機能性運動障害(きのうせいうんどうしょうがい)を知る
概要
機能性運動障害は、脳から体へ動きの指令を伝えるしくみに乱れが生じて、震え・力が入らない・歩きにくい・声が出しにくいといった症状が実際に起きる状態です。神経や筋肉そのものが壊れているわけではなく、脳の「ソフトウェア」の働き方の問題だと考えられています。症状は本人の意思で作り出しているものではなく、気のせいでも仮病でもありません。誰にでも起こりうる、れっきとした体の症状です。
重要な事実
- 脳と体の情報の伝わり方の問題で、神経や筋肉が傷んでいるわけではありません
- 症状は本物で、本人が意識してコントロールできるものではありません
- 症状のしくみを理解することと、専門的なリハビリが治療の中心になります
- 不安、抑うつ、痛み、疲れなど、ほかの症状を一緒に抱えていることがよくあります
神経内科の外来ではよく見られる状態のひとつで、決して珍しいものではありません。調査によって報告される頻度には幅がありますが、「特別な人がなる病気」ではありません。
子どもから高齢者まで、幅広い年代に起こります。女性に多いとされていますが、男性にも起こります。ストレスの多い時期に始まることもありますが、つらい出来事が必ずあったとは限らず、きっかけがはっきりしないことも多いです。
症状
- 突然、顔の片側がまがる、ろれつが回らない、手足の片側が動かない(脳卒中の可能性があります。ためらわず119番へ)
- 意識を失った、意識が戻らない
- 呼吸が苦しい、息ができない
- 転倒して頭を強く打った、出血が止まらない
- 自分を傷つけたい気持ちが強い、消えたい気持ちが強い
- ⚠症状が急に悪くなり、立てない・歩けない
- ⚠食べ物や飲み物が飲み込めない、むせがひどい
- ⚠転倒を繰り返している
- ⚠強い不安や落ち込みで、日常生活が回らない
- ⚠これまでになかった新しい症状が突然出てきた(ほかの病気を調べる必要があります)
一般的な症状
- 手足や体が震える(注意を向けると強くなり、気をそらすと変わることもある)
- 手足に力が入らない、麻痺したように感じる
- 歩き方がぎこちない、ふらつく、すり足になる
- 体が急に硬くなる、けいれんのような動きが起こる
- 声が出しにくい、声がかすれる、話しにくい
- まぶたが閉じたまま開かない、目が開けにくい
- 飲み込みにくい、のどに違和感がある
- 疲れやすい、集中しにくい
- 痛み、しびれ、頭痛、めまいなどを一緒に感じることが多い
- 症状の出方や強さが、日や場面によって変わりやすい
子供の症状
- 歩き方の異常や足のひきずり、急な体の硬直などがみられることがあります
- 学校生活や友人関係、家庭のストレスが関係していることもあります
- 子どもの場合は、成長とともに改善しやすいという特徴があります
- 保護者の方が「演技ではないか」と誤解してしまい、本人も周囲も傷ついてしまうことがあります。症状は本物だと理解することが大切です
高齢者の症状
- 年齢のせいや、ほかの神経の病気と間違われやすい傾向があります
- 転倒してけがをするリスクが高くなることがあります
- パーキンソン病など別の病気を同時に抱えていることもあり、丁寧な診察が必要です
- 退職、死別、孤立など、生活の変化がきっかけになることもあります
原因
主な原因
- 脳が体の動きを調整するときの「注意の向き方」や「予測のしくみ」の乱れが関係していると考えられています
- けが、手術、感染症、強いストレス、つらい出来事のあとに始まることがあります
- はっきりしたきっかけが見つからないことも多いです
- 不安障害、うつ病、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、慢性の痛みなどと一緒に起こることがよくあります
- 本人の性格の弱さや、努力不足が原因ではありません
リスク要因
- 女性であること
- 思春期から中年の年代
- 不安障害、うつ病、PTSD、解離性障害などの経験がある
- 慢性の痛み、過敏性腸症候群、疲労感が続いている
- 過去につらい体験、いじめ、虐待などを経験した
- けがや手術、感染症のあとである
- 周囲に症状を理解してもらいにくい環境にいる
- これまで「気のせい」と言われてきた経験がある
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 突然の片側の麻痺、顔のまがり、話しにくさがある(すぐに119番)
- 意識がもうろうとする、けいれんが長く続く
- 飲み込みができず、水分もとれない
- 転倒してけがをした、頭を打った
定期受診を予約すべき場合:
- 体の動きの異常が続いている、または少しずつ広がっている
- 症状が数週間以上続いている
- 仕事、学校、家事など日常生活に支障が出ている
- 診断がつかず、不安な気持ちが続いている
- 気分の落ち込み、眠れない日が続いている
診断
診断は、問診と神経の診察が中心です。症状の出方に一貫性がない、注意を向ける先を変えると症状が変化する、といった特徴的な所見を確認します。同時に、似た症状を起こすほかの病気がないかを調べるための検査を行います。検査で異常が見つからないこと自体が、この診断を支える大切な情報になります。
行われる可能性のある検査
- 神経の診察(歩き方や力の入り方、反射などを丁寧にみます)
- 血液検査
- 頭部のMRIやCT検査
- 脳波検査
- 筋電図検査(筋肉や神経の電気的な働きを調べます)
- 生活や気分、ストレスについての聞き取り
診察で予想されること
診断がつくまでに時間がかかることがあります。説明を聞いてほっとする方もいれば、戸惑ったり、納得がいかなかったりする方もいます。これまで「気のせい」と言われて傷ついた経験のある方も多いので、話をよく聞いてくれる医師を選ぶことが大切です。セカンドオピニオンを求めることもできます。
治療
治療の中心は、症状が起きるしくみを本人と家族が理解することと、この分野に詳しい専門家によるリハビリです。薬だけで治すものではなく、時間をかけて少しずつ良くなっていくのが一般的です。あせらず、小さな変化を積み重ねることが大切です。
自宅でのセルフケア
- 症状に意識を集中しすぎず、できるだけ普段の生活を続ける
- 睡眠を十分にとり、生活のリズムを整える
- 無理のない範囲で体を動かし、動かせる部分を保つ
- ストレスへの対処法(呼吸法、軽い運動、趣味の時間)を身につける
- 症状が出た場面や気分を簡単に記録して、受診時に伝える
- 信頼できる家族や友人、医療者に気持ちを話す
- アルコールや市販薬に頼りすぎない
医療治療
まず、診断をきちんと伝えて症状のしくみを説明することが治療の第一歩になります。次に、この病気に詳しい理学療法士や作業療法士、言語聴覚士によるリハビリが中心になります。体の動きに注意を向けすぎない工夫や、段階的に動きを取り戻す練習を行います。心理面では、認知行動療法などの心理療法が役立つことがあります。不安、抑うつ、痛み、不眠などが強い場合には、医師が必要に応じて薬物療法を検討することがあります。薬の種類や量については、必ず担当医と相談してください。複数の専門職がチームで支える体制が望ましいとされています。
手術が検討される場合
この病気は手術で治るものではありません。手術や特別な処置を勧められた場合は、その必要性についてよく説明を受けたうえで、別の医師の意見(セカンドオピニオン)を聞くことをおすすめします。
この病気と共に生きる
症状は良くなったり悪くなったりを繰り返すことがあります。調子のいい日と悪い日があるのは自然なことです。悪い日があっても「元に戻ってしまった」と考えず、長い目で見ていくことが大切です。できる範囲で普段の生活を続け、必要に応じて学校や職場に事情を伝えて調整しましょう。
生活習慣のアドバイス
- 規則正しい睡眠と食事を心がける
- 予定を詰め込みすぎず、休む時間を確保する
- 軽い散歩など、続けられる運動を無理のない範囲で行う
- 症状が悪化しやすい場面を把握して、対策を立てる
- 家族や周囲に症状について説明できるようにしておく
- 気分転換の時間を意識してつくる
食事と運動
特別な食事療法が決まっているわけではありません。バランスのよい食事と十分な水分、そして無理のない範囲での運動が基本です。激しい運動を急に始めるのではなく、歩行やストレッチなど、続けやすいものを少しずつ取り入れましょう。運動の内容は、症状の状態に合わせてリハビリの担当者と相談すると安心です。
精神的健康と心の健康
この病気は、不安や落ち込み、いらいら、自信のなさと深く関わることがあります。「また症状が出たらどうしよう」という不安が生活を狭めてしまうこともあります。気持ちのつらさが続くときは、一人で抱えずに医療者に話してください。つらい気持ちが強くなったときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、すぐに地域の救急窓口(日本では119番)や医療機関に連絡してください。緊急の相談窓口については、お住まいの自治体やかかりつけ医に確認できます。
予防
この病気を完全に防ぐ方法は確立していません。ただ、症状に早く気づいて正しい理解を得ること、無理をためこまないこと、つらいときは早めに相談することが、症状の悪化や長引くことを防ぐ助けになります。
ワクチン
この病気に特有のワクチンはありません。季節性の感染症など一般的な予防接種については、かかりつけ医に相談してください。
検診プログラム
この病気のための特別なスクリーニング検査はありません。気になる症状があるときは、早めにかかりつけ医に相談することが大切です。
合併症
治療しない場合
- 症状が長く続くほど、改善に時間がかかることがあります
- 歩きにくさによる転倒やけが
- 動かさないことで筋力が落ちたり、関節がこわばったりする
- 学校や仕事、家事への支障が大きくなる
- 不安や落ち込みが強くなり、社会生活が狭くなる
- 検査や受診を繰り返すことで、心身ともに疲れてしまう
長期的な見通し
多くのかたが、正しい理解と適切なリハビリによって、症状の改善や日常生活の回復を経験しています。症状が始まってからの期間が短いほうが良くなりやすいとされますが、長く続いている場合でも改善は可能です。良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、少しずつ前に進んでいくのが通常の経過です。あせらず、支援を受けながら進んでいきましょう。
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最終更新: 2026年10月23日
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