)を、落ち着いているときに一緒に練習しておく
- できたことを具体的にほめる(「自分で靴をはけたね」など)
- こわいことへの挑戦は、小さな一歩から。できたら必ずねぎらう
- 寝る前の決まった流れ(お風呂→絵本→消灯など)をつくる
- 画面(テレビ・動画・ゲーム)の時間を決め、寝る1時間前は使わない
- 保護者自身が深呼吸して落ち着く。大人の落ち着きは子どもに伝わります
医療治療
専門的な支援として、考え方と行動を少しずつ変えていく練習(認知行動療法)や、こわいものに段階的に慣れていく練習(エクスポージャー)が行われます。小さな子どもには、遊びを通した支援が使われることもあります。保護者向けの関わり方の相談(ペアレントトレーニング)も有力な方法です。医師が必要と判断した場合には、不安を和らげる薬が使われることもありますが、使うかどうか、種類や量は、年齢や状態に合わせて医師が個別に判断します。名前や量はここではお伝えしません。自己判断で始めたりやめたりせず、必ず医師・薬剤師に相談してください。
手術が検討される場合
手術で治すものではありません。
この病気と共に生きる
朝の支度や登校など、不安が出やすい場面は決まっています。前の日の夜に翌日の予定を一緒に確認する、時間に余裕をもつ、できたことを数える、といった小さな工夫が役立ちます。行きしぶりがあるときは、無理に押し出そうとするより、まず気持ちを受け止め、「どこがいやなの?」「どうしたら少し楽になる?」と一緒に考えるところから始めてみてください。
生活習慣のアドバイス
- 予定の変更は前もって伝える(急な変更は不安を強めます)
- 新しい場面の前に、どんなことが起きるかを具体的に説明しておく
- 家族で過ごすゆったりした時間を、短くても毎日つくる
- 学校の先生と連絡を取り合い、家と学校で同じ対応を心がける
- 保護者が一人で抱え込まず、家族や友人、相談窓口を頼る
食事と運動
特別な食事で治るものではありませんが、規則正しい食事と十分な睡眠は不安の土台を支えます。カフェイン(コーヒー、濃いお茶、エナジードリンク、一部の炭酸飲料)はドキドキや眠りにくさにつながることがあるので、子どもには控えめに。体を動かすことは気分転換と自信づくりに役立ちます。散歩、なわとび、ボール遊びなど、無理なく続けられるものがおすすめです。
精神的健康と心の健康
子どもの不安は、本人だけでなく家族の気持ちも大きく揺さぶります。「自分が何とかしなければ」と頑張りすぎて、保護者の方が疲れてしまうことも少なくありません。保護者の心の健康も、子どもの支援と同じくらい大切です。もしお子さんが「死にたい」「消えたい」と口にしたとき、または保護者自身が追い詰められた気持ちになったときは、一人で抱えず、すぐに医療機関や地域の相談窓口、救急(119番)に連絡してください。
予防
強い不安を完全に防ぐことはできませんが、和らげることはできます。安心できる大人との関係、適度な挑戦と成功体験、整った生活リズム、そしてつらい出来事のあとの早めのサポートが役立つといわれています。子どもがこわがったとき、「そんなの平気でしょ」と打ち消すより、「こわいんだね。じゃあどうしようか」と一緒に考える関わりが、長い目で見ると力になります。
ワクチン
この不安に効くワクチンはありません。
検診プログラム
決まった検査はありませんが、乳幼児健診や学校健診、日々の様子から気になることがあれば、早めに相談することが大切です。家族歴や生活の変化なども含めて、気軽に小児科で相談してみてください。
合併症
治療しない場合
- 休みがちが続き、学校に戻りにくくなる
- 友だちづきあいや遊びの機会が減り、自信が育ちにくくなる
- 頭痛・腹痛などの体の不調が長引く
- 落ち込みやイライラが重なり、うつ的な状態になることがある
- 青年期・成人期にも不安の困りごとが続くことがある
- 保護者や家族の負担が大きくなり、家庭全体が疲れてしまう
長期的な見通し
悪い話ばかりではありません。子どもの不安は、適切な支えがあれば大きく改善するのがふつうです。多くの子どもは、時間とまわりの助けを得ながら、自分なりの不安とのつきあい方を身につけていきます。早く相談するほど、支援の選択肢は広がります。今うまくいっていなくても、それはお子さんや家族の努力が足りないからではありません。
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最終更新: 2026年10月23日
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