真菌性髄膜炎(しんきんせいずいまくえん)
概要
真菌性髄膜炎は、カビの一種である「真菌(しんきん)」が脳と脊髄(せきずい)を包んでいる膜(髄膜・ずいまく)に感染して起こる炎症です。髄膜は脑を包む薄いラップのようなもので、そこに炎症が起きると頭痛や発熱、首のこわばりなどが現れます。細菌やウイルスによる髄膜炎に比べると、症状の進み方はゆっくりなことが多く、見つけるまでに時間がかかることがあります。
重要な事実
- 真菌はカビや酵母の仲間で、ふつうは健康な人の体では問題を起こしにくいものです。免疫(体を守る力)が弱っているときに感染しやすくなります。
- 症状は数日から数週間かけてゆっくり出てくることが多く、発熱が目立たないこともあります。
- 診断には髄液(せきずい)という脳と脊髄を囲む液体を調べる検査が大切です。
- 治療は抗真菌薬(真菌を抑える薬)を長めの期間使うことが多く、早期に治療を始めるほど回復しやすいとされています。
とてもめずらしい病気です。細菌性やウイルス性の髄膜炎に比べると患者さんの数はとても少なく、日本でも年間を通して多くはありません。めずらしいからこそ、診断に時間がかかることがあります。
免疫の力が弱くなっている方がかかりやすいとされています。たとえばHIV/エイズ、長期間のステロイド薬使用、臓器移植のあと、抗がん剤治療中、糖尿病、透析を受けている方などです。ただし、はっきりした理由が見当たらない健康な方でも、まれにかかることがあります。
症状
- 意識がない、または呼びかけへの反応がとても鈍い
- けいれん(ひきつけ)が起きた、または続いている
- 呼吸が苦しい、息が浅い
- 急に激しい頭痛が起きた
- 体の片側に力が入らない、しゃべりにくい、ろれつが回らない
- 首が硬くて動かせず、高い熱がある
- 水も飲めないほどの繰り返す嘔吐
- ⚠数日続く頭痛と発熱がある
- ⚠光がとてもまぶしくて、目を開けていられない
- ⚠嘔吐が何度も続く
- ⚠だんだんぼんやりしてきた、家族から見て「いつもと違う」と感じる
- ⚠視界の異常(かすむ、二重に見える)が出てきた
一般的な症状
- 頭痛(数日〜数週間かけてだんだん強くなることが多い)
- 発熱(微熱程度のこともあり、熱が出ないこともある)
- 首のこわばり(あごを胸につけにくい、首を動かすと痛い)
- 吐き気・嘔吐(おうと)
- 光がまぶしく感じる
- 強いだるさ、食欲がない
- 集中できない、ぼんやりする、話がかみ合わない
- 性格や気分の変化(イライラする、無関心になるなど)
- 視界のかすみ、ものが二重に見える
子供の症状
- 不機嫌で泣き続ける、あやしても泣きやまない
- ぐったりして元気がない、反応が弱い
- 母乳やミルクの飲みが悪い、繰り返す嘔吐
- ひきつけ(けいれん)
- 赤ちゃんでは頭の骨のすき間(大泉門・だいせんもん)がふくらんで見えることがある
- 泣き声が弱い、高い声で泣く
高齢者の症状
- 発熱があってもなくても、急に元気がなくなる
- 食事をとらなくなる、水分を飲まない
- ぼんやりする、話が通じにくい、急な混乱
- 転びやすくなる、歩きにくくなる
- いつもの持病が急に悪くなったように見える
原因
主な原因
- 空気中に浮かぶ真菌(カビ)の胞子(ほうし)を吸い込み、肺に入ったあと血液の流れに乗って脳の膜に届く(クリプトコッカスという真菌で多いパターン)
- 鼻や耳、副鼻腔(ふくびくう)の感染が、脑の近くまで広がる
- 土の中の真菌が、傷ついた皮膚から入る
- まれに、医療器具や手術に関連して起こることもある
- 腐朽した木、鳥のふん、土ぼこりの多い場所など、環境中の真菌に多くふれること
リスク要因
- HIV/エイズなど、免疫の力が大きく下がる病気
- 長期間のステロイド薬の使用
- 臓器移植のあと、免疫を抑える薬を使っている
- 抗がん剤による治療中、血液のがん
- 糖尿病のコントロールがよくない
- 透析を受けている
- 免疫の働きを抑える注射薬(生物学的製剤)を使っている
- 高齢であること、極端な低栄養
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 発熱と頭痛が数日続き、良くならない
- 首のこわばりがある
- 嘔吐を繰り返す、水分がとれない
- 意識がぼんやりする、家族が「様子がおかしい」と感じる
- けいれん、体のまひ、しゃべりにくさがある(この場合は迷わず119番へ)
定期受診を予約すべき場合:
- 頭痛がだらだら続いていて、市販の鎮痛薬でよくならない(※薬の使用については薬剤師や医師に相談してください)
- 微熱が長引く、だるさが続く
- 免疫を下げる治療を受けていて、体調に変化がある
- 鳥のふんや土ぼこりの多い環境で作業したあと、体調がすぐれない
診断
問診と診察のあと、血液検査や画像検査を行い、必要に応じて髄液(せきずい)という脳と脊髄を囲む液体を調べる検査(腰椎穿刺・ようついせんし)を行います。この液体の中に真菌がいないか、真菌の成分(抗原・こうげん)が出ていないかを調べることで診断します。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(炎症の程度や免疫の状態を確認)
- 腰椎穿刺(腰の骨のすき間から細い針で髄液を少し採る検査。局所麻酔をして行うことが多い)
- 髄液の検査(細胞の数、たんぱく質、糖の値、真菌の抗原や培養)
- 頭部CT・MRI(脳のむくみや水頭症などがないかを確認)
- 胸部レントゲンや肺のCT(肺に真菌の感染がないかを確認)
- HIV検査など、免疫の状態を調べる検査
診察で予想されること
腰椎穿刺のあとは、しばらく横になって休みます。検査の結果が出るまでに数日かかることがあり、その間は症状を和らげる治療をしながら経過を見ることが多いです。確定するまでに時間がかかることもありますが、その間も医師・看護師が状態をこまめに確認します。
治療
真菌性髄膜炎の治療は、真菌を抑える薬(抗真菌薬)を中心に、入院して行うことが一般的です。治療期間は数週間から数か月と長めになることが多く、最初は点滴で、状態が落ち着いてきたら飲み薬に切りかえることがあります。担当医は検査結果と体の状態を見ながら、治療の内容と期間を決めていきます。
自宅でのセルフケア
- 処方された薬は、症状が良くなっても自己判断でやめず、決められた期間きちんと続ける
- 薬の副作用(発熱、発疹、だるさ、肝臓の数値の変化など)が気になったら、すぐに医療者に伝える
- 入院中は無理に動かず、体力を回復させることを優先する
- 退院後も、疲れをためないように休息と活動のバランスをとる
- 免疫を下げる薬を使っている場合は、主治医の指示を守り、自己判断で量を変えない
- 体調の変化をメモしておき、通院時に伝える
医療治療
抗真菌薬(真菌の増殖を抑える薬)を、点滴または飲み薬で使います。治療の始まりは入院して点滴で行い、状態を見ながら飲み薬に切りかえるのが一般的です。治療の長さは真菌の種類や免疫の状態によって変わり、数週間から数か月に及ぶことがあります。あわせて、頭痛や発熱などの症状を和らげる治療や、水分・栄養の管理も行います。免疫を弱める薬を使っている場合は、その調整も検討されます。薬の名前や量については、必ず担当医・薬剤師の説明を受けてください。
手術が検討される場合
脳に水がたまる「水頭症(すいとうしょう)」が起きた場合や、脳の圧が高くなっている場合には、脳の圧を下げる処置や、水を逃がすための管(シャント)を入れる手術が検討されることがあります。必要かどうかは画像検査の結果などをもとに、担当医が判断します。
この病気と共に生きる
治療中は体力が落ちやすく、回復にも時間がかかることがあります。通院や服薬を続けながら、少しずつ生活のリズムを取り戻していくイメージが大切です。聴力や集中力、疲れやすさなどに変化が残ることもあり、その場合はリハビリや相談窓口を利用しながら調整していきます。
生活習慣のアドバイス
- 睡眠を十分にとり、疲れをためない
- 免疫を下げる治療を受けている場合は、人混みやほこりの多い場所をできるだけ避ける
- 手洗いなど、基本的な感染対策を続ける
- 喫煙は免疫や回復に影響することがあるため、禁煙を検討する
- ストレスをためこまず、家族や医療者に気持ちを話す
食事と運動
特別な食事制限が必要になることは多くありませんが、バランスのよい食事と十分な水分は回復の助けになります。運動は、体調と主治医の指示に合わせて、散歩など軽いものから始めるとよいでしょう。疲れやすさが残る時期は、無理をせず短時間から慣らしていきます。
精神的健康と心の健康
入院が長引いたり、めずらしい病気で不安が大きくなったりすると、気持ちが落ち込むことがあります。それは自然な反応です。ひとりで抱えこまず、医療者や家族に話してください。気分の落ち込みが続く、眠れない、不安が強いといった状態があれば、早めに相談することが大切です。つらい気持ちが強いときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、ためらわず地域の相談窓口や医療機関に連絡してください。緊急の場合は119番に電話してください。
予防
完全に防ぐ方法はありませんが、免疫が弱っている方は、ほこりや鳥のふん、腐朽した木など真菌が多い環境をできるだけ避けることで、リスクを下げられる可能性があります。土木作業や庭仕事のときはマスクや手袋を使うとよいでしょう。基礎疾患(糖尿病など)の治療を続けることも大切です。
ワクチン
真菌性髄膜炎を防ぐワクチンは、現在ありません。なお、細菌性やウイルス性の髄膜炎にはワクチンがあり、自治体によって定期接種が行われています。詳しくはかかりつけ医や自治体の案内をご確認ください。
検診プログラム
一般の人を対象にした決まった検診はありません。ただし、HIV感染や免疫を抑える治療を受けている方では、主治医が必要に応じて検査を行うことがあります。
合併症
治療しない場合
- 意識の低下や昏睡(こんすい)
- けいれん、体のまひ
- 聴力の低下、視力の変化
- 記憶や集中力の低下
- 水頭症(脳に水がたまる状態)
- 脳のむくみによる危険な状態
- 命に関わることもある
長期的な見通し
真菌性髄膜炎は重い病気ですが、早く見つけて治療を始めることで回復する方は多くいます。治療は長期間になることがあり、回復にも時間がかかりますが、医療の進歩により治療の選択肢は増えています。聴力や疲れやすさなど、いくつかの症状が残ることもありますが、リハビリや周囲のサポートを受けながら少しずつ日常を取り戻していくことができます。気になることは、遠慮なく担当医に相談してください。
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最終更新: 2026年10月23日
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