太ももの付け根のヘルニア(大腿ヘルニア)と、その手術について
概要
大腿ヘルニア(だいたいヘルニア)は、おなかの中の脂肪や腸の一部が、太ももの付け根の少し下にある筋肉のすき間から外へ飛び出してしまう状態です。このすき間は「大腿輪(だいたいりん)」と呼ばれ、血管や神経が通る場所のすぐそばにあります。「ヘルニア」とは、本来は内側にあるはずのものが外へ飛び出した状態を指すことばです。太ももの付け根に、やわらかいふくらみができるのが典型的なサインです。
重要な事実
- 大人の大腿ヘルニアは自然に治まることはほとんどなく、基本的には手術で治す病気です。
- 飛び出した腸などが元に戻らなくなり、血流が悪くなる「嵌頓(かんとん)」という緊急の状態になることがあります。
- 手術は小さな切開で行う方法や、おなかの中からカメラで見ながら行う方法などがあり、多くは数日の入院で済みます。
鼠径(そけい)ヘルニアほど多くはありませんが、大人のヘルニアの中ではめずらしくないタイプです。とくに女性のヘルニアとしては比較的よく見られます。
40歳以上の女性、とくに60歳以上の方に多く見られます。男性にも起こりますが、女性のほうが多いタイプのヘルニアです。出産を経験した方、慢性的にせきが出る方、便秘がちな方にも起こりやすいとされています。
症状
- ふくらみが硬くなり、押しても戻らない
- ふくらみの部分に強い痛みがある
- 吐き気や嘔吐があり、おなかが張っている
- おならや便が出ない、ガスが出ない
- ふくらみの皮膚が赤や紫に変色している、熱を持っている
- 意識がぼんやりする、冷汗が出る、顔色が悪い
- ⚠ふくらみが急に大きくなった
- ⚠痛みが増してきた、歩くのがつらい
- ⚠気分が悪い、食欲がない、軽い吐き気がある
- ⚠以前は戻っていたふくらみが、戻りにくくなった
一般的な症状
- 太ももの付け根(足の付け根の下の方)に、やわらかいふくらみやしこりができる
- 立っているとき、せきをしたとき、重い物を持ったときにふくらみが大きくなる
- 横になって手で軽く押すと、ふくらみが引っ込むことがある
- 付け根の重い感じ、軽い痛み、違和感がある
- 長時間歩いたり立ったりすると、だるさや痛みが出ることがある
子供の症状
- 大腿ヘルニアは子どもではとてもまれです。子どもの足の付け根のふくらみは、鼠径ヘルニアであることがほとんどです。
- 子どもの場合は、泣いたときや力んだときだけふくらむこともあります。気になる場合は小児科に相談してください。
高齢者の症状
- 高齢の方では、痛みが軽く、はっきりした症状に気づきにくいことがあります。
- ふくらみの自覚がなくても、吐き気やおなかの張り、食欲の低下が手がかりになることがあります。
- 持病がある方や体力が低下している方は、手術の相談を早めにしておくと安心です。
原因
主な原因
- 生まれつき、または加齢によって、太ももの付け根の筋肉のすき間(大腿輪)がゆるくなっていること
- おなかの中の圧力(腹圧)が繰り返しかかること
- 組織の弾力が低下し、支える力が弱くなること
リスク要因
- 女性であること(骨盤の形の違いが関係すると考えられています)
- 40歳以上、とくに60歳以上
- 出産の経験がある
- 慢性的にせきが出る(喫煙や呼吸器の病気など)
- 便秘がちで、トイレで強くいきむことが多い
- 重い物を持ち上げる仕事や家事が多い
- 前立腺の病気などで、排尿のときに力むことが多い(男性の場合)
- やせ型で体重が減った、おなかの中に水がたまる病気がある、など
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- ふくらみが硬く、押しても戻らず、痛みが強いときは、すぐに救急(119番)を呼んでください。
- 吐き気・嘔吐・おなかの張り・おならや便が出ない、が重なるときも緊急です。
- 痛みは強いが吐き気はない、という場合も、その日のうちに医療機関を受診してください。
定期受診を予約すべき場合:
- 太ももの付け根にふくらみがあり、痛みは軽い、または痛みがない
- 立ち仕事のあとに、付け根の重い感じや違和感が続く
- 以前から気になっていたが、放置していたふくらみがある
- 手术を勧められたが、いつ受けるか決めかねている
診断
診断は、主に問診と体の診察で行われます。医師が立った姿勢と横になった姿勢の両方で、太ももの付け根を丁寧に触って確認します。多くの場合、超音波検査(エコー)で、飛び出しているものの正体や血流の状態を確かめます。
行われる可能性のある検査
- 問診(いつから、どんなときに大きくなるか、痛みの程度などを聞く)
- 視診・触診(立位と臥位でふくらみを確認し、押して戻るかを見る)
- 超音波検査(エコー):痛みはなく、その場で結果がわかる検査です
- CT検査:緊急の疑いがあるときや、詳しい状態を知りたいときに使われます
- 血液検査:緊急の手術が必要かもしれないときに行われることがあります
診察で予想されること
診察は数分から十数分程度で、痛みはほとんどありません。服をめくって足の付け根を見せる必要があるため、動きやすい服装で行くと安心です。検査の結果は、多くの場合その日のうちに説明を受けられます。
治療
大人の大腿ヘルニアは、自然に治ることはほとんどありません。また、腸が挟まって血流が悪くなる緊急の状態になる危険があるため、基本的には手術で治します。症状が軽い場合でも、手術のタイミングをあらかじめ相談しておくことがすすめられます。
自宅でのセルフケア
- 強いせきをできるだけ避け、喫煙がある場合は禁煙を検討する
- 便秘を防ぐために水分をとり、食物繊維を意識してとる
- 重い物を持ち上げる動作を控える、または負担を減らす工夫をする
- ふくらみを無理に強く押し込もうとしない
- 急な変化(硬くなる、痛みが増す)に気づけるよう、ふくらみの状態を時々確認する
医療治療
治療の中心は手術です。手術には、太ももの付け根を小さく切って行う方法と、おなかに小さな穴を開けてカメラを見ながら行う方法などがあります。多くの場合、弱くなった部分を補強するために、体内に残る人工の網(メッシュ)が使われます。麻酔は、部分的な麻酔から全身麻酔まで、体の状態や手術の方法に合わせて選ばれます。手術のあとの痛みには、医師の判断で痛み止めが使われます。日常生活で気をつけることや、手術までの過ごし方については、必ず担当の医師や薬剤師の指示に従ってください。
手術が検討される場合
大人の大腿ヘルニアと診断された場合は、症状が軽くても手術がすすめられることが多いです。理由は、挟まって緊急になる危険を減らせるからです。持病が多く手術の負担が心配なときは、急がない場合もあります。手術をするかどうか、いつ行うかは、体の状態や生活の事情をふまえて、医師とよく相談して決めてください。
この病気と共に生きる
手術を受けたあとは、多くの方が数日のうちに歩けるようになり、1〜2週間ほどで軽い日常動作に戻っていきます。仕事や運動の復帰時期は、仕事の内容や手術の方法によって変わります。術後は、傷口を清潔に保ち、医師から説明された過ごし方を守ることが大切です。
生活習慣のアドバイス
- 術後は、無理のない範囲で早めに歩くことが回復を助けます
- 重い物を持ち上げるのは、医師に確認した時期までは控える
- 便秘を防ぐ生活を続ける(水分、食物繊維、適度な運動)
- 喫煙がある場合は、禁煙を検討する(せきが腹圧を上げるため)
- 運転や入浴の再開時期は、必ず医師に確認する
食事と運動
特別な食事制限はありませんが、便秘を防ぐために水分と食物繊維をしっかりとることが大切です。手術のあとは、医師の許可を得てから、散歩などの軽い運動から少しずつ再開しましょう。腹筋を強く使う運動や重いウエイトトレーニングは、復帰の時期を医師に相談してからにしてください。
精神的健康と心の健康
ふくらみが気になって不安になったり、手術を控えて緊張したりするのは自然なことです。「急に痛くなったらどうしよう」という心配が続くと、気持ちが疲れてしまうこともあります。一人で抱え込まず、家族や友人、医療スタッフに気持ちを話してみてください。眠れない日が続く、気分の落ち込みが強いといったときは、かかりつけ医や地域の保健センター、自治体の相談窓口に相談してください。つらい気持ちが強いときは、ためらわずに医療機関や相談窓口を頼ってください。
予防
大腿ヘルニアを完全に防ぐ方法はありません。生まれつきの体のつくりや加齢が関係するためです。ただし、おなかに強く力がかかる場面を減らすことは、負担を軽くする助けになります。
検診プログラム
大腿ヘルニアのための決まった検診はありません。太ももの付け根のふくらみや違和感に気づいたら、かかりつけ医に相談することが一番の早道です。
合併症
治療しない場合
- 飛び出した腸などが戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」を起こすことがあります
- 血流が悪くなり、腸が傷む「絞扼(こうやく)」という状態になると、緊急の手術が必要になります
- 腸が詰まって、吐き気・呕吐・おなかの張り・排便や排ガスが止まるなどの症状が出ることがあります
- ふくらみが大きくなり、痛みや日常生活の不便が増えることがあります
長期的な見通し
手術で治療した場合の経過は、一般に良好です。多くの方は数週間でふだんの生活に戻り、再発も多くありません。持病がある方や高齢の方でも、体の状態に合わせた方法が選べます。気になる症状があるときは早めに相談することが、安心につながります。
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最終更新: 2026年10月23日
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