フリードライヒ失調症(ふりーどらいひしっちょうしょう)
概要
フリードライヒ失調症は、体の動きをうまく調整するための神経(脊髄・小脳・末梢神経など)が、少しずつ傷ついていく遺伝性の病気です。主な症状は、歩くときのふらつき、転びやすさ、手の細かい動きの苦手さなどで、ゆっくりと進むのが特徴です。心臓や血糖値、背骨の曲がりなど、神経以外の体の部分に変化が現れることもあります。
重要な事実
- 生まれつきの遺伝子の変化(FXN遺伝子)が原因の遺伝性の病気です
- 進行はゆっくりで、症状の出方や進み方には個人差が大きいです
- 心臓(心筋症・不整脈)や血糖値の異常、背骨の曲がり(側弯)を伴うことがあります
- 根本的に治す治療はまだ確立されていませんが、リハビリや合併症の管理、支援制度の活用で生活の質を保つことができます
とてもまれな病気です。日本では「指定難病」に定められており、医療費の助成などの支援制度があります。
多くは小児期から10代のうちに症状が出始めますが、大人になってから発症するタイプ(成人発症型)もあり、その場合は症状が軽く進行がゆっくりなことが多いです。男女差はほとんどありません。両親がともに遺伝子の保因者(本人は発症しないが遺伝子の変化を持つ人)の場合、子どもが発症する確率は約4分の1といわれています。
症状
- 胸の痛みや強い動悸が続く、または冷汗を伴う
- 意識を失う(失神)、意識がもうろうとする
- 強い息苦しさ、呼吸が苦しい
- 転倒して頭を強く打ち、意識がおかしい・けいれんがある
- ⚠転倒して歩けなくなった、強い痛みがある
- ⚠動悸や息切れが急に悪化した
- ⚠飲み込みにくくなり、食事や水分がとれない
- ⚠発熱と息苦しさが同時にある
一般的な症状
- 歩くときのふらつき、転びやすい
- 走るのが遅い、まっすぐ歩きにくい
- 手の細かい動き(ボタン留め、書字など)が苦手になる
- 話すときのろれつが回らない(構音障害)
- 膝や足首の腱反射が弱くなる、足の感覚が鈍くなる
- 足の形の変化(土踏まずが高くなる凹足)
- 背骨の曲がり(側弯)
- 疲れやすい、すぐに息が上がる
- 視力や聴力の軽い変化
子供の症状
- 体育で走るのが極端に遅い、よく転ぶ
- 姿勢が崩れやすく、まっすぐ立てない
- 字が乱れる、箸やペンを使うのがぎこちない
- 階段の上り下りを嫌がる、疲れやすい
- 背中や腰の曲がりを指摘される
- 動作がゆっくりになってきたと感じる
高齢者の症状
- 成人発症型では、症状が軽く、何年もかけてゆっくり進むことがあります
- 歩行の不安定さや疲れやすさが最初の気づきになることがあります
- 動悸や息切れなど、心臓の症状が先に見つかることもあります
- 加齢による変化と区別しにくいため、気になる症状は早めに相談しましょう
原因
主な原因
- FXN遺伝子という遺伝子の変化が原因です。この遺伝子は、細胞のエネルギーを作る場所(ミトコンドリア)の働きに必要なタンパク質「フラタキシン」を作る指示を出しています。変化があるとこのタンパク質が減り、神経細胞が弱っていきます。
- 両親から1つずつ変化した遺伝子を受け継ぐことで発症する「常染色体劣性遺伝」というタイプの遺伝形式をとります。
- 両親がともに保因者の場合、子どもが発症する確率は約4分の1、保因者になる確率は約2分の1、遺伝子の変化を持たない確率は約4分の1です。
リスク要因
- 家族(兄弟姉妹など)に同じ病気の人がいる
- 両親がいずれも保因者である
- 両親に血縁関係がある場合、保因者が重なる可能性が高くなることがある
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 転倒してけがをした、頭を打った
- 急な動悸・胸の痛み・強い息苦しさがある
- 意識を失った、倒れた
- 飲み込みにくくなり、むせることが増えた
定期受診を予約すべき場合:
- 歩行時のふらつきや転びやすい状態が続いている
- 手の細かい動きが以前よりぎこちなくなった
- 学校や仕事で走るのが極端に遅い、疲れやすいと感じる
- 背骨や足の形の変化を指摘された
- 家族に同じ病気の人がいて、自分や子どものことが心配
- 動悸や息切れなど心臓の症状が気になる
診断
まず問診と神経の診察を行い、症状の経過や家族歴を確認します。確定診断には遺伝子検査(FXN遺伝子の変化を調べる検査)が用いられます。同時に、心臓や血糖値、背骨の状態などを調べる検査も行われます。
行われる可能性のある検査
- 神経診察(反射、バランス、歩き方、感覚などの確認)
- 遺伝子検査(FXN遺伝子の変化を調べる血液検査)
- 血液検査(血糖値・HbA1c、ビタミン不足など他の原因の確認)
- 心電図・心エコー(心臓の筋肉やリズムの状態を確認)
- 背骨のX線検査(側弯の確認)
- 頭部・脊髄のMRI(他の病気がないかの確認)
- 遺伝カウンセリング(家族の遺伝リスクについて話し合う)
診察で予想されること
遺伝子検査の結果が出るまでに数週間かかることがあります。結果を聞くときは、一人で行かず、家族や信頼できる人と一緒に行くと安心です。診断後は、神経内科を中心に、循環器科・整形外科・リハビリ科などが連携して支援する体制が整えられます。
治療
現時点で、この病気の根本的な治療法はまだ確立されていません。しかし、リハビリテーション、症状に合わせた対応、心臓や血糖値・背骨などの合併症の管理、生活を支える道具や制度の活用によって、生活の質を保ちながら長く暮らすことができます。治療法の研究も世界中で進められています。
自宅でのセルフケア
- 転ばないための住環境づくり(手すり、照明、段差の解消、滑りにくい床)
- 無理のない範囲での運動とストレッチを習慣にする
- 疲れをため込まないよう、こまめに休憩をとる
- 足のケア(靴ずれ、巻き爪、皮膚の傷を放置しない)
- 定期的な受診を続け、体の変化を早めに相談する
- 飲み込みにくさを感じたら、食事の形やとろみを工夫する
医療治療
リハビリテーション(理学療法・作業療法・言語聴覚療法)が中心になります。バランスや歩行の練習、関節が固くならないための運動、話しやすさや飲み込みやすさを保つ練習を行います。必要に応じて装具や歩行補助具、車いすなどの支援機器を活用します。心臓の状態は循環器科と連携して定期的に確認し、不整脈や心機能に応じた管理を行います。血糖値が高い場合は内科・管理栄養士と相談して食事や生活を調整します。背骨の曲がりや足の変形には整形外科が関わります。症状に応じた薬が使われることもありますが、内容は主治医とよく相談して決めましょう。
手術が検討される場合
背骨の曲がり(側弯)が強く、生活や呼吸に影響する場合には、整形外科で手術が検討されることがあります。足の変形が歩行に大きく影響する場合にも整形外科的な治療が検討されます。心臓の不整脈の種類によっては、循環器科でカテーテル治療などが検討されることがあります。
この病気と共に生きる
転びにくい環境を整えること、疲れをためない生活リズムを作ることが大切です。学校や職場には早めに状況を伝え、移動や体育・仕事の内容について相談しましょう。通院の予定をあらかじめ家族や周囲と共有しておくと安心です。
生活習慣のアドバイス
- 睡眠を十分にとり、生活のリズムを整える
- 禁煙を心がけ、受動喫煙も避ける
- 感染症予防(手洗い、予防接種など)を心がける
- 移動手段や運転について、安全面を主治医と相談する
- 暑さ・寒さで疲れやすくなることがあるため、無理をしない
- 必要に応じて、福祉制度や支援機器の情報を集める
食事と運動
バランスの良い食事を基本にしましょう。血糖値が高いと言われた場合は、医師や管理栄養士の指導のもとで食事の内容を見直します。運動は、理学療法士と相談しながら、疲れすぎない程度に行うのがおすすめです。プールなど体への負担が少ない運動は続けやすいことがあります。運動のあとはしっかり休み、疲れが翌日に残るようなら量を調整しましょう。
精神的健康と心の健康
ゆっくり進む病気と向き合う中で、不安や気分の落ち込み、将来への心配を感じるのは自然なことです。家族や友人、医療者に気持ちを話すだけでも楽になることがあります。気持ちのつらさが続くときは、かかりつけ医や地域の心の相談窓口、専門の医療機関に相談してください。つらい気持ちが強く、自分を傷つけたいと考えてしまうときは、一人で抱えず、すぐに医療機関や地域の緊急の相談窓口に連絡してください。
予防
遺伝性の病気のため、発症そのものを防ぐ方法は今のところありません。ただし、家族歴がある場合は遺伝カウンセリングを受けることで、次の世代への遺伝の可能性について事前に話し合うことができます。また、早期に診断を受けて定期的に経過をみることで、心臓や血糖値、背骨の変化などの合併症を早く見つけて対応できます。
検診プログラム
症状がある場合には遺伝子検査が行われます。家族に同じ病気の人がいる場合も、遺伝カウンセリングや検査について医師に相談できます。発症後は、心臓の検査(心電図・心エコー)や血糖値のチェックを定期的に受けることが大切です。
合併症
治療しない場合
- 歩行の不安定さが進み、転倒やけがの危険が増える
- 心臓の筋肉の病気(心筋症)や不整脈が進むことがある
- 血糖値が高くなる(糖尿病)
- 背骨の曲がり(側弯)が強くなる
- 飲み込みにくさから、食事や水分がとりにくくなる
- 話しにくさが進み、会話が伝わりにくくなる
- 聴力や視力の変化、強い疲労感
長期的な見通し
症状の進み方は人によって大きく異なり、ゆっくり進む方が多いです。リハビリや合併症の管理、支援制度や周囲のサポートを上手に活用することで、長く自立した生活を続けている方も多くいます。治療法の研究は世界中で進んでおり、今後の進展が期待されている分野です。不安なことは、遠慮なく主治医や医療チームに相談してください。
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最終更新: 2026年10月23日
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