成長ホルモンについて知っておきたいこと
概要
成長ホルモンは、脳の下のほうにある「下垂体(かすいたい)」という小さな器官から分泌されるホルモンのひとつです。子どものころは身長を伸ばすために、大人になってからは筋肉や骨をつくる、体脂肪を調整する、体力や気力を保つなど、体全体の代謝を支えるために働いています。成長ホルモンは、多すぎても少なすぎても体にさまざまな変化が現れます。少ない状態は「成長ホルモン分泌不全症」、大人になってから多い状態は「先端巨大症(せんたんきょだいしょう)」、子どものころから多い状態は「下垂体性巨人症」と呼ばれます。
重要な事実
- 成長ホルモンは下垂体から出るホルモンで、体の成長と代謝に関わっています。
- 分泌が少ないと、子どもの場合は身長の伸びが悪くなり、大人では疲れやすさや体脂肪の増加などが起こります。
- 分泌が多すぎる場合は、手足やあごがゆっくり大きくなるなどの変化が出るため、気づきにくいことがあります。
成長ホルモンの分泌に問題が起きることは、決して多いものではありません。特定の病気としてはまれな部類に入ります。だからこそ、気になる症状があるときは早めに相談することが大切です。
子どもでも大人でも起こります。生まれつきの原因のこともあれば、下垂体の腫瘍(しゅよう)、頭への放射線治療やけが、脳の手術などがきっかけになることもあります。年齢や性別による極端な偏りはありません。
症状
- 突然の激しい頭痛、くり返す嘔吐、意識がぼんやりする(下垂体の腫瘍が出血した可能性があります)
- 突然、視力が大きく落ちた、視野が欠けた
- 赤ちゃんや子どもがぐったりして反応が弱い、けいれんしている(低血糖のおそれがあります)
- 呼吸が苦しい、意識がない、呼びかけに応じない
- ⚠頭痛が数日続く、視野が狭くなった気がする
- ⚠身長の伸びが半年から1年ほど止まっている
- ⚠尿が異常に多い、のどが渇く(別のホルモンの異常や糖尿病が隠れていることがあります)
- ⚠強い疲労で仕事や学校生活が難しい
- ⚠手足や顔のむくみが急に強くなった
一般的な症状
- 疲れやすい、だるい、やる気が出にくい
- 筋肉が落ちて力が出にくい、階段がつらくなった
- おなかやお尻まわりの脂肪が増えやすい
- 骨が弱くなり、骨折しやすくなる
- 気分が落ち込みやすい、集中しにくい
- 手足や指が大きくなった気がする、指輪が入らなくなった(分泌が多い場合)
- あごや額が張り出した、いびきがひどくなった、汗をかきやすい(分泌が多い場合)
- 頭痛や、視野が狭くなった感じがする(分泌が多い場合)
子供の症状
- 身長の伸びが遅い、服のサイズがなかなか変わらない
- 同じ年の友達と比べて背が低い、列の前のほうに並ぶことが多い
- 赤ちゃんのころ、ぐったりする・震えるなどの低血糖のような様子があった
- 乳歯の生え変わりが遅い
- 思春期の始まりが遅い、体つきの変化が少ない
- おなかが出やすい、体つきがやわらかく見える
高齢者の症状
- 筋力が落ちて歩くのが遅くなった、転びやすくなった
- 骨密度が低いと言われた、ちょっとしたことで骨折した
- 強い疲労感や気力の低下が続く
- おなかまわりの脂肪が増えた
- 気分の落ち込みや、何をするにもおっくうな感じが続く
原因
主な原因
- 下垂体やその上の視床下部の腫瘍、または生まれつきの形成不全
- 頭部への放射線治療、脳の手術、頭のけがのあと
- 下垂体の炎症(リンパ球性下垂体炎など)
- 出産時の大量出血などによる下垂体の障害
- 遺伝子の変化によるもの(まれです)
- 分泌が多すぎる場合は、多くが下垂体の良性の腫瘍(腺腫)によるものです
- 睡眠不足や強いストレスは分泌のリズムに影響しますが、それだけで病気になるわけではありません
リスク要因
- 頭部に放射線治療を受けたことがある
- 頭のけがや脳の手術の経験がある
- 下垂体の腫瘍がある、または家族に下垂体の病気の人がいる(まれです)
- 出産時に多量の出血があった
- 医師から長期間ホルモンに関わる薬を処方されている(自己判断でやめず、必ず相談してください)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 突然の激しい頭痛、視野の異常、意識の変化がある
- 赤ちゃんや子どもがぐったりしている、けいれんしている
- 視力が急に落ちた
- 尿が異常に多い、のどが渇く狀態が続く
定期受診を予約すべき場合:
- 子どもの身長の伸びが気になる、母子健康手帳の成長曲線から外れてきた
- 大人で疲れやすさ、筋力低下、体脂肪の増加が続いている
- 手足のサイズが合わなくなった、指輪が入らない、いびきがひどくなった
- 骨粗鬆症(こつそしょうしょう)と言われた、骨折をくり返す
- 思春期が来ない、始まりが遅い
- 気分の落ち込みや眠れない状態が続いている
診断
まず問診と、これまでの身長や体重の記録(成長曲線)を確認します。そのうえで血液検査で成長ホルモンや、成長ホルモンの働きを反映するIGF-1という数値を調べます。必要に応じて、薬で分泌を促して反応を見る「刺激試験」や、下垂体の形や腫瘍を確認する頭のMRIなどを行い、総合的に判断します。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(成長ホルモン、IGF-1、血糖、ほかのホルモンの値など)
- 成長ホルモン分泌刺激試験(点滴をしながら数時間かけて採血をくり返すことがあります)
- 頭のMRI検査(下垂体の腫瘍や形の確認)
- 手のレントゲンで骨年齢を調べる(子どもの場合)
- 視野検査(腫瘍が視神経に触れていないかの確認)
- 骨密度検査(大人の場合)
診察で予想されること
検査は一度で終わらず、数回に分けて行われることがあります。刺激試験は数時間かかることがあり、その間は安静に過ごします。結果が出るまでに数週間かかることもあり、待っている間は不安な気持ちになるかもしれません。検査の見通しや結果の見方を、遠慮なく医師に尋ねてください。
治療
治療の方向は、成長ホルモンが足りないのか、多すぎるのかによって変わります。足りない場合は足りない分を補い、多すぎる場合は分泌を抑える、あるいは原因になっている腫瘍への対応を進めます。いずれも、検査の数値と体の状態を見ながら少しずつ調整していく治療です。
自宅でのセルフケア
- 十分な睡眠をとる(成長ホルモンは深く眠っているときに多く出ます)
- 決まった時刻に治療の時間を組み込み、カレンダーや家族の協力で続けやすくする
- 体調や症状の変化を簡単なメモに記録しておく
- 転びにくい環境を整える(照明、手すり、滑りにくいマットなど)
- バランスのよい食事と、無理のない範囲の運動を続ける
- 自己判断で治療を中断しない。困ったときは早めに主治医や薬剤師に相談する
医療治療
足りない場合の中心になるのは、足りない分を補う補充療法です。多くは注射で行い、年齢や体格に合わせて量を調整しながら、身長の伸びや体調、検査の数値を見て続けます。子どもの場合は成長期が終わるまで続けることが多く、大人でも体調や骨を守るために続けることがあります。多すぎる場合は、分泌を抑える薬や、腫瘍に対する治療を組み合わせます。治療の内容や量は医師が一人ひとりに合わせて決めるため、具体的な薬の名前や量は主治医・薬剤師に確認してください。
手術が検討される場合
下垂体に腫瘍があり、ホルモンの過剰分泌や視野の異常の原因になっている場合は、腫瘍を取り除く手術が検討されます。腫瘍の場所や体の状態によっては、薬や放射線による治療が選ばれることもあります。手術の必要性や方法は、脳神経外科や内分泌の専門医と相談して決めます。
この病気と共に生きる
定期的な通院と検査が生活の一部になりますが、工夫次第で仕事や学校、趣味は続けられます。治療の時間を日課に組み込む、家族や学校・職場に病状を伝えておく、体調を記録しておくといった工夫が助けになります。
生活習慣のアドバイス
- 毎日ほぼ同じ時刻に寝起きし、十分な睡眠をとる
- ウォーキングなどの有酸素運動と、軽い筋力トレーニングを無理のない範囲で
- たんぱく質、カルシウム、ビタミンDを意識してとる
- 禁煙し、飲み過ぎを避ける
- 転倒しやすい場所を整える(照明、手すり、コードの片づけ)
- 悩みを一人で抱え込まず、相談できる相手を持つ
食事と運動
特別な食事制限が必要なわけではありません。筋肉や骨のもとになるたんぱく質、カルシウム、ビタミンDを意識してとり、塩分や甘い飲み物はほどほどにしましょう。運動は、ウォーキングなどの有酸素運動と軽い筋力トレーニングを組み合わせると、筋肉・骨・体脂肪のバランスを保ちやすくなります。疲れやすいときは短時間から始め、主治医に相談しながら少しずつ増やしていきましょう。
精神的健康と心の健康
体の変化や通院の負担、「なぜ自分だけ」という気持ちから、落ち込んだり不安になったりすることがあります。これは自然なことです。気分の落ち込みや眠れない日が続くときは、主治医やかかりつけの相談窓口に話してみてください。気持ちが追い詰められて自分を傷つけたいと考えたときは、一人で抱えず、すぐに医療機関や地域の相談窓口、救急に連絡してください。
予防
多くは予防できるものではありません。生まれつきの要因や腫瘍など、自分では避けられない原因が多いためです。ただし、頭のけがを防ぐ、放射線治療のあとは定期的にフォローを受ける、気になる症状を早めに相談するといったことは、早期発見と悪化の予防につながります。分泌が多すぎる場合も、早く見つけて治療することが合併症を防ぐことにつながります。
検診プログラム
健康診断で自然に見つかるような一般的な検査項目ではありません。子どもの成長曲線の確認や、下垂体の病気の既往がある人の定期的な通院が、実質的なチェックの機会になります。
合併症
治療しない場合
- 子どもの場合、最終的な身長が低くなることがあります
- 骨が弱くなり、骨折しやすくなる
- 筋肉量が減り、体脂肪が増える
- 心血管の病気のリスクが上がる
- 気力や生活の質が低下する
- 分泌が多すぎる場合:糖尿病、心臓の病気、関節の痛み、睡眠時無呼吸、視野の異常など
長期的な見通し
適切に診断され、治療と経過観察を続けることで、多くの人は症状をコントロールしながら生活できます。子どもの場合は早く見つけるほど、身長の伸びに良い影響が期待できます。大人の場合も、補充や治療で体調や生活の質が改善することがあります。ゆっくり進む病気なので、あせらず主治医と一緒に進めていきましょう。
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最終更新: 2026年10月24日
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