胎児徐脈(たいじょくみゃく)——赤ちゃんの心拍がゆっくりになる状態
概要
胎児徐脈とは、おなかの赤ちゃんの心臓の鼓動(心拍)が、ふだんよりゆっくりになった状態をいいます。妊娠中やお産のときに心拍をモニターで調べると、ふつうは1分間におよそ110〜160回でうっています。これが1分間に110回より少ない状態が10分以上続いたとき、胎児徐脈と呼びます。赤ちゃんは、お母さんの体から酸素と栄養を受け取っています。心拍がゆっくりになるのは、その通り道が一時的にせまくなったり、赤ちゃんの心臓の電気の流れに特徴があったりするときなどに起こります。多くは一時的で、体位を変えるなどで戻ることもありますが、赤ちゃんの状態をしっかり見守る必要があります。
重要な事実
- 胎児徐脈は「赤ちゃんの心拍が1分間に110回未満の状態が10分以上続く」ものをいいます。
- お母さん自身が自覚できる症状はほとんどなく、妊婦健診や分娩中のモニターで見つかることが多いです。
- 原因はさまざまで、一時的なものから、赤ちゃんの心臓の生まれつきの特徴によるものまであります。
- 多くは医療者の観察と対応で改善しますが、赤ちゃんの状態によっては早めのお産が必要になることがあります。
分娩中のモニターで心拍が一時的にゆっくりになることは、決してめずらしいことではありません。多くは短時間で元に戻ります。一方、妊娠中に何度も続けて見られる胎児徐脈や、心拍が長く続けて遅い場合は、くわしい検査が必要になります。
おなかの赤ちゃん、つまり胎児が対象になる状態です。特定の妊婦さんだけに起こるものではありませんが、お母さんに高血圧や糖尿病などの持病がある方、赤ちゃんの発育が小さいと言われている方、双子以上の妊娠、妊娠高血圧症候群、お母さんの自己免疫の病気(体の免疫が自分自身を攻撃してしまう病気)がある方では、注意して見守ることがあります。
症状
- 胎動(赤ちゃんの動き)がまったく感じられない、または半日以上ほとんど動かない
- 突然の激しい腹痛、またはおなかの張りが強く続く
- 多量の性器出血がある
- 破水したかもしれないと感じる(水のようなおりものが出続ける)
- 38度以上の発熱や、寒け・震えが続く
- けいれん、気を失う、強い頭痛や視界の異常など、お母さんご自身の具合が急に悪くなったとき
- ⚠胎動がいつもより少ない気がする(前日と比べて明らかに減った)
- ⚠少量の出血や、いつもと違うおりものがある
- ⚠おなかの張りが規則的にくり返す
- ⚠転倒やおなかをぶつけた後、心配がある
- ⚠かかりつけの産婦人科から「心拍がゆっくり」と言われ、指示を待っている
一般的な症状
- お母さん自身が感じる症状はほとんどありません
- 健診の超音波検査や心拍モニターで見つかることが多いです
- 胎動(赤ちゃんの動き)がいつもより少ないと感じることがあります
- 分娩中に、陣痛のあと心拍がなかなか戻らないとモニターで分かることがあります
- まれに、赤ちゃんの心臓の異常が出生後に分かることもあります
子供の症状
- 胎児徐脈はおなかの中の赤ちゃんの状態なので、生まれた後の「子どもの症状」とは少し違います
- 生まれた後に心拍がゆっくりだった場合は、新生児の担当医がすぐに状態を確認します
- 赤ちゃんの心臓の生まれつきの特徴が見つかった場合は、小児科・小児循環器の先生が継続して診ていきます
高齢者の症状
- 胎児徐脈は妊娠中の赤ちゃんの状態のため、高齢の方ご本人に当てはまるものではありません
- ただし、お母さんの年齢や持病(高血圧、糖尿病、自己免疫の病気など)は、妊娠中の経過に影響することがあります
- ご家族や周囲の方で妊娠中の方がいらっしゃる場合は、健診を大切にすることをそっと伝えてあげてください
原因
主な原因
- へその緒が赤ちゃんの体に軽く押しつけられるなどして、一時的に血流が減ること
- 胎盤(赤ちゃんに酸素と栄養を届ける器官)の働きが一時的に低下すること
- お母さんの血圧が下がったり、長時間あお向けの姿勢でいたりして、血流が変化すること
- 赤ちゃんの心臓の電気の流れ方に生まれつきの特徴があること(先天性の房室ブロックなど)
- 赤ちゃんの心臓の形の生まれつきの特徴
- お母さんの自己免疫の病気に関係して、赤ちゃんの心臓の電気の流れが妨げられること
- 感染症やお母さんの体調の変化、分娩を進めるための処置やお薬が影響している場合
- 赤ちゃんが一時的に酸素不足になっていること
リスク要因
- 妊娠高血圧症候群やお母さんの高血圧
- 妊娠中の糖尿病
- 赤ちゃんの発育が小さいと言われている(胎児発育不全)
- 双子以上の妊娠、羊水の量の異常
- お母さんの自己免疫の病気(全身性エリテマトーデスなど)
- へその緒や胎盤の位置・形の特徴
- 早産(予定より早い時期のお産)
- お母さんが長時間あお向けで過ごすこと、急に立ちくらみすること
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 胎動が明らかに減った、または感じられない
- 性器出血がある、破水したかもしれない
- 強い腹痛や、おなかの張りが続く
- 発熱がある、具合が急に悪くなった
- 健診で「心拍がゆっくり」と言われた後、胎動が少ないと感じた
定期受診を予約すべき場合:
- 妊婦健診で心拍の異常を指摘された
- おなかの赤ちゃんの動きが、なんとなく前と違う気がする
- 分娩中のモニターについて説明を受け、心配が残っている
- 次の健診まで待つか迷うときは、遠慮せず電話で相談してよいです
診断
胎児徐脈は、おなかの赤ちゃんの心拍をモニターで記録して見つけます。妊娠中は超音波検査で心臓の動きや血流を確かめ、分娩中は心拍と陣痛の関係を続けて記録します。心拍がゆっくりになる原因を探るため、お母さんの血圧や体調、お薬の使用、自己免疫の病気の有無などもあわせて確認します。原因によって対応が変わるため、いくつかの検査を組み合わせて判断します。
行われる可能性のある検査
- 胎児心拍モニタリング(ノンストレステスト、分娩監視装置)
- 経腟・経腹超音波検査(赤ちゃんの大きさ、羊水の量、胎盤の位置などを確認)
- 胎児心エコー検査(赤ちゃんの心臓の形と動きをくわしく見る超音波検査)
- 臍帯(へその緒)の血流を調べるドップラー検査
- お母さんの血液検査(自己免疫の病気や感染、貧血などを確認)
- バイオフィジカルプロファイル(超音波で赤ちゃんの動きや呼吸様運動、羊水の量を点数化する検査)
- 分娩中は、心拍の変化に応じて必要なモニターの確認をくり返す
診察で予想されること
検査の多くは痛みがなく、おなかに機械を当てるだけです。モニターは20〜40分ほどかかることがあり、その間は横になって過ごします。赤ちゃんが眠っていると心拍の変化が分かりにくいことがあるため、時間をおいて再度調べることもあります。検査の結果は、その場で医師から説明を受けられます。分からない言葉があれば、その場で「どういう意味ですか」と聞いて大丈夫です。
治療
胎児徐脈への対応は、まず「今、赤ちゃんに十分な酸素が届いているか」を確かめることから始まります。多くは一時的なもので、お母さんの体位を変える、安静にする、点滴で水分を補うといった基本的な対応で改善します。原因がお母さんの持病や自己免疫の病気にある場合は、その治療を産婦人科と内科などの担当が協力して進めます。赤ちゃんの状態が良くないと判断されたときは、早めにお産になることがあります。
自宅でのセルフケア
- 健診は決められた回数だけでなく、体調に不安があれば早めに受診しましょう
- 胎動を意識して感じてみましょう。いつもと違うと感じたら、迷わず産婦人科に電話してください
- 長時間あお向けにならず、横向きで休むなど楽な姿勢をとりましょう
- 急に立ち上がると立ちくらみが起こることがあります。ゆっくり動きましょう
- 食事や水分をしっかりとり、無理な活動や長時間の移動は控えめに
- お薬やサプリメントは、自己判断で始めたりやめたりせず、必ず医師・薬剤師に相談しましょう
- 喫煙・飲酒は避け、受動喫煙(周囲の煙)にも気をつけましょう
医療治療
対応は原因と赤ちゃんの状態に合わせて選びます。お母さんの体位を横向きや左側に変える、酸素を吸入する、点滴で水分と栄養を補う、おなかの張りを抑える、分娩を進める処置を中止する、といった基本的な対応を行います。心拍を整える目的でお薬を使うことがありますが、どのお薬が適切かは状態によって変わるため、医師が判断します。赤ちゃんの心臓の電気の流れに特徴がある場合は、生まれる前後の状態を見ながら小児循環器の専門医と相談して方針を決めます。お産の方法や時期は、赤ちゃんとお母さんの状態を総合して決めます。
手術が検討される場合
赤ちゃんに十分な酸素が届いていないと判断され、妊娠週数や状態から考えて、おなかの中で過ごすより外に出たほうが安全と判断された場合は、帝王切開(おなかを切って赤ちゃんを取り出すお産)が選ばれることがあります。また、生まれた後に心臓の電気の流れに問題があると分かった場合は、小児循環器のチームが状態を見ながら、必要に応じて専門的な処置を検討します。
この病気と共に生きる
胎児徐脈と言われたあとは、健診の予定を守り、胎動の変化に気を配りながら過ごすことになります。モニターで問題がなかったとしても、家で「いつもと違う」と感じたら遠慮なく連絡してください。分娩中はモニターが続きますが、それは赤ちゃんを守るためのもの。不安なときは、そばにいるスタッフに声をかけてください。
生活習慣のアドバイス
- 無理のない範囲で、規則正しい生活を心がけましょう
- 疲れを感じたら早めに休み、睡眠を十分にとりましょう
- 長時間同じ姿勢でいることを避け、ときどき姿勢を変えましょう
- 健診の予定は手帳に書き、忘れずに受診しましょう
- 体調の変化をメモしておくと、診察のときに伝えやすくなります
食事と運動
バランスのよい食事と十分な水分を心がけましょう。塩分のとりすぎに気をつけ、よくかんで食べることが大切です。運動は、医師から特に制限を言われていなければ、散歩など軽い活動なら問題ないことが多いです。ただし、息が上がるほどの運動、転倒の危険がある運動、長時間の立ちっぱなしは控えめにしましょう。どの程度の運動がよいかは、妊婦健診で相談してください。
精神的健康と心の健康
赤ちゃんの心拍のことを言われると、不安で眠れなくなったり、何度も考えてしまったりするのは自然なことです。不安が強いときや、気持ちが落ち込んで涙が止まらないときは、ひとりで抱えこまないでください。産婦人科のスタッフ、助産師、かかりつけの医療機関に気持ちを話すことが助けになります。気持ちがとてもつらいときや、自分を傷つけたい気持ちがわいてきたときは、すぐに医療機関や地域の相談窓口に連絡してください。緊急性が高いと感じたら119番に電話してください。
予防
胎児徐脈そのものを必ず防ぐ方法はありませんが、妊娠中の経過をよく見ていくことで、赤ちゃんの変化に早く気づけます。定期的な妊婦健診を受けること、体調の変化や胎動の違いをそのまま伝えることが、いちばんの備えになります。持病がある方は、妊娠前から主治医と相談して状態を整えておくことが大切です。
ワクチン
妊娠中に受けるワクチンについては、時期や種類によって考え方が異なります。接種するかどうかは自己判断せず、妊婦健診で医師に相談してください。
検診プログラム
妊婦健診での心拍の確認、超音波検査、必要に応じたモニター検査が、赤ちゃんの状態を早く知る手がかりになります。妊娠高血圧症候群や糖尿病などのチェックも、健診の中で行われます。
合併症
治療しない場合
- 赤ちゃんに酸素が十分届かない状態が長く続くと、体に負担がかかることがあります
- 生まれた直後に呼吸や心臓の動きに支援が必要になることがあります
- 心臓の電気の流れに生まれつきの特徴がある場合、生まれた後の継続的な観察が必要になります
- まれに、妊娠の経過に大きな影響が出ることがあります
長期的な見通し
胎児徐脈の多くは一時的で、適切な観察と対応によって無事に妊娠を続けられる方もたくさんいます。分娩中に短時間だけ心拍がゆっくりになることもよくあり、その場で対応して改善することがほとんどです。心臓の生まれつきの特徴が見つかった場合も、小児循環器のチームとともに、生まれた後の見通しを立てていくことができます。心配なことは、遠慮なく担当の医師や助産師に聞いてください。
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最終更新: 2026年11月3日
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