ハンタウイルス感染症 — ネズミからうつることがある感染症
概要
ハンタウイルス感染症は、ネズミなどのげっ歯類(歯が鋭く、ネズミやハムスターの仲間)が持っているウイルスによって起こる感染症です。ネズミの尿・ふん・だ液が乾いてほこりになり、それを吸い込むことで体に入ることが多いです。人から人へうつることは基本的にないと考えられています(南米の一部の種類を除く)。日本では主に「腎症候性出血熱(じんしょうこうせいしゅっけつねつ)」というタイプが知られていて、発熱やだるさから始まり、腎臓の働きが悪くなることがあります。世界の一部の地域では、肺が急に強い炎症を起こす「ハンタウイルス肺症候群」という重症のタイプもあります。
重要な事実
- 感染のきっかけは、ほとんどがネズミのふん尿やほこりを吸い込むことです。ネズミに直接かまれなくても起こります。
- 日本では報告される数はとても少なく、めったにかかる病気ではありません。ただし重症になると入院が必要になります。
- 乾いたほこりを掃除機で舞い上げると吸い込みやすいため、掃除のしかたが予防の大きなポイントになります。
日本ではとてもまれな感染症です。海外、特にネズミが多い地域や野山・小屋などで過ごしたあとに発症した例が報告されています。日常の生活で急に心配しすぎる必要はありませんが、ネズミが出る場所の掃除をするときは注意が必要です。
ネズミが多い環境で過ごす時間が長い人がかかりやすいです。たとえば農作業や林業、倉庫・空き家・納屋の掃除、清掃の仕事、野宿やキャンプ、古い小屋での作業などに関わる人です。年齢を問わずかかりますが、高齢の方や腎臓・肺に持病がある方は重症になりやすいと言われています。
症状
- 息が苦しい、呼吸が速い、話すのがつらい
- 唇や顔色が青白い、血色が悪い
- 意識がもうろうとしている、返事がおかしい、けいれんがある
- 出血が止まらない、皮膚に点状の出血が広がる
- 尿がほとんど出ない、体が急にむくんだ
- ぐったりしていて反応が弱い(特に子どもや高齢者)
- ⚠38度以上の熱が続いている
- ⚠強い筋肉痛や頭痛で日常生活がつらい
- ⚠吐き気や下痢で水分がとれない
- ⚠尿の量が少ないと感じる
- ⚠ネズミの多い場所の掃除や野山での滞在のあとで、数日〜3週間ほどして熱が出た
一般的な症状
- 急な発熱(38度以上になることが多い)
- 強いだるさ、体全体の重い感じ
- 筋肉痛、とくに背中や太ももの痛み
- 食欲がない、気持ちが悪い、吐き気や嘔吐
- おなかの痛み、下痢
- 目の充血、顔が赤くなる感じ
- 数日たってから、尿の量が減る、体がむくむ(腎臓の働きが落ちたとき)
- 乾いたせき、息苦しさ、動悸(肺が影響を受けたとき)
子供の症状
- 大人とよく似た症状ですが、言葉でうまく伝えられず「なんとなく元気がない」ように見えることがあります
- 食欲が落ちる、水分を飲まない、おしっこの回数が減る
- 機嫌が悪い、ぐったりしている、泣き方がいつもと違う
- 遊び場や物置、小屋のまわりで過ごしたあとで熱が出た場合は、そのことをお医者さんに伝えてください
高齢者の症状
- 高齢の方は症状が進みやすいため、早めの受診が大切です
- 発熱やだるさが「年のせい」と思われて見過ごされやすいことがあります
- 腎臓や肺の合併症が起こりやすく、入院が必要になることがあります
- 水分が取れない、尿が少ない、息が苦しいといった変化は特に注意が必要です
原因
主な原因
- ネズミなどのげっ歯類の尿・ふん・だ液に含まれるハンタウイルスを吸い込むこと
- 乾いたふん尿がほこりとなって空中をただよい、それを吸い込むこと(掃除機の排気で舞い上がることもあります)
- ウイルスがついたほこりや土に触れ、その手で口や目をさわること
- ネズミにかまれる、ひっかかれること(比較的まれですが起こりえます)
- 換気の悪い倉庫・納屋・小屋など、ネズミのふんがたまっている閉めた空間での作業
リスク要因
- 農作業、林業、清掃、建築など、屋外や古い建物で働くこと
- 空き家、納屋、物置、屋根裏の掃除や片付け
- 野宿、キャンプ、山小屋での滞在
- ネズミの出る家や職場で過ごすこと
- 換気をせずに、ほこりの多い場所を掃除機がけすること
- 高齢であること、腎臓や肺に持病があること(重症化しやすい)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- ネズミの多い場所の掃除や野外活動のあと、1〜3週間ほどで38度以上の熱が出た
- 強い筋肉痛・頭痛・おなかの痛みが同時にある
- 吐き気や下痢が続き、水分がとれない
- 尿の量が明らかに減った、体がむくんできた
- せきや息苦しさが出てきた
定期受診を予約すべき場合:
- 熱は下がったが、だるさが長く続く
- 尿の量や色がいつもと違う気がする
- ネズミの出る環境で作業をしたので、事前に相談しておきたい
- 家族や職場で同じ場所の掃除をした人がいる
診断
診察と問診が first の一歩です。どのような場所で過ごしたか、ネズミを見かけたか、掃除をしたかなどを聞かれます。そのうえで血液検査を行い、ウイルスに対する体の反応(抗体)や、ウイルスそのものがいないかを調べます。腎臓や肺の状態を確認するために尿検査や画像検査を行うこともあります。
行われる可能性のある検査
- 血液検査(抗体検査):ウイルスに対する免疫の反応を調べます
- 血液検査(遺伝子検査):ウイルスの遺伝子が含まれていないかを調べます
- 一般的な血液検査:腎臓や肝臓の働き、血小板(出血を止める細胞)の数を確認します
- 尿検査:腎臓の状態や、尿の中のたんぱくを調べます
- 胸部レントゲンやCT検査:肺に炎症がないかを確認します
- 問診:野外活動・掃除・ネズミとの接触の有無を確認します
診察で予想されること
診断がつくまでに数日かかることがあります。初期の症状はかぜや他の感染症とよく似ているため、すぐには特定できないこともあります。検査結果を待つ間も、水分をとる・安静にするといった基本的なケアを続けてください。重症の場合は入院して経過を見ることがあります。結果について不安なときは、遠慮せずに医師や看護師に質問してよいです。
治療
ハンタウイルス感染症に特効する治療はなく、体がウイルスと戦う力を支える「支持療法」が中心になります。具体的には、水分と電解質(体に必要な塩分など)を補う、熱や痛みをやわらげる、呼吸を助ける、といったケアです。重症の場合は集中治療室で注意深く経過を見ることがあります。多くは医療機関のサポートのもとで回復していきます。
自宅でのセルフケア
- 安静を心がけ、体力を回復させることを優先する
- 少量ずつこまめに水分をとる(吐き気があるときは少しずつ)
- 熱やだるさが続く間は、仕事や激しい運動を控える
- 尿の量と色を意識して観察する
- ネズミのふん尿を片付ける作業は、家族に頼むなどして避ける
- 症状が良くなっても、急に悪化することがあるため、体調の変化に気をつける
医療治療
病院では、点滴による水分と栄養の補給、酸素の吸入、呼吸が苦しいときの呼吸のサポートなど、体の状態に合わせたケアが行われます。腎臓の働きが大きく落ちた場合には、血液をきれいにする治療が必要になることがあります。症状に応じて、熱や痛みをやわらげるケアや、合併症への対応も行われます。治療の進め方は医師が状態を見ながら決めますので、具体的な方法は担当の医療チームに確認してください。
手術が検討される場合
通常、ハンタウイルス感染症そのものに対して手術が必要になることはありません。ただし、まれに合併症が起こった場合には、外科的な対応が検討されることがあります。
この病気と共に生きる
回復には時間がかかることがあります。だるさが残る間は、無理をせず、できる範囲で日常を取り戻していくのがよいです。尿の量や体のむくみ、息苦しさがないかを日々チェックし、変化があれば医療機関に相談してください。
生活習慣のアドバイス
- 家のまわりや物置にネズミが入らないよう、すき間をふさぎ、食品は密閉して保管する
- 掃除のときは換気をして、ほこりを舞い上げない工夫をする
- 野外活動のあとは手洗いをしっかり行う
- 疲れをためないよう、睡眠と休息を十分にとる
- 体力が戻るまでは、負荷の強い作業を少しずつ再開する
- 同居の家族にも、ネズミ対策と掃除の注意点を共有する
食事と運動
回復期は、消化のよい食事を少量ずつとり、水分をこまめに補うことが大切です。腎臓の働きが気になるときは、塩分やたんぱく質の量について医師や管理栄養士に相談してください。運動は、だるさや息苦しさが残る間は控え、散歩など軽い活動から少しずつ始めます。無理をすると回復が遅れることがあるので、体の声を聞きながら進めてください。
精神的健康と心の健康
「自分や家族が大丈夫だろうか」と不安になるのは自然なことです。まれな病気と言われると、かえって心配が大きくなることもあります。今回の経験がこわく感じる、眠れない、気分が落ち込むといった状態が続くときは、ひとりで抱え込まずに、医療機関や地域の相談窓口に話してみてください。気持ちを話すこと自体が、回復の助けになります。つらい気持ちが強いときは、迷わず相談先を利用してください。
予防
ある程度は予防できます。いちばん大切なのは、ネズミに近づかない、ネズミのふん尿を舞い上げないことです。
ワクチン
日本では、ハンタウイルス感染症に対して一般的に受けられるワクチンはありません。予防は環境対策が中心になります。
検診プログラム
症状がない人を対象にした決まった検査(スクリーニング)はありません。ネズミの多い環境で作業したあとに体調が変わったときは、そのことを医師に伝えてください。
合併症
治療しない場合
- 腎臓の働きが大きく落ち、尿の量が減る、体がむくむ
- 血小板(出血を止める細胞)が減り、出血しやすくなる
- 肺に水分がたまり、息苦しくなる(肺症候群のタイプ)
- 血圧が下がってぐったりする状態になる
- 回復後も、だるさや体力の低下がしばらく続くことがある
長期的な見通し
日本で報告されるタイプは、適切な医療のサポートのもとで多くの方が回復します。重症になることもありますが、早めに医療機関につながることが大切です。回復までには時間がかかることがありますが、体力は少しずつ戻っていきます。ひとりで心配を抱え込まず、医療チームと一緒に経過を見ていくことが、回復への近道です。
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最終更新: 2026年10月24日
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