溶血性尿毒症症候群(HUS)
概要
溶血性尿毒症症候群(ようけつせいにょうどくしょうしょうぐん、HUS)は、3つのことが同時に起こる病気です。①赤血球がこわれてしまう(溶血性貧血=ようけつせいひんけつ)、②血を止めるはたらきの血小板(けっしょうばん)が減る、③腎臓(じんぞう)が急にうまくはたらかなくなる(急性腎障害=きゅうせいじんしょうがい)。多くは、O157などの菌が出す毒素(どくそ)による下痢のあと、数日から10日ほどして起こります。子ども、とくに小さな子どもに多い病気ですが、大人でも起こります。
重要な事実
- 多くは、血の混じった下痢のあとに起こります。下痢がよくなってから数日して症状が出ることもあります。
- 腎臓の働きが急に落ちるため、尿が少なくなる、むくむ、元気がないといった変化がみられます。
- 多くは入院して水分や栄養を補いながら、体が自分で回復するのを支える治療でよくなります。重症のときは人工透析(じんこうとうせき=機械で血液をきれいにする治療)が必要になることがあります。
- 回復したあとも腎臓の働きを長く見ていく必要があるため、退院後の通院が大切です。
とてもめずらしい病気です。日本では年間に数十例程度が報告されており、決してよくある病気ではありません。ただし、小さな子どもの急性の腎臓の病気としては、よく知られているもののひとつです。
乳幼児から小学校低学年の子どもに最も多くみられます。大人では、高齢の方や、体の抵抗力が落ちている方で重症になりやすいことが知られています。
症状
- けいれんが起きた、意識が戻らない
- 12時間以上、尿がまったく出ない
- 呼吸が苦しい、息が荒い
- 意識がぼんやりする、呼びかけへの反応がおかしい
- 顔色が青白く、ぐったりして反応が弱い
- 激しいおなかの痛みが続き、血便が大量に出る
- いつもと違う出血(鼻血が止まらない、皮膚に急なあざが広がる)
- ⚠血の混じった下痢が出た
- ⚠嘔吐が続いて水分が飲めない
- ⚠尿の量が明らかに少ない
- ⚠まぶたや足がむくんできた
- ⚠強いだるさが続き、ふだんの生活ができない
一般的な症状
- 血が混じった下痢(赤い血がつく、いちごゼリーのような便)
- おなかの強い痛み、吐き気、呕吐(おうと)
- 顔色がわるい、白っぽく見える(貧血のため)
- 強いだるさ、元気がない
- 尿の量が減る、ほとんど出ない
- まぶたや足のむくみ
- 皮膚のあざ、赤い点のような出血斑(しゅっけつはん)
- 目の白い部分や皮膚が黄色っぽくなる(黄疸=おうだん)
子供の症状
- ぐったりして元気がない、反応がにぶい
- 機嫌がわるく、泣き方がふだんとちがう
- 尿の回数が目に見えて減る、おむつがぬれない
- 口の中や唇がかわく、涙が出にくい(脱水のサイン)
- けいれん、手足のふるえ
- 食欲がなく、水分を受けつけない
高齢者の症状
- 急に尿が出なくなる
- 強いだるさ、歩くのがつらいほどの疲れ
- 意識がぼんやりする、会話がかみ合わない
- 息苦しさ、動悸(どうき)
- 急な体温の変化、血圧の乱れ
- もともとの持病(腎臓病、糖尿病、心臓病など)が急に悪くなる
原因
主な原因
- O157、O111、O26などの大腸菌(志賀毒素産生(しがどくそさんせい)大腸菌)による感染症。菌が出す毒素が体を傷つけることで起こります。
- 腸からの感染がきっかけになることが最も多いとされています。
- 肺炎球菌(はいえんきゅうきん)という菌による感染症のあとに起こるタイプもあります。
- 遺伝や体の免疫の調節の異常(補体(ほたい)という仕組みの異常)による「非典型(ひてんけい)HUS」というタイプもあります。これは下痢を伴わないことが多く、再発をくり返すことがあります。
- 一部の薬の使用や、臓器移植のあと、妊娠・出産がきっかけになることもあります(まれ)。
リスク要因
- よく加熱していない肉(ユッケ、生レバー、生のひき肉料理など)を食べること
- 加熱殺菌していない牛乳や乳製品、未殺菌のジュース
- よく洗っていない野菜や果物、井戸水をそのまま飲むこと
- 動物とふれあう施設(ふれあい動物園など)のあとに手を洗わないこと
- 家族や施設内など、人から人への感染
- 5歳以下の子ども、高齢者、免疫力が落ちている方
- 血液の下痢のあとに脱水が強い場合
- 非典型HUSの家族歴がある場合
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 血の混じった下痢が出たときは、早めに医療機関を受診してください。
- 下痢のあと、尿が極端に少なくなった、むくんできた、顔色がわるくなったと感じたとき。
- 水分が飲めず、ぐったりしている、またはお子さんの反応がいつもと違うとき。
- けいれんや意識の変化が少しでもあったときは、すぐに救急(119)を呼んでください。
定期受診を予約すべき場合:
- 下痢が続いているが元気があり、水分もとれているときは、かかりつけ医に相談してください。
- HUSと診断されたあとの定期通院(尿検査、血圧測定、血液検査)は、症状がなくても続けてください。
- 海外渡航後や、集団生活の場で下痢の人が多いときに下痢になったとき。
診断
問診(いつから、どんな下痢があったか、何を食べたか)、体の診察、血液検査、尿検査を組み合わせて診断します。血液検査で赤血球がこわれていること、血小板が減っていること、腎臓の働きが落ちていることの3つがそろうと、HUSが強く疑われます。下痢の原因の菌を調べる便の検査も行われます。
行われる可能性のある検査
- 血液検査:赤血球数、血红蛋白(ヘモグロビン)、血小板数、腎臓の働き(クレアチニンなど)、LDH、ハプトグロビン
- 血液の形を顕微鏡で見る検査(破砕赤血球=はさいせきけっきゅうという、こわれた赤血球があるかを見ます)
- 尿検査:たんぱくや血が混じっていないか、尿の濃さ
- 便の検査:O157などの菌がいるか、毒素があるかを調べます
- 腹部超音波(エコー)検査:腎臓の大きさや、腸の状態をみます
- 血圧の測定、体重の変化の記録
- 必要に応じて腎臓の組織を採る検査(腎生検)や、遺伝の検査(非典型HUSが疑われる場合)
診察で予想されること
入院して検査を受けることが多いです。採血は何度かくり返すことがあります。尿の量を正確に知るために、尿をためて量をはかることもあります。結果によっては、専門の医療機関(小児科や腎臓内科)に紹介されることがあります。
治療
HUSの治療の中心は、体が自分で回復するのを支える「支持療法(しじりょうほう)」です。水分と栄養を補い、電解質(でんかいしつ=血液中の塩分などのバランス)を整え、血圧を管理しながら、腎臓の回復を待ちます。重症の場合は人工透析を行います。治療は入院で行うことが多く、小児科または腎臓内科の医師が担当します。
自宅でのセルフケア
- 医師に指示された水分量を守り、脱水を避ける
- 下痢のときは、自己判断で市販の下痢止めや痛み止めを使わない(かえって悪化することがあります)。使う前に必ず医師か薬剤師に相談してください。
- 手洗いをこまめに行い、家族にも広げないようにする
- タオルや食器は家族と分ける
- 下痢がおさまってもしばらくは無理をせず、休息をとる
- 退院後も決められた通院を欠かさない
医療治療
水分と電解質の補給(点滴)、栄養の管理、血圧の管理、貧血が強い場合の輸血などを行います。腎臓の働きが大きく落ちている場合は、人工透析で血液をきれいにします。非典型HUS(下痢を伴わないタイプ)では、専門の医療機関で免疫の調節に関わる治療が検討されます。下痢の原因菌に対する治療(抗菌薬を使うかどうか)は、病状をみながら医師が判断します。どの治療も、担当医が体の状態に合わせて選びます。
手術が検討される場合
HUSそのものに対して手術を行うことはほとんどありません。ただし、腸に重い合併症(腸に穴があく、腸が詰まるなど)が起きた場合には、外科的な治療が必要になることがあります。
この病気と共に生きる
回復期は体力が落ちているため、少しずつ日常生活のリズムを取り戻していきます。退院後も、尿の量や色、体のだるさ、むくみの有無を気にかけておき、変化があれば早めに連絡してください。学校や仕事に戻る時期は、主治医と相談して決めます。
生活習慣のアドバイス
- 血圧を毎日測り、記録する習慣をつける
- 水分をこまめにとり、脱水を避ける
- 疲れをためないよう、睡眠と休息を十分にとる
- 喫煙を避ける(腎臓と血管を守るため)
- 風邪や感染症にかからないよう、手洗い・うがいを徹底する
- 市販薬や健康食品を使う前に、必ず医師か薬剤師に相談する
- 食中毒予防(加熱・手洗い・食品の保管)を家族で心がける
食事と運動
食事は、塩分をとりすぎないこと、バランスよく食べることが基本です。腎臓の働きが低下している時期は、たんぱく質や塩分、カリウムなどの量について管理栄養士の指導を受けることがあります。運動は、体調をみながら散歩など軽いものから始め、主治医に相談しながら少しずつ増やしていきましょう。
精神的健康と心の健康
突然の入院や、子どもの看病は、本人にも家族にも大きな負担がかかります。不安、眠れない、気持ちが落ち込む、イライラするといった変化は自然な反応です。ひとりで抱え込まず、医師や看護師、地域の相談窓口に話してみてください。気持ちがつらい状態が続くときは、医療機関で相談することが大切です。
予防
HUSの多くは、O157などの菌による感染がきっかけになるため、食中毒を防ぐことが最大の予防になります。手洗い、食品の十分な加熱、調理器具の使い分け、食品の冷蔵保存を心がけてください。特に、肉は中心部までよく加熱し(目安として中心部が75℃で1分以上)、生の肉を食べる習慣は避けましょう。下痢をしているときは、お風呂やプールを家族と分け、タオルも別にしてください。
ワクチン
現在、HUSやO157などの感染を防ぐワクチンは、人には実用化されていません。肺炎球菌には子ども向けのワクチンがありますが、それがHUSをどこまで防ぐかについては、かかりつけ医にご相談ください。
検診プログラム
HUSそのものを早期に見つけるための決まった検査(スクリーニング)はありません。ただし、血便が出たときや下痢のあとに体調の変化があるときは、早めに受診することが早期発見につながります。
合併症
治療しない場合
- 腎臓の働きが大きく落ち、人工透析が必要になることがあります。
- 高血圧が続き、心臓や血管に負担がかかることがあります。
- けいれん、意識の変化、脳の血管の障害などの神経の合併症。
- すい臓や腸の合併症(すい炎、腸に穴があくなど)。
- 重い貧血による息苦しさや動悸。
- 回復したあとも、数年から十数年たってから腎臓の働きが低下することがあります。
長期的な見通し
多くの方は、適切な治療を受けることで回復し、ふだんの生活に戻ることができます。ただし、一部の方には長く腎臓の働きが残りにくいことがあり、その場合は定期的な通院と生活の工夫で病気をコントロールしていきます。定期的な検査を続けることが、将来の健康を守る近道です。
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最終更新: 2026年10月24日
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