聴覚神経症(聴覚神経症スペクトラム障害・ANSD)ってどんなもの?
概要
音は、耳の奥にある「蝸牛(かたつむり)」という部分で感じ取られ、そのあと「聴神経」という神経を通って脳へ運ばれます。聴覚神経症(聴覚神経症スペクトラム障害、ANSD)は、この蝸牛で音を感じ取る力は比較的残っているのに、聴神経から脳へ信号がうまく伝わらない状態です。そのため「音は聞こえているのに、ことばがはっきり分からない」「静かな場所では聞こえるのに、騒がしい場所では急に聞き取りにくくなる」といった特徴が出ます。聞こえ方のクセは人によって大きく異なります。
重要な事実
- 耳で音を感じ取る力は比較的保たれているのに、音の信号を脳へ運ぶ聴神経の働きに障害がある状態です。
- 大人になってから見つかることもありますが、多くは赤ちゃんや小さい子どものうちに見つかります。
- 補聴器が効きにくいことがあり、聞こえ方に合わせて補聴器・補聴の補助具・ことばの練習などを組み合わせて支援します。
- まれな状態で、難聴のある子どもの中でも数%程度といわれています。
よくある状態ではありません。難聴のある子どもの中でも数%程度といわれ、はっきりした人数は分かっていません。ただ、聞こえの検査が広く行われるようになり、以前より見つかりやすくなっています。
生まれたときから(先天的に)持っている人と、あとから(後天的に)起こる人がいます。新生児黄疸(おうだん)が強かった子、早産や低出生体重だった子、出産のときに酸素が足りなかった子、一部の感染症にかかった人、遺伝的な要因を持つ人が含まれます。大人では、神経の病気に伴って見つかることもあります。
症状
- 頭を強く打ったあとに聞こえにくさがあり、意識がもうろうとする・けいれん・繰り返す嘔吐がある(すぐに119番)
- 聞こえにくさと一緒に、激しい頭痛・高い熱・首の硬さがある(髄膜炎などの可能性があり、救急要請が必要)
- 意識を失う、呼吸が苦しいなど、聞こえ以外にも命に関わる様子がある
- ⚠今まで聞こえていた音が、数時間から数日のうちに急に聞こえなくなった(できるだけ同じ日のうちに耳鼻咽喉科へ)
- ⚠片方の耳だけが急に聞こえにくくなった
- ⚠聞こえにくさと一緒に、強いめまいや耳鳴りがある
- ⚠耳の痛み、耳だれ、発熱を伴う
- ⚠子どもの呼びかけへの反応が急に減った、聞こえの反応がなくなったように見える
一般的な症状
- 静かな場所では聞こえているように見えるのに、話していることばがはっきり分かりにくい
- 騒がしい場所(教室、飲食店、駅など)で聞き取りが急に難しくなる
- 聞こえ方が日や時間によって変わるように感じる
- テレビやイヤホンの音量が大きくなる、聞き返しが増える
- 電話での会話が苦手
- 耳鳴りを伴うことがある
子供の症状
- 大きな音には反応するのに、ことばの発達がゆっくりしている
- 呼びかけへの反応が弱い、または不安定(反応したりしなかったりする)
- 話しことばが増えない、発音がはっきりしない
- ざわざわした場所で話が通じにくい、何度も聞き返す
- 学校で聞き漏らしが多く、集中が続かないように見える
- 新生児聴覚スクリーニングで「要再検査」と言われた
高齢者の症状
- 加齢による聞こえの低下と区別がつきにくく、補聴器の効果が思ったより感じられない
- 騒がしい場所での会話が特につらい
- 聞き返すのが申し訳なく感じて、会話を避けるようになる
- 聞き取りに疲れやすい
- ただし、高齢になってから新たに発症することはまれで、多くは小さい頃からの状態が続いているものです
原因
主な原因
- 生まれつきの遺伝的な要因(聴神経の働きに関わる遺伝子の変化)
- 新生児期の強い黄疸(ビリルビンという物質が高い状態が続くこと)
- 早産、低出生体重、出産前後の酸素不足
- 一部の感染症(聞こえに関わる感染症を含む)
- 聴神経を傷つける可能性がある薬剤(医療の現場で使われるもの。使用は必ず医師の管理下で)
- 聴神経や脳の病気の一部(神経の病気に伴って起こるタイプ)
- 原因がはっきり分からないことも少なくありません
リスク要因
- 家族に難聴のある人がいる
- 新生児集中治療室(NICU)で過ごしたことがある
- 生まれたときに強い黄疸の治療を受けた
- 頭を強く打ったことがある、髄膜炎などの感染症にかかったことがある
- 聴神経に影響する可能性のある薬剤を長期間使っている(医師の管理下であれば自己判断で中止しないでください)
- 大きな音を長く聞き続ける環境にいる
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 急に聞こえが悪くなった、耳がつまった感じが続く(できるだけ早く、同じ日のうちに耳鼻咽喉科へ)
- 片耳だけ聞こえにくい
- 聞こえにくさに、強いめまい・耳鳴り・耳の痛み・発熱が伴う
- 子どもの聞こえの反応が急に変わった
定期受診を予約すべき場合:
- 聞き返しが増えた、テレビの音量が大きくなったと感じる
- 新生児聴覚スクリーニングで再検査が必要と言われた
- ことばの発達が気になる
- 騒がしい場所での会話がつらい、会話を避けるようになった
- 補聴器を使っているが効果を感じにくい
- 耳鳴りが続いている
診断
耳鼻咽喉科で、耳の奥の様子を診る診察と、いくつかの聞こえの検査を組み合わせて判断します。聴覚神経症の特徴は、音を感じ取る力(蝸牛の働き)は比較的保たれているのに、聴神経から脳へ信号が伝わるかをみる検査では異常が出ることです。この組み合わせが診断の手がかりになります。
行われる可能性のある検査
- 聴力検査(どの大きさ・高さの音が聞こえるかを調べます)
- 聴性脳幹反応(ABR):音に対して聴神経や脳が反応するかを調べる検査
- 耳音響放射(OAE):蝸牛が音に反応して出す、ごく弱い音を調べる検査
- 鼓膜の動きをみる検査(ティンパノメトリー)
- 必要に応じて画像検査(MRIなど)や遺伝学的検査
- 子どもの場合は、ことばの発達や行動の評価もあわせて行います
診察で予想されること
検査は一度で終わらず、何回かに分かれることがあります。赤ちゃんや小さい子どもは、眠っている間に調べる検査が多く、結果が出るまで時間がかかることもあります。結果は「聞こえる・聞こえない」の二択ではなく、どんな場面が得意で、どんな場面が苦手かという形で説明されます。分からないことは、その場で質問してかまいません。
治療
聴覚神経症は聞こえ方のクセが人によって大きく違うため、すべての人に同じ方法が合うわけではありません。聞こえの検査結果、ことばの力、生活の場面に合わせて、コミュニケーションの道具と練習を組み合わせていきます。早く見つけて支援を始めるほど、ことばや学びの面で有利になるとされています。
自宅でのセルフケア
- 話すときは顔を見せ、ゆっくり、区切って話してもらう
- 静かな場所を選んで会話する。むずかしいときはメモや文字も使う
- 補聴器や遠隔マイクなどの補助具を生活に取り入れる
- 大事な話は、口頭だけでなく文字やメモで確認する
- イヤホンの音量を下げ、大きな音を長く聞き続けない
- 聞き取りの疲れがたまらないよう、休憩をとる
- 定期的に聞こえの検査を受ける
医療治療
医療機関では、補聴器の調整や、話し手の声を直接届ける遠隔マイクなどの補聴援助システムの活用、ことばの練習(言語聴覚療法)、コミュニケーション手段の選択(手話や文字、絵カードなども含む)が行われます。聴神経の障害の程度によって効果は人それぞれなので、試しながら調整していきます。原因や状態によっては薬による治療が検討されることもありますが、薬の名前や使い方は医師の指示に従ってください。自己判断で薬を始めたり中止したりしないでください。
手術が検討される場合
人工内耳の手術が選択肢になることがあります。聴神経がどの程度働いているかによって効果の見込みが変わるため、詳しい検査と、耳鼻咽喉科などの専門チームによる評価が必要です。手術が合うかどうかは、年齢や聞こえの状態、生活背景も含めて話し合って決めていきます。
この病気と共に生きる
聞こえの感じ方は日によっても変わります。「全部聞き取ろう」と頑張りすぎず、大事な場面では静かな環境を選ぶ、メモを渡す、文字起こしのアプリを使うなど、工夫を組み合わせると楽になります。家族や友人、学校や職場の人に、自分の聞こえ方と「こうしてくれると助かる」を前もって伝えておくことも大きな助けになります。
生活習慣のアドバイス
- 補聴機器の手入れを習慣にし、電池の予備を持ち歩く
- 会話は明るく静かな場所で行う
- 学校や職場に聞こえの状況を伝え、席の配置や説明の工夫などの配慮を相談する
- 字幕や文字起こしなど、便利なツールを活用する
- 睡眠と休養をしっかりとり、疲れをためない
- 振動で知らせる目覚まし時計やインターホンなど、聞こえを補う道具を使う
- 運転や危険を伴う作業では、安全面の工夫を優先する
食事と運動
聴覚神経症に特別な食事制限はありません。バランスのよい食事と、無理のない範囲の運動は、耳や神経の健康を保つ土台になります。たばこを避け、血圧や血糖を整えることも、耳への血流を守る助けになります。運動するときは、まわりの音が聞こえにくいことに配慮し、安全な場所と方法を選びましょう。
精神的健康と心の健康
聞こえにくさは、会話の輪に入りにくい、聞き返すのが申し訳ないと感じるなど、心の負担につながることがあります。子どもでは友達づきあいや学校生活で、大人では仕事や人づきあいで、疲れやすくなることがあります。これは意志が弱いからではなく、聞こえの負担による自然な反応です。つらい気持ちが続くときは、一人で抱えずに医療機関や相談窓口に話してください。気持ちが追い詰められている、消えてしまいたいと感じるときは、ためらわずに地域の相談窓口や医療機関、救急に連絡してください。
予防
すべてを防ぐことはできませんが、できることはあります。妊娠中と出産時の健康管理を大切にすること、新生児の黄疸や感染症を適切に治療すること、大きな音から耳を守ること、薬は医師や薬剤師の指示どおりに使うことが役立ちます。
ワクチン
日本で定期接種として行われているワクチンの中には、髄膜炎などの感染症を防ぐものがあり、感染症による聴神経の障害を防ぐ助けになります。接種の予定や時期については、小児科医やかかりつけ医に相談してください。
検診プログラム
日本では、生まれたばかりの赤ちゃんを対象に新生児聴覚スクリーニング検査が行われています。「要再検査」と言われても、聞こえに問題があると決まったわけではありませんが、必ず再検査を受けてください。子どもの頃も大人になってからも、聞こえが気になるときは聴力検査を受けることが大切です。
合併症
治療しない場合
- ことばの発達の遅れ(子ども)
- 学習や学校生活での困難、聞き漏らしによるつまずき
- 会話を避けるようになり、人とのつながりが減る
- 仕事や社会生活での不便、疲れやすさ
- 聞こえの負担からくるストレスや不安
- 車の接近や警告音が聞こえにくいことによる安全面のリスク
長期的な見通し
聴覚神経症は、聞こえ方に合わせた支援を早くから続けることで、ことばや学び、人とのつながりを十分に育てていくことができる状態です。聞こえの状態も支援の効果も一人ひとり違いますが、定期的な検査と調整を重ねることで、その人に合った方法が少しずつ見つかっていきます。うまくいかない時期があっても、それは行き止まりではありません。不安なときは、遠慮なく医療機関や支援機関に相談してください。
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最終更新: 2026年10月24日
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