フリッツ・ヒュー・カーティス症候群(肝臓のまわりの炎症)
概要
フリッツ・ヒュー・カーティス症候群は、肝臓の表面をおおっている薄い膜(肝被膜=かんひまく)に炎症が起きる状態です。多くは、腟(ちつ)や子宮の奥で起きた細菌の感染が、骨盤の中を通って肝臓のまわりまで広がることで起こります。クラミジアや淋菌(りんきん)といった性感染症の菌が原因になることが多いとされています。炎症が長く続くと、肝臓とおなかの壁の間に「バイオリン弦」のような細い糸状の癒着(ゆちゃく=組織がくっついてしまうこと)が残ることがあり、これがこの症候群の特徴とされています。
重要な事実
- 骨盤の中で起きた感染が肝臓のまわりに広がって起こる炎症で、骨盤内炎症性疾患(PID)に伴って見られることが多いです。
- 右下腹部や右上腹部の痛み、発熱、おりものの変化などが組み合わさって現れます。
- 原因となる菌に合った治療を早めに受けることが大切で、多くの場合は適切な治療で改善します。
それほど多い病気ではありませんが、とても珍しいというわけでもありません。性感染症による骨盤内の炎症がある人の一部に見られると報告されています。
主に、性感染症にかかる可能性のある年齢の女性(10代後半から30代くらいまで)に見られます。男性では非常にまれです。妊娠を希望している人、これまでに骨盤内炎症性疾患や性感染症になったことがある人では、特に注意が必要です。
症状
- 突然の激しいおなかの痛みで、立っているのもつらい。
- 高熱とともに意識がぼんやりする、会話がかみ合わない。
- 顔色が真っ青、冷や汗、手足が冷たいなどショックを疑う状態。
- 皮膚や白目が急に黄色くなった(黄疸)。
- 大量の性器出血や、意識を失うほどの痛み。
- ⚠38度以上の発熱が2〜3日以上続く。
- ⚠右上腹部の痛みが強くなり、息を吸うのがつらい。
- ⚠妊娠の可能性がある中での下腹部痛や出血。
- ⚠おりものに膿のようなものや血が混じり、痛みが強い。
- ⚠水分がとれない、尿が出にくい。
一般的な症状
- 右上腹部(あばらの下、肝臓のあたり)の痛み。深呼吸や咳、体を動かしたときに強くなることがあります。
- 発熱(多くは38度前後、ときにはそれ以上)。
- 下腹部や骨盤の痛み、鈍い重い感じ。
- おりものの量が増える、色やにおいが変わるなどの変化。
- 性交時の痛み。
- 吐き気や食欲がわかない感じ。
- 肩や右の背中に痛みが広がることがある。
子供の症状
- 10代の若い女性では、成人と同じような症状が出ることが多いです。
- 痛みの場所をうまく伝えられず「おなかがなんとなく痛い」「学校に行きたくない」といった形で現れることがあります。
- 発熱と下腹部の痛みが続くときは、保護者の方が早めに医療機関に相談してください。
高齢者の症状
- 年齢が上がるとこの症候群はあまり見られませんが、起きた場合は症状がはっきりしないことがあります。
- 発熱やだるさが目立たず、食欲低下やなんとなく具合が悪いというだけのこともあります。
- 高齢者では、胆のうや胆管など別の病気の可能性もあわせて調べる必要があります。
原因
主な原因
- 腟や子宮の入り口から入った細菌(クラミジアや淋菌など)が、子宮、卵管、骨盤の中へと広がることで起こります。
- 骨盤の中で起きた炎症が、おなかの膜(腹膜)づたいに肝臓の表面まで届いて炎症を起こすと考えられています。
- 骨盤内炎症性疾患(PID=子宮や卵管、骨盤の中に炎症が起きる状態)に伴って見られることが多いです。
- まれに、虫垂炎や他の感染症が関係することもあります。
リスク要因
- 10代後半から20代など、若い年齢であること。
- コンドームを使わない性行為、複数の性パートナーがいること。
- これまでに性感染症にかかったことがある。
- これまでに骨盤内炎症性疾患と診断されたことがある。
- 子宮内に器具を入れる処置など、最近子宮の中を操作したことがある。
- 性感染症の検査を受けないまま長い期間が過ぎている。
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 発熱と右上腹部の痛みが同時にある。
- 下腹部の痛みがどんどん強くなっている。
- 妊娠している、または妊娠の可能性がある状態で腹痛や出血がある。
- 性感染症の可能性について心当たりがあり、症状が出ている。
定期受診を予約すべき場合:
- おりものの量や色、においの変化が気になる。
- 性交時の痛みや骨盤の重い感じが続く。
- パートナーが性感染症と診断された。
- 症状はないが、性感染症の検査を受けたい。
診断
診断は、症状の聞き取り、体の診察、血液検査、画像検査、そして性感染症の検査を組み合わせて行います。下腹部と右上腹部の両方に痛みがあるときは、この症候群が疑われます。肝臓のまわりの変化は、超音波(エコー)やCT、MRIといった画像検査で確認することがあります。
行われる可能性のある検査
- 問診(症状の経過、性感染症の既往、パートナーの状況などを聞きます)。
- 血液検査(炎症の程度をみるCRPや白血球、肝臓の働きをみる数値など)。
- 腹部超音波検査、CT検査、MRI検査。
- 性感染症の検査(腟や尿の検体を使った核酸検査など)。
- 婦人科の内診や、必要に応じて子宮頸部の検査。
- 診断が難しい場合には、おなかに小さな穴をあけてカメラで見る腹腔鏡(ふくくうきょう)検査を行うことがあります。この検査で「バイオリン弦」のような癒着が確認されることがあります。
診察で予想されること
診察では、下腹部の痛みと右上腹部の痛みの両方があるかを確認します。検査の結果が出るまで数日かかることがあります。症状が強い場合や、妊娠の可能性がある場合は、より早く調べる必要があります。性感染症の検査は、保健所や婦人科で相談できることもあります。
治療
治療の中心は、原因となっている細菌を減らすことと、痛みや炎症をやわらげることです。多くの場合は通院での治療が可能ですが、症状が強いときや妊娠中は入院して治療することがあります。パートナーにも感染が広がっている可能性があるため、パートナーも一緒に検査を受けることが大切です。
自宅でのセルフケア
- 無理をせず、しっかり休んで体を休める。
- 水分をこまめにとる。
- 医師に指示された治療は、症状が良くなっても最後まで続ける。
- 痛み止めを使いたいときは自己判断で飲まず、医師や薬剤師に相談する。
- 治療が終わるまでは性行為を控え、パートナーと一緒に検査を受ける。
- コンドームを正しく使う。
- 体調の変化をメモしておき、次の診察で伝える。
医療治療
原因となる細菌に合わせて、医師が抗菌薬(細菌をやっつける薬)を選びます。薬の種類や使い方は、検査結果や症状、妊娠の有無などによって医師が決めます。あわせて、痛みや熱に対する対応も行われます。パートナーにも同じように検査と治療が必要になることが多いため、二人で受診することがすすめられます。治療中は症状が消えても自己判断で治療をやめないことが大切です。
手術が検討される場合
多くの場合は手術は不要です。ただし、骨盤の中に膿(うみ)がたまる膿瘍(のうよう)ができた場合や、診断のために腹腔鏡検査が必要な場合には、手術や処置が検討されることがあります。
この病気と共に生きる
治療が始まると、数日から数週間で痛みや熱は少しずつ落ち着いてくることが多いです。しばらくは疲れやすいので、仕事や学校を無理に頑張らず、体の声を聞きながら過ごしてください。治療後も、おりものや痛みの変化があれば医師に伝えましょう。
生活習慣のアドバイス
- 規則正しい睡眠と休息をとる。
- コンドームを毎回正しく使う。
- 新しいパートナーとの関係が始まったときは、性感染症の検査について話し合う。
- 症状があるとき、治療中は性行為を控える。
- アルコールや喫煙は肝臓に負担をかけるため、治療中は控えめにする。
- 定期的に婦人科やかかりつけ医で相談できる関係を作っておく。
食事と運動
特別な食事制限が必要なわけではありませんが、肝臓のまわりに炎症があるときは、バランスのよい食事と十分な水分が体の回復を助けます。脂っこい食事やお酒のとりすぎは控えめにしましょう。運動は、熱や痛みが落ち着いてから、散歩など軽いものから少しずつ再開してください。つらいときに無理をする必要はありません。
精神的健康と心の健康
性感染症が関係することもあり、「自分が悪いのでは」「パートナーにどう伝えよう」と気持ちが沈むことがあります。これは自然な感情で、あなただけが特別なわけではありません。誰かに話すだけで楽になることもあります。不安や落ち込みが続くとき、眠れない日が続くときは、医師や看護師、地域の相談窓口に話してみてください。つらい気持ちが強いときは、ひとりで抱えず、早めに専門家に相談してください。
予防
原因の多くは性感染症なので、性感染症を防ぐことがこの症候群の予防につながります。コンドームを正しく使うこと、症状がなくても検査を受けること、パートナーと検査や避妊について話し合うことが大切です。また、下腹部の痛みや発熱を我慢せず早めに受診することも、悪化を防ぐことになります。
ワクチン
クラミジアや淋菌に対する一般的なワクチンは、現在ありません。子宮頸がんを予防するワクチンはありますが、これは今回の原因菌を防ぐものではありません。ワクチンについて詳しく知りたいときは、医師や自治体の案内を確認してください。
検診プログラム
症状がなくても、性感染症の検査を受けられます。パートナーが変わったとき、妊娠を考えているとき、心当たりがあるときは検査を検討しましょう。検査や相談は、婦人科やお住まいの地域の保健所で案内しています。
合併症
治療しない場合
- 骨盤の中に癒着(組織がくっつくこと)が残り、卵管が通りにくくなることがあります。
- 将来の不妊や、子宮外妊娠のリスクが高まることがあります。
- 慢性的な骨盤の痛みが続くことがあります。
- 肝臓のまわりに癒着が残ることがあります(多くは無症状ですが、検査で見つかることがあります)。
- まれに、骨盤の中に膿がたまる膿瘍や、肝臓の膿瘍につながることがあります。
長期的な見通し
適切に治療すれば、多くの人は症状が良くなり、ふだんどおりの生活に戻れます。肝臓のまわりの癒着が残っても、それだけで困った症状が出ることは多くありません。妊よう性(妊娠しやすさ)が気になる場合も、早めに治療を始めることが大切です。不安なことは、遠慮なく医師に相談してください。
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最終更新: 2026年10月23日
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