胸やけと胃酸の逆流 ― 胃食道逆流症(逆流性食道炎)について
概要
胃食道逆流症(いしょくどうぎゃくりゅうしょう)は、胃の中の酸っぱい内容物が食道(食べ物が通る管)に逆流してしまう状態です。食道は胃とちがって酸に弱いため、酸が上がってくると「胸やけ」と呼ばれる焼けるような感じや、苦い・酸っぱいものがこみ上げる感じが起こります。食道に炎症が起きている場合は「逆流性食道炎」と呼びます。
重要な事実
- 胸やけや酸っぱいものが上がってくる感じが、週に2回以上ある場合は一度相談してみましょう。
- 多くは食事や生活の工夫と、胃酸を抑える治療で症状が軽くなります。
- 胸の強い痛みは、心臓の病気の可能性もあるため、自己判断せず救急要請を検討してください。
とても多い症状です。日本人を含め、世界中で多くの人が経験しており、成人の1〜2割程度が何らかの症状を持つといわれています。決して珍しい病気ではありません。
成人なら誰でもなり得ますが、40代以上の方、体重が増えた方、食後すぐに横になる習慣のある方、妊娠中の方、食道裂孔(しょくどうれっこう)ヘルニアという状態のある方に多くみられます。お子さんでも起こることがあります。
症状
- 胸の強い圧迫感や痛みが続き、冷や汗・息苦しさ・吐き気を伴う(腕やあご、背中に広がる痛みも含む)
- 突然の激しい胸の痛みで、呼吸が苦しい
- 意識がぼんやりする、顔色が悪い
- ⚠吐血した、コーヒーの残りかすのようなものを吐いた
- ⚠便が黒くタールのようにねばねばしている
- ⚠食べ物や飲み物が飲み込みにくい、のどや胸につかえる感じが続く
- ⚠説明のつかない体重減少がある
- ⚠症状が急に強くなり、日常生活がつらい
一般的な症状
- 胸やけ:みぞおちから胸にかけて、焼けるような・熱い感じがする
- 酸っぱい液体や苦いものが、のどまで上がってくる(呑酸:どんさん)
- げっぷが増える、胃がもたれる感じがする
- 胸の痛みや、のど・胸のつかえる感じ
- 声がかすれる、のどの違和感やイガイガ感
- 夜間や横になったときに出る、長引く咳
- 歯がしみる、歯の表面が溶けたような感じ、口臭
- 症状のせいで夜中に目が覚める、寝つきが悪い
子供の症状
- 授乳後の吐き戻しが多い、哺乳のたびにぐずる
- 泣きやすい、機嫌が悪い、背中を反らせる
- 体重が増えにくい、成長曲線から外れてくる
- 大きいお子さんでは胸やけ、のどの痛み、長引く咳、声がれ
高齢者の症状
- 胸やけが目立たず、咳・声がれ・のどの違和感だけで現れることがある
- 食欲低下や体重減少として気づかれることがある
- 飲み込むときにむせやすい、誤嚥(ごえん)による肺炎を起こしやすい
- 複数の薬を飲んでいる場合、症状に関わることもあるため薬剤師にも相談すると安心です
原因
主な原因
- 食道と胃の境目にある筋肉(下部食道括約筋)がゆるんで、ふたの役目が弱くなる
- 食べ過ぎや肥満、妊娠、便秘などでお腹の圧力が高くなる
- 食後すぐに横になる、前かがみの姿勢をとる
- 脂肪の多い食事、アルコール、喫煙、カフェイン、炭酸飲料、強い香辛料など
- 食道裂孔ヘルニア(胃の一部が横隔膜の上に押し上げられた状態)
- 一部のお薬の影響(喘息のお薬や痛み止めなど)。気になる場合は医師や薬剤師に相談しましょう
リスク要因
- 体重の増加、特に腹部の脂肪
- 喫煙、アルコールの飲み過ぎ
- 遅い時間の食事、就寝前の食事
- 長時間座ったまま、前かがみの姿勢が多い
- ストレスや睡眠不足(症状を悪化させることがあります)
- 年齢を重ねること、食道裂孔ヘルニアのある方
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 吐血やコーヒー色の呕吐、黒いタール便がある
- 飲み込みが難しい、食べ物がつかえる
- 胸の強い痛み、息苦しさがある(心臓の病気との区別が必要です)
- 体重が意図せず減っている
定期受診を予約すべき場合:
- 胸やけや酸っぱいものが上がる症状が週に2回以上ある
- 症状が2週間以上続いている
- 市販薬を使ってみても改善しない、すぐ再発する
- 夜間の症状で眠れない、日常生活に支障がある
- 声がれや咳が長引く原因がわからない
診断
まずは問診が中心です。どんな症状が、いつ、どんなときに起きるかを医師に伝えましょう。症状の聞き取りで診断がつくことも多く、必要に応じて検査が行われます。
行われる可能性のある検査
- 問診と症状のチェック(食後や横になったときに出るか、など)
- 胃カメラ(上部消化管内視鏡):食道の炎症やびらん、他の病気がないかを確認します
- 心電図や血液検査:胸の痛みがあるとき、心臓の病気ではないかを確認します
- 24時間の食道内pHモニタリング:酸がどれくらい逆流しているかを調べます
- 食道内圧検査:食道の動きやふたの働きを調べます
- 治療を試して効果をみる方法(お薬を一定期間使って反応を確認する)
診察で予想されること
検査は日帰りで行えるものがほとんどです。胃カメラは希望すれば鎮静剤を使える場合もあります。症状の記録(何を食べたか、いつ症状が出たか)を持参すると診察がスムーズになります。
治療
治療は「生活の見直し」と「胃酸を抑える治療」の組み合わせが基本です。多くの方は数週間から数か月で症状が落ち着きます。まずはできるところから生活を整え、続く場合は医療機関で相談しましょう。
自宅でのセルフケア
- 一度の食事量を控えめにし、よく噛んでゆっくり食べる
- 食後2〜3時間は横にならない、すぐ寝ない
- 寝るときは上半身(頭側)を少し高くする、左を下にして横向きに寝る
- ベルトやきつい下着でお腹を締めつけない
- 体重が増えている場合は、無理のない範囲で減量を目指す
- 禁煙する、お酒は控えめにする
- 就寝の2〜3時間前には食べ終える
- 症状が出やすい食べ物(脂っこいもの、炭酸、カフェインなど)を記録して減らしてみる
医療治療
症状や検査結果に応じて、胃酸の分泌を抑えて食道を守るお薬、酸を中和するお薬、胃の動きを助けるお薬などが使われます。どのお薬が合うかは体質や症状によって異なるため、医師の指示に従い、飲み方や副作用が気になる場合は薬剤師にも相談してください。自己判断で中止したり量を変えたりしないようにしましょう。
手術が検討される場合
お薬で十分に改善しない場合や、大きな食道裂孔ヘルニアがある場合、繰り返す炎症で狭窄(きょうさく)が起きている場合には、外科的な治療が検討されることがあります。ただし手術が必要になる方は多くありません。主治医とよく相談して決めましょう。
この病気と共に生きる
症状は「毎日のちょっとした習慣」に左右されます。食べたもの・時間・姿勢を数日記録してみると、自分の引き金(トリガー)が見えてきます。完璧を目指さず、続けられる工夫を一つずつ試してみましょう。
生活習慣のアドバイス
- 食事は腹八分目、ゆっくり噛んで食べる
- 食後は軽い散歩などで体を動かし、すぐ横にならない
- 寝る前の飲食を避け、寝室の環境を整える
- ストレスをためないよう、自分なりの息抜きの時間を作る
- 衣服はウエストが締めつけないものを選ぶ
- 症状日誌をつけて、診察のときに見せる
食事と運動
脂っこい食事、揚げ物、チョコレート、炭酸飲料、コーヒーや紅茶、強い香辛料、アルコールは症状を悪化させることがあります。ただし人によって違うので、一律に禁止する必要はありません。野菜やたんぱく質をバランスよくとり、食べる順番を工夫するのも一案です。運動は食後すぐの激しい運動を避け、ウォーキングなど軽めの有酸素運動を日常に取り入れると、体重管理にも役立ちます。
精神的健康と心の健康
夜に症状が出て眠れない、外出先で胸やけが心配、といったことから、気分が落ち込んだり不安が強くなったりすることがあります。これは珍しいことではありません。症状と気持ちは互いに影響し合うので、つらいときは一人で抱え込まず、医療機関や相談窓口に話してみてください。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、生活習慣を整えることで症状の回数を減らし、悪化を防ぐことは十分に可能です。特に体重管理、食べ方、食後の過ごし方が大切です。
検診プログラム
症状が続く場合は、医師に相談して必要に応じて胃カメラなどの検査を受けましょう。特に40歳以上で初めて症状が出た方、長く症状が続く方は早めの相談がおすすめです。
合併症
治療しない場合
- 食道の粘膜に炎症が続き、びらんや潰瘍になる
- 炎症の繰り返しで食道が狭くなり、飲み込みにくくなる
- バレット食道(食道の粘膜が変化した状態)になり、長期的にはがんのリスクが高まる可能性がある
- 夜間の酸の逆流による咳や、誤嚥(ごえん)から肺炎を起こすことがある
- 歯が酸で傷む、声がれが続く
- 睡眠の質が下がり、日中の疲れや集中力低下につながる
長期的な見通し
ほとんどの方は、生活の工夫と適切な治療で症状をコントロールできます。長く付き合うことになっても、定期的に診察を受け、気になる変化を早めに相談すれば心配しすぎる必要はありません。あせらず、一歩ずつ整えていきましょう。
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最終更新: 2026年10月23日
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