Hib(ヒブ)感染症 — インフルエンザ桿菌b型による感染症
概要
Hib(ヒブ)感染症は、ヘモフィルス・インフルエンザエー・タイプb(Haemophilus influenzae type b)という細菌が起こす感染症です。名前には「インフルエンザ」と入っていますが、冬に流行するインフルエンザウイルスとはまったく別の細菌で、インフルエンザにはなりません。この細菌は、のどや鼻にいるだけなら大きな問題になりませんが、血液に入り込むと、髄膜炎(脳と脊髄を包む膜の炎症)、喉頭蓋炎(のど仏のふたが腫れる病気)、肺炎、敗血症などを起こすことがあります。とくに小さな子どもの重い病気の原因として知られてきましたが、現在はワクチンで予防できる感染症です。
重要な事実
- 名前は「インフルエンザ」ですが、季節性インフルエンザとは別の細菌が原因です。
- 主に5歳未満、とくに生後6か月から2歳ごろの子どもに重い症状を起こしやすい感染症です。
- 日本ではワクチンが定期接種(公費で受けられる)に含まれており、それ以降は重いHib感染症はとても少なくなりました。
日本では、Hibワクチンが定期接種に加わってから、Hibによる重い感染症(とくに髄膜炎)はかなりまれになりました。ただし、ワクチンを受けていないお子さんや、接種が始まる前の月齢の赤ちゃんでは、今でも起こる可能性はあります。世界全体で見ると、ワクチンが十分に広がっていない地域では、今も子どもの重い感染症の大切な原因のひとつです。
最も多いのは5歳未満の子ども、とくに生後6か月から2歳ごろの乳幼児です。集団保育を利用している、兄弟が多い、なども関係することがあります。大人ではまれですが、免疫の力が弱まっている方、脾臓(ひぞう:血液の掃除を担当する臓器)を摘出した方、まれに高齢者で起こることがあります。
症状
- けいれんが続く、または意識がない・呼びかけに反応しない
- 呼吸が苦しそう、息が速い、唇や顔色が紫っぽい
- よだれが止まらない、飲みこめない、声が出にくい(気道がふさがる危険)
- ぐったりして抱っこしても反応が乏しい、飲み物を飲めない
- 高熱とともに首が硬い、何度も吐く、頭を触ると強く泣く
- 皮膚に紫色の斑点(押しても消えないあざのような点)が出てきた
- ⚠38度以上の発熱が続き、元気がない状態が半日以上つづく
- ⚠耳の強い痛みや耳だれがある
- ⚠せきや鼻水が悪化し、息が速くなってきた
- ⚠ミルクの飲みが半日以上とても少ない、おしっこが極端に減った
- ⚠症状が24時間以上たっても良くならない、または急に悪くなった気がする
一般的な症状
- 発熱(多くは38度以上)
- 機嫌が悪い、ぐずりが強い
- ミルクや食事の飲み・食べが悪い
- せき、鼻水、のどの痛み
- 耳の痛み、耳だれ(中耳炎を合併したとき)
- 元気がなく、あやしても反応が乏しい
子供の症状
- 髄膜炎のとき:高い熱、何度も吐く、ぐったりして起こしにくい、首が硬くて前に曲げにくい、頭を触ると痛がって泣く、けいれん
- 赤ちゃんでは、大泉門(頭のてっぺんのやわらかい部分)がふくらんで見えることがあります
- 喉頭蓋炎のとき:急に声が出しにくくなる、よだれが多く飲みこめない、座った姿勢で前かがみになって息をする
- 肺炎のとき:息が速い、肩で息をする、顔色が悪い
- 敗血症のとき:ぐったりして手足が冷たい、皮膚に紫色の斑点が出る
高齢者の症状
- 肺炎のような症状(発熱、せき、息苦しさ、たん)
- 喉頭蓋炎による強いのどの痛み、声のかすれ、飲みこみにくさ
- だるさや食欲低下など、はっきりしない症状だけのこともある
- 免疫の力が弱まっている方は、症状が急に重くなることがある
原因
主な原因
- Hibという細菌が、せきやくしゃみのしぶき(飛まつ)や、手を介した接触で人から人へうつります。
- 多くの人は症状のないまま、のどや鼻にこの細菌を持っています(保菌)。保菌している人から、知らないうちにうつることがあります。
- のどや鼻についた細菌が、体の防御をすり抜けて血液や髄液に入ることで、重い感染症が起こります。
リスク要因
- Hibワクチンを受けていない、または接種がまだ始まる前の月齢である
- 5歳未満、とくに生後6か月から2歳ごろ
- 集団保育など、多くの子どもと過ごす機会が多い
- 免疫の力が弱まる病気がある、治療で免疫が下がっている
- 脾臓を摘出したことがある、脾臓のはたらきが弱い
- 家族内に喫煙者がいる(受動喫煙)と、感染症にかかりやすくなることが知られています
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- けいれん、意識がぼんやりする、呼びかけへの反応が弱い
- 呼吸が苦しそう、顔色が悪い、唇が紫っぽい
- よだれが多く飲みこめない、声が出しにくい
- 高い熱と首の硬さ、何度も吐く、頭を痛がる
- 皮膚に紫色の斑点が出てきた
- 乳幼児で、飲めない・泣き方が弱い・ぐったりしている
定期受診を予約すべき場合:
- 発熱が続く、機嫌が悪い状態が続く
- 耳の痛み、耳だれ、聞こえにくそうにしている
- せきや鼻水が長引く、食事や睡眠に影響している
- ワクチンの接種歴を確認したい、接種の予定を相談したい
- 感染症にかかった後で、聞こえや発達の様子が気になる
診断
診断は、まず問診と診察から始まります。熱の出方、機嫌、飲み方、呼吸の様子、首の硬さなどを丁寧に確認します。Hibかどうかを確かめるには、血液や、髄膜炎が疑われる場合には髄液(脳と脊髄を包む液体)を調べて、細菌がいるかどうかを確認します。症状の出ている場所によっては、のどの奥や耳の分泌物を調べることもあります。
行われる可能性のある検査
- 診察(呼吸の様子、意識、首の硬さ、耳や喉の観察)
- 血液検査(炎症の程度や体の状態をみる)
- 血液培養(血液の中に細菌がいるかを調べる)
- 髄液検査(髄膜炎が疑われるとき。腰から細い針で液体を少し採る検査)
- 細菌の抗原を調べる迅速検査(のどや鼻、髄液など)
- 胸部レントゲン(肺炎が疑われるとき)
- 聴力検査など(回復後に合併症を確認するため)
診察で予想されること
検査の内容や入院の必要性は、症状の重さによって変わります。髄液検査は「腰椎穿刺(ようついせんし)」といい、腰の部分から細い針で液体を少し採るもので、大人でも子どもでも行われることがあります。検査の前には、なぜ必要か、どんなふうに行うかを医師が説明します。結果が出るまでに数日かかる検査もあります。待っている間は不安だと思いますが、必要に応じて治療を先に始めながら結果を待つことが一般的です。
治療
Hibによる重い感染症が疑われる場合は、基本的に入院して治療します。原因の細菌を減らすための抗菌薬(抗生物質)による治療が中心で、体の状態に合わせて点滴や酸素、水分の補給などを行います。どの薬をどれくらい使うかは、年齢・体重・症状の重さ・検査結果をもとに医師が決めることです。ここでは具体的な薬の名前や量はお伝えしません。かかりつけ医や薬剤師に確認してください。
自宅でのセルフケア
- 医療機関から指示された服药や通院の予定を守る(自己判断で中断しない)
- 安静と水分補給を心がける。少しずつ、こまめに飲ませる
- 熱や機嫌、飲み方、おしっこの回数をメモしておくと、受診のときに役立つ
- 回復期は無理に集団保育へ戻さず、医師の指示を待つ
- 家族も手洗い・換気を心がけ、看病する人の体調も大切にする
- 退院後も、聞こえや言葉、運動の発達の様子を日常の中で見守る
医療治療
治療の中心は、原因の細菌に効く抗菌薬です。点滴で投与することが多く、症状や検査結果に応じて期間が決まります。あわせて、呼吸が苦しいときの酸素、脱水を防ぐための点滴、熱や痛みへの対応など、体を支える治療が行われます。髄膜炎が疑われる場合は、集中して観察できる病棟で管理することがあります。治療の効果や副作用の心配については、担当の医師や看護師、薬剤師に遠慮なく質問してください。
手術が検討される場合
Hib感染症そのものを治すための手術は通常ありません。ただし、中耳炎で膿がたまった場合や、耳の処置が必要な場合などに、耳鼻咽喉科で小さな処置を行うことがあります。必要かどうかは担当医が判断します。
この病気と共に生きる
急性期を過ぎると、多くは少しずつ元気を取り戻していきます。退院後しばらくは疲れやすかったり、食欲が戻りにくかったりすることがあります。生活リズムを整え、無理のない範囲で普段の生活に戻していきましょう。髄膜炎のあとは、聞こえの確認や発達の様子を定期的に見ていくことが大切です。気になることがあれば、次の受診のときにメモして相談してください。
生活習慣のアドバイス
- 看病する家族も含めて、石けんと流水での手洗いを習慣にする
- 部屋の換気をこまめに行う
- 家族の喫煙は避け、受動喫煙を防ぐ
- 予防接種の記録(母子健康手帳など)を一か所にまとめておく
- 集団保育や学校への復帰時期は、医師の指示に従う
- 回復期は睡眠をしっかりとり、無理のない範囲で体を動かす
食事と運動
回復期の食事は、消化にやさしいものを少量ずつ、回数を分けてとるのがおすすめです。脱水を防ぐために、水分はこまめに。運動は、熱が下がって食欲と元気が戻ってから、散歩など軽いものから始めましょう。激しい運動や長時間の外出は、主治医に確認してからにすると安心です。
精神的健康と心の健康
子どもの入院や看病が続くと、家族は不安・疲れ・自分を責める気持ちを抱えやすくなります。それは自然なことです。眠れない、気持ちが落ち着かない、涙が出るといった状態が続くときは、一人で抱え込まず、かかりつけ医や自治体の相談窓口、周りの人に話してください。気持ちがつらいときの相談先は、地域の保健センターや子育て支援の窓口でも探せます。命に関わる緊急時は119番へ連絡してください。
予防
はい。Hib感染症は、ワクチンで予防できる代表的な感染症のひとつです。日本ではHibワクチンが定期接種(公費で受けられる)に含まれており、接種が広がったことで重いHib感染症は大きく減りました。ワクチンに加えて、手洗い、せきエチケット、換気といった基本的な感染対策も役立ちます。
ワクチン
Hibワクチンは日本で定期接種の対象です。現在は、ジフテリア・百日せき・破傷風・ポリオ・Hibをまとめて防ぐ「5種混合ワクチン」として接種されることが多くなっています。生後2か月から接種を始めるのが標準的な考え方ですが、接種の回数や時期、同時に受ける他のワクチンとの組み合わせは、お住まいの自治体の案内やかかりつけ医に確認してください。接種後は、注射した部分のはれや発熱などが見られることがありますが、多くは一時的です。気になる症状があれば接種した医療機関に相談しましょう。
検診プログラム
症状がない段階でHibの保菌を調べるスクリーニング検査は、一般的には行われていません。症状があるときに、必要に応じて検査を行います。
合併症
治療しない場合
- 髄膜炎:聞こえにくさ(聴力障害)、けいれん、発達の遅れ、水頭症などの後遺症が残ることがあります。
- 喉頭蓋炎:気道がふさがって呼吸ができなくなる危険があります。緊急対応が必要です。
- 肺炎:息苦しさが強くなり、入院での治療が必要になることがあります。
- 敗血症:細菌が血液の中で増え、全身の状態が急に悪くなることがあります。
- 骨や関節の感染症(骨髄炎・関節炎)、中耳炎、副鼻腔炎など。
- 治療が遅れた場合には、命に関わることもあります。
長期的な見通し
Hib感染症は、早く見つけて適切な治療を始めれば、多くは回復します。合併症がなければ、その後の生活に大きな影響を残さないことも多いです。髄膜炎のあとは聞こえの確認など、しばらく経過を見ていく必要がありますが、これは早めに対応することでサポートできます。何より、ワクチンで予防できることが大きな力です。心配なことは、次の受診のときに遠慮なく医師に聞いてください。
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最終更新: 2026年10月24日
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