細菌性赤痢(シゲラによる胃腸炎)
概要
細菌性赤痢は、シゲラ菌(赤痢菌とも呼ばれます)という細菌が腸に感染しておこる胃腸炎です。菌が腸の粘膜に入りこんで炎症を起こすため、腹痛や下痢、発熱が起こります。ふつうの「おなかの風邪」を起こすウイルスとは違い、シゲラ菌はごく少ない菌の数でも人から人へうつりやすいのが特徴です。名前から「とてもこわい病気」と感じるかもしれませんが、多くの方は水分をしっかりとって安静にすることで回復します。ただし、小さなお子さんや高齢者、体の抵抗力が落ちている方は脱水などで重症化することがあるため、早めに医療機関に相談することが大切です。
重要な事実
- シゲラ菌が口から入り、腸で感染して起こる胃腸炎です。潜伏期間は通常1〜3日(長い場合で7日ほど)です。
- 血が混じった下痢(血便)や高い熱、おなかの強い痛みが特徴的ですが、必ずしもすべての人に当てはまるわけではありません。
- ごく少ない菌の数でもうつるため、家庭や保育所、施設などで集団発生することがあります。手洗いが最も大切な予防法です。
日本国内では、年間を通して報告される人数は多くありません。報告される例の多くは、海外の衛生状態が整っていない地域への渡航に関連していますが、国内だけで生活していても感染することはあり、集団発生が起きることもあります。世界全体で見ると、特に衛生環境が整っていない地域ではよく見られる感染症です。
年齢を問わず感染しますが、特におむつを使う小さなお子さん、集団で生活する場(保育所、学校、寮、介護施設など)にいる方、海外の衛生状態が整っていない地域へ旅行する方、体の抵抗力が落ちている方、高齢の方は注意が必要です。感染しても症状が軽い、あるいはほとんど出ない方もいて、そのような方が知らずに周りへ広げてしまうことがあります。
症状
- 意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応がにぶい
- けいれんが起きて止まらない、または繰り返す
- 呼吸が苦しい、唇や顔色が青白い
- ぐったりして動かない、反応が弱い(特に乳幼児)
- 尿がほとんど、またはまったく出ない
- 大量の血便が出る、または出血が止まらないように見える
- 激しいおなかの痛みが続き、おなかが硬く張っている
- ⚠血が混じった便が出た
- ⚠38.5℃以上の熱が続く
- ⚠嘔吐が続いて水分がほとんどとれない
- ⚠脱水のサイン(口の渇き、尿が減る、立ちくらみ)が強い
- ⚠症状が3日以上たっても良くならない、または悪化している
- ⚠小さなお子さんや高齢者で、元気がなく食事や水分がとれない
一般的な症状
- 下痢(最初は水のような便で、その後、粘液や血が混じることがあります)
- 発熱(38℃前後から高い場合もあります)
- おなかの痛み、おなかの張り
- しぶり腹(便意が強く何度もトイレに行きたくなるのに、少ししか出ない状態)
- 吐き気、嘔吐
- 頭痛、だるさ、食欲がない
- 脱水のサイン(口が渇く、尿の量と回数が減る、立ちくらみがする)
子供の症状
- 高い熱が出て、ぐったりして元気がない
- 泣き方が弱い、またはいつもと違って不機嫌で泣き止まない
- おしっこの量が明らかに減る、おむつがなかなか濡れない
- 口の中が乾いている、涙が出にくい
- 吐き続けて水分が飲めない
- まれにけいれんを起こすことがある(けいれんが起きたらすぐに救急へ)
高齢者の症状
- 脱水が進みやすい(のどの渇きを感じにくいことがあります)
- だるさ、ぼんやりする、意識がはっきりしない
- 持っている病気(心臓、腎臓、糖尿病など)が悪化する
- 食事や水分をとる量が減って体力が落ちる
- 発熱があっても目立たないことがあるため、様子の変化に気づきにくい
原因
主な原因
- シゲラ菌に汚染された水や食べ物を口にすること(海外渡航先での生もの、氷、水道水など)
- 感染した方の手や、触れた物(ドアノブ、おむつ替え台、食器、タオルなど)を介した接触感染
- 口と肛門を介する性的な接触
- ハエなどの虫が運ぶこともある(衛生環境が整っていない地域)
- 家族内や集団生活の場での人から人への感染(少量の菌でもうつります)
リスク要因
- 海外の衛生状態が整っていない地域への旅行・滞在
- 保育所、学校、寮、介護施設など集団で生活する場にいる
- おむつを使う小さなお子さんの世話をしている
- 手洗いの習慣が十分でない、または手洗い設備が整っていない環境
- 体の抵抗力が落ちている(治療中の病気がある、高齢、乳幼児など)
- 男性間で性的な接触のある方(世界的に報告が多いグループです)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 血が混じった便が出たとき
- 高い熱と激しいおなかの痛みが同時にあるとき
- 嘔吐が続いて水分がとれず、脱水のサインがあるとき
- 小さなお子さんや高齢者で、元気がなくなる、尿が減るなどの変化があるとき
- 海外から帰国して間もなく下痢や発熱が出たとき(早めに伝えてください)
定期受診を予約すべき場合:
- 水のような下痢が続いている(血は混じっていない)
- 微熱とおなかの不快感が数日続いている
- 周りの人(家族、職場、保育所など)に同じような症状の人がいる
- 症状は軽いが、仕事や学校に行く前に相談したい
- 授乳中や妊娠中で、症状があって心配なとき
診断
問診で、症状の経過、海外渡航歴、周りでの同じ症状の有無、食べたものなどを確認します。そのうえで、便を調べてシゲラ菌がいるかどうかを確かめます。検査の結果が出るまでには数日かかることがあり、その間は症状に合わせた対応(水分補給など)をしながら待ちます。細菌性赤痢は法律で届け出が必要な感染症に定められており、診断された場合は医師から地域の保健所へ報告されます。これは、周りへの感染を広げないための大切な仕組みです。
行われる可能性のある検査
- 便の細菌培養検査(便の中の菌を育てて調べる検査)
- 便の遺伝子検査(菌のDNAを調べる検査。培養より早く結果が出ることがあります)
- 血液検査(脱水の程度や炎症の強さ、体の機能を確認するため。重症が疑われる場合)
- 尿検査や体重測定など、脱水の程度をみるための確認
診察で予想されること
検査のために便をとるようお願いされることがあります。清潔な容器に便をとり、できるだけ早く医療機関に届けてください。結果が出るまで数日かかることがあります。結果によっては、保健所から症状や生活について確認の連絡が入ることがあります。仕事によっては、症状が消えて検査で菌がいなくなったと確認されるまで就業が制限されることがあります(食品を扱う仕事、保育、医療など)。詳しい条件は医師や保健所の指示に従ってください。
治療
治療の中心は、失われた水分と塩分をしっかり補うことと、安静です。多くの方はこれだけで回復に向かいます。症状の重さや年齢、持っている病気、周りへの感染リスクなどを考えて、医師が追加の治療が必要かどうかを判断します。抗菌薬が使われることもありますが、すべての方に必要なわけではなく、重症度や状況に応じて医師が判断します。自己判断で市販薬を使わず、まずは医療機関に相談してください。
自宅でのセルフケア
- 経口補水液や、薄めたスープ、お茶などを少量ずつこまめに飲み、水分と塩分を補う
- 吐き気があるときは、スプーン1杯ずつなど、ごく少量を頻回に飲む
- 食べられるようになったら、おかゆ、うどん、蒸した野菜、豆腐など消化にやさしいものを少量ずつ
- できるだけ安静にし、体力の回復を優先する
- 手洗いは石けんと流水で十分に行う(アルコール消毒だけに頼らない)
- タオル、食器、コップは家族と分けて使い、使い終わったら洗う
- 入浴は最後に入り、浴槽のお湯は家族と共有しないようにする
- おむつ替えの後は、手をよく洗い、汚物はビニール袋に入れて密閉して捨てる
- 周りにうつさないよう、症状が続く間は仕事や学校を休み、医師や保健所の指示に従う
医療治療
医療機関では、まず脱水の程度を確認し、必要に応じて点滴で水分と塩分を補うことがあります。重症度や持っている病気、周りへの感染リスクなどを考慮して、医師が抗菌薬の使用を検討することがあります。ただし、軽症の方では不要なことも多く、判断は医師が行います。下痢止めの薬は、症状を長引かせる可能性があるため、一般的には勧められません。市販の薬を使う前に必ず医師や薬剤師に相談してください。症状が治まっても菌が残ることがあるため、検査で菌がいなくなったかの確認が求められることがあります。
手術が検討される場合
通常、細菌性赤痢で手術が必要になることはありません。ただし、非常にまれに腸に穴が開く、腸が大きく膨らむといった重い合併症が起こることがあり、その場合は外科的な治療が検討されます。
この病気と共に生きる
症状がある間は、とにかく水分をこまめにとること、そして周りの人にうつさないことが大切です。下痢が続くと体力が落ちるので、無理をせず休みましょう。家族の中に小さなお子さんや高齢者がいる場合は、タオルや食器を分ける、トイレの後やおむつ替えの後に手をよく洗う、といった工夫が効果的です。症状が落ち着いてきたら、少しずつ普通の食事に戻していきます。仕事や学校に戻る時期は、医師や保健所の指示に従ってください。
生活習慣のアドバイス
- 石けんと流水での手洗いを、食事前・トイレの後・おむつ替えの後に必ず行う
- 調理器具やまな板は、使った後にしっかり洗って乾かす
- 海外では、水道水や氷、生の野菜、加熱が不十分な食べ物を避ける
- 体調が戻るまでは、激しい運動や長時間の労働を避ける
- 症状が続く間は、家族とのタオル・食器の共有を避ける
- 便や吐いたものの処理は、手袋を使って行い、処理後に手を洗う
食事と運動
回復期は、おかゆ、うどん、やわらかく煮た野菜、豆腐、白身の魚など、消化にやさしいものを少量ずつ何回かに分けて食べるとよいでしょう。脂っこいもの、刺激の強い香辛料、アルコール、カフェインは、おなかの調子が戻るまで控えめにしてください。乳製品は人によってはおなかがゆるくなることがあるので、様子を見ながら少しずつ試してください。運動は、脱水が治まり、食欲と体力が戻ってから、軽い散歩などから再開しましょう。
精神的健康と心の健康
下痢や血便が続くと、恥ずかしさや不安、人に言いにくいという気持ちになることがあります。集団発生の際には、周りから誤解されたり、責められているように感じたりしてつらい思いをすることもあります。感染症は誰にでも起こりうるもので、あなたのせいではありません。強い不安や落ち込み、眠れない状態が続くときは、一人で抱えずに医療者や保健所の相談窓口に話してください。気持ちが非常に追い詰められている場合や、自分を傷つけたい気持ちがわいた場合は、すぐに救急(119)や地域の緊急相談窓口に連絡してください。
予防
はい、予防できます。一番大切なのは、石けんと流水での手洗いです。シゲラ菌はごく少ない菌の数でもうつるため、食事の前、トイレの後、おむつ替えの後、帰宅時には丁寧に手を洗いましょう。アルコール消毒はシゲラ菌には十分な効果が期待できないことがあるため、石けんと流水での手洗いを基本にしてください。飲み水や食べ物の安全にも気を配り、海外では水道水や氷、生もの、加熱が不十分な食べ物を避けることが役立ちます。家族に症状が出た場合は、タオル・食器を分け、トイレや浴室を清潔に保ちましょう。
ワクチン
現在、日本で広く使える細菌性赤痢のワクチンはありません。予防は手洗いと、安全な水・食べ物を選ぶことが中心になります。
検診プログラム
症状がない方に対して、日常的に検査を行うことは一般的ではありません。ただし、集団発生が起きた場合や、食品を扱う仕事などに従事している場合は、保健所の指示に基づいて検査が行われることがあります。
合併症
治療しない場合
- 脱水と電解質の乱れ(特に小さなお子さんと高齢者で起こりやすい)
- けいれん(高熱や電解質の乱れに関連して起こることがあります)
- 長く続く下痢による体力の低下、体重の減少
- まれに、溶血性尿毒症症候群(赤血球が壊れ、腎臓の働きが悪くなる状態)
- 反応性関節炎(感染の後に、関節の痛みや腫れが現れる状態)
- 非常にまれですが、腸に穴が開く、腸が大きく膨らむといった重い合併症
長期的な見通し
ほとんどの方は、水分をしっかりとって安静にすることで、1週間前後で回復します。つらい症状が続くと心細く感じるかもしれませんが、適切に対応すれば良くなる病気です。小さなお子さんや高齢者、体の抵抗力が落ちている方は重症化しやすいため、早めに医療機関に相談することが安心につながります。気になる症状があれば、遠慮せずに医師や保健所に尋ねてください。
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最終更新: 2026年10月24日
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