心臓バイパス手術(冠動脈バイパス術)
概要
心臓は、全身に血液を送り出すポンプのような臓器です。その心臓の筋肉に酸素と栄養を届けている血管を「冠動脈(かんどうみゃく)」といいます。冠動脈の内側にコレステロールなどがたまって細くなったり詰まったりすると、心臓の筋肉に血が届きにくくなります。心臓バイパス手術は、詰まった部分の先へ血液が届くように、新しい通り道(迂回路=バイパス)をつくる手術です。多くは胸や脚、腕など自分の体の別の場所から血管を一本取り、細くなった場所を飛び越えるようにつなぎます。
重要な事実
- 「バイパス」は日本語で「迂回路」。詰まった血管を無理に広げるのではなく、血液の別ルートをつくります。
- 心臓を止めて行う方法と、心臓を動かしたまま行う方法があり、体の状態や血管の詰まり方に合わせて選ばれます。
- 手術そのものがゴールではなく、その後の生活習慣の改善と定期的な通院がとても大切です。
冠動脈バイパス術は、日本でも年間多くの人に行われている、確立された治療法です。心臓の手術の中でも歴史が長く、経験の蓄積がある治療のひとつです。
主に、冠動脈の動脈硬化(血管が硬く狭くなる変化)が進んだ方です。狭心症や心筋梗塞と診断された方のうち、薬やカテーテル治療だけでは十分でないと判断された場合に検討されます。年齢や性別を問わず行われますが、一般には中高年以降の方に多い治療です。
症状
- 胸の強い痛みや圧迫感が15分以上続き、安静にしても良くならない(心筋梗塞の可能性)
- 冷や汗、息苦しさ、吐き気を伴う胸の痛み
- 意識が遠のく、倒れる、会話がかみ合わない
- 手術後の傷から大量に出血している、胸が突然強く痛む、呼吸ができない
- ⚠胸の違和感や息切れが繰り返し起こるようになった
- ⚠手術後の傷が赤く腫れて膿が出る、38度以上の発熱がある
- ⚠手術後、体重が数日で急に増えた、脚のむくみが強い(体に水分がたまっているサインのことがあります)
- ⚠動悸が続く、脈が飛ぶ感じが続く
一般的な症状
- 胸の中央が押さえつけられるような痛みや圧迫感(狭心症の発作)
- 階段や坂道、重いものを持ったときに出る息切れ
- 疲れやすい、だるい
- 冷や汗、胸の苦しさに伴う吐き気
- 左肩・腕・あご・みぞおち・背中への痛みやしびれ(心臓の痛みが別の場所に感じることがあります)
子供の症状
- 小児でこの手術を受けることはほとんどありません。
- 子どもでは、心臓の生まれつきの病気に対して別の種類の手術が行われることがあります。
- 判断に迷うときは、小児科医に相談してください。
高齢者の症状
- 高齢の方では、はっきりした胸の痛みよりも「なんとなく息苦しい」「疲れやすい」「食欲がない」として現れることがあります。
- 持病が複数あることが多く、手術の可否は総合的に判断されます。
- 手術後は体力の回復に時間がかかることがあり、リハビリが大切になります。
原因
主な原因
- 冠動脈の動脈硬化:血管の内側にコレステロールなどがたまり、血管が狭く硬くなる変化です。
- 血栓(血のかたまり)が狭くなった場所に詰まることで、血流が急に止まることがあります。
- 冠動脈のけいれん(血管が縮んで細くなること)が関わることもあります。
リスク要因
- 喫煙(受動喫煙を含む)
- 脂質異常(コレステロールや中性脂肪の異常)
- 肥満、特におなか周りの脂肪
- 運動不足
- 家族に心臓病の人がいる
- 年齢(加齢)
- 強いストレス、睡眠不足、睡眠時無呼吸
- 過度の飲酒
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 胸の痛みや圧迫感が繰り返し起こる、回数が増えている、軽い動作でも出るようになった
- 安静にしていても胸が苦しい時間が長くなっている
- 息切れが急にひどくなった、横になると息苦しい
- 手術後の傷の痛みが強くなる、傷が赤く腫れる、発熱がある
定期受診を予約すべき場合:
- 健康診断で心電図の異常や血圧・血糖・コレステロールの異常を指摘された
- 階段や坂道で前より息が切れるようになった気がする
- 家族に心筋梗塞や狭心症の人がいる
- 禁煙したい、食事や運動を見直したい
診断
まず問診と診察で、症状の出方や持病、生活習慣をうかがいます。そのうえで心臓の電気の流れ、筋肉の動き、血管の状態を調べる検査を組み合わせます。手術が必要かどうかは、血管の詰まり方だけでなく、心臓の働きや全身の状態、生活の状況も含めて総合的に判断されます。
行われる可能性のある検査
- 心電図(心臓の電気の流れを調べる検査)
- 血液検査(心臓の筋肉に負担がかかっていないか、コレステロールや血糖の状態を見る)
- 心エコー(超音波で心臓の動きや弁の働きを見る検査)
- 負荷試験(運動や薬で心臓に負担をかけたときの変化を見る検査)
- 冠動脈CT(血管の狭くなり方を画像で確認する検査)
- 心臓カテーテル検査・冠動脈造影(細い管を血管に入れて、狭くなった場所と程度を詳しく調べる検査)
診察で予想されること
検査の多くは体への負担が少なく、日帰りや数日の入院で行えるものもあります。カテーテル検査では手首や脚の付け根から細い管を入れますが、痛みは抑えられるように配慮されます。検査の前には、何をしてはいけないか、いつ食事を抜くかなどを必ずスタッフに確認してください。結果の説明を受けるときは、気になることをメモして質問すると安心です。
治療
冠動脈の病気の治療は、大きく分けて「生活習慣の改善」「薬による治療」「カテーテル治療(細い管を使って血管を広げる方法)」「バイパス手術」があります。どれが合うかは、血管の詰まり方や本数、心臓の働き、年齢や持病、生活の状況によって変わります。ひとつの方法だけではなく、いくつかを組み合わせて考えます。
自宅でのセルフケア
- 禁煙する(自分だけで難しければ、禁煙外来など専門の支援を利用する)
- 塩分を控えめにし、野菜・魚・大豆製品を意識してとる
- 無理のない範囲で体を動かす習慣をつくる
- 体重と血圧を記録し、変化に気づけるようにする
- 睡眠を十分にとり、強いストレスをため込まない
- 処方された薬は、症状がなくても自己判断でやめず、医師・薬剤師の指示に従う
- 定期的な通院を欠かさない
医療治療
薬による治療では、血液が固まりにくくなる薬、血圧を下げる薬、コレステロールを下げる薬、胸の痛みを和らげる薬などが、その人の状態に合わせて組み合わせられます。どの薬が必要か、量や飲み方は医師が判断します。飲み忘れや自己判断での中止は体に影響することがあるため、気になることは医師や薬剤師に相談してください。
手術が検討される場合
冠動脈の狭くなり方が強く薬だけでは胸の痛みが抑えられない場合、心臓のポンプの働きが低下している場合、細い管を使う治療が難しい場所や本数の場合などに、バイパス手術が検討されます。手術の利益と負担を、心臓外科医を含むチームで話し合って決めます。
この病気と共に生きる
退院直後は、胸の骨(胸骨)や傷が治るのに数か月かかると考えておくとよいでしょう。重いものを持つ、腕を大きく伸ばす動作などは、医師から指示があるまで控えます。通院やリハビリの予定をカレンダーに書き、家族にも共有しておくと安心です。
生活習慣のアドバイス
- 禁煙を続ける(手術後も喫煙は血管を傷めます)
- 処方された薬を決まった時間に続ける
- 血圧・体重・体調を簡単に記録する
- 傷が治ったら、散歩など無理のない運動を少しずつ再開する
- 睡眠を十分にとり、疲れをためない
- 風邪や感染症を防ぐため、手洗い・うがいを心がける
- 飲酒は医師に相談して量を決める
食事と運動
食事は、塩分を控えめにし、野菜・きのこ・海藻・魚・大豆製品を中心に、揚げ物や加工肉を控えめにすると血管にやさしい食事になります。運動は、医師の許可を得たうえで、会話ができる程度の速さの散歩から始めるのがおすすめです。心臓リハビリテーションは、体力と自信を取り戻す助けになります。痛みや息苦しさ、めまいを感じたら中止し、医療者に相談してください。
精神的健康と心の健康
手術の前後は、不安、緊張、眠りにくさ、気分の落ち込みが起こりやすい時期です。これは珍しいことではなく、多くの方が経験します。無理に前向きになろうとせず、気持ちを話せる相手を持つことが大切です。つらい気持ちが長く続くときや、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、一人で抱えず、かかりつけ医や地域の相談窓口、電話相談などのサポートにすぐ連絡してください。
予防
手術そのものを「防ぐ」というより、手術が必要になる原因である動脈硬化の進行をゆるやかにすることが大切です。禁煙は最も効果が大きい方法のひとつです。血圧・血糖・コレステロールを適正に保ち、バランスのよい食事と運動、十分な睡眠を心がけましょう。すでに心臓の病気と診断されている方も、生活習慣の見直しと通院の継続で状態を安定させることができます。
ワクチン
心臓の病気がある方は、感染症が重くなりやすいことがあります。インフルエンザや肺炎のワクチンについて、かかりつけ医に相談してみてください。
検診プログラム
日本では、特定健康診査(メタボ健診)などで血圧・血糖・脂質を定期的に測ることができます。健診結果を放置せず、異常を指摘されたら医療機関で相談することが、早期発見につながります。
合併症
治療しない場合
- 心筋梗塞(心臓の筋肉が酸素不足で傷つく状態)
- 心不全(心臓のポンプの働きが弱まり、息苦しさやむくみが出る状態)
- 命に関わる状態に進むことがある
長期的な見通し
バイパス手術は、胸の痛みや息切れをやわらげ、生活の質を保つ助けになる治療です。手術を受けた多くの方が、日常生活に戻り、仕事や趣味を続けています。手術後の経過は人によって異なりますが、禁煙・服薬・通院・リハビリを続けることで、良い状態を長く保てることが知られています。不安なことは遠慮なく医療チームに相談してください。
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最終更新: 2026年10月24日
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