旅行中の食べ物の安全 ― 旅先でおなかをこわさないために
概要
旅行中の食べ物の安全とは、旅先で飲み物や食事をとるときに、おなかの病気(食中毒や「旅行者下痢症」と呼ばれる下痢)を防ぐための基本的な考え方と工夫のことです。特別に難しいことをする必要はありません。「安全な水を選ぶ」「よく加熱されたものを食べる」「手を清潔に保つ」という3つが中心になります。
重要な事実
- 旅先での下痢(旅行者下痢症)は、海外旅行でとてもよく起こるトラブルです。地域や旅のスタイルによって差はありますが、多くの人が一度は経験すると言われています。
- 原因の多くは、汚れた水や氷、加熱が足りない食べ物、そして手を介して口に入る細菌やウイルスです。
- いちばん効果があるのは、石けんと水での手洗いと、安全だと確認できる水を選ぶことです。特別な薬に頼るより、この基本が大切です。
- 日本国内の旅行でも、夏場の食品の扱いや生ものには同じように注意が必要です。
はい、とてもよくあることです。海外、とくに衛生状態や水の扱いが日本と異なる地域へ行く人では、旅行者下痢症を経験する人が少なくありません。数字は渡航先や旅のしかたで大きく変わりますが、「めずらしい病気」ではなく「よくある旅のトラブル」と考えてよいでしょう。
どなたでも起こりえますが、子ども、高齢者、妊婦さん、治療などで免疫が弱くなっている人は、下痢やおう吐による脱水が進みやすく、症状が重くなりやすいため特に注意が必要です。また、胃酸を抑える薬を飲んでいる人は、菌が胃で減りにくくなるため注意が必要だと言われています。
症状
- 意識がない、または呼びかけへの反応がにぶい、ぐったりして起こせない
- けいれんが起こった
- 呼吸が苦しい、息が浅く速い
- 血の混じった便が続く、または大量の出血がある
- 激しい腹痛で歩けない、体を丸めて動けない
- 水分を口にしても全部吐いてしまい、飲めない状態が続く
- 顔色が悪い、唇が乾いてひび割れている、皮膚をつまむと戻るのが遅い(脱水が強いサイン)
- ⚠38度以上の熱が続く、または高熱と下痢が同時にある
- ⚠おう吐が止まらず、水分がとれない
- ⚠便に血が混じる、粘液が多く混ざる
- ⚠尿が半日以上出ていない、またはごく少量しか出ない
- ⚠症状が2〜3日以上たってもよくならない、むしろ悪くなっている
- ⚠帰国後も症状が続く、または旅先で受診して改善しない
一般的な症状
- 水のような下痢、または軟らかい便が何度も続く
- おなかの痛み、おなかがゴロゴロする感じ
- 吐き気、おう吐
- 軽い発熱、だるさ、頭痛
- 食欲がない、体が重い感じ
- 脱水のサイン:口の中が乾く、尿の量が減る、立ちくらみがする
子供の症状
- 下痢やおう吐が続き、機嫌が悪い・ぐったりしている
- 泣いても涙が出ない、口の中や舌が乾いている
- おしっこの回数がいつもより明らかに少ない、おむつが濡れない
- おなかを痛がって丸くなる、触ると嫌がる
- 発熱、よだれが多く飲み込みづらそうにする
- 子どもの体は水分の割合が多く、脱水が進みやすいので、少しでもいつもと違うと感じたら早めに医療機関へ相談してください。
高齢者の症状
- のどの渇きを感じにくく、脱水に気づきにくい
- 元気がない、ぼんやりしている、話がかみ合わない
- ふらつき、立ちくらみ、転んでしまう
- 尿の量が減る、皮膚や口の中が乾いている
- 食欲が落ちて水分もとれない
- 高齢の方は症状がはっきり出にくいことがあります。家族や同行者が様子の変化に気づいてあげることが大切です。
原因
主な原因
- 汚染された水や氷(水道水、井戸水、氷、それらで作った飲み物)
- 加熱が足りない肉・魚介類、生の卵を使った料理
- 洗っていない、または安全な水で洗っていない野菜や果物
- 衛生管理が十分でない飲食店や屋台の食品
- 手を介した感染(トイレのあとや調理の前に手を洗わないことで、細菌やウイルスが口に入る)
- 低温殺菌されていない乳製品や、生のままの乳
- 同じ食べ物やタオル、食器を大勢で共有すること
リスク要因
- 水や衛生環境が日本と大きく異なる地域への旅行
- 屋台や路上での食事、常温で長時間置かれた料理
- 生水や氷入りの飲み物を口にする
- 子ども、高齢者、妊婦、免疫が弱くなっている人
- 胃酸を抑える薬を飲んでいる(菌が胃で減りにくくなる)
- 長時間の移動や時差で疲れている、睡眠不足
- 現地の食べ物に体が慣れていない最初の数日
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 水分がとれない、または飲んでもすぐ吐いてしまう
- 血の混じった便、激しい腹痛、高熱がある
- 尿がほとんど出ない、意識がぼんやりする、ふらついて立てない
- 乳幼児・高齢者・妊婦さんで症状がある
- 帰国後も下痢や発熱が続いている
定期受診を予約すべき場合:
- 下痢が3日以上続いている
- 症状は軽いが、旅行の予定に影響が出ている
- 市販の薬を自分で使うか迷っている(特に発熱や血便があるとき)
- 渡航前に、行き先に応じた注意点や予防について相談したい
- 帰国後、便の状態が長く元に戻らない
診断
多くは、いつから、どんな便が出るか、何を食べたか、どこへ旅行したかといったお話(問診)と、おなかの診察だけで見当をつけます。脱水がないかどうかも、口の中の乾き、尿の量、脈や血圧などで確認します。症状が強いとき、血便や高熱があるとき、長引くときには、原因をはっきりさせるために検査が行われることがあります。
行われる可能性のある検査
- 便の検査(細菌・ウイルス・寄生虫が原因かどうかを調べる)
- 血液検査(炎症の程度や脱水、電解質のバランスを見る)
- 尿検査(脱水や腎臓への負担の目安)
- 脱水の評価(体重、脈、血圧、皮膚や口の中の状態)
- 必要に応じて腹部の画像検査
診察で予想されること
診察はそれほど長くかかりません。聞かれたことを正確に話せると診断の助けになります。いつから症状が出たか、便の回数や見た目(水のようか、血が混じるか)、旅先と期間、食べたもの・飲んだもの、一緒に旅行した人に同じ症状がいるか、持病や飲んでいる薬(特に胃酸を抑える薬)をメモしておくとスムーズです。検査が必要な場合も、結果が出るまでに数日かかることがあります。
治療
ほとんどは、数日から1週間ほどで自然によくなります。治療の中心は「失った水分と塩分をこまめに補うこと」と「腸を休ませながら食べられるものを少しずつとること」です。原因や症状の重さによっては、医療機関で点滴や追加の検査、原因に応じた治療が行われることがあります。
自宅でのセルフケア
- 水分と塩分を少しずつ、何回にも分けてとる(経口補水液のように塩分と糖分のバランスがとれた飲み物が役立ちます)
- 一度にたくさん飲まず、スプーン1杯ずつなど少量から始める
- 食べられる範囲で、おかゆ、よく煮た野菜、食パン、バナナなど消化のよいものを少しずつ
- 脂っこいもの、刺激の強いもの、アルコール、カフェインはしばらく控える
- 手洗いをこまめに行い、タオルや食器の共用を避ける
- 無理をせず休む。脱水予防のため、トイレのたびに少し飲む習慣をつける
- 症状が重いときや発熱・血便があるときは、自分判断で下痢止めを使わず、医療者に相談する
医療治療
医療機関では、まず脱水の程度を確認し、必要なら点滴で水分と電解質を補います。原因となる細菌が疑われる場合などには、医師の判断で抗菌薬が使われることがあります。発熱や痛みに対する対応も、症状と経過を見ながら医師が判断します。下痢止めや解熱のための薬は、血便や高熱があるときにかえって症状を悪くすることがあるため、自己判断せず必ず医師や薬剤師に相談してください。妊婦さん、子ども、高齢者、持病のある方は、使える治療が限られることがあるので、その旨を必ず伝えましょう。
この病気と共に生きる
症状がある間は、無理に予定を詰め込まず、休むことを優先しましょう。移動がある場合は、トイレに近い席を選ぶ、水分を持ち歩く、着替えを用意しておくなどの備えが安心につながります。症状が落ち着いてきたら、食事を少しずつ普通の内容に戻していきます。
生活習慣のアドバイス
- 旅先でも、食事の前とトイレのあとの手洗いを習慣にする
- 飲み物はふたのできる安全な水を選び、氷は避ける
- 食べ物はよく加熱された温かいものを選ぶ
- 果物は自分で皮をむけるものを選ぶ
- 疲れをためない。睡眠と休憩をしっかりとる
- 帰国後もしばらくは便の状態を気にかけておく
食事と運動
症状が強いときは、消化のよい食事を少量ずつとり、激しい運動は控えて安静を心がけます。下痢が落ち着いてきたら、水分と一緒に少しずつ食事の量と種類を戻していきましょう。回復後は、ふだんどおりのバランスのよい食事と軽い運動に戻して問題ありません。ただし、胃腸がまだ敏感な時期に刺激の強い食べ物やアルコールをとると、ぶり返すことがあるので注意してください。
精神的健康と心の健康
旅先で体調を崩すと、予定が狂う焦り、言葉が通じない不安、同行者に迷惑をかけたという気持ちが重なりやすいものです。体調不良そのものが気分を落ち込ませることもあります。「旅の途中で具合が悪くなるのは珍しいことではない」と知っておくだけで、少し気が楽になります。不安が強いとき、眠れない日が続くとき、つらい気持ちが長引くときは、ひとりで抱えず、同行者や医療者、信頼できる相談窓口に話してください。
予防
はい、かなりの程度防げます。特別な道具はいりません。「安全な水を選ぶ」「よく加熱された食べ物を選ぶ」「手を清潔に保つ」の3つを、旅の間ずっと続けることがもっとも効果的です。渡航前に、行き先の衛生情報や注意事項を厚生労働省検疫所などの情報で確認しておくと準備がしやすくなります。
ワクチン
旅先によっては、A型肝炎、腸チフス、破傷風など、予防接種がすすめられる感染症があります。また、乳幼児は日本で定期接種として行われているワクチンが関係することもあります。必要なワクチンは渡航先・期間・行動内容によって変わり、接種に時間がかかるものもあるため、遅くとも出発の数週間前までに、トラベルクリニックやかかりつけ医に相談してください。
検診プログラム
特定の検査で「食中毒を事前に見つける」ことはできません。代わりに、渡航前の健康相談(トラベルクリニックやかかりつけ医)が予防の役割を果たします。持病や飲んでいる薬、妊娠の可能性、子どもの年齢などを伝えておくと、旅先での注意点や準備について具体的な助言が得られます。
合併症
治療しない場合
- 脱水(体の水分が足りなくなること)と電解質の乱れ。特に子どもと高齢者では進みやすい
- 腎臓への負担、だるさやふらつきが続く
- 腸チフスのような重い感染症が隠れていて、発見が遅れる
- 血便や激しい腹痛をともなう腸の炎症
- 旅行の予定が大きく崩れ、移動や帰国が難しくなる
- 帰国後も症状が長引き、日常生活に支障が出る
長期的な見通し
ほとんどの場合は、水分と塩分をこまめにとり、しっかり休めば数日で回復します。つらい時期ではあっても、多くは一時的なものです。脱水のサインに気づいて早めに対応すること、そして必要なら医療機関につながることが、回復への近道になります。心配な点は、出発前でも旅先でも帰国後でも、遠慮なく医療者や薬剤師に相談してください。
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最終更新: 2026年10月23日
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