鼠径部(そけいぶ)の肉離れ(グロインストレイン)
概要
鼠径部の肉離れは、太ももの内側の筋肉(内転筋=うちてんきん)や、股関節まわりの腱(けん=筋肉と骨をつなぐ丈夫なひも状の部分)が、急に伸ばされたり強い力がかかったりして傷ついた状態です。「グロインストレイン」とも呼ばれます。筋肉の線維が軽く伸びて痛むだけのものから、一部が切れるものまで、程度はさまざまです。
重要な事実
- 太ももの内側から股関節の付け根にかけて痛みが出ることが多く、歩く・走る・股を開く動きで痛みが強くなります。
- 多くは安静と段階的なリハビリで数週間から数か月かけて良くなります。
- 同じ場所のけがをくり返しやすいので、治ったあとの筋力づくりとウォームアップが大切です。
はい、よくあるけがのひとつです。サッカー、ラグビー、アイスホッケー、短距離走、テニスなど、ダッシュや急な方向転換、キックの多いスポーツをする人に多く見られます。スポーツをしていない人でも、階段や段差、滑ったときのとっさの動きで起こることがあります。
10代後半から30代のスポーツをする人に多いけがですが、年齢を問わず起こります。成長期の子どもでは、同じ場所の痛みが骨の成長に関わる問題のこともあるため、自己判断せず整形外科に相談してください。高齢の方は筋力やバランスの変化から、日常の動作でも起こることがあります。
症状
- 激しい痛みで立つことも歩くこともできない
- 股関節や脚が明らかに変形している、骨が出ているように見える
- けがのあと脚のしびれや力の入らなさが強い、感覚がない
- 脚が異常に腫れて皮膚がひどく張っている、冷たい、色が悪い
- 意識がもうろうとしている、会話がかみ合わない
- ⚠体重をかけると痛くて歩けない状態が続く
- ⚠あざや腫れがどんどん広がっている
- ⚠発熱をともなう股関節まわりの痛みや腫れ
- ⚠安静にしていても痛みが強くなる、夜も眠れない
- ⚠数日休んでもよくならず、悪化しているように感じる
一般的な症状
- 股関節の付け根や太ももの内側の痛み
- 急に動いた瞬間の「ピリッ」「グキッ」とした痛み
- 歩くとき、走るとき、階段の上り下りの痛み
- 脚を横に開くと痛む、開きにくい
- 内ももを押すと痛む、張った感じがある
- 力が入りにくい、蹴る動作がしづらい
- 数日してから出てくるあざ(内出血)や腫れ
子供の症状
- 子どもは痛みの場所をうまく伝えられないことがあります。歩き方がおかしい、走りたがらない、片脚をかばう様子に注目してください。
- 成長期の股関節や膝の痛みは、筋肉だけでなく骨の成長に関わる問題のこともあります。続く場合はかかりつけ医や整形外科に相談してください。
高齢者の症状
- 筋力やバランスの変化により、段差や立ち上がりなど日常の動作でも起こることがあります。
- 股関節の付け根の痛みは、鼠径ヘルニア(ふくらはぎの付け根がふくらむ病気)や股関節の別の病気のこともあります。自己判断せず受診してください。
- 痛みで動かなくなることで、足腰が弱りやすい点にも注意が必要です。
原因
主な原因
- 急なダッシュ、急停止、方向転換、キックなど、股を大きく開いたり閉じたりする動き
- ウォームアップ(体を温めて動きの準備をすること)が不十分なまま激しい運動をした
- 疲労がたまっている、同じ動きをくり返した
- 硬い地面や合わない靴での運動
- 滑る、つまずくなど、とっさに足を踏ん張ったとき
リスク要因
- 太ももの内側の筋力が不足している
- 股関節まわりの柔軟性が低い、左右差がある
- 過去に同じ場所を痛めたことがある
- 運動量を急に増やした、久しぶりに激しく動いた
- ウォームアップやクールダウンを省きがち
- 疲労や睡眠不足が続いている
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 痛みが強く、体重をかけられない、歩けない
- 脚のしびれや力の入らなさがある
- 股関節の付け根が腫れている、あざが広がっている
- 発熱をともなう
- 転倒や接触など大きな外力のあとの痛み
定期受診を予約すべき場合:
- 痛みが1〜2週間たってもよくならない
- 痛みは軽いが、走る・蹴るなどスポーツの動作で毎回痛む
- 同じ場所の痛みをくり返している
- 運動に戻りたいが、どのくらいから始めていいかわからない
- 股関節の付け根にふくらみがある(ヘルニアなど別の原因かもしれない)
診断
まず問診と診察で、いつ・どんな動きで痛みが出たか、どの場所が痛むかを確認します。次に、内ももや股関節の付け根を軽く押したり、脚を開いたりする動きで痛みの出かたを確かめます。必要に応じて画像検査を行い、筋肉や腱の状態、骨や関節に別の異常がないかを調べます。
行われる可能性のある検査
- 超音波検査(エコー):筋肉や腱の傷み具合を、体の外から見ることができます。
- MRI検査:より詳しく、筋肉の傷の広がりや腱の状態を調べます。
- レントゲン検査:骨折や股関節の病気など、骨の異常がないかを確認します。
診察で予想されること
診察は数分から十数分程度で、押されて痛む場所を確認する間は少し痛みを感じることがあります。検査は痛みをともなうものではなく、体への負担も少ないのが一般的です。結果により、安静の期間やリハビリの進め方について説明を受けられます。
治療
鼠径部の肉離れの多くは、手術をせずに、安静と段階的なリハビリで良くなります。最初は痛みを悪化させないことが大切で、その後、徐々に筋力と動きを取り戻していきます。痛みの程度や日常生活・スポーツの目標に合わせて、進め方を調整します。
自宅でのセルフケア
- 痛みが出る動きを避け、無理をしない範囲で安静にする(完全に動かないより、痛くない範囲で動くほうがよい場合もあります)。
- 痛みが出た直後は、冷やしたタオルや保冷剤をタオルで包んで患部を冷やす。冷やしすぎに注意し、感覚がなくなったらやめる。
- 痛みが落ち着いてきたら、医師や理学療法士の指示に沿って、軽いストレッチや筋力づくりを少しずつ始める。
- 痛み止めが必要かどうか、市販薬を使ってよいかは、薬剤師や医師に相談する。
- 運動に戻るときは、強度や時間を段階的に増やし、痛みが出たら一段戻す。
医療治療
治療は、痛みの管理とリハビリが中心になります。リハビリでは、理学療法士(体の動きの専門家)とともに、痛みのない範囲でのストレッチ、内ももの筋力づくり、バランスや動きの練習を段階的に進めます。必要に応じて装具(サポーターなど)を使うこともあります。痛み止めや湿布などの薬を使うかどうかは、医師や薬剤師と相談して決めてください。治療方針は、年齢やスポーツの目標、日常生活の状況によって変わります。
手術が検討される場合
手術が必要になることは多くありません。筋肉や腱が大きく切れている場合や、長く安静とリハビリを続けても改善しない場合には、整形外科の専門医と手術の可能性について相談することがあります。
この病気と共に生きる
痛みが強い時期は、歩く距離を短くする、階段をゆっくり使う、重い物を持たないなど、股関節に負担をかけない工夫をしましょう。痛みが和らいできたら、日常生活の中で少しずつ動く量を増やしていくと、回復が進みやすくなります。
生活習慣のアドバイス
- 十分な睡眠と休養をとり、疲労をためない
- 長時間同じ姿勢で座り続けず、こまめに立ち上がって軽く動く
- 運動前後のウォームアップとクールダウンを習慣にする
- 運動量を急に増やさず、少しずつ増やす
- 痛みがぶり返したら早めに運動量を落とす
食事と運動
バランスのよい食事は、体の回復を支えます。たんぱく質(肉、魚、卵、大豆製品など)と、野菜や果物を組み合わせてとりましょう。運動は、痛みのない範囲でのウォーキングや軽いストレッチから始め、医師や理学療法士の指示に沿って段階的に強度を上げていきます。無理をして痛みが出た場合は、いったん運動量を落としてください。
精神的健康と心の健康
けがで思うように動けないと、いらいらしたり、不安になったり、気分が落ち込むことがあります。特にスポーツをしている方は、復帰への焦りや不安を感じやすいものです。そんなときは一人で抱え込まず、家族や友人、チームの人、医療者に話してみてください。つらさが続く場合は、かかりつけ医や地域の相談窓口に相談することが助けになります。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、リスクを下げることはできます。運動前のウォームアップ、太ももの内側と股関節まわりの筋力づくり、柔軟性を保つストレッチ、運動量を急に増やさないことが大切です。痛みを感じたら早めに休むことも、くり返さないための予防になります。
検診プログラム
特定の検診はありませんが、同じ場所の痛みをくり返す場合は、整形外科で状態を確認しておくと安心です。
合併症
治療しない場合
- 痛みが長引き、慢性化しやすくなる
- 筋力が落ちて、スポーツや日常生活の動きが制限される
- 同じ場所のけがをくり返し、復帰までに時間がかかる
- まれに、筋肉や腱の傷が大きくなることがある
- 股関節の付け根の痛みが別の病気(鼠径ヘルニアなど)からきている場合、気づくのが遅れることがある
長期的な見通し
鼠径部の肉離れは、適切に休み、段階的にリハビリを進めることで、多くの方が数週間から数か月で日常生活やスポーツに戻っています。回復の速さには個人差があり、無理をしないことが近道です。痛みが続くときや不安があるときは、遠慮なく医療者に相談してください。
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最終更新: 2026年10月24日
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