ジアルジア症(ジアルジアによる胃腸炎)
概要
ジアルジア症は、ジアルジアという目に見えないほど小さな寄生虫(原虫)が小腸に住みついて起こす胃腸の感染症です。寄生虫は「シスト」と呼ばれる殻に包まれた形で水や食べ物の中に存在し、それを飲み込むことで感染します。感染しても何の症状も出ない人もいますが、多くの場合は数日から2週間ほどで、においの強い水のような下痢、お腹の張り、ガス、腹痛などが始まります。人から人へうつることもありますが、手洗いをきちんと行うことで防げる感染症です。
重要な事実
- 原因は細菌やウイルスではなく「寄生虫(原虫)」で、抗菌薬(細菌をやっつける薬)は効きません。
- 症状が出るまでには通常1〜3週間ほどかかることがあり、気づかないうちに感染していることもあります。
- 多くの人は適切な診断と治療で回復しますが、症状が長引いたり、脂肪分の多い食事でお腹がゆるくなり続けたりすることがあります。
世界全体では決して珍しくない感染症で、特に衛生状態が整いにくい地域や、水道水が安全でない地域で多く見られます。日本国内では水道水の管理が行き届いているため日常的に多いわけではありませんが、海外からの持ち込みや、山の湧き水・井戸水、集団生活の場などを通じて報告されています。
年齢を問わず誰でもかかります。特に、海外の水事情が異なる地域への渡航者、キャンプや登山で湧き水を飲む人、保育園や幼稚園などの集団生活の場にいる子どもとその家族、家族内で感染者が出た人、免疫力が下がっている人などでリスクが高まります。
症状
- 意識がぼんやりしている、呼びかけへの反応が弱い、ぐったりしている
- けいれんが起きた
- 呼吸が苦しい、顔色が青白い
- 汗が止まらず皮膚が冷たい、手足が冷えて脈が弱い(重い脱水やショックの可能性)
- おしっこが長時間まったく出ない、口を開けても水分を飲み込めない
- ⚠血が混じった便が続く、便が黒くタール状
- ⚠嘔吐が止まらず、水分がほとんどとれない
- ⚠高熱が続く、または強いお腹の痛みで動けない
- ⚠下痢が数日以上続き、どんどん弱っていく
- ⚠子どもや高齢者で、元気がなくなり水分もとれない
一般的な症状
- においが強い、水のような下痢(何度も続くことがあります)
- お腹の張りやガスが増える、お腹がゴロゴロする
- お腹の痛みやけいれんのような痛み
- 吐き気、ときには嘔吐
- 食欲が落ちる、体重が少しずつ減る
- 便が脂っぽく、浮きやすく、流れにくい(脂肪分がうまく吸収できていないサイン)
- だるさ、疲れやすさ
- 発熱は比較的少なく、あっても軽いことが多い
子供の症状
- 下痢が続き、おむつやトイレの回数が増える
- 機嫌が悪い、ぐったりして元気がない
- 食欲が落ち、体重が増えない、または減る
- 泣いても涙が出にくい、口の中が乾く、おしっこの量が減る(脱水のサイン)
- 保育園や学校で「お腹の風邪」が続いているように見えることがある
高齢者の症状
- 下痢による脱水が進みやすい(のどの渇きを感じにくいことがあります)
- 立ちくらみ、ふらつき、転倒のリスク
- 食欲低下から体力が落ちやすい
- 心臓や腎臓、糖尿病などの持病が悪化することがある
- 症状が長引くと体重減少や栄養不足が目立つことがある
原因
主な原因
- 寄生虫(ジアルジア)のシスト(殻に包まれた形)を、水や食べ物と一緒に口から飲み込むこと
- 寄生虫に汚染された水を飲むこと(海外の水道水、井戸水、山や沢の湧き水、氷など)
- 汚染された水で洗った生野菜や果物、十分に加熱されていない食品を食べること
- 感染した人の手を介した接触(トイレの後やおむつ交換の後の手洗い不足、家族内・集団生活の場での広がり)
- 動物(ビーバーや犬、猫など)のふんに触れた、または汚染された水に入ったこと
- プール、湖、川、温泉などで、口から水を飲んでしまうこと(塩素では死ににくいため、プールでも起こりえます)
リスク要因
- 海外の衛生状態が異なる地域への渡航
- キャンプ・登山・渓流などで、処理していない水を飲む
- 保育園・幼稚園・学校などの集団生活、家族内に感染者がいる
- 免疫力が下がる病気や治療を受けている
- 手洗いが不十分になりやすい状況(小さな子どもの世話、介護など)
- 性行為の際の口と肛門の接触
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 血が混じった便、黒い便がある
- 嘔吐が続いて水分がとれない、おしっこがほとんど出ない
- 強いお腹の痛み、高熱がある
- 子どもや高齢者で、ぐったりして元気がない、泣いても涙が出ない、口の中が渇いている
- 下痢が数日以上続き、体重が減ってきた
定期受診を予約すべき場合:
- 水のような下痢やお腹の張りが1週間以上続いている
- においの強い便、脂っぽく浮く便が続く
- 食欲が戻らず、だるさが続く
- 海外渡航後やキャンプの後から、お腹の調子が良くない
- 家族や周囲に同じような下痢の人がいる
診断
まずは症状の経過、渡航歴、飲み水の状況、周囲に同じ症状の人がいないかを医師が聞き取ります。そのうえで、便の中に寄生虫やシストがいるかを調べる検査を行います。寄生虫は便の中にいつも出ているわけではないため、1回の検査では見つからず、数日おきに複数回調べることがあります。
行われる可能性のある検査
- 便の顕微鏡検査(便を薄くして、寄生虫やシストがいないかを目で確認します)
- 便の抗原検査(寄生虫の成分を調べる検査)
- 遺伝子を調べる検査(必要に応じて)
- 血液検査(脱水や栄養状態、ほかの病気との区別のため)
- 症状や経過に応じて、ほかの感染症や過敏性腸症候群などとの区別のための検査
診察で予想されること
検査のために便を採取して提出する必要があります。採取の方法や容器は医療機関の指示に従ってください。結果が出るまで数日かかることがあり、一度で見つからない場合は再検査になることもあります。診断がつくまでに少し時間がかかっても、心配しすぎる必要はありません。
治療
ジアルジア症は、寄生虫が原因のため、細菌に効く薬(抗菌薬)は効きません。症状が軽く自然に落ち着く場合もありますが、症状が続く場合は、医師の診断のもとで寄生虫を減らす治療が行われます。同時に、下痢で失われた水分と塩分を補うことがとても大切です。
自宅でのセルフケア
- 水分と塩分をこまめに補う(経口補水液のような、水と塩分・糖分がバランスよく入った飲み物が役立ちます。医師や薬剤師に相談してください)
- 一度にたくさん飲まず、少量ずつ何回にも分けて飲む
- 食べられる範囲で、おかゆ、うどん、スープなど消化のよいものを少しずつ
- 脂っこい食事、乳製品のとりすぎ、アルコール、強いカフェインは一時的に控えめに
- 手洗いをこまめに行い、タオルやコップの共用を避ける
- 下痢が続いている間は、プール・川・温泉に入るのは控える
- 食品を扱う仕事、医療・介護、保育などの仕事は、症状が落ち着くまで医師に相談する
- おむつ交換の後は特に丁寧に手を洗う
医療治療
医師は症状や検査結果をもとに、寄生虫に対する治療が必要かどうかを判断します。必要と判断された場合は、寄生虫を減らすための薬が処方されます。薬の種類や使い方は医師が決めるもので、自己判断で市販薬や過去にもらった薬を使うのは避けてください。治療中は水分補給の指導や、脱水が進んでいないかの確認も行われます。症状が強いときや水分がとれないときは、点滴などの処置が行われることがあります。
手術が検討される場合
ジアルジア症そのものに対して手術が必要になることは通常ありません。ただし、強い腹痛や血便などがあり、ほかの病気が疑われる場合は、別の検査や対応が必要になることがあります。
この病気と共に生きる
症状がある間は、無理をせず休むことが回復への近道です。トイレの後や食事の前の手洗いを丁寧に行い、家族内で広がらないように気をつけましょう。下痢が続くと体力が落ちやすいので、水分補給を最優先にしながら、食べられるものを少しずつとってください。症状が落ち着いてきたら、徐々に普段の生活に戻していきます。
生活習慣のアドバイス
- 手洗いは石けんと流水で、指の間や爪の先までていねいに
- 飲み水は安全な水道水か、きちんと処理された水を使う
- 海外では水道水・氷・生野菜・カットフルーツに注意し、加熱されたものや安全と分かる水を選ぶ
- キャンプや登山では、湧き水や川の水をそのまま飲まない
- 下痢の症状が続く間は、プールや温泉、湖・川での水遊びを控える
- 家族でタオルやコップを分ける、下着や寝具をこまめに洗う
- 食品を扱う仕事の人は、症状が治まるまで業務について医師に相談する
食事と運動
下痢が続くときは、消化に負担の少ない食事を少量ずつとり、脱水を防ぐことを最優先にしてください。脂肪分の多い食事は、便がゆるくなりやすいので一時的に控えめにすると楽になります。症状が落ち着いてきたら、たんぱく質や野菜も少しずつ戻していきましょう。運動は、具合が悪い間は無理をせず、回復してから軽い散歩などから再開するとよいです。
精神的健康と心の健康
お腹の症状が長引くと、外出や食事が不安になったり、仕事や学校のことを心配したりして、気持ちが疲れてしまうことがあります。これは決して珍しいことではありません。症状は良くなっていくものであることを思い出し、ひとりで抱え込まずに、かかりつけ医や信頼できる人に話してみてください。気持ちのつらさが強いときは、地域の精神保健福祉センターや保健所、かかりつけ医などの相談窓口を利用できます。命に関わるほどつらい気持ちになったときは、ためらわず救急(119)や医療機関に助けを求めてください。
予防
はい、ある程度防ぐことができます。ポイントは「口に入る水と食べ物を安全にする」「手を清潔に保つ」の2つです。日本国内では水道水は適切に管理されているため、通常の生活で過度に心配する必要はありません。
ワクチン
ジアルジア症を防ぐワクチンは、現在ありません。手洗いと水・食べ物の管理が中心になります。
検診プログラム
症状がない人に定期的な検査を行う必要は通常ありません。ただし、家族内に感染者が出た場合や、同じ集団で下痢が続いている場合には、医療機関に相談のうえで検査が行われることがあります。
合併症
治療しない場合
- 脱水(特に子どもや高齢者で進みやすい)
- 栄養が十分に吸収できず、体重減少や疲れやすさが続く
- 子どもの場合は成長や体重増加に影響することがある
- 長引くお腹の不調(下痢と便秘を繰り返す、お腹の張りが続くなど)
- まれに、胆のうや膵臓などほかの臓器に症状が出ることがある
長期的な見通し
ジアルジア症は、適切に診断され治療を受ければ多くの人が回復します。症状が長引くこともありますが、きちんと対応すれば良くなることがほとんどです。お腹の調子が戻らない期間が長いと不安になるかもしれませんが、早めに医療機関に相談することが回復への近道です。
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最終更新: 2026年10月24日
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