前頭側頭型認知症(FTD)について
概要
前頭側頭型認知症(ぜんとうそくとうがたにんちしょう、FTD)は、脳の前のほうにある「前頭葉(ぜんとうよう)」と、脳の横のほうにある「側頭葉(そくとうよう)」が、少しずつやせていく(萎縮する)ことで起こる認知症のひとつです。前頭葉は「考えて行動を決める」「がまんする」「人とのやりとり」を担当し、側頭葉は「言葉の意味」「ものの名前」などを担当しています。そのため、アルツハイマー型認知症で多い「最近の出来事を忘れる」という記憶の変化よりも先に、性格や行動の変化、言葉の出にくさが目立つのが特徴です。病気はゆっくり進みますが、進行の速さや現れ方は人によって大きく異なります。
重要な事実
- 脳の前頭葉と側頭葉が萎縮することで起こる認知症で、記憶より「性格・行動・言葉」の変化が先に現れやすいのが特徴です。
- 40〜65歳ごろの働き盛りの世代に発症することが多く、若い世代の認知症(若年性認知症)の代表的な原因のひとつです。
- 根本的に治す治療はまだありませんが、環境の工夫やリハビリ、家族への支援によって、その人らしく穏やかに暮らすことを目指せます。
認知症全体の中では少ないタイプです。アルツハイマー型認知症に比べると人数はかなり少ないですが、65歳より前に発症する若年性認知症の中では比較的多く見られます。まれな病気というわけではなく、性格の変化として見落とされている場合もあると考えられています。
40〜65歳ごろに発症することが多いとされています。現役で働いている世代に起こることもあり、仕事や家庭生活への影響が大きくなります。行動の変化が目立つタイプは男性にやや多いといわれます。18歳未満の子どもに起こることは非常にまれです。一部は家族歴(遺伝)が関係するため、家族の中で複数の発症者がいる場合は遗传相談が役立つことがあります。
症状
- 自分や周りの人を傷つける行動がある、暴力を止められない
- 行方がわからなくなり、一人で戻ってこられない(徘徊・迷子)
- けいれんを起こした、突然意識を失った、呼びかけに反応しない
- 食べ物がのどに詰まった、呼吸が苦しそうで顔色が悪い
- 交通事故や火事など、本人や周囲が危険にさらされる事故が起きた
- ⚠数日のうちに性格や言動が急に大きく変わった(感染症やせん妄(一時的な混乱)の可能性があります)
- ⚠転倒して頭を打った、けがをして出血がある
- ⚠食事や水分をほとんどとれず、脱水が心配される
- ⚠「死にたい」など自傷をほのめかす発言がある
- ⚠急に話せなくなった、ろれつが回らない、片側の手足が動きにくい(脳卒中の可能性があります)
一般的な症状
- がまんがしにくくなる、思いついたことをすぐ実行してしまう(衝動的な行動)
- お金の使い方が大きく変わる、無計画に買い物をする、人にあげてしまう
- 人の気持ちや場の空気を読みにくくなる、失礼なことを言っても気にしない
- 同じ行動や決まったやり方に強くこだわる、予定の変更が苦手になる
- 食べ過ぎる、甘いものばかり食べる、食べ物への関心が異常に強くなる
- 言葉が出てこない、ものの名前が思い出せない、会話の意味が通じにくくなる
- 気力が低下する、何もしなくなる、身だしなみに気を使わなくなる
- 最近の出来事の記憶は比較的保たれているのに、性格が「人が変わったようだ」と言われる
子供の症状
- 18歳未満の子どもに起こることは非常にまれで、小児科領域ではほとんど見られません。
- ごくまれに遺伝性のタイプが家族にいる場合があり、成人してから発症する可能性について心配されることがあります。その場合は、かかりつけ医や遗传咨询の専門家に早めに相談すると安心です。
- 子どもの頃から性格や行動の変化が目立つ場合は、まず小児科で他の原因がないかを確認することが大切です。
高齢者の症状
- 高齢になってから発症することもあります。その場合はアルツハイマー型認知症など他の認知症との区別が難しいことがあります。
- 高齢の方は、薬の影響や甲状腺の病気、うつなど、別の原因で似た症状が出ることがあるため、それらの確認が特に大切です。
- 持病や服薬が多い方は、症状の変化を医師にこまめに伝えると診断の助けになります。
原因
主な原因
- 前頭葉と側頭葉の神経細胞が少しずつ減っていく「変性(へんせい)」という変化が主な原因と考えられています。
- 神経細胞の中に、特定のたんぱく質が異常な形でたまり、細胞が傷ついていく仕組みが関係していることがわかってきました。
- 一部は生まれもった遺伝子の変化(変異)が関係します。家族歴があるのは全体のおよそ1〜3割程度といわれ、残りの多くははっきりした原因がわかっていません。
- 脳の血管の病気や、甲状腺の病気、慢性的なアルコールの影響など、別の原因で似た症状が出ることもあり、それを見分けることが大切です。
リスク要因
- 家族歴:家族の中で同じ病気の人が複数いる場合、遺伝子の変化が関係している可能性があります。
- 年齢:40〜65歳ごろに多く、若い世代でも発症することがあります。
- 特定の遺伝子の変化:ごく一部の方に、発症と関係する遺伝子の変化が見つかることがあります。
- 生活習慣との明確な関連は、まだ十分にはわかっていません。喫煙や飲酒、血圧などは脳の健康全体に関わりますが、この病気だけの直接の原因とは言い切れません。
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 数日のうちに性格や行動が急に大きく変わった、混乱が強い
- 自分や他人を傷つける行動がある
- 転倒して頭を打った、けがをした
- 食事や水分がとれず、ぐったりしている
- 自傷をほのめかす発言がある
- 急に話せない、ろれつが回らない、手足の動きがおかしい
定期受診を予約すべき場合:
- 以前と比べて性格が変わった、がまんがきかなくなったと家族が感じる
- お金の使い方が大きく変わった、浪費が目立つ
- 言葉が出てこない、会話がかみ合わないことが増えた
- 同じことを繰り返す、予定の変更でひどく混乱する
- 食べ過ぎや食の好みの大きな変化がある
- 仕事や家事のミスが増え、本人や家族が困っている
診断
前頭側頭型認知症の診断は、主に問診(本人と家族から話を聞くこと)と、神経心理検査、脳の画像検査を組み合わせて行われます。本人は自分の変化に気づきにくいことが多いため、日常の様子をよく知るご家族の話がとても大切になります。同時に、似た症状を出す他の病気(脳血管の病気、甲状腺の病気、うつ、薬の影響など)がないかを確かめます。確定までに時間がかかることもあり、複数回の受診が必要になることがあります。
行われる可能性のある検査
- 問診:生活の変化、いつごろから、どんな変化があったかを家族と一緒に振り返ります。
- 認知機能検査・神経心理検査:記憶、言葉、注意力、判断力などを紙や会話で確かめます。
- 頭部MRI・CT検査:脳の画像を撮り、前頭葉や側頭葉が萎縮していないか、血管の病気がないかを見ます。
- 脳血流や代謝を調べる検査(SPECTやPETなど):必要に応じて行われます。
- 血液検査:甲状腺の病気やビタミン不足など、治せる原因がないかを確認します。
- 遺伝カウンセリング:家族歴が強い場合など、希望に応じて専門家と相談できます。
診察で予想されること
診断は一度の受診ですぐに決まるとは限らず、何か月かかけて様子を見ながら進めることもあります。検査の結果を聞くときは、緊張するものです。疑問や不安はメモにしておき、遠慮せず医師に尋ねてください。ご家族が一緒に受診し、話を聞いてメモを取ると安心です。
治療
前頭側頭型認知症を根本的に治す治療は、今のところまだありません。治療の中心は、症状をやわらげ、本人と家族が安全に、その人らしく暮らせるように支えることです。行動や性格の変化には、薬よりも環境の工夫や関わり方の調整(非薬物的な対応)が効果的なことが多く、生活全体を整えることが大切になります。
自宅でのセルフケア
- 生活のリズムをできるだけ整え、食事・睡眠・活動の時間を一定にします。
- 指示は短く、一度にひとつだけ伝えるようにします。大きな声や長い説明は混乱を招きやすいです。
- テレビや人の出入りなど刺激が多い場所を避け、落ち着ける静かな空間を用意します。
- 予定の変更が苦手な場合は、あらかじめ決まった手順やメモ、カレンダーを活用します。
- お金や貴重品の管理は、家族が一緒に、あるいは代わりに行う仕組みを作ります。
- 火の元、刃物、鍵、車の運転など、安全に関わることを家族で話し合い、必要なら対策をします。
- 食べ過ぎが気になる場合は、食事を小分けにする、間食を置かないなど、環境から工夫します。
- 本人を責めず、「できること」に目を向けて声をかけることが、本人の安心につながります。
医療治療
治療は、症状に合わせた支援を組み合わせて行います。まず行われやすいのは、生活環境を整える、関わり方を工夫する、言語聴覚療法(言葉のリハビリ)や作業療法、必要に応じた嚥下(えんげ:飲み込み)の評価といった非薬物的なアプローチです。強い不安やいらいら、うつ的な気分などで生活がつらくなる場合には、医師が状況をみながら薬を検討することがありますが、薬の種類や使い方は人によって異なり、医師とよく相談して決めます。介護保険サービス(デイサービス、訪問介護、ショートステイなど)や、若年性認知症の相談窓口も大切な支えになります。
手術が検討される場合
この病気を手術で治す治療はありません。
この病気と共に生きる
前頭側頭型認知症とともに暮らすうえで大切なのは、「変化を責めない」「先回りして安全を整える」ことです。本人は悪気があって行動が変わったわけではありません。同じ毎日をできるだけ保ち、決まった手順を用意し、言葉は短く伝えると、本人も家族も落ち着きやすくなります。家事や買い物などの役割は、できる範囲で、失敗しても大丈夫な形に作り替えていきましょう。運転については、本人の安全と周囲の安全のために、早めにかかりつけ医や地域の相談窓口に相談することをおすすめします。
生活習慣のアドバイス
- 起床・食事・就寝の時間をできるだけ一定に保つ。
- 散歩や軽い運動など、無理のない体を動かす習慣を続ける。
- 人と会う機会を完全になくさず、少人数で短時間の集まりなど、負担の少ない形で続ける。
- 大きな音や人混みなど、刺激の多い環境はなるべく避ける。
- 家族も休息をとれるよう、介護を一人で抱え込まない仕組みを作る。
- 家の中の危険(火の元、階段、鍵、薬の保管)を定期的に見直す。
食事と運動
食事は、規則正しい時間に、バランスよくとることが基本です。食べ過ぎや甘いものへの偏りが気になる場合は、最初から出しすぎない、間食を置かないなど、環境で調整すると負担が少なくなります。飲み込みが気になり始めたら、早めに医師や言語聴覚士に相談してください。運動は、散歩やストレッチなど、無理なく続けられるものを毎日の習慣にすると、体調と気分の安定に役立ちます。転倒が心配な場合は、歩く場所を平らにする、手すりを付けるなどの工夫も大切です。
精神的健康と心の健康
この病気は、本人よりもまず家族が疲弊しやすいのが特徴です。本人に病気の自覚が乏しいこともあり、「どうしてわかってくれないのか」とつらさを抱えがちです。家族自身がうつ的な状態になったり、眠れなくなったりすることも珍しくありません。つらさを一人で抱え込まず、かかりつけ医や地域の相談窓口、同じ立場の家族の集まりなどを頼ってください。「助けを求めること」は、本人を支え続けるための大切な力になります。もし自分や家族が「消えてしまいたい」と感じるほど追い詰められたら、ためらわず医療機関や地域の相談窓口に連絡してください。緊急の場合は119番で救急を呼んでください。
予防
前頭側頭型認知症を確実に防ぐ方法は、今のところ見つかっていません。生活習慣を変えれば必ず防げる、というものでもありません。ただし、喫煙を控える、飲みすぎに気をつける、血圧や血糖を整える、よく眠る、体を動かすといったことは、脳と体の健康全体を保つために役立ちます。家族歴が強いなど心配がある場合は、遺伝カウンセリングで専門家に相談することができます。
ワクチン
この病気を防ぐワクチンはありません。
検診プログラム
症状のない方を対象にした、この病気だけを見つける一般的な検査はありません。気になる変化があるときは、自己判断で様子を見続けず、かかりつけ医に相談することが最も確実な第一歩です。
合併症
治療しない場合
- 判断や危険への気づきがにぶくなり、転倒や事故、やけどなどのけがが増えることがあります。
- 食べ過ぎや偏り、飲み込みの変化から、栄養の偏りや誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん:食べ物や唾液が気管に入って起こる肺炎)のリスクが高まることがあります。
- お金の使い方の変化から、浪費や借金、契約トラブルなどの金銭的な問題が起きることがあります。
- 社会的なルールを守りにくくなることで、職場や近所との関係が難しくなり、孤立することがあります。
- 家族の介護負担が大きくなり、家族自身の心身の健康が損なわれることがあります。
長期的な見通し
前頭側頭型認知症はゆっくりと進む病気で、進行の速さや現れ方には大きな個人差があります。診断を受けてからも、10年以上にわたって穏やかに暮らしている方もいます。治す治療はまだありませんが、環境の工夫、リハビリ、介護保険などの支援を早めに整えることで、その人らしい時間を長く保つことができます。心配なことがあれば、一人で抱えず、かかりつけ医や地域の相談窓口と一緒に考えていきましょう。
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最終更新: 2026年10月23日
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