胃の出口が狭くなる病気(幽門狭窄症・胃排出障害)
概要
胃は食べ物をいったんためておき、少しずつ十二指腸(胃の次にある腸の部分)へ送り出します。その出口のことを「幽門(ゆうもん)」と呼びます。幽門やその周りが狭くなったり、ふさがったりして、食べ物や胃液が先へ進みにくくなった状態を「幽門狭窄症(ゆうもんきょうさくしょう)」、または広い意味で「胃排出障害(いはいしゅつしょうがい)」と呼びます。食べ物が胃にたまりやすくなるため、吐き気や嘔吐(おうと)、お腹の張り、食欲低下などが起こります。原因はいくつかあり、治療の方法も原因によって変わります。
重要な事実
- 胃の出口が狭くなり、食べ物が腸へ進みにくくなる状態です。
- 大人では消化性潰瘍(胃や十二指腸の傷)のあとや、腫瘍などが原因になることがあります。
- 赤ちゃんに起こる「肥厚性幽門狭窄症(ひこうせいゆうもんきょうさくしょう)」は生後数週間で見つかることが多く、早期の治療でよく改善します。
大人ではそれほど多い病気ではありませんが、消化性潰瘍や胃・十二指腸の腫瘍がある人では起こることがあります。赤ちゃんの肥厚性幽門狭窄症は、おおよそ数百〜数千人に1人程度といわれています。
大人では、胃や十二指腸の潰瘍を経験した人、長く胃の調子がすぐれない人、高齢者、胃や膵臓などの手術を受けたことがある人に起こりやすいとされています。赤ちゃんでは、生後2〜8週ごろの男の子にやや多く見られます。
症状
- 血を吐く(吐血)、コーヒーの残りかすのようなものを吐く
- 黒くてタールのような便が出る
- 水分をとっても全部吐いてしまい、何も飲めない状態が続く
- 尿がほとんど出ない、ぐったりしている、意識がもうろうとしている
- お腹が板のように硬く、激しく痛む(腹膜炎などの可能性)
- 高熱とお腹の激痛が同時にある
- ⚠嘔吐が止まらず、食事や水分がとれない
- ⚠同じ日に何度も吐き、口の渇きが強い・尿が少ない
- ⚠体重が短期間で減り続けている
- ⚠食べ物が通りにくい感じが続き、固形物がほとんど食べられない
一般的な症状
- 吐き気、または嘔吐(食べたものがそのまま出る、食後しばらくしてから吐く)
- みぞおちの張りや痛み、お腹がゴロゴロする感じ
- 少し食べただけでお腹がいっぱいになる(早期満腹感)
- 食欲がなくなる、食事をとるのがつらい
- 体重が減る
- げっぷが増える、口臭が気になる(胃に食べ物が長くとどまるため)
- 脱水のサイン:口が渇く、尿の回数や量が減る、立ちくらみ、だるさ
子供の症状
- 生後2〜8週ごろの赤ちゃんでは「肥厚性幽門狭窄症」が多く見られます。
- ミルクを飲んだあと、噴水のように勢いよく吐く(吐いたあとも比較的元気で、また飲みたがることがあります)
- 体重が増えない、減っていく
- おしっこの回数が減る、おむつがいつもより軽い
- うんちの回数や量が減る
- 元気がなくなる、泣き方が弱くなる
- こうした様子があるときは、早めに小児科を受診してください。
高齢者の症状
- 高齢者では症状がはっきり出にくく、「なんとなく食欲がない」「元気がない」だけで済むことがあります。
- 脱水が進みやすく、ふらつき、意識がぼんやりする、尿が減るといった形で気づかれることがあります。
- 吐いたものを誤って気管に入れてしまい(誤嚥)、咳や発熱、肺炎を起こすことがあります。
- 家族の方が「食べる量が急に減った」「体重が落ちた」と気づいたら、早めに医療機関に相談してください。
原因
主な原因
- 消化性潰瘍(胃や十二指腸の傷)が治ったあとの瘢痕(傷あと)で狭くなる
- 胃や十二指腸の腫瘍(できもの)が出口をふさぐ、または狭くする
- 膵臓(すいぞう)や周りの臓器の腫れ・腫瘍が外から押す
- 胃や十二指腸の強い炎症(クローン病など)
- 胃石(食べ物のかたまりや毛髪などが固まったもの)や誤って飲み込んだ物
- 手術後の癒着(組織がくっついて引きつれること)
- 赤ちゃんの肥厚性幽門狭窄症(出口の筋肉が厚くなる生まれつきの変化)
- 胃の動きが低下して排出が悪くなる(機能的な胃排出障害)
リスク要因
- 胃や十二指腸の潰瘍を経験したことがある
- ヘリコバクター・ピロリ菌に感染している
- 痛み止めの一部(NSAIDs)を長期間使っている
- 喫煙、飲酒量が多い
- 高齢である
- 胃や膵臓などの手術を受けたことがある
- 家族歴や既往に悪性腫瘍がある
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 嘔吐が続いて水分がとれない、尿が極端に少ない
- 血を吐く、黒い便が出る
- お腹が硬く激しく痛む、高熱がある
- ぐったりしている、意識がはっきりしない
定期受診を予約すべき場合:
- 食後の張りや吐き気が数日以上続く
- 少し食べただけで満腹になり、食事量が減った
- 体重が減っている
- げっぷや口臭が増えた、胃に食べ物が残っている感じがする
- 潰瘍や胃の病気の既往があり、調子が良くない
診断
まず問診と診察で、いつから、どのような症状があるか、体重の変化、これまでの病気や薬の使用を確認します。そのうえで、脱水の程度をみる血液検査や尿検査、胃の状態を画像で確認する検査、必要に応じて胃カメラ(内視鏡)が行われます。原因を特定することが、治療方針を決める鍵になります。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(脱水、電解質のバランス、貧血、栄養状態を確認)
- 尿検査(脱水や腎臓の状態の目安)
- 腹部X線検査(胃が大きく張っていないかを見る)
- 腹部超音波(エコー)検査
- CT検査(腫瘍や周りの臓器の状態を確認)
- 上部消化管内視鏡(胃カメラ):狭窄の位置や原因を直接見て、必要なら組織を一部採取(生検)
- 上部消化管造影検査(バリウムを飲んで通り方をみる)
- 赤ちゃんの場合は超音波検査が中心になります
診察で予想されること
検査の前は、食事を控えるよう指示されることがあります(胃を空にするため)。胃カメラは、のどを麻酔したり、軽い鎮静(リラックスするための薬)を使ったりして行われることが多く、検査後しばらくは食事や車の運転を控えるよう案内されます。検査結果の説明は、通常は後日まとめて行われます。不明な点は遠慮なく医師や看護師に聞いてください。
治療
治療の目標は、体の水分と栄養を整えること、そして出口が狭くなった原因に対処することです。原因によって方針が大きく変わるため、まずは検査で原因を確かめることが大切です。
自宅でのセルフケア
- 医師の指示があるまでは、無理に一度にたくさん食べない
- 食べられる場合は、少量ずつ、やわらかく消化のよいものをゆっくりとる
- 水分は少しずつこまめにとる(ただし嘔吐が続くときは自己判断で大量に飲まず、医療機関に相談)
- 吐いてしまったときは、誤って気管に入らないよう横向きになる
- 症状のあった時間、吐いた量、食べられた量、体重をメモしておくと診察に役立つ
- 喫煙を控え、飲酒は控えめにする
- 市販の痛み止めを自己判断で長く使わない(胃を傷つけるものがあります)
医療治療
まず点滴で水分と電解質(体の塩分のバランス)を補い、脱水を改善します。胃に食べ物や胃液がたまっている場合は、鼻から細い管を入れて胃を空にすることがあります。原因に応じて、胃酸の分泌を抑える治療や、ピロリ菌がいる場合の除菌治療、炎症をしずめる治療などが行われます。狭くなった部分に対しては、内視鏡を使って風船のようにふくらませて広げる処置や、通り道を保つための管(ステント)を入れる処置が行われることがあります。腫瘍が原因の場合は、その病気に応じた専門的な治療が検討されます。具体的な薬の種類や量は、担当の医師が状態に合わせて決めます。
手術が検討される場合
内視鏡での処置で十分に改善しない場合、腫瘍による閉塞がある場合、穿孔(胃に穴が開くこと)や重い合併症がある場合には、手術が検討されます。胃と小腸をつなぐバイパス手術などが行われることがあります。赤ちゃんの肥厚性幽門狭窄症では、水分と電解質を整えたうえで手術が選ばれることが多く、多くの場合その後の経過は良好です。
この病気と共に生きる
治療が始まれば、多くの方は少しずつ食べられる量が戻っていきます。焦らず、体の反応を見ながら食事の量と種類を増やしていくのがポイントです。症状の記録をつけておくと、診察のときに状態を伝えやすくなります。
生活習慣のアドバイス
- 食事は回数を分けて少量ずつ、ゆっくりよく噛んで
- 脂っこいものや刺激の強いものは、体調を見ながら控えめに
- 食後すぐに横にならず、少し上体を起こして休む
- 禁煙を心がけ、飲酒は控えめに
- ストレスをためこまず、睡眠をしっかりとる
- 急に食事量を増やさず、体調に合わせて少しずつ
食事と運動
食事は、医師や管理栄養士の指示に沿って、消化のよいものを少量ずつとることから始めます。体重の変化を定期的に記録しましょう。体調が安定してきたら、無理のない範囲で散歩などの軽い運動を日常に取り入れると、食欲や筋力の維持に役立ちます。運動は食後すぐを避け、体調の良いときに行ってください。
精神的健康と心の健康
食べられない、吐いてしまう、体重が減るといった状態が続くと、不安や落ち込み、いらだちを感じるのは自然なことです。特に原因がはっきりするまでは、心配が大きくなりがちです。ひとりで抱え込まず、家族や友人、医療スタッフに気持ちを話してみてください。つらい気持ちが長く続くときは、かかりつけ医や、お住まいの市区町村の保健センター、都道府県のこころの健康に関する相談窓口に相談することができます。日本では、緊急の場合に119番へ連絡できます。自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、ためらわず119番、または近くの救急外来・医療機関に連絡してください。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、原因となる病気に早く気づいて治療することが大切です。胃や十二指腸の潰瘍をきちんと治療する、ピロリ菌の検査を受けて必要なら除菌する、胃を傷つける痛み止めを自己判断で長く使わない、禁煙する、といったことが予防につながります。
ワクチン
この病気に直接効くワクチンはありません。
検診プログラム
胃の症状が続くときや、潰瘍の既往があるときは、かかりつけ医に相談してください。日本では、自治体による胃がん検診などが行われています。対象年齢や受診方法はお住まいの地域で異なるため、市区町村の案内や健診のお知らせを確認するとよいでしょう。
合併症
治療しない場合
- 脱水と電解質のバランスの乱れ(だるさ、ふらつき、こむら返り)
- 栄養不足、体重減少、体力の低下
- 吐いたものが気管に入ることによる誤嚥性肺炎
- 胃が大きく張ってつらい、食べられない状態が続く
- 腎臓の働きの悪化(水分不足が続いた場合)
- まれに胃に穴が開く(穿孔)など緊急の状態
長期的な見通し
この病気の見通しは、原因によって大きく変わります。潰瘍のあとや赤ちゃんの肥厚性幽門狭窄症などは、適切な治療で多くが改善し、ふだんどおりの食事に戻れる方が少なくありません。腫瘍が原因の場合は、その病気に合わせた専門的な治療が続きます。いずれの場合も、早めに相談して治療を始めることが、安心して前向きに過ごすための第一歩になります。
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最終更新: 2026年10月24日
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