遺伝とコレステロール値の関係
概要
コレステロールは、体の細胞の膜やホルモンを作るために欠かせない脂(あぶら)の一種です。血液の中のコレステロールの量は、食事や運動などの生活習慣だけでなく、生まれつきの体質(遺伝)にも大きく左右されます。遺伝子は「体の設計図」のようなもので、親から子どもへ受け継がれます。この設計図に生まれつきの特徴があると、同じような生活をしていてもLDLコレステロール(いわゆる「悪玉」と呼ばれるコレステロール)が高くなりやすい人がいます。とくに、はっきりとした遺伝の影響で若いころからコレステロールが高くなる体質を「家族性高コレステロール血症(かぞくせい・こうコレステロールけっしょう)」と呼びます。めずらしいものではなく、早めに見つけて対応すれば、心臓や血管の病気をかなり防げると考えられています。
重要な事実
- LDLコレステロールの高さには、食事や運動などの生活習慣と、生まれつきの体質(遺伝)の両方が関係します。
- 家族性高コレステロール血症は、親から子へ受け継がれる体質で、国内でも数百人に1人程度の頻度でみられると言われています。
- 遺伝の影響がある場合でも、早めに気づいて生活を見直し、医師と相談しながら管理することで、将来の心臓病や脳卒中のリスクを下げられます。
コレステロール値に遺伝が関係することは、決して特別なことではありません。とくに強い遺伝の影響がある家族性高コレステロール血症は、国内でも数百人に1人程度いるとされ、「学校のクラスに1人いるかどうか」くらいの頻度です。自分や家族に心当たりがある場合は、一度検査を受けてみることが大切です。
若いころからコレステロール値が高い人、家族に若いうちに心筋梗塞(しんきんこうそく)や狭心症(きょうしんしょう)を起こした人がいる人、両親やきょうだいにコレステロールが高い人がいる人では、遺伝の影響が考えられます。男性でも女性でも起こり、年齢にかかわらずみられます。
症状
- 胸の強い痛みや圧迫感が続く、または冷や汗や吐き気を伴う(心臓発作の可能性があります。ためらわず119番へ)
- 急な息苦しさ、呼吸ができない感じ
- 顔の片側が動かない、ろれつが回らない、片方の手足が動かしにくい(脳卒中の可能性があります。すぐ119番へ)
- 意識がもうろうとしている、反応がおかしい
- ⚠胸の締め付けられる感じや違和感が繰り返し起こる
- ⚠以前は平気だった階段や坂道で、息切れや胸の痛みが出るようになった
- ⚠歩くとふくらはぎが痛み、立ち止まって休むと治まる(間欠性跛行〈かんけつせいはこう〉)
一般的な症状
- コレステロールが高いこと自体では、ほとんど自覚症状がありません。健康診断の血液検査で初めて気づくことが多いです。
- 遺伝の影響が強い場合、アキレス腱(かかとの上の太い腱)などに硬いしこり(腱黄色腫〈けんおうしょくしゅ〉)ができることがあります。
- まぶたに黄色っぽい盛り上がり(眼瞼黄色腫〈がんけんおうしょくしゅ〉)ができることがあります。
- 黒目のふちに白っぽい輪のようなものが見えることがあります(角膜輪〈かくまくりん〉)。若い年齢で出た場合は特に注目されます。
子供の症状
- ほとんどは無症状で、見た目や体調からは気づけません。
- 家族に家族性高コレステロール血症の人がいる場合、子どもにも同じ体質が受け継がれている可能性があります。
- まれに、腱のしこりや目の所見が見られることがあります。
高齢者の症状
- 遺伝的な高コレステロールに加えて、年齢とともに動脈硬化(どうみゃくこうか=血管が硬く狭くなること)が進みやすくなります。
- 階段や坂道で胸が締め付けられる、歩くとふくらはぎが痛くて休むと治まる、といった症状が出ることがあります。
- こうした症状は「年のせい」と見過ごされやすいので、気になるときは早めに相談してください。
原因
主な原因
- 生まれつきの遺伝子の特徴により、血液中のLDLコレステロールを回収する仕組みがうまく働かないことがあります。これが家族性高コレステロール血症の主な原因です。
- この体質は、片方の親から受け継ぐ場合と、両方の親から受け継ぐ場合があります。両方から受け継いだ場合は、コレステロール値がより高くなりやすいとされます。
- 遺伝の影響に、脂質の多い食事、運動不足、喫煙、肥満などの生活習慣が重なると、値はさらに高くなります。
- 甲状腺(こうじょうせん)の働きの低下や腎臓の病気など、別の病気が原因でコレステロールが高くなることもあります。
リスク要因
- 家族(親、きょうだい、親戚)にコレステロールが高い人や、若くして心臓病を起こした人がいる
- 若いころ(20〜30代)からコレステロールが高いと言われたことがある
- 脂っこい食事や甘い飲み物が多い
- 運動不足
- 肥満、とくにおなか周りに脂肪がついている
- 糖尿病や甲状腺の病気がある
- 飲酒の量が多い
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 胸の痛みや息苦しさが新しく出た、または繰り返すときは、その日のうちに医療機関を受診してください。強い痛みや冷や汗を伴う場合は、すぐに119番で救急を呼んでください。
- 歩行時のふくらはぎの痛みや、急な息切れが続くとき
定期受診を予約すべき場合:
- 健康診断でLDLコレステロールが高いと指摘された
- 家族に若い年齢での心筋梗塞や狭心症の人がいる
- 親やきょうだいが家族性高コレステロール血症と診断されている
- まぶたやかかとの腱に黄色っぽいしこりがある
- 妊娠を考えている、または子どものコレステロールが気になる
診断
まず血液検査でコレステロールの値を確認し、あわせて家族歴(家族に同じような人がいるか)を丁寧に聞き取ります。診察で腱のしこりや目の所見を確認し、必要に応じて遺伝子の検査を行うこともあります。遺伝子検査は必須ではなく、診断の補助として用いられます。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、総コレステロールなどを測ります)
- 家族のコレステロール値の確認(血のつながったご家族の検査が勧められます)
- 診察(アキレス腱の厚み、まぶたや目の所見を確認します)
- 心臓や血管の検査(心電図、心臓の超音波検査など)
- ほかの病気が原因でないかを調べる検査(甲状腺、腎臓、肝臓、尿のたんぱくなど)
- 遺伝子検査(医師が必要と判断した場合)
診察で予想されること
結果は数値だけでなく、「あなたの場合はどういう意味か」を医師が説明してくれます。一度の値だけで決めず、くり返し測って傾向を見ることもあります。家族にも同じ体質が受け継がれている可能性があるため、ご家族の検査を勧められることがあります(カスケード検査と呼ばれます)。検査の意味がわからないときは、遠慮なく質問してください。
治療
治療の目的は、LDLコレステロールを適切な範囲に保ち、将来の心臓や血管の病気を防ぐことです。食事や運動などの生活習慣の見直しを土台にして、遺伝の影響が強い場合には医師の判断で飲み薬による治療を組み合わせます。治療の内容は、年齢やコレステロール値、家族歴、ほかの病気の有無によって一人ひとり違います。
自宅でのセルフケア
- 食事の内容を見直す(脂身の多い肉や揚げ物、バターなどを控えめにし、魚、大豆製品、野菜、食物繊維をとり入れる)
- 無理のない範囲で体を動かす習慣をつくる(早歩きなど)
- 禁煙する。吸っている人は、禁煙の相談窓口やかかりつけ医に相談する
- 適正な体重を目指す
- 定期的に健診・受診を受け、数値を記録しておく
- 家族にも自分の体質について伝え、一緒に検査を受けてもらう
医療治療
医師は、LDLコレステロールの値、年齢、家族歴、ほかの病気の有無などを総合して治療方針を決めます。遺伝の影響が強い場合、生活習慣の見直しだけでは十分に下がらないことがあり、飲み薬による治療が検討されます。どの薬をどのくらい使うかは医師が判断することですので、自己判断で始めたり中止したりせず、気になることは医師や薬剤師に相談してください。ごくまれに、より積極的な治療が必要と判断された場合は、専門の医療機関で血液中のコレステロールを取り除く治療などが検討されます。
手術が検討される場合
遺伝的な高コレステロール血症そのものを手術で治すことはできません。ただし、動脈硬化が進んで心臓の血管が狭くなった場合などには、専門医のもとでカテーテル治療や手術が検討されることがあります。
この病気と共に生きる
数値に一喜一憂しすぎず、長い目で付き合っていくことが大切です。健診結果や通院の記録を一か所にまとめておくと、医師との相談がしやすくなります。家族と体質を共有しておくと、食事の工夫もしやすくなります。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を続ける(受動喫煙も避ける)
- お酒はほどほどにする
- 睡眠を十分にとる
- ストレスをためこまず、発散の方法を持つ
- 体重と血圧をときどき記録する
- 通院を途切れさせない
食事と運動
肉の脂身、バター、ラード、揚げ物などに多い飽和脂肪酸(ほうわしぼうさん=常温で固まりやすい脂)を控えめにし、青魚、大豆製品、野菜、きのこ、海藻、食物繊維をとり入れるとよいと言われています。運動は、早歩きや軽いジョギングなど、息が少しはずむ程度のものを無理なく続けるのがおすすめです。量や強さは体調に合わせて、かかりつけ医に相談しながら決めてください。
精神的健康と心の健康
「遺伝」と聞くと、驚いたり、自分や子どもの将来を心配したりするのは自然なことです。家族に伝えることにためらいを感じる人も少なくありません。不安が続くときは、かかりつけ医や遺伝カウンセリングの窓口に話してみてください。話すことで気持ちが整理されることがあります。
予防
遺伝そのものを変えることはできません。しかし、遺伝的な体質があっても、生活習慣を整え、早めに見つけて適切に管理することで、心臓や血管の病気を防いだり、遅らせたりできる可能性が高いと言われています。
ワクチン
この内容に関係するワクチンはありません。ただし、心臓や血管の病気を防ぐうえで、かかりつけ医が勧める予防接種(インフルエンザなど)は相談に値します。
検診プログラム
健康診断の脂質検査(血液検査)が、遺伝的な高コレステロールに気づく第一歩です。家族に患者がいる場合は、血のつながったご家族も検査を受けることが勧められます(カスケード検査)。子どもの検査については、家族の状況に応じて小児科の医師に相談してください。
合併症
治療しない場合
- 動脈硬化が進み、血管が硬く狭くなります。
- 狭心症や心筋梗塞(心臓の血管が詰まる病気)のリスクが高まります。
- 脳梗塞などの脳の血管の病気のリスクが高まります。
- 足の血管が狭くなり、歩くと痛むといった症状が出ることがあります。
- 心臓の弁の病気(大動脈弁狭窄症など)を合併することがあります。
- 遺伝の影響が強い場合は、一般の人より若い年齢でこうした病気を起こしやすいとされます。
長期的な見通し
遺伝的な体質があっても、早めに見つけて生活を整え、医師と相談しながら管理を続けることで、多くの人は心臓や血管の病気を防ぎながら普通の生活を送れています。家族と一緒に取り組めるのも心強い点です。心配なことは、ひとりで抱えずに医療者に話してください。
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最終更新: 2026年10月24日
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