心臓病と脳卒中
概要
心臓病と脳卒中は、名前は違いますが、とても近い関係にある病気です。どちらも「血管の病気」が根本にあります。心臓病は、心臓に血液を送る冠動脈(かんどうみゃく=心臓の筋肉に血を送る血管)が狭くなったり詰まったりする病気(狭心症や心筋梗塞)、心臓のポンプの力が弱る心不全、心臓の拍動のリズムが乱れる不整脈などをまとめた呼び方です。脳卒中は、脳に血液を送る血管が詰まる(脳梗塞)か、破れる(脳出血・くも膜下出血)ことで、脳の細胞が傷つく病気です。どちらも「動脈硬化(どうみゃくこうか=血管の内側にコレステロールなどがたまり、血管が硬く狭くなること)」が背景にあることが多く、同じ生活習慣が両方の危険を高めます。
重要な事実
- 心臓病と脳卒中は、日本人の主な死因の上位を占めています。特に脳卒中は、命に関わるだけでなく、後遺症(まひや言葉の障害など)が残ることがある病気です。
- 脑卒中(脳卒中)の症状は「突然」始まることが多いです。顔のまひ、片方の手足の動きにくさ、ろれつの回りにくさに気づいたら、ためらわずに救急車を呼ぶことが大切です。治療は始めるまでの時間が短いほど効果が期待できます。
- 高血圧・糖尿病・脂質異常症(コレステロールなどの異常)・喫煙・心房細動(心臓の不整脈の一種)は、心臓病と脳卒中の両方の大きな危険因子です。これらを管理することで、どちらのリスクも下げられます。
とても多い病気です。心臓病と脳卒中は、日本を含む多くの国で死亡原因の上位に入っています。高血圧のある人は国内に数千万人規模といわれ、その多くが自覚のないまま動脈硬化を進めています。自分には関係ないと思っていても、年齢を重ねるほど身近になる病気です。
主に中高年以降の人に多い病気ですが、若い人にも起こります。男性は比較的若い年代から、女性は閉経後(女性ホルモンの影響が減ったあと)に増える傾向があります。家族に心臓病や脳卒中の人がいる場合、血圧が高い、血糖値が高い、たばこを吸う、運動不足、肥満、塩分の多い食事が習慣になっている人は、特に注意が必要です。また、心房細動という不整脈がある人は脳卒中のリスクが高くなります。
症状
- 胸の強い痛みや圧迫感が15分以上続く、または繰り返し強くなる(冷や汗、吐き気、息苦しさを伴うことがある)
- 突然、顔の片側が下がる/片方の手足が動かない・しびれる(片側だけの症状)
- 突然、ろれつが回らない、言葉が出ない、人の言葉が理解できない
- 突然の激しい頭痛、意識がもうろうとする、呼びかけに反応が弱い、けいれん
- 呼吸が苦しくて横になれない、唇や顔色が青白い・紫色に見える、意識を失った
- これらのサインが一つでもあれば、ためらわずに119番へ連絡してください。脳卒中の治療は「早く始めるほど良い」ので、自分で運転して行かず、救急車を呼ぶことが大切です。
- ⚠以前は歩いても平気だったのに、最近ちょっと動いただけで胸が痛む(不安定な状態の可能性)
- ⚠脳卒中のような症状が数分〜数時間で消えた(一過性脳虚血発作の疑い)
- ⚠動悸が長く続く、脈がとても速い・不規則で気分が悪い
- ⚠短い距離でも息切れが強くなった、足のむくみが急に増えた、体重が数日で急に増えた
- ⚠血圧がいつもより著しく高い状態が続き、頭痛やめまいを伴う
一般的な症状
- 胸の痛みや圧迫感、締めつけられる感じ(歩いたり階段を上ったりしたときに起こり、休むと軽くなることもある)
- 息切れ、息苦しさ(特に動いたときや、横になったときに強くなる)
- 動悸(心臓の鼓動が速く、または強く感じる)、脈が飛ぶ感じ
- 冷や汗、吐き気、胃のあたりの不快感(心臓の発作が「胸以外」の場所に現れることがある)
- 強いだるさ、疲れやすさ(特に女性や高齢者では胸痛より目立ちやすい)
- 足のむくみ、体重の急な増加(心不全のサインのことがある)
- 【脳卒中のサイン】顔の片側が下がる・笑うと口がゆがむ、片方の腕や脚に力が入らない・しびれる、ろれつが回らない・言葉が出てこない・人の言うことが理解しにくい
- 【脳卒中のサイン】突然の激しい頭痛、視界の一部が見えにくい・二重に見える、ふらつき・めまい・歩きにくさ、突然の意識の低下
子供の症状
- 子どもの心臓病は、生まれつきの心臓の形の異常(先天性心疾患)が多いです。成長がゆっくり、ミルクを飲むと疲れてすぐ休む、顔色が悪い、息が速い、といったサインが出ることがあります。
- 子どもや若い人の脳卒中は非常にまれですが、まったくないわけではありません。突然のまひや言葉の出にくさがあれば、年齢に関係なくすぐ救急要請をしてください。
- 小児期の川崎病という病気のあとに、心臓の血管に影響が残ることがあります。かかったことがある人は、かかりつけ医に経過の確認をしておくと安心です。
高齢者の症状
- 高齢者では症状が弱く出ることがあります。胸が痛くなくても、急な息切れ、だるさ、食欲低下、なんとなく元気がないだけで心臓の発作のことがあります(無痛性といいます)。
- 脳卒中では、まひが軽い、少しぼんやりする、歩きにくいなど分かりにくい形で始まることがあります。家族や周囲の人が「いつもと違う」と気づくことが大切です。
- 一時的に症状が出て数分から数時間で消えた場合(一過性脳虚血発作)でも、近い将来の脳卒中の強い警告サインです。必ずその日のうちに医療機関を受診してください。
- 認知症やうつと間違われやすいこともあります。急な変化があれば、遠慮せず医療者に相談してください。
原因
主な原因
- 動脈硬化:血管の内側にコレステロールなどがたまり、血管が硬く狭くなることで、心臓の血管が詰まれば心筋梗塞、脳の血管が詰まれば脳梗塞になります。
- 高血圧:血管に強い圧力がかかり続けることで、血管の壁が傷み、動脈硬化が進みます。脳出血の大きな原因にもなります。
- 心房細動などの不整脈:心臓の中で血液がよどみ、できた血栓(血のかたまり)が脳の血管に流れ込むと脳梗塞を起こします。
- 心臓の病気そのもの:弁膜症、心筋症、心不全などがあると、脳卒中のリスクが高まることがあります。
- 血管が破れるタイプの脳卒中:長年の高血圧で弱くなった血管が破れる(脳出血)、脳の表面の血管のふくらみが破れる(くも膜下出血)ことがあります。
リスク要因
- 高血圧(最も大きな危険因子の一つ)
- 糖尿病、血糖値が高めといわれたことがある
- 脂質異常症(LDLコレステロールが高い、中性脂肪が高い、HDLコレステロールが低い)
- 喫煙(本人だけでなく、受動喫煙もリスクになります)
- 飲酒の量が多い
- 肥満(特におなか周りに脂肪がつくタイプ)
- 運動不足、長時間すわったまま過ごすことが多い
- 塩分の多い食事、野菜や魚が少ない食事、甘い飲み物や加工食品のとりすぎ
- 睡眠不足、強いストレス、睡眠時無呼吸(いびきがひどく、日中の眠気が強い)
- 心房細動などの不整脈、慢性腎臓病(腎臓の働きの低下)
- 家族に若い頃から心臓病や脳卒中になった人がいる(遺伝的な傾向)
- 年齢(加齢)、性別(男性はやや早くからリスクが上がる)
受診の目安
緊急で受診すべき場合:
- 胸の痛みや息苦しさが新しく出てきた、または今までより強くなったとき(ただし強い痛みが続くときは119番)
- 脳卒中のサインが一度でも出た、または数分で消えたとき(その日のうちに受診)
- 動悸が続く、脈が明らかに乱れていると感じるとき
- 足のむくみや体重増加が急に進んだとき
- 血圧が普段よりかなり高い状態が続き、頭痛・めまい・吐き気があるとき
定期受診を予約すべき場合:
- 健診(健康診断や特定健診)で血圧・血糖・コレステロールを指摘されたとき
- 家族に心臓病・脳卒中の人がいる、または自分に複数の危険因子があるとき(早めの相談がおすすめです)
- 坂や階段で以前より息が切れる、疲れやすいなど、体の変化が続くとき
- 心房細動などの不整脈を指摘されたことがあるとき(治療の必要性を相談しましょう)
- 禁煙したい、食事や運動を見直したいと思ったとき(医療者と一緒に計画できます)
診断
まず問診で、症状がいつ・どんなときに・どれくらい続いたかを確認します。そのうえで血圧測定、心電図、血液検査など、体への負担が少ない検査から始めます。必要に応じて心臓や脳の詳しい画像検査を行います。脳卒中の疑いがあるときは、画像検査を優先して行い、治療までの時間を短くすることを重視します。
行われる可能性のある検査
- 問診と身体診察(血圧測定、心音・脈の確認、神経の働きの確認)
- 心電図(心臓の電気の流れを調べる)、必要に応じて24時間装着する心電図検査
- 血液検査(コレステロール、血糖、腎臓の働き、心臓に負担がかかっていないかを調べる指標など)
- 胸部レントゲン、心臓超音波検査(心臓の形や動き、弁の状態を映像で見る)
- 運動負荷試験(歩いたり自転車をこいだりして、心臓の反応を見る)
- 冠動脈CT検査や心臓カテーテル検査(心臓の血管の狭まり・詰まりを調べる)
- 頭部CT・頭部MRI(脳の出血や詰まりを調べる)、頸動脈(首の血管)の超音波検査
診察で予想されること
検査の多くは痛みが少なく、日帰りで行えます。心臓カテーテル検査など一部の検査は入院が必要で、事前に説明があります。結果が出るまでに数日かかることもあります。検査の目的や準備(食事を控える必要があるかなど)は、必ず医療機関の指示に従ってください。分からないことは遠慮なく質問してよいですし、家族に同席してもらうと安心です。
治療
治療の目的は、①命に関わる状態を乗り切る、②心臓や脳の働きをできるだけ保つ、③再発を防ぐ、の3つです。急性の状態(心筋梗塞や脳卒中)では、できるだけ早く血流を取り戻す治療を行います。その後の長期的な治療は、生活習慣の見直しと、必要な薬による管理を組み合わせて進めます。治療の内容は人によって異なるため、主治医とよく相談して決めていきましょう。
自宅でのセルフケア
- 血圧を毎日同じ時間に測り、記録する(数値の変化を医療者と共有しましょう)
- 医師に指示された薬は、自己判断で中断せず、決められたとおりに続ける
- 禁煙する(つらいときは、禁煙外来など専門の支援を利用しましょう)
- 塩分を控えめにし、野菜・果物・魚・大豆製品をとり入れる
- 無理のない範囲で、歩くなどの運動を習慣にする(急に激しい運動を始める前に医師に相談)
- 十分な睡眠と休養をとり、強いストレスをためこまない
- 飲酒は量と頻度を控えめにする
- 風邪や体調の変化を放置せず、早めに相談する
医療治療
治療には大きく分けて、薬による管理と、血管や心臓への直接的な治療があります。薬では、血圧を下げる薬、コレステロールを下げる薬、血栓(血のかたまり)ができにくくなる薬、心臓の負担を減らす薬、脈の乱れを整える薬などが、その人の状態に合わせて使われます。薬の種類や量は、年齢・腎臓の働き・他の病気との関係で一人ひとり異なり、自己判断で始めたりやめたりすると危険なことがあります。必ず医療者の指示に従い、気になる副作用があれば相談してください。
手術が検討される場合
血管の狭まりが強い場合や、薬だけでは症状が抑えられない場合に、カテーテル治療(細い管を血管に通して狭くなった部分を広げる、または血栓を取り除く治療)や、バイパス手術(別の血管で血液の通り道を作る手術)が検討されます。脳卒中でも、血管内で血栓を取り除く治療や、首の血管の狭まりに対する手術が行われることがあります。手術が向いているかどうかは、症状・血管の状態・全身の健康状態をふまえて、医療チームが総合的に判断します。
この病気と共に生きる
心臓病や脳卒中のあとも、多くの人は治療と生活の工夫で、自分のペースの生活を続けています。体調の記録(血圧、体重、症状)をつけること、通院を続けること、体調がいつもと違うときに早めに連絡することが大切です。仕事や家事の量は、疲れに合わせて少しずつ調整してよいです。無理をしないことが、長く安定して過ごすコツです。
生活習慣のアドバイス
- 毎日の血圧と体重を記録し、急な変化に気づけるようにする
- 薬を切らさないよう、通院・処方のスケジュールを管理する(お薬手帳の活用が便利です)
- 禁煙と受動喫煙の回避
- 睡眠をしっかりとり、いびきや日中の眠気があれば相談する
- 寒い日の急な運動や、急に力を入れる動作は控えめにする(冬は特に注意)
- 入浴は長湯を避け、温度差を少なくする
- かぜや感染症が心臓に負担をかけることがあるため、体調管理を心がける
- 運転や仕事への復帰は、主治医と相談して段階的に進める
食事と運動
食事は、塩分を控えめにし、野菜・果物・魚・大豆製品・食物繊維をとり入れ、加工食品や甘い飲み物を減らすのが基本です。揚げ物や脂の多い肉は量と頻度を控えめにしましょう。運動は、ウォーキングなど息が少し上がる程度のものを、無理のない範囲で定期的に行うのがおすすめです。ただし、始める前と症状があるときは主治医に相談してください。運動中に胸の痛み、強い息切れ、めまいが出たら中止し、必要なら119番へ連絡してください。
精神的健康と心の健康
心臓病や脳卒中と診断されると、不安、落ち込み、怒り、先の見えなさを感じるのは自然なことです。発作への恐怖で外出を控えたくなる人もいます。気持ちのつらさは我慢しなくて大丈夫です。家族や友人、医療者に話すこと、同じ病気を経験した人の集まりに参加することが助けになります。気分の落ち込みが2週間以上続く、眠れない、何も楽しめないという状態があれば、医療機関に相談してください。つらい気持ちが強く、自分を傷つけたい気持ちがわいたときは、一人で抱えず、地域の相談窓口や医療機関、または救急(119番)に連絡してください。
予防
完全に防ぐことは難しくても、リスクを大きく下げることはできます。鍵は「血管をいたわる生活」を続けることです。血圧を適正に保つ、血糖とコレステロールを管理する、禁煙する、減塩する、適度に体を動かす、適正体重を保つ、飲酒を控える。これらは心臓病にも脳卒中にも効きます。一つを完璧にするより、できるところから少しずつ続けることが大切です。
ワクチン
心臓や脳の病気がある人は、感染症にかかると重症化しやすいことがあります。インフルエンザや肺炎などのワクチンについて、年齢や持病に応じて勧められる場合があります。自分に必要かどうかは、かかりつけ医や薬剤師、地域の保健センターに相談してください。
検診プログラム
日本では、健康診断や特定健診(40〜74歳の国民健康保険加入者などを対象とした健診)で血圧・血糖・脂質を調べられます。自治体のがん検診とあわせて案内が届くこともあります。健診の結果を「異常なし」で終わらせず、数値の変化を記録し、必要な場合は医療機関を受診してください。心房細動は脈を触るだけでは気づきにくいこともあるため、健診の心電図を毎年受けることが役立ちます。
合併症
治療しない場合
- 心筋梗塞による心臓の筋肉の傷み、心不全(息切れやむくみが続く状態)
- 不整脈の悪化、突然の心停止
- 脳の広い範囲が傷つくことによる、まひ、言葉の障害、飲み込みの障害
- 認知症のリスク上昇、うつ、社会生活の変化
- 再発(一度起こった人は再発のリスクが高いため、予防が特に大切です)
長期的な見通し
心臓病や脳卒中は重大な病気ですが、治療の進歩により、多くの人が回復し、生活を取り戻しています。早期に治療を始めるほど、脳や心臓への負担を減らせます。発症後の回復の程度は人によって異なりますが、リハビリや生活の工夫、周囲のサポートによって、できることが増えていくことはよくあります。あせらず、一歩ずつ進んでいきましょう。
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最終更新: 2026年10月24日
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