深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)を知ろう
概要
深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)は、脚の奥にある太い静脈の中で、血液が固まってゼリーのような塊(血栓=けっせん)ができる病気です。多くはふくらはぎの深いところにできます。血栓が血管をふさぐと、脚がはれたり痛くなったりします。いちばん気をつけたいのは、その血栓が血流にのって肺まで運ばれ、肺の血管をつまらせてしまうことです(肺塞栓症=はいそくせんしょう)。長時間同じ姿勢でいることがきっかけになるため、「エコノミークラス症候群」とも呼ばれます。
重要な事実
- 脚の片側だけが急にはれる、痛む、赤くなるといった症状が典型的です。
- 血栓が肺に流れると、突然の息切れや胸の痛みが起こり、命に関わることがあります。その場合はすぐに119番で救急を呼んでください。
- 早く見つけて適切な治療を始めれば、多くの人は落ち着いて回復できます。
決してめずらしい病気ではありません。入院や手術のあと、長いフライトや車移動のあとなど、誰にでも起こる可能性があります。「自分には関係ない」と思わず、リスクを知っておくことが大切です。
脚や股関節の手術を受けた人、入院して長く動けない人、骨折でギプスをした人、長時間の移動の多い人などに起こりやすいです。また、高齢の人、肥満のある人、たばこを吸う人、妊娠中や出産後まもない人、がんや心不全などの持病のある人、血の固まりやすい体質の人、女性ホルモンに関わる薬を使っている人も注意が必要です。年齢を問わず起こりますが、40代以降で増えていきます。
症状
- 突然の息切れ、呼吸が苦しい、息が吸いにくい
- 胸の痛み(特に息を吸うと痛む)、冷や汗が出る
- 意識がもうろうとする、気を失う、顔色や唇が青白い
- 心臓が激しくドキドキして止まらない
- 血を吐く、せきに血が混じる
- ⚠片方の脚が急にはれ上がった、腫れがどんどん強くなる
- ⚠脚に強い痛みが出た、赤くなって熱をもっている
- ⚠脚の皮膚の色が紫っぽく変わった、しびれる感じがある
一般的な症状
- 片方の脚(ふくらはぎや太もも)がはれる。もう片方と比べると明らかに太い
- 脚の痛み、重だるさ、さわると痛む感じ(圧痛)
- 脚の皮膚が赤みを帯びる、熱く感じる
- ふくらはぎの血管が目立つ、歩くと脚がつらい
- 症状がほとんど出ず、気づかないこともある
子供の症状
- 子どもではとても少ないですが、ゼロではありません。入院・手術後、点滴の細い管(カテーテル)を長く入れているとき、血液が固まりやすい体質のときなどに起こります。
- 子どもは「痛い」「だるい」をうまく伝えられないことがあります。片脚だけ腫れている、触ると嫌がる、歩き方が変といったサインに気づいたら受診してください。
高齢者の症状
- 高齢の方では症状がぼやけることがあります。脚のはれが目立たず、だるさや息切れだけで肺塞栓症が進んでいることもあります。
- 動く量が減る、水分が足りなくなる、持病がある、いくつも薬を使っているといったことが重なるとリスクが上がります。
- 「年のせい」で片付けず、いつもと違うと感じたら早めに相談してください。
原因
主な原因
- 血液の流れが遅くなる:長時間同じ姿勢で座る・立つ、入院や手術後の安静、ギプス固定など
- 血液が固まりやすくなる:脱水、けが、手術、妊娠・出産、持病、血の固まりやすい体質など
- 血管の内側が傷つく:手術、けが、点滴の管(カテーテル)を入れる処置など
リスク要因
- 長時間の飛行機・車・電車での移動、座りっぱなしの仕事
- 入院中、手術後(特に脚や股関節の手術)、骨折やギプス固定
- 妊娠中・出産後、女性ホルモンに関わる薬を使っている
- 肥満、喫煙、加齢
- 脱水(夏場、発熱、水分をとれないとき)
- がん、心不全、炎症を伴う病気などの持病
- 以前に血栓ができたことがある、家族に同じ病気の人がいる
- 車いすでの生活や、長く寝たきりに近い状態
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 片方の脚が急にはれた、強く痛む、赤く熱をもっている
- 息苦しさや胸の痛みがある(この場合は119番で救急を呼んでください)
- 手術後や長時間の移動のあとに、脚の異変に気づいた
定期受診を予約すべき場合:
- 脚のむくみが続いている、片脚だけ太くなった気がする
- 脚のだるさや重さが数日続く
- 自分にリスク要因があり、血栓が心配
- 血栓の治療中で、出血しやすい、あざが増えた、便が黒い、尿に血が混じる
診断
まず問診と診察で、症状の出方やリスク要因を確認します。そのうえで血液検査と脚の超音波検査(エコー)を組み合わせて調べるのが一般的です。必要に応じて画像検査を行い、肺に血栓が飛んでいないかも確認します。
行われる可能性のある検査
- 血液検査:血液が固まりやすい状態かどうかを見る項目を調べます
- 脚の静脈エコー(超音波検査):痛みがなく、血栓の有無や場所を確かめられる中心的な検査です
- 造影CT検査:肺塞栓症が起きていないかを調べます
- 胸部レントゲンや心電図:息苦しさや胸の痛みがあるときに一緒に行うことがあります
診察で予想されること
エコー検査はベッドに寝て脚を出して行い、15〜30分ほどで終わります。放射線は使わず、痛みもありません。結果はその日のうちにわかることが多いです。造影CTを使う場合は、腎臓の状態やアレルギーの有無を事前に確認します。わからないことは遠慮なく質問してください。
治療
治療の目的は、できてしまった血栓をこれ以上大きくしないこと、新しい血栓を作らないこと、そして血栓が肺に飛ぶのを防ぐことです。あわせて、脚のむくみなどが残る後遺症を防ぐことも大切にします。治療の内容や期間は、血栓の場所や大きさ、出血のリスクなどによって一人ひとり違います。
自宅でのセルフケア
- 医師に言われた治療を、決められたとおりに続ける(自己判断で中断しない)
- 長時間同じ姿勢をとらない。30〜60分ごとに立ち上がる、足首を上下に動かす
- 水分をこまめにとる。アルコールのとりすぎに気をつける
- 休むときは脚を少し高くするなど、楽な姿勢を工夫する(医師の指示に従ってください)
- 弾性ストッキングは、自分で選ばず医師や看護師、薬剤師に相談してから使う
- 歯ぐきからの出血、鼻血が止まりにくい、あざが増える、黒い便、血の混じった尿などがあれば早めに連絡する
- 転倒やけがを避ける。激しい接触のあるスポーツは医師に相談する
医療治療
中心になるのは、血液を固まりにくくするお薬を使う治療です。飲み薬のタイプと注射のタイプがあり、症状や生活に合わせて選ばれます。お薬の種類・量・続ける期間は人によって異なり、数か月続けることが多いですが、状況によって変わります。治療中は出血しやすくなるため、けがに気をつけ、歯科治療や他の薬を始めるときは必ず医師・薬剤師に伝えてください。腫れや痛みが強いときは、入院して治療を行うことがあります。
手術が検討される場合
多くの場合はお薬での治療で対応できますが、血栓がとても大きい場合、お薬を使いにくい場合(出血の危険が高いなど)、症状が強い場合には、カテーテルという細い管を使って血栓を取り除く処置や、血栓が肺に飛ぶのを防ぐためのフィルターを入れる処置、手術が検討されることがあります。こうした治療が必要になる人は多くありません。担当医から目的とメリット・デメリットの説明を受け、納得して決めましょう。
この病気と共に生きる
治療を続けながら、多くの人はふだんどおりの生活を送れます。脚のむくみが残ることもあるので、長時間立ちっぱなし・座りっぱなしを避け、こまめに動く、脚を休めるといった工夫が役立ちます。通院の予定は守り、体の変化をメモしておくと診察で伝えやすくなります。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙する(禁煙は血栓のリスクを下げます)
- こまめに水分をとる
- 長時間の移動では、通路を歩く、席で足首を動かす、ゆったりした服装にする
- 適正体重を保つ
- デスクワークでは、一定時間ごとに立つ習慣をつける
- 飲酒はほどほどに
- 旅行や手術の前には、血栓のリスクについて医師に相談しておく
食事と運動
食事はバランスよく、塩分はひかえめに、水分はしっかりとることを心がけましょう。むくみが気になるときは特に減塩が役立ちます。運動はウォーキングなど軽めのものを無理なく続けるのがおすすめです。ただし、治療中は出血しやすくなっているため、転倒や打撲の危険が高い運動は避け、始める前に医師に相談してください。
精神的健康と心の健康
「また血栓ができるのではないか」「肺に飛んだらどうしよう」という不安は、とても自然な気持ちです。息苦しさや胸の痛みに敏感になり、ちょっとした体の変化でこわくなることもあります。不安が強いとき、眠れない日が続くとき、気持ちが落ち込んでつらいときは、一人で抱え込まずにかかりつけ医に話してください。地域の保健所や精神保健福祉センターなどの相談窓口も利用できます。もし自分を傷つけたい気持ちがわいたときや、気持ちが追い詰められたときは、すぐに119番で救急を呼ぶか、医療機関に連絡してください。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、リスクを下げる工夫はできます。手術の前後や入院中、長時間の移動のときの予防が特に大切です。医療機関では、リスクの高い人に合わせて、早めに体を動かす、弾性ストッキングを使う、血液を固まりにくくするお薬を予防的に使うなどの対応が行われます。
ワクチン
深部静脈血栓症を防ぐワクチンはありません。
検診プログラム
症状のない人に日常的に行う検査はありません。手術や入院の前など、リスクが高いと判断されたときに、血液検査や超音波検査で確認することがあります。
合併症
治療しない場合
- 肺塞栓症:血栓が肺の血管をつまらせ、突然の息切れや胸の痛みを起こします。命に関わることがあるため、最も注意すべき合併症です。
- 血栓後症候群:治療のあと、脚の腫れ、重だるさ、痛み、皮膚の色の変化が長く残ることがあります。早く治療を始めるほど起こりにくくなります。
- 再発:血栓がもう一度できることがあります。治療を続け、リスクを減らす工夫をすることが大切です。
- まれに、脚の血流が長く止まることで皮膚に傷(潰瘍)ができることがあります。
長期的な見通し
多くの人は、早く見つけて適切な治療を受けることで回復し、ふだんどおりの生活に戻っていきます。治療の期間は数か月が目安ですが、人によって異なります。脚のむくみが少し残ることもありますが、工夫しながら付き合っていけます。気になる症状があれば遠慮なく相談し、自分ひとりで抱え込まないでください。希望を持って進んでいける病気です。
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最終更新: 2026年10月24日
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